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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第三十六話 想い』 「佐伯克哉」

―彼は久しぶりに、表に出ていた。

(…こんな、状況下でも…間に合った…)

 彼は滂沱の涙で顔をぐっしょりにしながら…それでもどうにか笑おうとしていた。
 だが、どうしても…泣いているせいで変な顔に歪んでしまって上手くいかない。
 そして震える声で、愛しい相手の名を呼んでいく。

「太、一…」

 それは、眼鏡の方が呼び掛けるものとはまったくトーンが違う…柔らかく感情が
込められた声。

「克哉、さん…?」

 自分の顔を見て…太一は呆然としていた。
 まさに狐につままれたような…という表現がぴったりだろう。
 無理もない。先程の自分たちの様子は…尋常ではなかったという自覚ぐらいは
克哉自身にもあったから。
 あの態度の豹変は…自分の意識と、もう一人の自分の意識がせめぎあって対立
し続けていたからだ。
 
 決して抱かれるまいと頑なだった<俺>と。
 絶対にもう一人の自分の方が先に彼に抱かれる事など許せないと思う<オレ>と。
 今回だけは何が何でも、許したくなかった。見過ごしたくなかった。
 銀縁眼鏡に頼ったせいで…以前は<俺>に太一を犯される事を許してしまったが
今度ばかりは嫌だった。

 自分の好きな人に先に抱かれる方まで…<俺>に取られたくなかった。
 そして…さっき、どちらを望むのかという問いに…太一ははっきりと、自分の方を
求めてくれていた。
 その想いと答えが…深層意識で眠りに就いていた克哉に、自分の殻を突き破らせる活力を
与えて…そして、およそ40日ぶりに…彼は外界に出れたのだ。

「そ、うだよ…<オレ>、だよ…」

 四つんばいの格好で、両手を後ろで拘束されたみっともない格好でも…どうにか精一杯の
愛しさを込めて頷いていく。
 この体勢は惨めで情けないものだったけれど…それ以上に、彼とこうして会えて言葉を
交わせる喜びの方が勝っていた。
 だから彼は、涙で頬を濡らしながらも…嬉しそうに、口元に笑みを刻んでいた。

(オレには本当は…こんな事を想う資格すら、ないんだけど…)

「本当に、本当に…克哉、さんなんだ…。って待ってて…! 今、腕を解くから…! 
あいつの方ならともかく…克哉さんの方に酷いことをする理由なんてないしっ…!」

 その笑顔で正気に戻ったのだろう。
 太一は慌てて…克哉の腕を解いて、戒めを解いていく。
 それでも…薬に侵された状態では、シーツの上に力なく腕は落ちて…指の一本すら
満足に動かせないくらいだった。

「…はは、どうしよう…動かせ、ないや…」

「ほんっと、御免! その薬…マスターが嫌な客が来た時用にビールとかコーヒーに
忍ばせて暴れないようにする痺れ薬の一種なんだけど…後、一時間くらいで抜けると
思うから…もう少し待ってて!」

(何か太一…さっきまでと全然雰囲気、違う。オレが良く知っている…太一のまま、だ…
本当に、良かった…)

 必死に拝まんばかりにこちらに謝り倒す太一の姿を見て…克哉はどこかほっとした
ような表情を浮かべていく。
 もう一人の自分の目を通して見た先程の太一はどこか冷たくて…敵意に満ち溢れて
いたけれど。
 今、目の前にいる彼からは…以前と同じような純粋な好意だけが伝わって来ていた。

「…普通の喫茶店、に…痺れ薬…なんて、ない…と思う、んだけど…」

「あ、ウチの親父…ぶっちゃけカタギじゃないもんで…って、ヤバ!」

「…親父? って…えぇ! マスターと太一って…親子、だったの…っ?」

 その一言に克哉は心底、驚いたらしい。
 目を見開いて、驚愕の表情を浮かべていた。

「…あっちゃ~…一応、変に情を絡ませたくないから…って親父に釘を刺されて
いたんだけど…つい口、滑らしちゃったな…はは…」

 そうやって苦笑する太一の姿は、自分の良く知っている彼のままで。
 それに安堵している自分がいる反面、ふいに腰から臀部周辺に掛けてスースー
している事にようやく、意識が向いていく。

(うわっ…そういえば、さっき太一に下着とズボンを下ろされていたんだっけ…)

 それを自覚した瞬間、克哉の顔が一気に赤く染まっていった。
 …自分の好きな相手を前に、こんな恥ずかしい格好を晒す羽目になっているという
羞恥心がいきなり溢れて来て、カァーと耳まで熱くなるようだった。

「…克哉さん、どうしたの…? って…そ、そういえば…」

 暫く克哉の顔だけ真っ直ぐ見て会話をしていたから、失念していたが…そういえば
ズボンを下ろしたままだったという事実をようやく思い出して…だが、その白い尻に
目を奪われてしまって…ゴクリ、と息を呑んでいった。

(うわっ…うわっ! 何かさっきまでと…何か全然、精神的にクるものが違う…!)

 さっきまでの克哉と…あまりに反応が違いすぎるせいか…胸に迫る感情がまったく
異なってしまっていた。
 さっきまでの興奮が、怒りに因るものなら…今、ゆっくりとジーンズの下で反応し始めて
いるのは…克哉の可愛すぎる反応故だ。

「…太一! お願いだから…見るなよっ! 早く…隠して貰える…っ?」

 うつ伏せの状態で、うっすらと涙で目を潤ませながら…モジモジと身を捩らせる
克哉の姿は、今の太一には反則級に可愛らし過ぎて最早どうにもならない。

「い、いや…克哉さん。その体制で…そんな可愛い事を言うのは…反則…」

「誰が、可愛い…ん、だよっ! お願いだから…早く、隠して…! こんな体制じゃ、
冷静に、なんて…話せない、からっ…!」

 殆ど別の意味で泣きそうになりながら、克哉が一気に訴えていく。
 だが…太一は動いてくれない。
 剥き出しに晒された白い臀部を食い入るように見つめながら…暫く場の空気が
硬直していく。

「…俺は、冷静になんて…話したく、ない…」

 ふいに、太一の目に…熱い情欲が灯っていくのに気づいた。
 それは…二人きりでいる時に、時々…彼の目の奥に宿っていたもの。
 その…情熱的な眼差しを真っ直ぐに向けられて、つい…克哉は早鐘を打つように
己の鼓動を早めていった。

「えっ…や、ちょっと待って…ダメ、だって…太一っ!」

 ふいに…白い臀部を両手で揉みしだくように愛撫されて…背筋から、怪しい感覚が
一挙に走り抜けていく。
 そのまま両方の肉を押し広げられて…自分のもっとも見られたくない秘部が…相手の
眼前に晒されて、いっそ憤死したいくらいの羞恥を覚えていく。

「うわっ…克哉さんの、ここ…エロい。何かヒクヒク蠢いてる…」

「やっ…だ…お願い、だから…太一! そんな、処…見るな、よ…」

 半分、泣きそうになりながら克哉が訴えていくが…その希望が聞き遂げられる
気配などなかった。

「嫌だね…こんなに、可愛い克哉さんを前にして…冷静でなんて、いられないし…
何もしないでなんて…いられ、ないよ…」

 ふいに背後に覆い被さられて…耳元で、太一が熱っぽく囁いていった。
 そのまま…蕾の周辺に、太一の熱いペニスが直接…宛がわれているのを
感じ取って、ぎょっとなった。
 彼の先端が、先走りによってたっぷりと濡れている感触が伝わってきて…
克哉もつい、ゴクリ…と息を呑んでいく。

(うわっ…うわうわっ…!)

 この体制では太一の顔を見る事は叶わないけれど、同時に自分の顔を見られる
事もなかった。
 信じられないくらいに顔が火照り、全身が熱くなっていく。
 太一が、自分を相手にメチャクチャ興奮してくれているのが伝わって…背筋が
ゾクゾクしてくる。
 何度も蕾にこすり付けられていくと、こちらの欲望も高まって…どうしようもなく
なっていく。
 太一が、欲しい…と心の底から思った瞬間、ふと…もう一人の自分に対して
どうしようもない罪悪感を覚えたのも事実だけど…。

(御免…今だけでも、オレはもう…譲りたくなんて、ない…!)

 太一を、取られたくなかった。
 自分には彼を想う資格などもうないと想って、一度は諦める決意をしたけれど…
だが、ダメだった。自分の心は正直過ぎたのだ。
 自分は、太一が好きだ。もうその気持ちから目を背ける事など出来ない。
 だから自ら腰を揺らめかして…彼が欲しいのだという気持ちを、淫らに伝えて…
意思表示していく。

「あっ…やっ…た、いちぃ…」

 欲しい、と思ったら…止まらなかった。
 お互いの腰が揺れる度に、ネチャネチャと厭らしい水音が周辺に響き渡っていく。
 その度に両者とも、相手に対しての欲望が高まり…荒い呼吸を繰り返していた。

「…くぅ…! 克哉さん…御免、もう…俺、我慢出来そうに、ない…」

 初めて男に抱かれるとは思えぬ、克哉の痴態ぶりに…太一の方もすでに理性を
蕩かせきってしまっている。
 もう…眼鏡を掛けた方の克哉への怒りなど、今…こうしてこの人が自分の腕の中にいる
幸福によって吹き飛んでしまっている。
 ただただ、純粋に克哉が欲しくて仕方なくて…制御すら出来なくなっていて。
 太一は、そのまま…腰をぐっと突き進めて狭い肉路を掻き分けて…愛しい人の際奥へと
自分の分身を侵入させていく。

「克哉、さんっ…! 凄い…好き、だっ…!」

 背後から強い力で抱きしめながら、叫ぶような声音で太一が気持ちを伝えていく。
 この人がまた自分の腕をすり抜けていかないように…必死の想いを伝えながら、太一は
克哉の中に入っていく。
 その圧迫感ときつさに耐えながら…それでも克哉は、その感覚に耐えて…大好きな人を
受け入れていく。

「うん…俺も、大好き…だよ。太一…お、ねがい…キス、を…」

 こちらを振り返りながら…震える声で、克哉が懇願してくる。
 その切なげで苦しそうな顔に、また…自分の心は強く煽られていった。

「御免…順序、逆になっちゃったね…」

 相手に指摘されてやっと、キスするよりも早く…身体を繋げてしまっていた自分の性急さに
気づいて、太一は思わず苦笑していく。

「ううん、良い…やっと、こうして…太一を…感じられた、から…」

 この熱さを、愛しさを一生知らずに過ごしていた事を思えば…順序が逆になった事ぐらい
何てことはない。
 お互いの視線が絡み合う。
 真っ直ぐにぶつかり合って…自然と顔を寄せられていく。

「克哉、さん…」

 心からの愛しさを込めて、大好きな人の名を歌うように口ずさんでいく。
 それを聞いて、本当に嬉しそうに克哉は微笑んで…。

 二人の唇は自然と重なり合っていた―

 
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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