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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第三十五話 豹変』 「五十嵐太一」


薬を盛られて、鈍重になった身体に歯噛みしながら必死になってベッドの上で
身を捩って、懸命に抵抗を試みていく。

 「くそっ はな、せ…っ!」

 薬によって、身体の自由を奪われていたせいか…声すらも途切れ途切れで掠れて
しまっているのが情けなかった。
 太一は背後から、克哉の背中に圧し掛かり…克哉のシーツを半ば乱暴にボタンを
引き千切って脱がせていくと…それで手首を拘束しようとしていた。
 だが克哉とて、黙って大人しく好きにさせておく程…甘くはない。

 全力で相手に蹴りを入れたり、頭突きをかましたり…爪を立てて相手の肌の露出
している部分を引っ掻きまくったり形振り構わずに反撃し続けていた。
 そのおかげで…すでに太一はあちこち、傷だらけの状態になっていた。

「…それは、こっちのセリフだよ…! くそ…本当にあんた、一筋縄じゃいかないな…!
少しぐらい大人しくしたらどうなんだよっ…!」

 太一の方も苛立ちを隠せない様子で舌打ちしながら、それでも…どうにかして
克哉の拘束に成功していく。
 だが…相手の目は決して、この不利な状況下においても…負けていない。
 こちらを今にも射殺しそうなくらいに鋭い眼差しで、真っ直ぐに見つめていく。

「…あんた、本当にこの状況が判っていないみたいだな…。少しぐらい、しおらしい
態度の一つでもしたら…どうなの?」

「お、こと…わり、だ…! お前に、気持ちまで…屈して、やる…もの、か…!」

 すでに克哉の身体は、ずっと続く原因不明の消耗と…太一が盛った薬の効能に
よって…満足に動かせる状態などではなかった。
 それでも気力で痺れる身体を動かし、言葉を紡いでいく。

「へえ…ほんっと、あんたって強情だよね…。その強がりが…どこまで持つか…
試させてもらうよ…」

 ―あの人と同じ顔と声をしている癖に、可愛げがない態度ばかりを取る…
眼鏡に、本気で太一は苛立ちを覚えていた。
 拘束した相手をシーツの上で四つんばいにさせて…シャツを剥いで剥き出しに
なった胸肌を…背後から両手を使って摘まんでいく。

「くっ…」

「少しぐらい…色っぽい声、出したら…? せっかく…俺が、あんたがしてくれたように
…してやろうって思っているんだから…さ…?」

 酷薄な笑みを浮かべながら、太一は眼鏡の耳朶を甘噛みして…熱い吐息を耳奥へと
吹き込んでいく。
 胸の突起を執拗に弄られると、反射のせいだろうか。
 瞬く間に硬く張り詰めて…相手の指を押し返していく。

「へえ…嫌そうな顔している癖に、もう反応しているじゃん…。俺の指をこんなに
強く弾き返しているぜ…?」

「や、め…ろっ…!」

 口を必死に食いしばって、甘い声など漏らすまいと…必死の想いで抵抗を
続けていく。
 だが…そんな克哉の口の中に片手を突っ込んでいくと…歯列や舌を指先で
弄び始めていく。

 口腔をまさぐられる嫌悪感と紙一重の怪しい感覚に…克哉は歯を立てて
噛み付く事で反抗の意思を示そうとした。
 だが…自由の効かない身体では、その噛み付く力すらも…普段より遥かに
弱々しいものとなってしまっていた。

(…このまま、ヤラれて…堪るかっ…!)

 基本的に自分は、相手を抱く方が性分に合っているのだ。
 なのに…こちらが太一ごときに良いようにされて犯される羽目になるなど
冗談ではないと思った。
 力の入らない顎に、どうにか力を込めて…やっと歯型がうっすらとつけられた。
 それぐらいともなれば、相手も痛みを感じるらしい。
 口から指を引き抜いていくと…憎々しげに言葉を吐いていった。

「…っ! へえ…? そこまで俺に逆らうんだ…? それなら…お仕置きして、
今の自分の立場って奴を思い知らせてあげるよ…っ! 克哉さん…っ!」

 ふいに太一に、下着ごとズボンを引き摺り下ろされてぎょっとなった。
 克哉の日に焼けていない白い臀部と太股が、蛍光灯の光に照らされて露出
させられていく。
 ふいに…まだ柔らかさを残している茎を握り込まれてぎょっとなった。

「…よ、せっ…! やめ、ろ…っ!」

「俺の時は、幾ら止めてって言っても…あんたは止める気配なんてカケラも
見せなかっただろ…? こういうの、自業自得っていうんだよ。知ってた…?」

 その時の太一の表情は…普段の人懐こい彼の態度と笑顔を知っている人間
なら一瞬我が目を疑うぐらいに冷酷なものだった。
 相手の首筋に色濃く、何度も口付けていく。
 その度に眼鏡の身体は反射的に震えるが…その身体の硬さから…決して彼は
この行為を受容していない事を思い知らされる。
 背中から、肩甲骨…首の付け根から肩口に至るまで…何度も何度も、執拗な
くらいに赤い痕を刻み込み…所有の証をつけていく。

(こんな事で…克哉さんが手に入る訳じゃないって…判っているけれど…)

 それでも、他の誰かに取られたくない。
 己の中にメラメラと燃える、その感情だけは紛れもなく真実のものだった。
 どちらの克哉でも、他の誰かと…キスしていたり、抱き合っている姿など見たくない。
 数日前にそれを自覚させられたばかりだ。だが…。

(この腕の中にいるのか…俺の大好きな方の克哉さん、だったら…?)

 ふと…相手を無理やり縛りつけながら、犯そうとする自分に疑問を覚えた。
 もし、自分の良く知っている…穏やかで優しく笑う克哉が目の前にいたのなら…
自分はきっとどこまでも優しくする。
 あんな事をされた事も水に流せる。
 …そして、恐らく自分はどこまでも…相手を慈しむように触れて、抱いて…。

「…お前、一体…何を、考え…て、いる…?」

 その想いが過ぎった瞬間、相手を扱く手は止まってしまっていた。
 そして部屋中に、眼鏡の掠れた低い問いかけが響いていく。
 薬に侵されて、指一本動かすのも辛いであろう状況下で…それでも男は必死に
こちらを振り向き、気丈な眼差しで見つめていく。
 ―蒼い双眸には、強い怒りの感情が瞬いていた。

(見透かされている…?)

 射抜くような清冽な視線に、一瞬太一の方が呑まれていく。
 身体の自由を奪われる薬を飲まされ、両手を拘束されて…ベッドの上で獣のように
四つんばいにさせられた状態でも、決して…眼鏡は屈する意思を見せなかった。
 確かに…この男への想いを、自覚はさせられた。
 だが…その気持ちと、不当な行為に対しての憤りは彼の中では別だった。

 確かにこれは…彼に以前行った行いに対しての反撃なのかも知れない。
 しかし…大人しく、ヤラれてやる気持ちなど毛頭なかった。
 例え、犯される現実がこの状況では覆せないとしても気持ちだけは負けてなるものか!
 そんな強い想いが、その眼差しには…はっきりと込められていたのだ。
 …そのような眼鏡の態度が、余計に太一を苛立たせる結果となっていたのだが…。

「…お前、もし、かして…もう一人の<オレ>の事、を…考えて、いた、んじゃ…
ない、のか…?」

 図星を突かれた瞬間、こちらの心臓が凍りつくかと思った。
 相手の弱い場所を探ろうとする不埒な手が、思わず止まっていく。
 その動揺を悟られたのだろう…。
 追い上げられて、息を乱しつつも…男の目はどこまでも冷徹にこちらを見上げて
―嫣然と微笑んでいく。

「ひ、どい…男、だ…。こ、うして…俺に触れて、おきながら…別の、奴の…事を
…考えて、いる…なんて、な…」

「違う! どっちも…同じ、あんた…だろうっ!」

 ―気づけば、形成は逆転されていた。
 手を止めた瞬間に、眼鏡は相手の意図を察したのだろう。
 絶体絶命とも言えるこの状況下で…屈するのを良しとしない心意気が…相手の
弱点を正確に見出し、的確に指摘させている。

 身体の自由は最早、効かない。
 最初は全力を振り絞れば、抵抗が出来たが…薬の効能が全身に及んでしまっている
今は…頭と目と口先ぐらいしか、克哉の自由に出来る場所は存在しなかった。
 だから男は容赦せずに続ける。
 相手を論破して打ち負かす唯一の綻びを見逃さずに…!

「…ほ、う…? お前が…以前に、言ったんじゃ…ない、のか…? 『違う、こんなの
克哉さんじゃない! あんた一体誰なんだよ…!』って、な…」

「そ、それは…!」

 克哉は一言一句、間違う事なく…正確に以前に自分が太一を犯した時に
彼自身がのたまった台詞を口に上らせていく。
 太一の表情に…動揺が走っていく。
 そのまま…思いっきり相手の方に口を寄せて…噛み付くように口付けてやった。

「っ…!」

 うめき声を漏らしたのは太一の方だった。
 口の端から血の味が、口腔中に滲んで広がっていった。
 声の振動が伝わるぐらいの至近距離で…男は絶望的な言葉を囁いていった。

『俺は…佐伯克哉、だ…。いい加減…その、現実を…認め、ろ…!』

「嘘だっ!」

 咄嗟に、太一は叫んでしまっていた。
 男が告げた残酷な現実を否定するように。
 自分の中にくっきりと今も浮かび上がる…愛しい人の面影を打ち消されないように…
瞳から涙を浮かばせながら、キッと強い眼差しで睨み上げていった。

 その瞬間…自分の本心はどこにあるんだろうか…と太一はつい自問してしまっていた。
 佐伯克哉という人間を愛しいのか、憎んでいるのか。
 相手を抱きたいのか、痛めつけて思い知らせてやりたいのか。
 果たして好きなのか…嫌いなのか、どちらなのか…一瞬、判らなくなった。

 思考回路が支離滅裂になる。
 自分の感情が、思考が…全てがグチャグチャになって、本心がどこにあるのか…
自分ですら判らなくなっていた。
 一つ、確かなことは…自分は、もう一人の克哉の事を行為の最中に思い出した事で…
相手に付け入る隙を生み出してしまったという事だった。

「あんたなんて…俺の克哉さんじゃない!!」

 彼の唇から泣きながら…目の前の男を否定する言葉が残酷に放たれていく。
 その瞬間…彼は優位に笑っているように見えて、実際は深く心を痛めている事など…
強すぎる想い故に盲目になっている彼には気づく筈がない。

「太、一…」

「…っ?」

 そう呼び掛けた声音は一瞬、自分が良く知っている克哉の方の声に似ている気がした。
 おかげで余計に訳が判らなくなる。
 次の瞬間、目の前の男から感情の色が消えていく。
 そして無機質な声で、問いかけられた。

 ―オマエガアイスルカツヤハ、イッタイドチラナンダ…?

 それは作り物の、合成ボイスか何かだと疑うくらいに…感情が込められていない声音。
 太一はその声に呆然となっていた。
 だが残酷な問いかけは更に続けられていく。
 
 ―オマエハ、ドチラノカツヤニ…イキノコッテホシインダ…?

 先程までこちらを射殺せる程に強かった眼差しに、混沌が宿っていく。
 優しさと猛々しさ、両方が入り混じった不思議な色合いの眼差しが…太一を、どこか
虚ろに見つめていく。
 余計に彼は唖然となり…彼の態度の豹変振りに付いていけなくなっていた。

「あんた、は…一体…何、を…!」

―コタエロ

 それは、冷然と言い放ち…太一に答えを求めてきた。
 その瞬間…克哉の目はガラス玉のように澄み切り、整った顔立ちはまるで人形のように
無表情へと変わっていく。

―ホカナラヌオマエガ…コタエロ!
 
 抗う事すら出来ない程、強い強制権を持って…男は太一に命じていく。
 自分は一体、何を抱こうとしていたのだ?
 先程まで感じていた憎しみ、憤怒、嫌悪、嫉妬、黒い感情の全てが吹き飛ばされる
ぐらいに驚愕し、目の前の非現実な光景に呆気に取られていく。

 拘束して、薬を盛って…それが卑怯な手段であった事など百も承知だった。
 なのにどうして…このような流れとなり、事態となるのかが…理解出来ない。
 初めて眼鏡を掛けた克哉と会った時と同じだ。
 あの穏やかで優しい人の中に…果たしてどれくらいの顔が存在して、こちらを
驚かせれば気が済むのだろうか…。

(今の克哉さん…怖い! 何か…鬼気迫るものすら…感じるっ!)

 先程まで痛いぐらいにジーンズの下で張り詰めていた欲望は…克哉の態度が
豹変したのと同時にすっかり萎えてしまっていた。
 おかげで頭の血がすっかり下がり…呼吸と心拍数も、普段の状態になっていく。
 怖かった。心臓が凍り付いてしまうかと思った。
 だが…相手の問いかけに真っ先に浮かぶのは…やはり、穏やかに儚げに笑う…
克哉の方だった。
 だから太一は答えていく。
 恐怖を覚えながらも…真っ直ぐ相手の目を見つめて、声高に叫んでいく…!

―俺が…愛しているのは……の、克哉さん、の…方だっ!

 そう叫んだ瞬間、能面のようだった相手の顔が…ぐにゃりと奇妙な感じで
歪んだような気がした。
 それは今にも泣きそうな顔にも…満面の笑顔を浮かべているようにも、どちらとも
解釈出来るような…不思議な表情だったからだ。
 次の瞬間、膝を突いて半ば上半身を浮かせ気味だった克哉の身体が…支えを
失ったかのようにいきなりベッドシーツの上に倒れこんでいく。

「克哉さんっ!」

 その様子が余りに唐突だったので、慌てて太一は…何も考えずに克哉の傍へ向かい
身体を起こしに掛かっていく。
 肩に手を掛けて…その顔を覗き込んでいくと。

「えっ…?」

 其処に浮かんでいた彼の表情を見て、太一は呆然となった。
 それはあまりに…予想もしていなかったものであったから。
 そのまま…克哉の顔を凝視しながら…青年は暫し、その場で固まり…その全身を
忙しなく震わせ続けていた―

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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