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暫しのまどろみの中に落ちていた意識が浮上していく。
薄っすらと瞼を開けば、目の前に広がるのは宝石のように輝く夜の息吹。
御堂の身体は臀部にはタオルが敷かれた状態で…壁際に背をもたれさせる格好で
座らされていた。
身体の上に掛けられていたのは…自分と、相手の上着。
相手の匂いがふわり、と鼻腔をくすぐって…何か甘い気持ちが胸を過ぎった。
「ここは…?」
とっさに状況判断が出来ない。
身体の節々があちこち軋んで、悲鳴を上げている。
電灯が落とされた特別展望室内を見回していくと、窓際の方から聞き慣れた声が
耳に届いていく。
「起きたか…孝典…」
最近になって、言われる事に慣れた呼ばれ方。
再会してから暫くの間は…ずっと「御堂さん」だったのが、いつから二人きりの時だけ
佐伯克哉がこう呼ぶようになったのか…はっきりと覚えていない。
意識はせずとも、こう呼ばれるようになった事に気づけば…自分もまた「佐伯」から
克哉と呼ぶように心がけて…ごく最近になって、それが当たり前のように感じられるようになった。
それが…お互いの気持ちが通い合ってから一年という時間の成果だろう。
「あぁ…あれから、どれくらいの時間が…過ぎたんだ…?」
「30分くらいだ。こちらは大体の片付けは終えてある」
「…片付け?」
「…今夜の痕跡を、ここに残しておく訳にはいかないだろう?」
その意味を理解して、再び顔がカッとなる。
そんな自分の反応を、面白げに見ているのだろう。
御堂は少し憮然としながら闇の中に佇む相手のシルエットを睨んだ。
「…誰のせいだと、思っているんだ…? 君は…?」
「くっく…そういうなよ。…あんただって、今夜は楽しめたんじゃないのか? さっきはあんなに
腰を振ってよがっていたんだし…な…?」
「…本当に、君という男は優しくないな。…まさかこんな処で強引に抱かれるとは
呼び出された時には思ってもみなかった」
指定された場所が場所だっただけに、最初訝しげに思ったのは確かだったがこの男を
甘くみていた自分が振り返ると…今は少々悔しく思えた。
「…だから、俺といると…刺激的なんじゃないのか? あんたにとっては…?」
その言葉を聞いて、正直頷くしかなかった。
この佐伯克哉という男は…自分にとっては、革命者だった。
初対面の時の眼鏡を掛けた瞬間から別人のように代わり、自分の予定や将来の設計を
ことごとく破壊していき…今まで生きて培ってきた価値観や考え方を変える事を余儀なく
されるくらい、強烈な事を数々とされてきた。
自分を陵辱し、監禁までして…MGNを退社せざる得ない状況にまで追い込んだ男。
憎かった筈なのに、最後にこの男が見せた情と…こちらへの好意が、その憎悪を溶かし…
離れてからゆっくりと、この強烈な感情は…恋慕へと、変質を遂げていた。
「…まったく。君はどれくらい私の価値観とか、そういうものを壊し続ければ
気が済むんだろうな…」
「一生だ。その方が…楽しい人生という奴を送れるだろう?」
「…楽しいかどうか定かではないが…確かに、退屈しない人生は送れそうだな。
君といる限りは…」
会話をしながら、ゆっくりと克哉が歩み寄って…自分の傍らに跪いていく。
大きな形が整っている指先がこちらの両頬を包み込んで、そっと上を向かされていく。
…顔を寄せられて、優しくキスをされるのが当たり前の事として受け止められるように
なったのは、果たしていつの事だったのだろうか…?
「飽きさせるつもりはないさ…それがあんたを引き抜いて、俺たちが作った会社に
来させた責任だからな…」
「ほう、それは良い。たまに困らされるが…私も退屈な未来の為に、将来設計や
基盤の数々を壊されたのなら…堪らないからな…?」
こちらからも、唇を押し付けて…やんわりと唇を吸っていく。
相手の手がこちらの髪を優しく撫ぜて…梳き始める。
その心地よい感触に眼を伏せながら…身を委ねていった。
「立てそうか…?」
「あぁ…こうして雑談している間に、少し身体も回復したようだ。…眼が覚めたばかりの
頃よりは随分マシになってきたな…」
先程までの情事の最中は、自分の方が窓際に立たされて…この鮮やかなネオンの数々を
背負っていたのだろう。
しかし…今は、彼がその夜の息吹をその背中に背負っている。
それが…この傲慢な男には、限りなく似合っているような気がした。
「…まるで、君は帝王だな…。私がいる世界をことごとく支配し、破壊して…同時に
君臨して離さない」
「離すつもりなど、毛頭ないがな…やっとあんたの心を手に入れる事が出来たんだ。
このまま一生愛し続けて…傍らにいてもらう予定だからな」
傲岸不遜な彼らしい物言いに、つい吹き出しそうになる。
「あぁ…それで良い。もう二度と私を置き去りにしていったら…それこそ君を探し回って
それなりの報復はさせて貰うつもりだからな…」
「…怖いな。一体…あんたはどんな報復をするつもりなんだ?」
「…さあな? そんな事は許さないからな。私の世界をことごとく変えてくれた責任は
一生掛けて、取ってもらおうかな…?」
互いに物騒な物の言い方をしつつも、彼らはこのやり取りを楽しんでいた。
どこか腫れ物に触れるようだった最初の頃に比べれば、こうして挑発的なことを
口にしても大丈夫になったのは…大した進歩だし、お互いに安定したからだ。
「あぁ…責任は取ろう。俺にとって…あんたは、今は…掛け替えのない…右腕であり
パートナーだからな…」
その一言に、どうしようもなく満たされる気がした。
いつしか自分の中で存在を大きくした男に、必要され求められる。
お互いの眼を見つめあい、楽しげに笑いながらもう一度…そっと唇を重ねていく。
『私もだ…』
御堂の同意の言葉は、紡がれると同時に唇によってかき消されていく。
夜の闇の中…二つの影が一つとなり、重なり合う。
相手の腕の中に包まれながら…もう少しだけ、御堂はどうしようもない
幸福感に己が身を委ねていったのだった―。
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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