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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※ タイバニの一期のEDが好きなんで、ピンズと
クリスマスにちなんだ話を書いてみたくて始めました。
  現時点で掲載しているタイバニは、すでに書きあげたものを
簡単に編集してアップしたものですが、この作品はタイバニでは
初めての連載物になります。
  良ければ見てやって下さい。

  …何か一応、虎兎と銘打っているけど…多分うちのサークルのは
エッチにあんまり走らず、真面目に色んなもんを掘り下げて
書く形式になるかと思います。
(濃厚なエロは書いてくれる人沢山いるから、心理描写とか
設定を掘り下げたものを読みたいと思っているんで)
ではでは。


―無理やり、あの日…虎徹さんに、ピンズを押し付けられた

 記憶の混乱が起こってしまって、4歳のクリスマスイブの正しい記憶を
取り戻す為に、その日の記憶を辿ってみようと提案された時。
 虎徹は今日の記念に、お揃いのピンズを購入して…片方をこっちに
贈って来た事があった。
 自分のジャンパーに穴を開けてしまうのが嫌で断ったのに
強引に渡されてしまって。
  正直、どうすれば良いのか困惑した。
  クリスマスの時期を外れれば、つけたらきっと奇異に感じてしまう
ぐらい…それは季節感を感じさせるデザインで。
  けれど、結果的に…最初受け取っても全然嬉しくなかったその
小さなピンズこそが、マーベリックの陰謀を暴くキッカケになった
事を後から知ってしまい。

―結果、虎徹さんと再会する日まで…僕はそれを、虎徹さんと
記憶を探る為に一緒に過ごしたクリスマスイブの思い出のカケラ
として…大事に持つ事になったのだった…

  二軍所属のヒーローとして…お互いに復帰してから間もなく、
タイガー&バーナビーの二人はコンビを組んでから三度目の
クリスマスの時期を迎えた。
  明日はクリスマス、という事を意識したせいで…バーナビー=ブルックス・Jrと
カリーナ=ライルの二人はジャステスタワー内にあるトレーニングルームで
非常に落ち着きなく過ごしていた。

(虎徹さん…そろそろ来るだろうか…)

(タイガーの奴、どうしてこんな日に限って遅いのよ…。せっかく今日、
勇気を出して…クリスマスの予定があるかどうかを聞こうかと思って
いたのに…)

 バーナビーは筋力トレーニングの機械を最大の負荷で。
 カリーナはルームランニングを最大速度で走って、モヤモヤする気持ちを
処理しようと試みていたが…タイガーがいつ来るか、二人は気になって
仕方なかった。
  その様子を見て…遠くから、ネイサンが呆れたように呟いていた。

「…全く、本当にタイガーったら罪つくりねぇ…」

 去年までは、一軍のヒーローはシュテルンビルド内では八人存在していた。
  本来なら復帰したバーナビーと虎徹は二軍なので、このトレーニングルームを
利用出来る身分ではない。
  一軍と二軍では、本来なら使用出来るエリアや施設も異なっているのだが…
現在残っている6人のヒーロー全員が、二人に今までの通りたまには一軍の
トレーニングルームに顔を出して欲しいと伝えた結果、その特例は通り…
二人は基本、こちらの方で訓練をしている事が多かった。
  こうしていると、一軍や二軍である事など関係なく…それ以前と全く
変わってないようにさえ感じる。
 バーナビーとカリーナの二人は、虎徹と共にクリスマスイブを一緒に
過ごしたいと切に祈っていた。

(去年までの僕は…記憶を取り戻そうと必死になってて…虎徹さんと一緒に
過ごす事に対して、意識が全然向いていなかった…だから、今年こそは…
大切なあの人との時間を…大事にしたい…)

 そう思いながら、トレーニングをしていると…何度も何度も、去年渡された
ピンズの存在が脳裏をよぎっていく。
  あれを渡された時、困った顔しか出来なかった。
 その事が自分の中ではどこか引っかかっていて。
 今年、もしまた虎徹と一緒に過ごす事が出来たなら…一言、自分の気持ちを
ちゃんと伝えたかった。
  そう思いながらトレーニングに打ち込んで、汗を流していくと…。

「やぁ、わりわりぃ…遅れちまったよ」

 全く悪びれた様子もなく、トレーニングウェアに身を包んだ虎徹の姿が
現れていった。
  少し離れたところに、ようやく待ち望んだ人が現れたのを見て…バーナビーは
心が急いていくのを感じていった。

(やっと…虎徹さんが来てくれた…。さあ、早く…あの人の予定を
聞かないと…)

  慌ててトレーニングを中断して、虎徹の元に向かおうとした途端に…
真剣な顔をしたカリーナが…先に彼の方へと近づいていったのだった―

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※色々とグルグルして悩むオジサンが読みたくて
書きました。
   息抜き程度に読んで頂ければ幸いです。

 オジサンの葛藤    前編



「バニー…」
 
 相手の名を、微かな声で呼びながら…虎徹はゆっくりとバーナビーの方に
顔を寄せていく。この気持ちは伝えなくて良いと、密やかなもので良いと…
そう言い聞かせていきながら、ほんのちょっとだけ自分の我儘を通していく。
 
「んっ…」
 
 キスを受けて、くすぐったそうに腕の中の青年が身をよじっていく。
 それが可愛くて…一度だけじゃ足りない気分になって、もう一回だけ頬に
キスを落とそうと顔を寄せていくと…。
 
「…貴方って、本当にヘタレですね…」
 
 
「…っ!」
 
 唐突に、そう声が聞こえて…目を見開いていくと…唐突に、唇に柔らかい
ものを感じて、ぎょっとなった。
 だが…その隙に、バーナビーの方から舌を積極的に絡めてくるのを感じて…
脳内がパニックに陥りかける。
 だが、気付けばこちらからも…相手からの情熱的なキスに夢中で応えて
しまっていて…嵐のような時間が、瞬く間に通り過ぎていった。
 キスを解いた途端、お互いの口の端に銀色の糸が伝ったいった。
 
「…バニー…お前、起きて…いたのか…?」
 
「…ええ、そうですよ…。これだけ僕が勇気を振り絞って…頑張ってお膳立て
したのに、いつまで躊躇しているんですか…。このまま寝た振りしていたら、
キスもしないままで終わってしまうような気がしましたからね…」
 
「えっ…まあ、その…自分の相棒の寝込みを襲ってあんな事やこんな事を
しちゃうって…人としてどうかなってオジサン、ブレーキ掛かっちゃったからさ…」
 
「…いつまで、貴方は本音を隠すんですか? …あんな風に僕からの
キスに応えた癖に…」
 
「…そう、だな…」
 
 自分の胸の中で、バーナビーは真摯にこちらを見つめて来る。
 その視線は痛いぐらいで…こちらの言い訳とか、建前を全て取り払って
しまうぐらいの威力が感じられた。
 その目を前にしたら…嘘なんてつけない。
 溜息混じりに…虎徹は、暴かれる感覚を味わいながら言葉を紡いでいった。
 
「…俺は、お前が好きだよ…バニー」
 
「…僕の名前は、バーナビーです。こういう時ぐらい…ちゃんと名前を呼んで
下さいよ。さもないと…また、名前じゃなくてオジサンって呼び方に戻しますよ?」
 
「はは、相変わらず…へらず口ばっかり叩きやがって。本当に可愛くないよな…
お前は…。けど、こんな風に腕の中に抱いてて…キスしたいとか、触れたいとか
感じちまう俺は…相当な末期だよな…」
 
「…心配、しなくて良いです…。その辺は僕も一緒ですから…」
 
「…そっか、何か…お前の口からそんな言葉を聞けるとは思っていなかったな。
何か…夢みたいだな…」
 
「…夢で、終わらせないで下さい…今の、キスを…。そんな事されたら…僕は、
拗ねますし…怒りますよ?」
 
「…もう、夢になんて…出来るかよ…」
 
 虎徹は、知ってしまった。
 先程の熱いキスを…甘美な一時を。
 キス一つしただけで…自分の中のブレーキは完全に壊れてしまった事を
虎徹は自覚していた。
 相手のその一言を聞いた途端、バーナビーは本当に嬉しそうに微笑んでいた。
 いつもカメラとか、人前を意識して浮かべる営業スマイルや作り笑いではない…
本当に嬉しそうな顔に、虎徹の視線はつい釘付けになってしまっていた。
 
「…良、かった…」
 
 きっと、虎徹のその言葉に凄く安堵をしたのだろう。
 トロンと蕩けそうな眼を浮かべていきながら…すぐに、バーナビーは
眠りに落ちていった。
 青年の唐突な反応に、男は完全に取り残された気分を味わっていった。
 
「お~い、バニーちゃん! あんな挑発的な事を言って、濃厚なキスをしておいて…
それでスヤスヤと寝ないでくれよ! 俺、どうしたら良いんだよ!」
 
「…むにゃ…うるさ、いですよ…」
 
「バニーちゃぁぁん」
 
 虎徹が思いっきり情けない声を上げていくも、今は睡魔の方が
勝っているらしい。
 良く考えたら自分達は酒盛りをする前は出動して、思いっきり身体を
使っていたし…今夜は結構な量を飲んでいるから、これが自然な反応なのかも
知れないが…それでも虎徹は思いっきり取り残されたような気分を味わっていた。
 だが、彼は知らなかった。虎徹は一旦眠った時…短時間とはいえしっかり
熟睡していたが…バーナビーはずっと、目だけ閉じて…眠っていなかった事を。
 精いっぱいの勇気を振り絞って虎徹と寄り添い…彼が自然に目覚めてくれるまで
…辛抱強く相手が待っていた事実など想像もしていなかった。
 
「あ~あ…可愛い顔して眠っちまって…。よっぽど緊張していたか、
疲れていたんだな…お前…」
 
 自分の腕の中で安らかに眠っている相手を、無理に起こすのはしのびなくて…
結局虎徹は諦めて、腕の中にバーナビーを抱きながら自分も目を閉じていく。
 さっきのキスのせいで妙に下半身は元気になってしまっていたが…自分も
確かに疲れているので、今夜は大人しく引き下がる事にした。
 
(けど…次の機会があった時は…こんな風に安らかに眠らせてなんて
やらないからな…覚悟しておけよ、バニーちゃん…?)
 
 まだまだ、自分の中では葛藤は沢山あった。
 結局…強気にまだ出れないのはその辺の迷いとか、ためらいがあったからだ。
 特にバーナビーは…セブンマッチでジェイクを倒したシュテルンビルドの英雄だ。
 きっといずれ…スカイハイを抜いて、キングオブヒーローの座に就いても
おかしくない将来有望な青年だ。
 自分と特別な関係になったら…相手の輝かしい未来を脅かす汚点に
なるかも知れない…そういった怯えや危惧が確かに自分の中にあった。
 だから意識しても迂闊に手を出せなかったし、この想いを告げる事も
考えないようにしていた。
 けれど…バーナビーの方もまた同じ気持ちを抱いてくれていると判ったら、
覚悟のようなものが芽生えて来た。
 
(…バニーも同じ気持ちを持っていてくれるなら…全力で応えるしかないよな…。
いつまでもグチャグチャ悩んで、立ち止まって怯んでいる姿なんて…
惚れた奴に見せたくないしな…)
 
 相手の髪を愛しげに撫ぜていきながら…そう腹を括っていく。
 そして…決意を込めて、そっと今度は自分から小さくキスを落としていった。
 
―先の事を考えると、これからも色々と葛藤していくだろうけど…今はお前の
手を離したくないよ…バニー…
 
 そう、自分の気持ちに正直になって眼を伏せていく。
 そして今までと…関係が変化していくのを感じていきながら…あれこれと
考えている内に、虎徹もまた…バーナビーと寄り添いながら…緩やかに
安らかな眠りの中へと落ちていったのだった―
 
 









 勢いで書いた、タイガー&バニーの二作目。
 こうちょっと色々グルグルしているオジサンが
何か好きです。
  迷ったり、戸惑ったりしながら手探りで歩み寄っていくのが
虎と兎には良く似合っていると思う。
   そういう趣味全開で書いた話です。
   少しでも楽しんで貰えれば幸い。

―自分の相棒に対して、特別な感情を持っていると自覚してしまった後
…一体俺はどうすれば良いんだろうか?
 その答えが未だに出来ないまま、一応大人なりに…正しい道から
外れないようにしようと、あれこれ思案を重ねている。
 
 虎徹の目の前に、無防備な寝顔がある。
 シュテルンビルドの街の命運を掛けたジェイクとヒーロー達とのセブンマッチ。
 その戦いに、バーナビーが勝利してからすでに一カ月が経過しようとしていた。
 虎徹、バーナビー、キース、アントニオ、イワンの男性陣はほぼ…重傷を
負っていたが、一カ月が経過する頃には全員が退院していた。
 そして…本日はその全快祝いに、バーナビーの部屋で二人で祝杯を
挙げていたのだ。
 ビール、ワイン、焼酎、ウィスキー…一通りの酒を揃えて、思う存分…
今夜は飲み明かした。
 そして二人して、酒を飲みながらいつの間にか眠ってしまっていた訳だが…
一足先に目覚めた虎徹は、すぐ間近にあるバーナビーの顔を見つめながら
…深い溜息を吐いていった。
 
(あ~あ…随分と無防備な姿を見せてるよな…。そんな隙だらけだと…
オジサン、バニーちゃんが寝ている間に…色々イタズラしちゃうかも知れないぜ…?)
 
 どうも寝ている間に、お互いに寝返りを打っている間に…身体が密着して
しまっていたらしい。
 お互いの体温や、息遣いが感じられる程近くに…バーナビーの身体があった。
 伏せられた金色の睫毛に、つい視線が奪われてしまう。
 
(こうして見ると…やっぱりバニーって…顔立ち整っているよな。悔しいけど、
周りがキャーキャー言うのも少し判る気するわ…。憎まれ口さえ叩いて
可愛げない処を除けば、こいつは確かに…非の打ち処のないヒーローな訳だしな…)
 
 先日、ジェイクを倒した後…初めて、虎徹さんと相手から呼ばれた。
 今までずっと「オジサン」と呼ばれていたので…そうやって名前で呼んで
貰ったのが嬉しくて…仕方なくて。
 そのせいで…彼の中では、大きく気持ちが変化してしまっているのも
また事実だった。
 まあ…この一ヶ月間で呼ばれたのは、まだあの一回だけなのだが。
 
「あ~あ…コイツ、熟睡しているな…」
 
 目の前のバーナビーはすっかり安心しきった様子で眠りこけているようだった。
 しかも…寝返りを打った瞬間、虎徹の胸元に頭を擦りつけてくる。
 普段、クールな青年に…こんな風に甘えられるような仕草をされると…
何となく胸にズンと響くものがあった。
 
「…ん、虎徹…さん…」
 
 そうして、自分の名前を呼びながら…目の前の青年は、幸せそうに微笑んでいた。
 それを見た瞬間…猛烈に、相手を可愛いと思う感情が湧いていく。
 
(ヤバイな…俺…。何を血迷ったか…コイツの事、可愛いとか…抱きしめたいとか、
キスしたいとか…そんな事、考え始めている…?)
 
 人に対して、そういった気持ちを抱いたのは…亡くなった妻以来だ。
 こちらの胸にバーナビーが、顔を埋めてくる様子を細めで見つめていきながら…
どうしたら良いのか、暫く思案する羽目になった。
 この衝動のままに行動しても良いか、大人としての理性を働かせて
やり過ごした方が良いかを考えていき…。
 
(…大人なら、我慢した方が良いな…)
 
 そういってやり過ごそうとした途端…バーナビーが胸に顔を埋めた
体勢のまま、いきなり顔を上げて来た。
 途端に、こちらの顔との距離が近くなり…虎徹はぎょっとなった。
 いきなり心拍数が上がって、動悸がしてくる。
 
(バ、バニーちゃん…顔、近すぎ! 無防備過ぎ! 睫毛とか凄く長いし…
妙に色っぽいし…無自覚にこっちを誘わないでくれっ!)
 
 本人は恐らく、こっちを誘っている自覚などないんだろうが…自分も眠って
いればこんな風にドキドキなどせずに済んだのだろうが…一度、こうやって
意識をしてしまうと、改めて寝る事など出来やしない。
 
(けど…キスとかして、もしその最中で目覚められたら…俺、コイツに
殴られる処じゃ済まないよな…)
 
 その光景が目に浮かぶと、こう…理性という名のスイッチが掛かって
くれるような気がして…ちょっとだけ冷静になっていく。
 その隙にゆっくりと相手から身体を離して、気を落ちつけようとしていった。
 
「ん…虎徹、さん…」
 
「えっ…?」
 
 突然、再び寝言で自分の名前を呼ばれて…硬直してしまう。
 バーナビーはずっと、つい最近までこちらの事を「オジサン」と呼んでいた。
 色んな事があって、心理的な距離は縮んでいるのだと実感出来ていても…
ジェイクとの戦いが終わった後に初めて、こっちの名前を呼んでくれた時は
我が耳を疑ったが…それ以上に嬉しくて仕方なくて。
 けれど、まだ彼の方にも照れがあるのか…なかなか、その呼び方をして
くれないで少し焦れていた部分があるのだが…不意打ちのように寝言という
形でまた、こちらの名前を呼ばれて…また、心臓がドキンとなっていった。
 …一回、虎徹さんと呼ばれる度にその度に…嬉しくて、相手への感情が
高まっていくようで…余計にヤバいと、危機感すら覚えてしまっていた。
 
(バニーちゃん…それ、不意打ち過ぎなんだけど…。せっかくオジサン、
理性働かせてお前から身体を離そうとしていたのに…離れがたく
なっちまったじゃないか…)
 
 そう心の中で毒突いていると、金髪の青年は…こちらの胸の中で、
ギュっとこちらの肩に腕を回してしがみついてきた。
 余計に…身体が密着して、変な気持ちがジワリと湧き上がってくる。
 自覚したばかりのこの気持ちを…しがらみが多い大人としては戸惑いを感じていった。
 
(若い頃みたいに…自分の気持ちだけで、一時の衝動だけで行動に
移せたら…すんげー楽なんだろうけどな…)
 
 きっと、もし…バーナビーと同じぐらいの年齢の頃であったなら、きっとこんな
葛藤などせずにストレートに行動に移せているだろう。
 けれど…今の自分は三十代後半という年に差し掛かっていて、色々と
守らないといけないものも数多く抱えている。
 キスしたいとか、相手を抱きしめたいとか…セックスしたいとか、そういう
気持ちが湧きあがって来ても…なかなか、正直に行動に移せない。
 コンビを組んでから、間近でずっとバーナビーを見て来た。
 きっとこの青年に…中途半端な気持ちで、そういう真似をしてはいけないって
判っている。だから…考えた末に、虎徹はただ…自分の胸の中で安らかな顔を
して眠る相手に対して…優しく髪や頬を撫ぜていった。
 
(…この年になると、ずるくなるな…。言い訳が効きそうな…そういう範囲でしか、
いつの間にか動けなくなっちまっているな…)
 
 そう、この範囲までなら…コンビを組んでいるから、とか…この気持ちを
言わずに誤魔化せるから。
 けれどそれでも目を覚まさない相手に対して…もう少し、触れたいという
気持ちが湧いていってしまう。
 
(目元とか…ほっぺにキス程度までなら…寝ぼけていたで、誤魔化せるかね…)
 
 ほんの少し、行動に移すかどうか…迷った。
 けれど…相手が、熟睡をしているという絶好のチャンスでもあったので…
暫く逡巡した後に、意を決して…ゆっくりと顔を寄せていった―
自分の方の用事は終わったから、会いたいと虎徹に伝えたら…虎徹は
「なら、一緒に夕食でも食べようぜバニーちゃん」と答えてくれた。
 それで夕方までに自分の部屋をざっと片づけて、夕食に食べる品を
買ってきてくれた虎徹を出迎えていった。
 それで他愛ない会話をしながら、夕食を食べてくる。
 最近虎徹はこういう風に一緒に食べると、煮物とかおひたしなど
オリエンタルタウンで良く食べられている総菜の類を良く買ってきていた。
 虎徹は見事なぐらい、買い出しを任せようとも自分たちで食事をするに
しても…チャーハンばかりにしようとするので、放っておくとこちらの分の
主食まで同じものにされるのだが、今日は敢えて意を唱えずに
おとなしく同じものを食べる事にした。
 和食の類は、こうやって虎徹と食事を共にする以前は馴染みのない
ものだったが、何度か食べてみるとなかなか味わい深いものだと
納得出来たし、そんなに悪くないと思うようになってきたからだ。
 ただ…やはりチャーハンばかりが続くと、そこまで愛好していない
バーナビーには少し飽きてくるので、それだけはたまには配慮して
ほしいと思うが…。
 夕食を食べ終わると、虎徹はバーナビーの部屋の床ニゴロンと横になっていく。
 このくつろぎっぷりも、今では不快ではない。
 むしろ…こういう気を許しているような態度を取ってくれた方が安心出来る
ようになっているんだから、我ながら随分変わったものだと思う。
 
「はい、虎徹さん…コーヒーで良いですか?」
 
「おう、バニーちゃん…どうもありがとう。いや、何かここ数日…もしかして俺、
避けられているって感じちゃったから…そっちから誘って貰えて良かったぜ。
俺、何をしたか…見当つかなかったから、余計にさ」
 
「えっ…そ、そんな事は…」
 
「え~…じゃあ、何で最初は俺の誘いを断ったんだ?」
 
「…そ、それは言ったじゃないですか。用事があるからって…」
 
「へえ、一人で当てもなく散歩するのがバニーちゃんにとって用事だったんだ?」
 
「っ…!」
 
 
 今日の午前中の、自分の行動をピンポイントで言い当てられてとっさに
言葉に詰まっていく。
 どうして虎徹がその事を知っているのか…その疑問が湧くよりも先に、
用事があるという嘘が相手にすでにバレてしまっている事に動揺を
隠す事が出来なかった。
 
「…どうして、それを…?」
 
「そりゃ簡単さ。今日、お前の行動をちょっとつけていたからな。ここ数日、
何か俺の事を避けているような…壁があるような気がしたからな。
原因を探ろうとちょっとな…」
 
「…いつからこのオジサンは、人の後ろをコソコソ付け回すような事を
するようになったんですか…?」
 
「…バニーちゃん、俺の事をオジサンっていうの…ちょっとヒドいよ。
久しぶりにその単語聞いて、俺…ちょっと傷ついたわ」
 
「ふざけないで、真面目に答えて下さい。一体いつから…」
 
「バニーがこの部屋を出てから、俺に電話してくるまでかな…。尾行している
間に、いきなり俺に掛けてくるもんだからかなりひやっとしたよ。まあ…
バイブモードにしておいたから、バニーは俺のことに気づいてなかった
みたいだけどな…」
 
 思ってもみなかった事を打ち明けられて、一瞬混乱しそうになった。
 だが…思い返してみれば、確かにリバーサイドを歩いていた時に複数の視線が
こちらに向けられていたのは確かだった。
 あの中に…虎徹の視線が混ざっていたのだろう。
 その事に気付かなかった自分のうかつさに、少し腹が立っていった。
 
「そん、な…ずっと、本当に僕のことを陰から見ていたって事なんですか。
そんなの…ストーカーみたいじゃないですか…」
 
「…ああ、そうだな。ストーカーみたいだって突っ込まれて今日の行動は
文句言えないな。悪いな、お前に避けられている理由をどうしても探りたかったんだ。
何か心当たりがあったり、お前を怒らせた原因が判っているなら…其処まで
しなかったけど、今回ばかりは何も思い至るものがなかったから…つい、な…」
 
「…貴方は本当に卑怯ですね…。そんな顔を、言われてしまったら…これ以上、
こっちは何も言えなくなる…」
 
「そっか…なあ、教えてくれよ。俺は…何をして、お前を怒らせたのか…。
自分の相棒にさ、何が原因で避けられているのか判らない状態が何日も
続いているのって…やっぱり精神的にきついからさ。素直に言ってくれよ…
頼むから…」
 
「虎徹さんの寝言を聞いて…ずっとモヤモヤしていたんですよ。『友恵』って…
奥さんの名前を口にしていたから…」
 
「っ…マジ、かよ。それ…もしかして、お前の部屋のベッドで寝ていた時に…
俺、やっちまったのかよ…」
 
 その瞬間、虎徹の顔に罪悪感が色濃く滲んでいった。
 前夜に抱き合ったその翌朝に…バーナビーの部屋に泊っていながら、
相手の隣でかつての妻の名を呼ぶなど…不愉快になられて当然の事だった。
 ようやく…避けられていた理由を理解し、虎徹はバツの悪い表情を浮かべていく。
 
「ええ、確かに言いました。そして…こう続けました。『友恵…お前の臨終に、
立ち会えなくて…御免な』と…。一つ、聞かせて下さい。貴方は…時々、
そうやって…奥さんが亡くなった日の夢を見ているんですか…?」
 
「………………」
 
 
 バーナビーは静かで、淡々とした口調で問いかけてくる。
 けれどその瞳は真剣そのもので…茶化したり、ふざけたりして返したら…
怒られてしまいそうなぐらい真摯なものだった。
 そんな目をされたら、誰だって嘘をついたり誤魔化したり出来なくなる…
そう観念した虎徹は暫くの沈黙の後、素直に答えていった。
 
「…ああ、その通りだよ。俺は時々…ワイフが死んだ日の事を繰り返し夢に
見ちまう。あいつはヒーローの出動要請があった時、行けと言った。
その言葉に背中押されて出動したらな…戻ったら、あいつは亡くなっていた。
最後までヒーローらしくあってくれ…というのがあいつの想いであり、
願いである事は判っているけどな。それでも…あいつの最後をちゃんと
見届けてやりたかった…という後悔が、今でも俺の中にあるよ…」
 
「…正直に答えてくれましたね。なら…許します」
 
「えっ…?」
 
 思ってもみなかったバーナビーの言葉に、虎徹は目を瞠っていく。
 だが…青年は、穏やかに微笑みながら答えていった。
 
「…もし、貴方が…僕が隣にいるのに、奥さんと幸せに過ごしていた時の
思い出なんて夢に見ていたのなら…遠慮なく殴りますし、文句を言わせて
貰います。けど…奥さんは貴方の家族でもあった。なら…『家族の死』の
場面を繰り返し夢に見てしまうのいうのなら…それは自分ではどうしようも
ない事だから、仕方ない事ですから…。復讐を遂げる前、僕は何度も
何度も、両親が殺された場面を繰り返し悪夢として見続けた。…そんな
僕が、どうして…奥さんが亡くなった日の事を見てうなされている貴方を…
責める事なんて…出来ないですから…」
 
 そう…かつての両親と、幼い頃の自分を思わせる家族連れと遭遇して…
自分が亡くなった両親を今でも愛しているのだと気付いた瞬間、嫉妬を
超えて…バーナビーはその事実に思い至る事が出来たのだ。
 妻を懐かしんで寝言で呼んだのならば…少し許せないけれど。
 自分だって何度も何度も、己の無力感を実感させられた…あの最後の光景を、
何度も見せつけられていた。
 ならどうして…嫉妬に狂って、この人を責める事など出来るのだろうか…!
 
「…家族を失うのは、辛い事ですから。愛しているからこそ…何度も後悔して、
それを夢に見てしまうのは…僕も同じだから。だからその夢が…奥さんの
臨終に立ち会えなかった後悔から生まれたものなら…許します。
…僕の方こそ、小さな嫉妬で…貴方を振り回してしまってごめんなさい…」
 
 そういって、小さく謝って頭を下げていくと同時に…強い力で引き寄せられた。
 それが思いがけず強くて、とっさに息を詰めてしまう。
 
「バニィィ…! おじさん、すげぇ感動しちゃったよ! お前が…そんな事
言ってくれるなんて思ってもみなかったから…!」
 
「わっ…虎徹さん! ちょっと痛いですってば…力、緩めて…!」
 
「うっ…ワリィな。…けど俺の失態を、暖かい気持ちでバニーちゃんが
許してくれたの、こうオジサン…ジーンときちまったからさ…。本当に
大人になったなぁ…って」
 
「…ちょっと待って下さい。何かその発言…非常に子供扱いされている
ような気分になって不快なんですけど…」
 
 虎徹の発言に、バーナビーの額に青筋が浮かんでいく。
 けれどそんな青年の柔らかな金髪を、虎徹は少し乱暴に撫ぜていった。
 
「いや、バニーが優しい子で本当に良かったなって…そういう話よ。
愛しくてさ、俺…お前を今…メチャクチャ抱き締めて、触れたくて…堪んないヨ…」
 
「あっ…」
 
 気付くと、虎徹の顔が目の前にあった。
 息を詰めていると同時に、唇がそっと重ねられていく。
 あっという間に掠めるように唇を奪われていくと…目の前に、悪戯っ子の
ような相手の笑顔が存在していて…つい、毒気を奪われてしまう。
 
「バニーちゃん…ありがとう」
 
「いいえ、貴方に礼を言われる程の事じゃありませんよ…全く」
 
 そう悪態を突きながら、バーナビーは虎徹の腕の中に素直に収まって…
軽く頬を赤く染めていった。
 
「…暖かい」
 
「ん、バニーを抱き締めている俺も暖かいよ。…んじゃ、そろそろベッドに行く?」
 
「そうですね。その方がお互いに冷えないで済むでしょうから。お姫様だっこ
でもしていきましょうか?」
 
「…いや、一応…俺にも男としてのプライドあるからさ。頼むからこういう時に
そういう発言するの止めてくれよ。ほら…行くぞ、バニー…」
 
「はいはい、仕方ないからオジサンについてってあげますよ」
 
「…また、俺の事…オジサンっていう…本当につれないなぁ…バニーちゃんは…」
 
「ふふ、僕がこういう態度なのは…いつもの事でしょう?」
 
「はは、確かに違いないな…それでこそ、バニーだけどな…」
 
 そうぶっきらぼうに言いながら、虎徹がこちらの肩をグイっと引き寄せて
抱いていくと…柄にもなくドキドキした。
 たったそれだけの事に、確かに自分は幸福感を覚えていた。
 
(いつか…貴方の奥さんよりも、貴方にとって大切な存在になれたら…良いですね…)
 
 きっと今でも、虎徹は家族を…特に失くした妻を愛しているのだろう。
 二人きりでいても、決して外されない左手薬指の指輪が…その想いを現している。
 それに今でも、チリチリと小さな嫉妬を覚える瞬間は…特別な関係になって
しまった為に何度でもあるけれど。
 いつか…虎徹にとって、一番の存在に…もしくはそれに近い処になりたい。
 
―そんな小さな願いを胸に秘めていきながら、素直に相手の腕に引かれて…
寝室の方に向かっていく。相手と共にこうして過ごせる事に…確かに幸福感を
覚えていきながら…今は意地を捨てて、身を委ねていく事にしたのだった―
 ※ 最近、というか2012年の3月にネットで全話を
視聴したらうっかりハマってしまったタイガーバニーの
初作品です。

 世間では兎×虎の方が多いって判っているんですが…
逆CPの虎兎にハマりました。
 お姫様だっこされているのは虎だって判っているんだけどね!
 それでもオジサン受けよりも、私はオジサンは攻めが好きなのよ!
 と力説してやります(笑)

 とりあえず初作品はエロ描写基本ありません。
 原作の設定とか、そういうのをある程度意識して守るよう
意識して書いています。
 良ければ見てやって下さい。
 これは先月、書き上げて完結している作品なので
前後編の掲載になります。

『貴方と一緒に(前編)』

一虎徹と昨晩、一緒に過ごしたバーナビーは、早朝…朝日を
受けながらまどろんでいた。
 
 バーナビーの使っているベッドはキングサイズのものなので…大の男二人が
寝ても寝返りを打てるくらいの余裕がある。
 傍らに自分の相棒の体温を感じていきながら、ヌクヌクと布団に包まれている
時間がバーナビーは好きだった。
 
(暖かくて気持ち良い…特に…この人がソバにいてくれると…)
 
 昨晩、熱い時間を共に過ごした。
 そして行為が終わった後…その心地良いけだるさを感じながら眠りに落ちた。
 その余韻が体に残っている状態で…こうして、虎徹の体温と匂いを感じて
まどろんでいられるのはかなりの至福だった。
 しかし…次の瞬間、その幸福感を一気に破壊する言葉が相手の口から
こぼれ落ちていった。
 
「…友恵…」
 
一ピキッ…!
 
 幸福感で満たされていた金髪の青年の額に、怒りによって大きく
血管が浮かび上がってくる。
 とっさにハンドレットパワーでも発動させてしまいかねないくらいの勢いだった。
 
 (…このオジサン…! 散々昨日はこっちを好き放題してくれた癖に…
その僕の隣で、亡くなった奥さんの名前を呟くとは良い度胸してますね…!)
 
 どうにかギリギリの所で踏み留まって…シーツを強く握り締める程度で抑えていく。
しかしその手も力を込めすぎて蒼白になっているくらいだった。
 幾ら何でも、寝ている相手に対して100倍の身体能力になる
ハンドレットパワーを発動するのは危険過ぎる。
 しかし何もしないでは、この胸のムカムカは収まりそうになかつた。
 
 (せめてもの意趣返しに…頬でもつねってやりましょうか…)
 
 最終的にそういう結論に達して、ゆっくりと虎徹の方へと指先を伸ばしていく。
 その瞬間…相手は小さく続きの言葉を呟いた。
 
「友恵…お前の臨終に…立ち会うことが出来なかったこと…御免、な…」
 
 その内容の重さに、バーナビーの手はピタリと止まっていく。
 虎徹の目元にうっすらと涙が滲んでいるのを見て…余計にこちらの
葛藤は色濃いものへと変わっていった。
 
「貴方は…本当に卑怯ですよ…。そんな言葉を続けられてしまったら…
こっちは何も言えなくなるじゃないですか…」
 
 そう口にしながら、青年はモヤモヤした気持ちを胸に抱え込んでいく。
 この複雑な気持ちを相手にぶつけて良いか深く迷っていきながら、
暫くその切なそうな相手の寝顔を見つめていったのだった―
 
                             *
 
 
  虎徹がベッドの上で、爆弾発言に近い寝言を呟いてから
数日があっという間に過ぎていった。
 その間もいつものように、何度もアニエスからヒーローの出動要請が来て、
パニックに陥っている市民の救出や避難誘導、悪人の捕獲などをこなしていった。
 仕事中は…その一件の事を忘れて、ヒーローとしての自分の役目を
果たすのを優先する事が出来た。
 だが、ヒーロースーツを脱いだ、バーナビー=ブルックス・Jrとしては、
簡単にそう割り切れなかった。
 その為、久しぶりのオフの日が来ても…今回は、虎徹から一緒に
過ごそうという誘いが来ても、素直に頷く気持ちになれなくて。
 結局、彼は…ゴールド地区内のリバーサイド周辺を、気持ちの整理を
つける為にあてもなく散歩していた。
 こうして歩いていると、幾つもの視線が感じられる。
 だが、バーナビーにとっては…一歩、マンションの部屋を出ればある意味…
常に一挙一足を見られ続けるのもまた仕事の一環のようなものだ。
 最初は一人になりたい気分の時に、無遠慮に視線が注がれていることに
不快に思ったが…すぐに気を取り直して、気にしないことにした。
 今は…考えたいことがあったからだ。
 
(一体僕は何をしているんだろう…。あの日の虎徹さんの寝言を未だに
引きずって、せっかくの誘いすら断ってしまうなんて…)
 
 けれど、今だに自分の胸の中にはモヤモヤした気持ちが色濃く残っていて。
 妻の臨終に立ち会う事が出来なかった後悔…そういったものが
あの言葉には色濃く残っていて。
 その事で虎徹を責めてしまうのは人としてどうなのか…という思いが
あるからこそ、青年は口を閉ざしているしかなかった。
 
(僕はバカだな…。あの人が僕の部屋のベッドの上で亡くなった奥さんの
名前を呟いた事で、凄く嫉妬をしてしまうなんて…)
 
 セブンマッチを経て、虎徹の作戦のおかげでジェイクを倒した辺りから
自分たちの関係はそれまでと大きく変わっていった。
 それまでずっと「オジサン」と彼の事を呼んでいた。
 元々、相棒になったのは会社からの命令だったし…自分と何もかも
考え方の違う相手の行動に、共感も納得も出来ないことだらけだった。 
 だから、意固地になって最初は絶対に認めるものか…と思った。
 けれど、そんな冷たい態度をとり続けていたにも関わらず相手はこっちの
誕生日を祝おうとしたり…ルナティックからの攻撃からかばって負傷したり、
そういうバカな事をやり続けた。
 そうしている内に、気づいたら…徐々に虎徹を認め始めている自分に
気づいて、虎徹さんと初めて呼んだ時から…何かが大きく変わっていった。
 
―その結果、こんな関係に転じてしまうなんて…呼び始めた当初は
予想もしていなかったけど
 
(あれからもう半年か…。ジェイクを…あの人の助けを得て倒してから…)
 
 太陽の光を浴びて、キラキラと輝く水面を眺めながら…バーナビーは
深く溜息を吐いていった。
 その光景を素直に…今の自分は美しいと感じている。
 だが、両親の復讐を果たす事に燃えていた頃の自分は…今、思い返すと
何を見ても心から美しいとか、綺麗だと感じられなかったように思う。
 そのせいで、恋愛も縁遠く…心を許せる友人も、出来ないで生きてきた。
 25年の人生の中で、バーナビーにとって大切な人といえるのは21年前に
殺された両親、家政婦のサマンサおばさん、自分を引き取ってくれた
マーベリックさん、それと…虎徹と、同じヒーローをやっている仲間たちぐらいだ。
 
(特に…僕にとって、虎徹さんは…その中で誰よりも大切になっている…)
 
 独占欲も嫉妬も、今までのバーナビーにとっては無縁に近いものだった。
 女性に好意を寄せられた事は数多くあるが、自分には恋愛感情というのは
欠落していると思った。
 だからそれまで異性と付き合い始めても…両親の復讐に関する情報が
得られる可能性があれば何よりもそれを優先していた。
 そんな自分に、女性たちはすぐに愛想が尽きて…気づいたら終わっている。
 それが何度も続いた為、誰とも深い関係になることもなく生きてきた。
 けど、虎徹は違った。自分の復讐を果たす為に…大怪我をしているにも
関わらず、病院を抜け出し…自分が勝利する為に協力してくれた。
 キング・オブ・ヒーロー…今の自分がその称号を得て、栄光の中で笑って
いられるのは…虎徹の存在無くしてはあり得ないと思っている。
 
(あの日…虎徹さんが手を貸してくれなかったら、僕はみじめにジェイクに
負けて、このシュテルンビルドの街も…沈められてしまっていただろう…)
 
 今、目の前に広がる平和な光景。
 それは…自分だけの力では、守る事が出来なかった。
 虎徹がいたから…あの人が、自分をあの日助けてくれたから
失わないで済んだもの。
 そう思うと…ひどく愛しいものに感じられて、バーナビーは瞳を細めて
周囲の風景を見やった。
 
「あ…」
 
 すると視界に、一組の親子連れが入ってきた。
 金髪の小さな少年が…茶色の髪をした身なりの良い男性と、綺麗に
金髪をまとめた婦人に両手を繋がれて幸せそうに笑っている。
 一瞬、声に詰まりそうだった。
 …小さな頃の自分が、両親に手を引かれて歩いている光景を思い出したから。
 それを見た瞬間、とっさに涙が流れそうになった。
 だが、自分が何人かに注目されていたことを思い出し…とっさに押さえていく。
 そしてどうにか表情が崩れないように保ちながら、小さく呟いていく。
 
「父さん…母さん…」
 
 もう、自分の両親は殺されてこの世にいない。
 そんなのは分かりきっている。
 けれど…その幸せな親子連れは、自分がかつて幸福だった頃の
記憶を呼び覚ましていった。
 自然と、一粒…二粒と、涙がこぼれていく。
 あれは自分自身でも、亡くなった両親そのものじゃないって理性では判っているのに。
 なのに…幸せだった頃の記憶が蘇るだけで、自分の意志と関係なく涙が零れていった。
 
(ああ、そうか…)
 
 その瞬間…天啓のように、バーナビーは気づいていく。
 とても当たり前の事に。
 小さな嫉妬の心に囚われて、視野が狭くなってしまった状態では
つい見落としてしまっていた事に。
 それに気づいた瞬間…胸のモヤモヤは霧散していき。
 
「…あの人に、すぐにでも会いに行こう…」
 
 そう決めて、赤いジャケットのポケットから携帯電話を取り出していくと…
虎徹に掛けていった。
 
―すぐにでも会いたいと、率直に伝える為に…
 
 

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香坂
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派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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