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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。

 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                   4(完)
  本多×松浦    光に託して              


―それくらいの事は覚えておけ。今年からお前がキャプテンに
なるんだから…いざって時に部員に何かあった時の為に
それくらいの知識は覚えておいた方が良いだろう…

 それは、本多が大学のバレー部のキャプテンに収まった年の
夏合宿の準備をしていた時の他愛無いやりとりだった。

―うっへ~覚えておいた方が良いのかよこれ。結構な量あるぞ…

―まあ、備えあれば憂いなし。一応俺は覚えておいたぞ…。
この部内にはお前みたいに向う見ずで単細胞な奴が多いからな。
覚えておけば、向こうから救助信号が出されてもすぐに対応出来る。
滅多にない事でも、こういう知識は覚えておくかいないかで生存率は
変わるからな。一応、応急手当の方法も消防署に行って覚えて来たし…

―宏明、お前凄いな。さりげに尊敬するぜ…。俺には無理だ…

―何を甘ったれた事を。お前が主将なんだから、部員に何かあった時に
対応出来るように備えておくのが筋だろうが…。それくらいの事を
覚えてばっちりだぜ、と言えるぐらいの根性と責任ぐらい見せてみろ…

 其れは呆れ口調に、モールス信号の表を渡して覚えてみろと一応
薦めてみた時の事だった。
 けど、松浦は本多の反応を見て…恐らく無理だと反応して、あまり期待は
していなかった。
 そして…意識の底に封じて、忘れてしまった他愛無いやりとりだった。

『ありがとう』

 光を託して、伝えられた言葉。
 其れは…大学時代の、口ではきつい事を言いながらも…心から本多に
全幅の信頼を寄せていた時の思い出の一つ。
 其れに気づいた瞬間、目の前の男が照れくさそうに笑っていた。

「…良くお前、覚えていたな…。俺は正直、忘れていたぞ…」

「あぁ、俺も半分忘れかけていた。けどさ…何かジブリの新作が今年発表
されたから、テレビとかで…崖の上のポニョが放映されたりしたろ?
何となく見ていたらさ、こう…光のやり取りで遠くからパチパチとメッセージを
託し合う場面あって…格好良いなって思ってさ。それで…興味持ってちょっと
調べてみたらああ、昔お前に万が一の為に覚えろって言われた表は
これだったんだって知ったんだ。当時は覚えるの面倒でスル―しちまったけどな」

「…やっぱり、スル―していたのか。まあ…判っていた事だがな」

 本多の言葉を聞いて、当時感じていた事は当たっていたのだと判った。
 大学時代だったら少しは傷ついていたかも知れないが、今はあまり
本多に期待していないので当然のことのように受け止められていた。

「…けど、船であぁやっている場面見て…妙に心が騒いだっていうかよ。
そう思ったから…こうやってお前とまた友達づきあいをするようになって
結構たつけどさ。きつい言葉を言われた事も何度もあったけど…こうして
大学時代の仲間だったお前が戻って来てくれて…本当に許してくれて、
嬉しかったんだ…。だから、伝えたいと思って今夜…呼んだんだぜ…」

「本多…」

 目の前の男が不器用に笑ったのを見た瞬間…ジワリ、と何かが
胸の奥からこみ上げて来た。

「…俺は、絶対に嫌だと思ったからあの八百長試合を断った。
それで将来を閉ざしてしまった。きっと俺は何回、あの場面に遭遇しても…
絶対に受けることはなかっただろうけど…。それでも、宏明も他のみんなも
俺にとっては大事な奴だった…。そいつらの恨みを買って、
一生許せないと言われたの…マジで辛かったからさ。だからこそ…
お前だけでも戻って来てくれた事に、感謝しているんだ。
本当に…ありがとう…」

「…お前、もしかして…泣いて、いるのか…?」

「えっ…マジ? 俺、泣いているのかよ!」

 本多は真剣になって話している間に、気づけば感情が高ぶって
知らずに涙を零していた。
 其れは何年も胸に秘めて、彼の心の澱になっていたものだった。
 松浦は其れを見た瞬間…本多にも弱い処があるのだと、当時は強くて
何でも出来ると思い込んでいた男もまた悩み…苦しむ事だって
あったのだという当たり前のことに思い至った。

「…お前が、そんなふうに思っているなんて…知らなかった。
全く、困った奴だな…」

 デカい図体をした男が、自分の事を…かつての仲間たちを想って
泣いている姿を見た瞬間…妙に、憎めない気持ちになっていった。
 庇護欲に近いものが松浦の心に浮かんでいった。
 そして…男としてのプライドにこだわる気持ちも何となく判るので…
本当にごく自然に、本多を抱きしめて…顔を見ないようにしてやった。

「宏明…?」

 松浦のこの行動に、本多は大いに驚いていく。
 その瞬間…彼はとても優しい顔をして呟いた。

「…信頼しているアタッカーが泣いている事があったら…肩を貸して
やるぐらい…セッターとして当然だろう…?」

「わりぃ…ありがとう。今はその言葉に甘えるわ…」

 そうして、顔は見えなかったが…本多は何度かそうして肩を
震わせていった。
 その様子を見た時…本多が光に託して、こちらに気持ちを必死になって
伝えようとしたり…今も仲間を想っているのだというのが本当の気持ちで
ある事を理解していった。

(全く…本当に困った奴だ…。あれだけ憎くて仕方なかった奴を…今は
憎む事すら出来なくなってしまっている…)

 そう心の中で自分にも本多にも呆れていったが、悪い気持ちではなかった。
 そうして…一言、伝えてやる。
 友人として、少しでも目の前の男の気持ちを楽にしてやる一言を…。

「いつか、他の皆とも笑えあえる日が来るさ…。きっと、一番憎んでいた
だろう俺がこうして…お前の傍に戻ってきたんだからな…」

「うっわ! お前がそれ言うと…説得力ありすぎるわ。けどな、マジで…
ありがとう。宏明…」

「…いいさ。俺も心のどこかでは…お前とこうしてまた笑い合える
関係に戻りたいと望んでいたんだろうからな…」

「…そっか…」

 そうして二人は笑っていく。
 顔は見えない状態のまま…暖かい時間がそっと流れていく。

「…困った奴だ…」

 そう笑いながら呟いた時、相手を抱きしめた状態のまま…優しく、クシャと
本多の髪を撫ぜていってやって…穏やかに松浦は微笑んでいったのだった―

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オムニバス作品集(CPランダム。テーマは「メッセージ」で共通しています」

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。

 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                   4(完)
  本多×松浦    光に託して         

―唐突に部屋の明かりが消されて真っ暗になり、松浦はかなり
身構えてしまっていた。
 
 本多の自室で、いきなり明かり一つない状況に陥ってしまい…
妙に緊張してしまっている自分がいた。
 何故、突然本多は部屋の明かりを落としてしまったのか
その意図を察する事が出来ない分だけ不安はジワリと広がっていき
闇の中で彼は困惑した表情を浮かべていった。

(あいつは一体…何を考えているんだ?)

 これはただ単に、呆れて帰ろうとするこちらの足を止める為
だけの行動なのだろうか?
 だとしたら確かに効果はあったと言えた。
 実際、何年振りかに来た部屋で明かりが消されてしまったら…
すんなりと玄関の方に向かうにはそれなりの時間が掛かってしまう
事になるだろう。

「…玄関は、どっちの方だ…?」

 思わずそう呟いた瞬間、ガシッ! と手首を掴まれていく。

「いつっ…!」

「そこか、宏明…なあ、まだ…帰るなよ…。まだ本題は終わってないから…
せめて、それが終わるまで…な?」

「…用っていうのは、一体何だ? くだらない事だったら…帰るぞ」

「くだらなくねえよ…。俺なりには結構真剣なんだからな…」

 その時の本多の声は思いがけず低くて、どこか真摯なものが
含まれている事を感じ取っていった。
 少なくとも声の調子からふざけている様子はないと察すると…
松浦もまた相手を邪険にはし辛くなった。

「…こっち、来てくれよ…」

「…判った、もう少しだけ付き合ってやろう…」

「…ん、サンキュ…」

 そして、真っ暗闇の中で…本多に手を引かれた状態のままで
ゆっくりと連れて行かれていく。
 少しするとガチャ、と扉が開く音が聞こえた時…何となく位置的に
此処は本多の寝室ではないかと察していった。
 こう視界が効かない状態では方角も何も全く判らないが、部屋の
構造的にさっきまでいたトレーニング道具各種が置かれている部屋から
扉があって続いているのは寝室だったのは辛うじて覚えているからだ。

(こいつは寝室に…何で俺を連れていこうとしているんだ…?)

 何となく其処に色めいたものを感じてしまって、松浦はガラになく
落ち付かなくなっていった。
 まさか、こっちに何か仕掛けるつもりなのだろうか…? と思うと、
ベッドの上にさりげなく腰を掛けさせられる。

「…ちょっと其処に座って待っていてくれよ。準備してくるから…」

「っ…! 準備って、何をするつもりだ…」

「…心配するなよ。そんな変な事じゃねえから…。一応そのつもりだったから
直ぐに終わるからよ。ちょっとだって失礼するぜ…」

「おい、待て…本多! お前、一体何を…!」

 と問いかけるが、いきなり本多から手を離されて一気に相手の存在が
遠くなり始めていく。
 こうなると…良く構造を知っている人間とそうでない人間との差は明らかに
歴然となっていった。
 手さぐりで周囲の状況を探ろうとするが…サラリとしたシーツの手触りと
ベッドのスプリングぐらいしか感じられない。
 ある程度手を伸ばしてもベッド以外の物の存在が感じられない処から…
自分が腰を掛けているのが寝具の中央付近であるぐらいしか情報を
得る事は叶わなかった。
 そうしている間に少し離れた位置から、本多がガサゴソと何かを
探っている音だけが響いていく。
 そしていきなり…パチン、と鮮烈な明かりが灯されていった。

「うわっ! 何だ…!」

「やっとスイッチが見つかったぜ…。なあ、宏明…モールス信号って
覚えているか? お前が昔…合宿に行く時にいざって時の為にそれぐらいは
頭に入れておけって…一覧表を手渡した事がある奴?」

「…モールス信号? ああ…ちゃんと覚えている。もう何年も使って
いないからうろ覚えになっている部分があるけどな…。あの部にはお前と
同じようにあまり考えずに動いて、たまに大変な事を引き起こす単細胞な
奴が多かったからな…。海や山に合宿する時、それぐらい覚えておかないと
当時は安心出来なかったからな…」

「そうそう、お前って昔から心配性っつーか…俺らの中では珍しく色んな
事まで気を回して、あれこれ予め準備しておく奴だったもんな…。俺も当時は
面倒くさがってなかなか覚えようとしなかったけど…お前、夏が来る度に、
特に俺がキャプテンになってから耳にタコが出来るぐらいに覚えろって
うるさかったからな…。それ、覚えているだろう?」

「…ああ、まとめ役になるなら万が一の時に備えて…遭難した時に誰かに
伝達する手段を覚えておくに越した事がないだろうに…。あの時、俺は何度も
お前に言ったのに…結局、覚えなかったからな…」

 そう呆れ口調で昔の事を語っていくと、思いがけず強い口調で本多
本人から否定されていった。

「…そうやって人の事、決めつけるんじゃねえよ…。覚えてないって
いつ…俺が言ったんだよ…?」

「えっ…?」

 そして本多は、自分の右手に持っている懐中電灯を動かし始めて…
長短をつけて明かりを明滅させ始めていく。
 モールス信号にはアルファベット版と、ひらがなに対応しているものと
数字に対応しているものの三種類がある。
 とっさにどれか…と迷った瞬間、本多は短く注釈を加えていった。

「これは和文符号の奴だぜ…」

 そして文字と文字の間に少し、間を空けていきながら文字を動きと
光を点滅させる形で作っていく。

 最初の動きは、「あ」。
 次はどうやら…『り』のようだった。
 確かに夏の合宿が近づくたびに不安になって在学中は覚えていざという時に
備えていたが…社会人になってから半分忘れかけていた知識だった。
 だが、本多の動きはひどくゆっくりだったおかげで…辛うじて、何を描いているのか
理解出来ていった。
 そして三文字目は「か」の文字に濁音である「・・」が二個足されて
「が」を作っていくのに気付くと…何を作ろうとしているのか松浦は
大体察していく。
 そしてすぐに「と」と「う」が予想通りに足されていった。

『ありがとう』

 そう、光に託されて伝えられていくと…本多の照れくさそうな声が
聞こえていった。

「何で、こんな形で…そんな、言葉を伝えるんだ…お前は…?」

 松浦が声を震わせながら問いかけていけば、本多の照れくさそうな声が
直ぐに返って来た。

『ああ…お前がまた俺とこうして一緒にいてくれるようになった事、俺のしたことを
呆れながらも許してくれた事と…お前が俺に教えようとしてくれた事をちゃんと
覚えているって…伝えたかったからな。だから…ない頭を考えて必死に
考えたんだぜ…』

「お前、は…」

 その言葉を聞いた時、松浦の脳裏に…大学時代の、夏の合宿前に
いつもやっていたくだらないやりとりが急速に思い出されて、とっさに
彼は言葉に詰まっていったのだった―
 
 


 

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。
 そして今回は初めて扱う、本多×松浦です。
 …個人的に本多って松浦とくっつのが一番ベストなんじゃないのかって
気持ちから発生したものです。
 呼んでやっても良いという方だけお読みくださいませ。

 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                   4(完)

―自分という存在は、本多という男にとって一体何なのか…再会してから
ずっと松浦は悩み続けていた

 再会してから早半年、一度は破たんした関係は本多の必死な説得により
復活し…徐々に修繕しつつあった。
 そして以前のように本多の前で笑えるようになったことを自覚したある日…
松浦は本多の自宅に呼び出され、その道の途中で…ふとそんな事を
考えたのだった。
 仕事帰り、辺りは陽が落ちてすっかりと暗くなってしまっている。
 それでも煌々と街灯が照らしだしてくれている道筋を松浦は一人で
歩き続けていた。
  
『本多の事は一生許せない』
 
 自分の将来が閉ざされた時、その真相も本音も事前に決して
打ち明けてくれなかった事が本当に許せなかった。
 当時はきっと、本多の傍にいたらいつか自分は彼を傷つけたり…
殺してしまうだろうと思った。
 だから本多という人間を自分の中から抹殺して、二度と接点を持たずに
思い出さないようにしようとしていた。
 
(それがどうしてか…何で、こういう形で俺とあいつは復縁して
しまったんだろうか…)
 
 今夜は松浦は、本多の自宅に出張先からの土産を直接渡したいという
理由で招待されていた。
 大学時代以来、何年ぶりかに訪れるかつてのチームメイトの部屋に
向かう途中…それまでに起こった事がふと走馬灯のように脳裏を過ぎって、
彼は苦笑したくなった。
 
「…まったく、こういうのをほだされたっていうんだろうな。まったく…俺は
とんでもない事をしでかしたというのに、それでもあいつはこっちを必要と
いうんだからな…。大したお人好しだな…」
 
 本多と友人関係が復活してから早半年が経過していた。
 其れは松浦にとって、信じられないぐらいに早く過ぎてしまった
時間のように思う。
 バレーボールの事など、もう考えないようにしていた。
 かつて注いでいた情熱が強ければ強かっただけ、最後の最後で全てを
台無しにされて将来を閉ざされた事は松浦にとっては耐えがたく、自分の全てを
賭けていたといっても過言ではなかったからこそ、思い出すのも
辛くなってしまっていた。
 けれど今の松浦は、本多の誘いに乗って…再びチームメイトとして一緒に
バレーボールをするようになっていた。
 本多が十日余り、仕事で出張に出ている間は共に練習する事は叶わなかった。
 
「あいつの顔を見るのも十日ぶりか…。ああ、ついたみたいだな…」

 交流を復活させて結構な時間が流れていたが、本多の部屋にこうして足を
向けるのは大学時代以来…何年ぶりかの事だった。
 家の周りの風景は殆ど変わっておらず、ここだけ時間が止まっているかのような
錯覚を覚えていく。

(そんなのは感傷に過ぎないけどな…)

 自嘲的に微笑みながらインターフォンを押して行くドカドカと盛大な
足音が鳴り響き、バァンと大きな音を立てて扉が開かれていく。
 其処には本多の満面の笑みが輝いていた。

「うわっ!」

「よぉ、宏明! わざわざ来てくれてありがとうな!さ、早く上がれよ」

「本多! お前…扉を開けるにしてももう少しゆっくりと開けろ。今、いきなり勢い良く
開いたものだから正直、びっくりしたぞ」

「おう、悪かったな。次から気をつけるよ…ほら、早く上がれってば。いつまでも
玄関先でダベっていても仕方ないだろう」

「…まあ、確かにそうだけどな。お邪魔する…」

 何か釈然としないものを感じつつも松浦は仕方なく言われた通りに
本多の家に上がっていった。
 部屋の内装も、松浦の記憶に残っている状態と殆ど変わっていなかった。
 数々の健康器具と、身体を鍛える為の道具。

(全くこの男の神経の図太さだけは感心するな…)

 実業団に入った訳ではなく、本多も自分も結局は普通の企業に採用されて
務める事になった。
 サラリーマンをやるなら、ここまで身体を鍛える為の道具を持ち続けたり…
身体を作る必要性などない。
 だが、それでもこの男は愚直にそれをやり続けたのだろう。
 部屋に置かれているトレーニングマシンが使いこまれているのに気づいて
そこまで察する事が出来てしまった為、松浦は苦笑せざる得なかった。

―本当に、本多は何一つ変わっていなかったのだと今さらながらに思い知っていく

 復縁するまでの間は、そういう処が癪に障って仕方なかったが今となっては
それこそがこの男らしさなのだと流せるようになっていた。

「そこら辺に適当に座ってくれよ。今、飲み物でも用意してくるから。コーラと
ミネラルウォーター、宏明はどっちが良いんだ?」

「ああ、じゃあ水の方を頼む。出来るだけ冷たくして持ってきてくれ」

「判った、じゃあ氷を入れてくるよ。少し待っててくれな」

 そうして本多の姿がキッチンの方に消えていく。
 その後ろ姿を眺めていきながら…松浦はまた深く溜息をついていった。

「…本当に貴様は、全然変わっていないな。見ていて腹立たしくなるぐらいだ。
…ま、もうお前に怒りを覚えても何にもならない事は理解出来たから…
イチイチ俺も怒らないけどな」

 そう憎まれ口を叩きつつも、心のどこかでは嬉しく思う気持ちもあった。
 社会人となって、色々な壁にぶつかっている内に理想や理念を見失って
しまう事は良くある。
 そんな中で本多だけは…学生時代の時のまま、心の中に熱い気持ちと
キラキラした希望のようなものを変わらず抱き続けている。
 其れが松浦には最初、許せなかった。
 自分が無くしてしまったものを、同じ体験をしておきながらずっと抱き続けていた
あの男に憤りすら覚えた。
 だが…今日の昼に掛けられた電話の一言を思い出すと、信じられないくらいに
易々とその怒りは溶けていった。

『おう、久しぶりだな。今朝、出張先から帰って来たんだが…お前に直接
渡したいものがあるからもし都合つくなら、今夜俺の自宅に来てくれないか?』

 そう明るく言われた時の事を思い出したら、ジワジワと湧き上がっていた
苛立ちが氷解していくのが判った。
 それを自覚した途端、困ったように松浦は苦笑していく。

「本当に困った男だ…」

 そして彼がそう呟いた直後、本多は飲み物を持ってリビングに戻って来て…
松浦に本題を切り出し始めていったのだった―
 

 
 
 



※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
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 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当                 4(完)
 太一×克哉    二人の記念日                
  

―太一が耳元で歌った曲と、オルゴールが奏でる澄んだメロディが
シンクロして、克哉の胸に強く響き渡っていった

 窓の外では、藍色の夜の帳が完全に消えて…ゆっくりと
朝の刻を迎えていこうとしていた。
 折り重なるような体制でベッドの上に横たわり…耳元で甘い吐息混じりに
歌われた克哉の顔は瞬く間にくすぐったさと嬉しさで真紅に染まっていく。

(うわっ…うわうわっ…! メチャクチャ、ドキドキするよ…! こんなの
不意打ち以外の何物でもないよ…!)

 あまりに耳奥に届く太一の声が掠れて甘くて、とても優しくて…
ドクドクドクと鼓動が荒立つのを自覚していった。
 
其れは一分程度の短い曲だった。
 小さく青い箱から、優しい旋律が奏でられていた。

―貴方に愛されて、手を取って歩んで来れて本当に良かった
 この記念すべき日をどうかいつまでも一緒に迎えていきたい
 あの日、貴方が手を取ってくれたから今の俺がいるんだから…
ずっとこれからも一緒にいようよ 愛しているよ…

 優しく、ゆったりしたテンポの曲だった。
 其れに合わせて、太一が耳元で愛の歌を歌っていく。
 一分弱の短い曲に、想いが要約された歌詞。
 飾らぬ言葉で紡がれた歌詞と、綺麗なメロディが…克哉の胸を
強く心を打っていった。
 
(この曲は…きっと…太一が、作った曲だ…太一の癖が、ちょっと残ってる…)

 一度聞いていっただけで克哉は、そう確信していった。
 微妙に太一が作る曲の癖が残っていたから、一度聞いただけで
すぐに判ってしまった。
 そのイメージを例えるならば、藍色の澄んだ夜空に月が輝いているような、
朝日の光がキラキラと輝いていうような…そんな感じだった。
 どこかで幻想的なものを感じさせる曲調を、オルゴールで奏でる事で
たった一度聞いただけで胸に鮮烈に焼きつくぐらいのインパクトを
生みだしていった。

「太一…ずるいよ…こんな綺麗なメロディに合わせて耳元でそんな風に歌われたら…
それだけで腰砕けになってしまいそうだよ…もう…」

「へへ、けど…俺の想いがダイレクトに克哉さんの胸にも響いたっしょ?
これ…克哉さんに贈ろうと作った世界で一つのオルゴールなんだ。
この曲はさ…オルゴールにすることを最初から考慮して作った曲なんだけど
良い出来でしょ?」

「…うん、凄く綺麗なイントロだよ。幻想的というか、ロマンチックというか…
子守唄のような優しさがある旋律だと思う。俺…凄く、この曲好きだな…」

「やった! 克哉さんに気に入って貰えたなら作った甲斐があったよ!
オルゴールで曲を作って、其れに合わせて歌って気持ちを伝えるって…
インパクトに残るかなって思ったからやってみたんだけど、大成功だったみたいで
マジで良かったよ」

「もう、太一ってば…子供みたいに、無邪気に笑うね…」

 肩越しに振り返って、年下の恋人の顔をそっと見つめていくと…
其処には自分のたくらみが大成功を収めて、心から喜んでいる
青年の顔があった。
 こんなサプライズが、この記念日に用意されているとは予想しても
いなかっただけに克哉の驚きと喜びは半端ではなく、うっかり涙腺すら
緩みそうになってしまう。
 ポロポロ、と克哉の意思と関係なく透明な雫が目から溢れて…
頬を伝っていく。
 この反応はそれだけ…太一の曲とメッセージが克哉の心の琴線に
触れて感動させていった何よりの証でもあった。


「あれ…克哉さん、泣いているの…?」

「うん、嬉しくて…まさか、太一がこんな贈り物をしてくれるなんて…
予想してもいなかった、から…わっ…!」

 これが嬉し涙であることを伝えると同時に、太一が克哉の
目元をそっと舐めとっていく。
 その行動も想定外のことだった為に慌ててしまうが…すぐに
唇に淡く口づけを落とされて、反論の言葉は封じられていった。

「…克哉さんが、喜んでくれて本当に良かった…!」

 そして、触れるだけのキスが解かれると同時に太陽のような
明るい太一の笑顔が視界に飛び込んできた。
 その瞬間、克哉は心から…あの日、彼と共に生きる事を
決断して良かったと思った。

(本当は四年前…駆け落ちすることになった時…凄く迷っていた。
何もかもを捨てて太一だけを選びとるのは…凄く勇気がいったけれど…
オレは、正しい道を選べたんだ…。今、心からそう思うよ…)

 きっと、今…世界で一番、太一が克哉を必要としてくれているから。
 愛してくれているから、そう信じられるからこそ…克哉は四年前の
自分の決断が間違っていなかった事を確信していった。
 彼が傍にいてくれることに感謝して、胸が暖かくなるのを感じていった。

―世界でただ一つのオルゴールと、愛しい人間の肉声で歌われた一曲

 其れは、今でも太一が自分を愛してくれていると伝えてくれている
メッセージであり、最高の贈り物だった。
 嬉しくて嬉しくて、今ならきっと死んでも人生に悔いが残らないだろうと
確信出来るくらいに心が満ち足りているのが判った。

「太一、本当にありがとう…。今まで贈られたプレゼントの中で、
一番嬉しかったよ…」

 そうしてきつく抱きしめて、感謝の言葉を伝えていく。
 そして…彼が伝えてくれた想いに応えるように、克哉もまた
太一の耳元に唇を寄せて、そっと囁いていった。

『大好きだよ…これからもずっと太一の傍にいたい…』

 そう呟いた時、吐息が掛かるぐらい間近に存在している太一の顔が…
満面の笑みを浮かべて、克哉を強く強く抱きしめていく。

『ん、俺も同じ気持ちだよ…。だから一生、俺の傍にいてよ克哉さん…」

 その言葉にクスっと笑っていくと、了承の意を伝える為に羽のように
柔らかいキスを太一の唇に落としていった。
 気持ちを確認し合うように…無意識のうちに二人の指が絡め合って
ギュっと握りしめられていく。
 そして…キスをしながらお互いの想いを確認しあっていきながら、彼
らは四年目の記念日の夜明けを静かに抱きあいながら迎えていったのだった―


 





※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
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 太一×克哉    二人の記念日      1

さっきまで泣きそうな顔をしてこちらの事を責めていた筈なのに、強引な力で
克哉を引き寄せた太一の顔は『男』の表情になっていた。
 お互いの吐息すら掛かりそうな位置で、それを目の当たりにして克哉は
つい言葉を失ってしまう。

「…克哉さんが俺たちの記念日をちゃんと正しく覚えていてくれて良かった。むしろ、
今日だねってカマを掛けて頷かれてしまったら、俺…悲しかったから」

「…やっぱり、そうだったんだ。もう…太一、人が悪いよ。あんまり何回も聞いて
くるから少し不安に思ってしまっただろ…」

「ごめんごめん、けど克哉さんって凄く控えめな性格しているからさ。たまには
愛されているんだって確認、どうしてもしたくなってしまうんだよ。だから
怒らないで欲しい…ごめんね」

「もう…そんな顔されたら、怒れないだろ…ズルいよ、太一…」

 そうして二人はマンションの玄関先で抱きあいながら…戯れるような
キスを交わしあっていく。
 太一が本当にすまなそうな顔をしているせいで、克哉も相手の試すような
行為を咎める事が出来なくなってしまった。
 それに軽く苦笑していきながら…啄むようなキスをして、機嫌を直さざる
得なくなってしまう。

「…あれから、もう四年か。何か太一と出会ってから…時間が物凄く
早く過ぎているように感じられてしまう。最初に太一と会話した頃には…
こんな風な関係になるなんてまったく予想していなかったな…」

「そう? 俺は克哉さんが食パンを咥えてロイドの前を全力疾走している姿を
見た時から何か運命感じたけど。何というか、俺からしたら克哉さんの
印象って…半端なく凄かったから」

「っ…! もう、またそれを言う! 恥ずかしいからそのことを何度も
言うの止めろよ。恥ずかしくなるだろ…!」

 二人の馴れ初め、というか太一が克哉を初めて見た日のことは駆け落ちした
四年間に何度も話題に上がって来た。
 その度に克哉は顔を赤くして恥ずかしがり、太一はその反応を可愛いと思いつつ
からかうような笑みを浮かべて楽しんでいく。
 それは二人の間で何度も繰り返されてお馴染みのやりとりだった。

「ううん、一生忘れない。その出来ごとがあったから…俺は克哉さんの事を
強烈に覚えていて…今、こうして一緒にいられるようになったんだと思うから…」

「もう…太一ってば…んっ…」

 そして、少しだけ深い口づけを交わし…その感触と相手の温もりをしっかりと
感じ取っていく。
 キスを解いた頃、リビングに掛けてある時計をチラリと眺めていく。
 今日が、後40分程度で終わろうとしている。
 そのことを自覚した途端、克哉はしみじみと呟いていった。

「明日で…オレ達が駆け落ちした日から、四年か。何かアメリカに
渡ってから日本でおじいさんと和解するまでの期間って…必死になってて
あっという間に過ぎてしまった気がする…」

「ん、そうだね…。あのジジイの手から逃れる為に、五十嵐の屋敷を
脱出してから速攻でアメリカ行きを決めたもんね。あの時は無我夢中だったし…
余裕なんてまったくなかったから。けど、俺…その時からずっと克哉さんが
傍にいてくれることを感謝していた。克哉さんが俺を追いかけてくれなかったら、
何もかも捨ててでも夢を追いかけるって、その道を選びとれなかった気が
するからさ…」

「…それは、オレも一緒だよ。太一がいてくれたから…今の未来があると
思っているから。ま…太一は大学中退になっちゃったし、オレもキクチを
中途半端な形で辞める事になったから、それだけは心残りだけど…
あの時は振り返っている余裕なかったもんね。モタモタしていたら、また
引き離されるだけだったから…」
 
 そうして二人は4年前の出来事を思い出して、クスクス笑っていく。
 一連の流れを思い出して、克哉がふと…愉快そうに笑っていった。

「あ…でも、今日も良く考えたら、オレ達の記念日だよ…?」

「えっ…どういう意味、克哉さん?」

「ん…駆け落ちしたのは確かに明日だったけど。その前夜にオレ達…
初めて結ばれたじゃん。それを入れたら…今日だって、充分にオレ達の
記念日だろ?」

「っ…! 克哉さん、それ言うの反則。そんなことを言われたら、
贈り物をするよりも克哉さんを欲しくなっちゃうよ…」

「えっ…贈り物って、太一…んんっ!」

 そうしている合間に太一からの抱擁と口づけが熱を孕んだものに変わっていく。
 それに反応して克哉も余裕を失っていく。
 何もかもを奪いつくされそうな情熱的なキスに意識が遠くなり、何も
考えられなくなっていった。

「太一…!」

 そして、克哉が応えるように甘い声で名前を呼んでいくと…太一は
玄関先で克哉を求め始めて、二人はその熱を貪るのに無我夢中に
なっていったのだった―

 

 

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
 暫くの期間、出てくるCPはネタによって異なります。
 通常のように一つのCPに焦点を当てて掲載する話ではなく
1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
CPを消化するまで続きます。
 期間中、それらを踏まえた上で作品をご覧になって下さい。
 この形での連載期間はタイトルの部分に扱うCPも同時に
表記する形になります。興味ない方はスルーなさって下さい。

―ねえねえ克哉さん、今日が何の日だったか覚えてる?

 一日の活動を無事に終えて、現在自分たちが拠点としているマンションに
戻ると同時に、太一はそう克哉に聞いてきた。
 三年間のアメリカでの活動を経て、今年に入ってMGNの新商品のタイアップ曲を
手がける為に日本に戻って来て。
 紆余曲折を経て、太一の祖父とも一応和解し…安定した生活をようやく得られた
ばかりの頃だったから、その質問には克哉は言葉をつい失ってしまった。

「えっ…? 今日に、何かあったっけ…?」

「ええっ! 覚えていないの! 克哉さんってば酷い! 今日、俺達の記念日じゃん!」

「………っ?」

 克哉は突然の質問に、言葉を失ってしまい…たった今、点けられたばかりの
蛍光灯の光の下で、自分の恋人の顔をマジマジと見つめてしまっていた。

(今日って確か…11月の終わりだったよな。その日に何かイベントとか行事とか
あったっけ…少なくとも、『今日』には何もなかった筈だけど…?)

 突然、太一から投げかけられた疑問は、克哉を軽く思考の海へと叩き落とす形となった。
 カレンダー上の記念日や、行事の関係はパッと見…思いつかない。
 これが10月の終わりなら「ハロウィン」という答えが出来た訳だが、11月では
まったく心当たりがない。

(…どうしよう、思い浮かばない!)

 そして1~2分間、克哉は脳味噌をフル回転させて考えて抜いた。
 だが真剣に考えれば考えるだけ思考の迷路に入り込んで抜け出せなくなって
しまうような気がした。
 そんな彼の反応に、最初はワクワクした様子で待っていた太一も時間が
過ぎれば過ぎるだけ落胆の色が濃くなっていく。
 元々、人の顔色を伺う部分があった克哉はその表情の変化を見て…太一に
対して心底、申し訳ない心境になった。

(ああああ…! 太一ゴメン! 何かオレってば重要なことを忘れてしまって
いるみたい…!)

 心の中で恋人に対して盛大に謝罪していく。
 だが、それでもピンと来る回答が思い浮かばなかったので克哉は本気で
途方に暮れていった。
 一つ、思い当たるものがあったが…克哉はその日のことは決して忘れない。

(まだ、その日になっていないのに…今日の時点で言える訳ない。一日でもズレるのは嫌だし…。
やはりオレの答えは「今日は記念日じゃない…だよ、太一…!)

 同時に、だからこそそれは今日ではないと確信を持って言えるから…克哉は
口を閉ざすしかなかった。

「…ねえ、克哉さん。…本当に思い出せない訳…?」

「ご、ごめん…! とっさにそう聞かれても何も思い浮かばなかった…。
あの、今日に何があったのかな…?」

 克哉は太一を刺激しないように恐る恐る問い尋ねていった。
 だが、答えられないということが太一にとっては余程ショックだったらしい。
 大げさに泣くような真似をして、畳みかけるように言葉を並べ始めていった。

「か、克哉さんってば実は凄い薄情だったんだね…! 俺はこの記念すべき日
のことをこの四年間、一日だって忘れたことがなかったのに…! 克哉さんに
とってはたったそれっぽっちで忘れてしまえる日だったなんて…!」

「え、ええっ…! け、けどゴメン…。それは今日じゃなかった気がするんだけど…!」

 相手の剣幕に、克哉は一つだけ心当たりを思い出していく。
 だが、携帯でとっさに確認していったがやはりまだ…その日ではなかった。
 それに至るまで、一時間近くあるのを見て…克哉は迂闊なことは言えないと思った。
 
「じゃあ、それはいつな訳…?」

「その、それは間違いなく…明日の方だったと思う。だから今日は記念日じゃない。
それがオレの回答なんだけど…違うかな?」

 克哉は、しっかりとした声でそう答えていく。
 最初それを聞いた時…太一は軽く目を瞠っていったが…次の瞬間、小刻みに
身体を震わせていき…次の瞬間、意地の悪い笑みを浮かべていった。

「えっ、太一…?」

 その顔を見て、克哉が茫然となっていくと…克哉は唐突に、強い力で
太一の腕の中に抱き込まれていったのだった―

 


 

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
オムニバス作品集です。
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 本多×克哉?  ガムガムメッセージ  1(完)
 眼鏡×秋紀    愛妻弁当             



 屋上に飛び込んできた人物は、現在の克哉の直属の上司に当たる
御堂だった。
 本多にとっても本日午後から開かれる打ち合わせで顔を合わせる
予定の人物だった。
 その突然の乱入に空気がピリピリするのと同時にその場に
御堂の大声が響き渡っていった。

「佐伯君! ちょっと本多君を借りて構わないか!」

 扉をバァンと強く打ちつけながら登場されたので二人の視線も
自然と其処に釘付けになった。
御堂はどう見てもすごい剣幕だった。

「あ、あの…御堂部長。俺、何かしましたか…?」

 基本的に御堂に敵意を持って、反発心を抱いている本多も相手の
剣幕に自分は何か大きな失敗をしてしまったと察したようだ。
 恐る恐る尋ねていくと、御堂の切れ長の双眸がキっと一層つり上がっていく。

「何をしたか、じゃない! これから打ち合わせに使用する予定の書類一式が
まったく違う物と間違って入っていたぞ! これは前回、君の会社に営業を
任せた製品に関する資料ではないか! これでは打ち合わせなど出来ないだろう!
 即刻取りに戻ってくれ! 二時の打ち合わせ開始までには何が何でも
間に合わせてくれなければこの仕事の話は無かったことにさせてもらう!」

「ええええええっ!」

 矢つき早に、自分がやってしまった失敗を羅列されてついでに命令も
下されてしまった為に本多はみるみる内にに顔面を蒼白させていった。

(そ、そういえば今日は…久しぶりに克哉と一緒に昼飯が食えると思って
会社を出る前、すっげー浮かれていたかも…)

 本多はさっきまでの自分の様子を思い出して、心臓が不安で脈動を
激しくさせているのを感じていった。
 人間、何か他の事に大きく気を取られている時は得てして小さなミスを
しやすいものだ。
 克哉に会えると浮かれて、昼飯を何を買っていくかに意識を取られて
しまっていたから、本多は書類の確認という初歩的な行為をつい忘れて
会社を出て来てしまったのだ。
 その事に気づいた瞬間、本多はその場に立ち上がり…大慌てでこう叫んでいった。


「す、すみません! 今から大急ぎでキクチまで戻って…必要な書類一式を取ってきます!」

「ああ、必ず間に合わせてくれよ。君たち営業八課の力を見込んでもう一度
頼むことにしたんだから…その期待をこんな事で裏切る真似だけはしないで
もらいたい」

「わ、判ってます! じゃあ今から急いで帰社します!」

 もうさっきまでの克哉の一言一言に傷ついて泣きそうになっていた
面影は全くなかった。
 大急ぎで仕事をしている男の表情に戻って、きっぱりとそう宣言していく。
 そして慌てて克哉の方を向きかえり、最後にこう告げていった。

「わりっ…克哉! キクチに戻らないといけなくなった! この埋め合わせは
いずれさせて貰うから…またな!」

 そう残して、電光石火の勢いでその場から本多は消えていった。
 そしてポツリと、友人が残って聞いていたのなら確実に傷つけそうな一言を
呟いていった。

「…別に埋めわせなどしなくて良いが。むしろ俺は一人で今日は飯を食えて
嬉しいぐらいだがな…」

 そうしてさっさと、乱入してきた本多と御堂の事を頭の隅に追いやって
克哉は秋紀が作ってくれた弁当に集中していく。
 御堂は用事が終わったらさっさとその場から立ち去って行ったようなので
彼は心おきなく、昼食を食べるのに専念していった。
 秋紀の初めて作ってくれた弁当は正直、味付けがまだ未熟な部分が
時々感じられた。
 だが付き合い始めた当初は…全く料理が出来なかったことを思えば、
恋人の少年がどれだけ努力してここまで作れるように持って行ったのかが
感じられてつい微笑ましい気分になっていく。

(頑張ったな…秋紀…)

 食べ終わった頃には米粒一つ残すことなく、弁当箱の中身は
綺麗に平らげられていた。
 そして青空を見て、年下の恋人の顔を思い描いていく。
 丁度その同じ頃に…通っている高校の屋上で秋紀もまた同じ行動を
取っている事など想いもよらず…。

『大好き』

 弁当のご飯の上に象られていたメッセージ。
 それを見て、心が暖かくなっていく。
 ふと声を聞きたい気分になり…克哉は携帯を取り出していった。

(繋がるかどうかは判らないがな…)

 そう思いながら恋人の番号をダイヤルしていくと、ワンコールですぐに
繋がっていった。

『克哉さん! お弁当どうでしたか!』

 どうやら、秋紀は克哉の感想がどうだったかずっとやきもきしながら
携帯を手に持っていたのだろう。
 そうでなければこれだけのレスポンスの早さは望めないだろう。
 相手の心情が手に取るように判ってしまって、つい微笑ましい気分に
なってしまう。
 そして克哉は優しい声音でこう告げていった。

「ああ、とても旨かった…。そして俺も、お前のことが『大好き』だぞ…秋紀…」

『あ…』
 
 克哉からその一言を聞いただけで、電話口の向こうで秋紀が嬉しさで
泣いているのが伝わってくる。
 本当に彼が、克哉のことを好きでいてくれているんだと思って…自然に
笑みがこぼれていった。

「…今夜は早目に帰る。たっぷりと可愛がってやるから…覚悟しておくんだな」

『か、克哉さん! は、はい…僕、待っていますから…。お仕事、
頑張って下さいね…』

「ああ。お前もな…じゃあ、そろそろ切るぞ…」

 そうして短いラブコールの時間は終わっていく。
 そして今から恋人に会えることを心待ちにしていった。

―ありがとうの言葉は、帰宅して直接顔を合わせた時に言うとしよう…

 そう心に決めて、克哉は恋人からの愛情を感じられる弁当の味を
思い出して…幸福な気持ちに浸っていったのだった―
 


 

※この作品は『メッセージ』を共通項目としたCPランダムの
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1話完結から2~3話で纏めて、鬼畜眼鏡ゲーム本編に出てくる一通りの
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 眼鏡×秋紀    愛妻弁当           

 眼鏡を掛けた克哉に脅されて、本多が売店に別の弁当を買いに
走っているのと同じ頃…秋紀は、屋上で一人克哉を想いながら弁当を
食べていた。
 いつもは一緒に食べてくれる友人ぐらいはいるのだが、今日は何となく
照れくさくて…校舎の屋上で一人で食べる事を選んだのだ。
 そして恐る恐るフタを開けて、失敗作の方の弁当を改めて見て行くと
恥ずかしくて顔を赤らめてしまう。

「…うっわ…こうして見ると凄く恥ずかしいよね。ちょっと大胆過ぎたかな…」

 そう呟いていくと、さっさと箸をつけて食べ始めていった。
 こっちの弁当は、克哉に渡した弁当と一緒に作った予備みたいなものだ。
 そして克哉に渡した物の方が良く出来たので…微妙に失敗した個所がある
弁当の方は秋紀が食べる事になったのだが、食べている内に何となく
甘酸っぱいようなくすぐったい気持になった。

「あ~あ、克哉さんがどんな顔をして食べてくれたか…見たかったなぁ」

 その事を心底、残念そうに思いながら…少しは照れたり、喜んでくれたり
しているのだろうか…と想像すると自然と笑みがこぼれてきた。
 この辺は自分と克哉の年齢差を考えると仕方ない。
 克哉は立派な大人であり社会人で…秋紀はまだ未成年で、学生という
身分である以上…平日は一緒にご飯を食べる事は出来ない。
 だからせめて一緒に食べている気分を味わいたくて、勇気を振り絞って
弁当を作ってこうして今日は一人で食べている訳だが…この同じ空の下で
克哉も今、昼食を食べようとしているのだろうか。

「…帰ったら絶対に、克哉さんに感想を聞こうっと…今から、ちょっと
楽しみだな…」

 そうして青空を仰ぎ見ながら…脳裏に愛しい人の顔を思い浮かべて、
秋紀は満面の微笑みを浮かべていきながら爽やかな風を受けていき…
屋上でのランチタイムをそれなりに楽しんでいたのだった―

                         *

 売店から全力疾走してきた本多の様子は、一見して哀れみを誘う程
切ないものだった。
 昼間の売店と食堂程、稼ぎ時を迎えて人が密集している処はない。
 克哉とご飯を一緒に食べる為とは言え、全力でその人ごみの中に立ち向かい…
戦利品を得た頃にはセットした髪は大幅に乱れて、服装もどこか
乱れてしまっていて…ついでに身体のアチコチに打ち身とうっすらとした
青痣が見て取れる事から…昼食合戦の激しさを如実に現れていた。
 だが、そこまでして新しい昼ごはんを猛スピードで調達してきた心意気を
評価して…克哉は仕方なく、本多と一緒に食べていた。
 空は晴れ渡るような快晴なのに、この暑苦しい男がいるだけで何となく
不快指数が上がっているように感じられるのは果たして気のせいだろうか。
 軽くイライラしていきながら、克哉は本多と食事にありついていった。
 本多がやっとの思いで購入出来たのはカレーパンとメロンパンの
二つだった。
 当然のことながらこの大食漢の男が、それっぽっちで足りる訳がない。
 だからこちらに訴えかけるように視線を向けている事が克哉の神経に
大いに触ってしまっていた。 

(本当にこの男はうざいな…。何をそんなに物欲しそうに見ている。
これだけは絶対にコイツにやらんぞ…。初めて秋紀が俺の為に頑張って
作って貴重な弁当だからな…)

 秋紀が今朝、必死の様子でこの弁当を作ってくれていた姿を
思い出して克哉はつい微笑みを浮かべてしまっていた。 
 果たしてどんな物を作ってくれたのだろうかという期待感が
高まっていくのを感じていく。
 そうして水色の包みを解いて、弁当の蓋を開いていくと…其処に
込められているメッセージが真っ先に目に飛び込んできた。

『大好き』

 それが弁当のご飯の上に、海苔を使って描かれていた。
 予想もしていなかったストレートな言葉だっただけに克哉も最初は
びっくりしたが…次第に、声を立てて笑い始めていった。

「まったく…あいつは。こんなに可愛い事を仕掛けるとはな…」

「って、待てよ! 克哉…これってもしかして愛妻弁当とか、彼女に作って
貰ったとかそういう物だったのかよ!」

「…そんなの見れば判るだろう。俺は自分で食べる弁当に『大好き』などと
文字を描くなんて寒い真似をする趣味はないからな」

「い、いつの間に…一体いつからの付き合いなんだよ! ちくしょう…何か
羨ましいぜ!」

 克哉は本多に対して、秋紀の事はいつも「俺の可愛い飼い猫」とか
「猫」という言い回しで伝えていた。
 だから友人は猫=恋人という図式を知らなかったのだ。

「ああ、存分に羨ましがれ。せめてお前に対して見せびらかすぐらいは
させて貰わないともったいないからな」

「ぐおおおお! 恋人がいない奴に対して宛てつけのような真似を
しやがって! ちくしょう! それならそのタコさんウインナーを俺が
食べてやるぅぅ!」

「何っ!」

 本多が悔しさのあまり、克哉からおかずを奪おうと指を伸ばしてくるが…
即座にその不穏な空気を察し、弁当を後ろに逃がしていった。
 その一撃は結果、空振りに終わり…本多の顔により一層切ないものが
滲み始めていく。

「貴様ごとぎに俺の可愛い猫が作ってくれた初めての弁当をくれてやる
気は毛頭ない。せいぜい空腹をどうにか誤魔化す手段を見つける事だな…」

「ううううっ…今日の克哉の冷たさっぷりは本気で泣きたくなるぜ…!
いつからお前はそんなに冷たい奴になっちまったんだぁぁぁ!」

「うるさい、そんな湿っぽい顔をしてグチグチ言っているだけなら…
昼食がまずくなるだけだから、他の処に行ってくれ。お前が傍にいたら
弁当の味に集中出来なくなりそうだからな…」

「ひでぇ! ひでぇよ克哉! さっきからどうしてそんなに冷たい事ばかり
言うんだよぉぉぉ!」

 本多が本気で嘆いているのを尻目に、克哉は弁当を一口…食べていく。

「うむ、旨いな…」

「…ごくり」

 克哉の満足そうな笑みを見て、本多の食欲がそそられていく。
 だがにじり寄ろうとしたが…克哉に目線で制されていった。
 まさか弁当を作った秋紀も、こんな邪魔が入っている事など予想もして
いなかったに違いない。
 
(…本気で今日ほど、こいつの空気の読めなさぶりとうざさに…殺意すら
覚えた日はないな…)

 虎視耽々とこちらの弁当を狙っているのが明白な眼差しを浮かべている
友人に向かって、心の底からこの場から消えてくれと克哉は祈った。
 普通に昼食を食べているだけならここまで反発を覚えなかったが…
今日は秋紀が精一杯作ってくれた弁当を味わうのに集中したかった。

―早くこいつをどうにかしてくれ…!

 心の底から克哉が祈って行った次の瞬間、彼の強い願いが叶ったのか…
屋上の入り口の方からバタンと大きな音が聞こえていき…その場に克哉に
とっての救い主が颯爽と現れてくれたのだった―
 



 
 

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眼鏡×秋紀    愛妻弁当        

―社内でどうして、かつての同僚と追走劇などやる羽目になっているんだろうか

 心の底からそうツッコミを入れたくなりながら…克哉は秋紀の
お弁当を持って逃げた本多を全力で追いかけていった。
 しかし何だかんだ言いつつ、毎日トレーニングと走り込みを欠かして
いないというのは伊達ではないらしい。
 最近はひょんなことから再会した松浦とどうにか和解して、同じチームで
バレーボールをすることになり…一層特訓にも身が入るようになったと
言っていた本多の足の速さは並ではなかった。

(俺としたことが…こんなに全力で走らなければ、こいつを見失って
しまいそうになるとは…屈辱だ!)

 確かにそういえば運動らしいことをしていなかったことをこの時、
心底後悔していきながら克哉は屋上に降り立っていった。
 その瞬間、本多は突然足を止めて…爽やかに笑いながらこう
のたまっていった。

「よしっ! 良い天気だし今日はここで一緒に飯を食おうぜ!」

「っ…!」

 どの瞬間、眼鏡は自分の何かがぷっつりと切れていくのを感じ取り…
衝動のままに行動に移していった。

 ドスッ!

 少し鈍い音が辺りに響き渡り、ついでに本多もうめき声を上げていった。

「ぐほっ!」

「貴様は…! 人の大切な弁当をいきなり持って逃走した挙句に…何だその
こちらの神経を逆撫でにするような爽やかな笑顔は。盗人猛々しいとはまさに
今のお前のような人間の事を言うんだな、よ~く判った」

「うぅ…今のパンチはマジで効いたぜ…克哉。けどなぁ、幾らなんでもあの断り方は
ないだろ。仮にも俺達、大学時代からのダチだろ? なのに…あんな冷たい言い方は
酷いと思うぜ…。確かに弁当を盗みだすような真似をしたのは悪かったけど、
勝手に食う気はさらさらなかったし。…だから、飯一緒に食おうぜ。それでチャラに…」

 バシッ!

 だが、本多の言葉が終わるよりも先に…次なる克哉の鉄拳が炸裂していった。

「…どの面を下げて、そんなことが言えるんだ…? 人の大事な弁当を
盗んだ癖に偉そうなことを言うな。とりあえずそれは返して貰うぞ。俺の大事な
愛猫が初めて作ってくれたものなんでな…」

「へっ…? 愛猫って…お前が飼っているって言ってた奴か? 猫がどうやって
弁当なんて作るんだよ…」

「…お前は本当にバカか? 愛猫というのは比喩に決まっているだろう? これは
俺の可愛い恋人が初めて持たせてくれた大切な愛妻弁当だ。それを見られたく
なかったから今日は断っただけだ。照れくさかったんでな…」

「えええええっ…!」

 長年の付き合いである友人に恋人がいたなんて全く知らなかった本多は
大声を挙げていき…同時に自分がしたことを大いに後悔していった。
 事情を聞いてみれば、今日は一緒に昼食を食べる事を断ったのに納得を
していき…猛烈に申し訳ない気持ちになってしまった。

「あ、それは悪かったな。確かに…そりゃ、人に照れくさくて見せたくないって
気持ちは判るかも。けど…それならそうといえよな。それなら俺だって
無理にとは言わなかったのに…」

「…だが、今は気が変わった。大いにお前に見せびらかすことにさせて貰おう。
その代わり一口たりとてお前にくれてやる気はないがな」

「うえっ…! 今日のお前は本当に冷たい奴だな。一口ぐらいくれたって
良いだろ! 代わりに新発売の海鮮カレー丼をお前にも分けて
やるから! 旨そうだろ!」

 そうしていきなり、手に提げていたビニール袋から…何やらビジュアル面
だけでドン引きしてしまいそうな代物を取り出していった。
 どうやらドンブリ物であるらしいことは一目でわかった。
 だが…海鮮丼の上にめいっぱい具が大きくてゴロゴロしているカレーが
乗っかっているだけで一種の視覚の暴力になることを克哉はこの日、
初めて思い知らされたのだった。

バシッ!

 そしてつい、反射的に叩いていってしまう。
 ビニールの袋は綺麗な弧を描いて宙に舞っていき。

「わぁぁぁ! 何するんだよ克哉! これは今日の俺の大事な
昼食なんだぞ! 食べ物を粗末にするんじゃねえよ!」

「うるさい、そんな気持ちが悪い物体は俺は食い物とは認めない。
そんな物を隣で食う気なら、お前と昼食を食うのは却下だ!」

「…ううっ、そこまで言わなくなって良いじゃねえかよ…! 俺は
旨そうだって思ったんだから…!」

 だが、本多のその声は聞き遂げられることはなかった。
 絶対零度とも言えるぐらいに冷たい眼差しが克哉から向けられていく。
 決して逆らうことなど許さないという威圧感に満ちた視線に本多は言葉を
失い…背中に冷や汗が伝っていくのを感じ取っていった。

(これ以上ゴネたら、この視線で殺されかねない…!)

 キクチ社内においてはMr.KY…キング・オブ・空気読めないと評される
本多でも今の克哉をこれ以上怒らせたら命が危ないことを悟っていく。
 海鮮カレー丼は食べたい、だが…このままでは克哉と一緒に昼食を
食べる事は困難であることを察した本多は決断していった。

「…判った!今から別のをここの売店で大急ぎで買ってくる! だから
俺と一緒に飯を食ってくれ!」

 そしてそう叫んでいくと同時に「うぉぉぉぉ!」と叫びながら…本多は売店に
向かって全力で走っていった。
 まさに電光石火と呼ぶにふさわしい速度だったのだが…克哉は呆れた
ように呟いていった。

「…トコトン、邪魔な奴だな。仕方ない…待ってやるか。あんなのでも一応
友人だしな…。せいぜい見せびらかして食うことにしよう…」
 
 そう溜息まじりに呟きながら、克哉は水色の弁当の包みを眺めていって…
今頃、秋紀はどうしているだろうかと考えて…晴れ渡るような青空を
眺めていったのだった―



 
 

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 ―克哉さん、いってらっしゃい! 今日もお仕事、頑張って下さいね!

 昼休みを告げるチャイムがMGN本社内に鳴り響く頃…克哉はふと今朝、
朗らかな笑顔を浮かべて、秋紀が今朝は見送ってくれた時のことを
思い出していった。
 彼の脳裏にはクリーム色のシンプルなデザインのエプロンをつけてそうやって
出ていく直前に声を掛けられていく直前の光景が鮮明に再生されていった。
 克哉の部屋に秋紀が宿泊した日はこうやって朝、見送ってくれることは
珍しいことではなかったが…今朝は一つだけ思い返すと違う点があった。
 午前中いっぱい仕事に集中して、一区切りがついた頃に昼食を取ろうと思い立ち…
自分のディスクの上に弁当箱を並べていくと小さく微笑みを浮かべていった。

「まったく…まるで愛妻弁当だな…。それに俺に対してこんな風に弁当を
作れるぐらいまで成長を遂げるとは感慨深いものがあるな…」

 この水色の包みは、今朝出ていく直前に渡された。
 ずっしりとした重さとこの大きさと形状を見て、秋紀が作ってくれた物に
間違いないだろう。
 最初、克哉のペット…というか関係を持ったばかりの頃は家事の類は
殆ど出来なかったことを思い返すと、恋人の成長ぶりに目を細めていく。
 だが克哉はこれが手作り弁当であることは察していたがまだ蓋を開けて
中身は確認していない。
 果たして秋紀は自分に対して、どんな物を作ってくれたのか初めての事
なので全く予想がつかない。
 自分よりも一回りは年下の少年が、妙に可愛い代物をもし作ってくれて
いたのなら人に見られるのは抵抗がある。
 食べるなら屋上で一人が無難だろう、そう考えた瞬間に克哉が働いている
オフィスに、ズカズカと一人の立派な体格の男が入り込んできた。
 手には何やらずっしりとした物が入っているスーパーのビニール袋が
下げられていた。

「オース! 克哉…そろそろ昼飯だよなっ! 良かったらこれから一緒に
屋上で飯でも食おうぜ!」

「本多か、ここに来ていたのか」

「ああ、これからMGN本社が新発売するビオレードの販売もまたキクチが
担当する事になったからな。その打ち合わせの為に一時間前ぐらいに
こっちに来ていたんだが…それなら久しぶりにお前と昼飯くらい食べようと思ってな」

「断る、今日は一人でゆっくりと食べたい気分だ。他を当たってくれ」

「ええええええっ! おい、克哉なんだよその態度は! せっかく誘いを
掛けたっていうのにその一刀両断ぶりはないだろ! 仮にも俺、元同僚で
お前の友達だっていうのに!」

「ああ、お前が友人である事は認めている。だが、今日はどうしても一人で屋上で
食べたいんだ。そういう気分の時だってある。そんなに駄々をこねられても
迷惑なだけだ。さあ、回れ右をして他に食べられそうな場所を探すんだな…」

 眼鏡とて、本多の事はそれなりに大切な友人だとは認識している。
 だが、秋紀の作った弁当を見られたくないという照れくささから厳しい言葉を
つい浴びせてしまっていた。
 それが予想以上に本多には堪えてしまったらしく、今にも泣きそうな
表情を浮かべていった。

「…お前、それが久しぶりに一緒に飯を食べようって誘いを掛けた友人に対して
言うセリフかよ! お前がMGNに引き抜かれて以来、働く場所が同じじゃなくなって
から俺がどんなに寂しい想いをしているかお前は考えた事があるのかよ!」

「っ…!」

 本多の予想外の剣幕に克哉は言葉を失っていく。
 それでつい、毒舌も止まってしまった。
 その瞬間…本多はようやく、水色の弁当の包みの存在に気づいていった。
 克哉のディスクの上にある事から見ても…これが恐らく、彼の本日の昼食で
ある事に間違いないと確信した途端、本多は暴挙とも言える行動を
取っていった。

「…お前がそんな風に言うのなら、この弁当俺が食べてやる! 昼飯抜きになって
冷たい言葉を吐いたの少しは後悔しろよ。このバカっ!」

「貴様、何をする!」

 克哉が叫んだ時にはすでに遅かった。
 本多はその巨体からは想像もつかないぐらいに俊敏な動きで間合いを詰めて
友人の机の上から弁当の包みを奪取していった。
 
「はっ…! 少しは反省しろっ! 俺はなぁ…久しぶりにMGNに来てお前と一緒に
飯を食うの本当に楽しみにしていたんだからな! 離れちまったからと行って
大事なダチと思っている奴に冷たい態度を取られたら俺だって辛いんだからな!
だからお前の弁当、食ってやる! ハラペコ状態で午後から克哉なんて
働けば良いんだ!」

「お前な、言っている事とやっている事が支離滅裂だぞ!」

 人間、好意を抱いている相手に対してはささいな事で心が乱されて冷静に
判断出来なくなるものだ。
 本多という男は今の克哉には恋愛感情の類は抱いていないが…大学時代から
相当に強い好意を抱いているのは間違いなかった。
 それゆえに照れから来ていたとは言え容赦ない言葉でそのハートは大いに
傷つきまくっていた。
 だから子供っぽいと判っていても、本多はつい衝動のままに動いてしまっていた。

「どうしても取り返したいなら、追いかけて来な! じゃあな!」

 そうして自分が持っていたスーパーの袋と水色の弁当の包みを抱えて、
本多が突然オフィス内で全力疾走を開始していく。
 周囲の人間の目がさっきから何事かと、突き刺さるようだった。
 本多のKY…周囲の空気の読めなさりはあまりに健在すぎて、涙さえ
出てきてしまいそうだった。
 さっきまで秋紀の愛情を感じてくすぐったいような甘酸っぱい嬉しさを覚えていたのに
本多の暴挙のせいで何もかもがぶち壊されそうになってしまって…
克哉は苦々しく呟いていった。

「あのバカが…! しかしあの弁当だけは絶対に返して貰うぞ!」

 そうして周囲の人間の目を振りきって克哉も全力で弁当を持って逃走した
本多を追いかけ始めていったのだった―


 
 

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香坂
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趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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