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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 『第三十七話 楽園での邂逅』 「眼鏡克哉」


 彼は自らの心の中にある楽園に、繋がれていた。
 己の四肢には鎖が繋がれ…殆ど身動き一つ取れなくなってしまっている。
 その締め付けと拘束は、時間が経つ程に強まり、眼鏡の自由を徐々に奪っていった。

(止めろ…俺に、もう…見せ付けるな…!)

 彼がどれだけ心の中で叫んでも、もう一人の<オレ>に声はもう届かない。
 今の彼は…どんな事があっても…『愛しい人間と触れ合う時間』を死守したいと
願っている。
 だから…どれだけ訴えても、語りかけても…今は強固な心の壁が生じて…聞こえる
事はないのだろう。
 その状況で…相手の感情だけ、流れ込んでくる状況は…一種の拷問に近かった。

「くっ…ぁ…!」

 もう一人にとっては心を蕩かすぐらいの『幸福』は、今の彼にとっては精神を蝕む
猛毒に過ぎない。
 何故ならもう一人の自分が、太一に愛されている事を幸せに思えば思う程…自分の
入り込む隙間などない現実を突きつけられて。
 
 ―そして思い知らされるからだ。自分がどれだけ、この二人を阻む邪魔者に
過ぎなかった事を。

『愛している…克哉さん…』

 その一言が、太一の唇から…今、表に出ている克哉の耳元に囁かれる度に…
この四十日、彼を苛み続けた「胸の痛み」が、眼鏡の心を切り裂かんばかりに
激しく走り抜けていく。

『オレ、も…オレ、も…大好き、だよ…太一…』

 もう一人の自分が、涙を流しながら…やっと薬が抜けて少し動かせるようになった腕を
必死に太一の身体に巻きつけながら、伝えていく。
 幸せな幸せな―恋人たち。
 今、想いをようやく交し合い…確かめ合う彼らの瞳には、お互いの姿しか存在しない。

 …眼鏡の事など、カケラもこの瞬間…存在していなかった。
 否、もう一人の自分も太一も…意識から排除している。
 彼が犯した罪により、二人の歯車は狂い…思いもよらぬ方向に運命は廻り始め。
 自分たちの片方が、永い眠りに就かなければ…恐らく回復しない程、深い傷を魂自体に
追う事となったのだから―

(全ては…あの時から、始まっていたんだな…)

 克哉を追い詰めたもう一つの事件は…Mr.Rから…銀縁眼鏡を受け取ってから
そう経っていない時期に起こっている。
 彼は…あの一件があったからこそ、自分に太一を想う資格などないと思い込む事に
なり…そして紛れもなく、その事件もまた、眼鏡が原因を作っていた。

 だが…克哉は、太一と眼鏡の身体を悲しいすれ違いの果てに、もう二度と繋がせたくないと…
強く望み、自分を押しのけて現実へと戻っていった。
この瞬間、太一をようやく…全身全霊で受け入れたもう一人の自分の姿は、まるで…
あの時とは違っていて。
 身体の快楽だけでなく、心まで充足している彼は…満たされ、快楽よりも深い充足感を
太一に抱かれて…味わっている。
 熱い吐息、荒い鼓動。汗ばむ肌…快楽により、絶え間なく震える身体。
 克哉は愛し愛され…お互いの気持ちを確認しあう、至上の幸福を今…知ってしまった。

 それは…眼鏡自身が、決して味わった事のない禁断の果実にも等しいモノ。
 心まで結ばれている恋人たちの姿を、心の内側にある世界の中から見せ付けられて…
自分が信じ込んでいた価値観が、粉微塵に砕かれていく。

 欲しければ、心のままに望んで欲しがれば良いと思っていた。
 それをしない、やろうともしないもう一人の自分を愚かだと思った。
 正直、苛立っていたし…見下していた部分があった。
 だが…いつの間にか自分が心から欲しいと思っていた太一の心は…
もう一人の自分だけに向けられていて。
 欲望のままに彼を抱いた自分に向けられた感情は…そう、『憎悪』と
呼ばれる類のものだけだったのだ―。
 
『大好き…大好き、だよ…』

『ん、オレも…愛、してる…』

 彼らは聞いていて、砂を吐きそうなくらいに甘い言葉をストレートに伝えて
気持ちを確かめ合っていく。
 その度に、心の世界は大きく震えて…『歓喜』を滲ませて…緩やかに大気に
乗って広がり始めていく。
 心の中に閉じこもっていた克哉と、自分自身の心が弱り始めていた頃はすぐに
でも朽ちかけようとしていた『楽園』は…彼が悦ぶ度に、幸せになる度に再び緑を
生い茂らせて…息を吹き返していく。

 楽園に光が差し込む。
 愛する人に、愛される喜びにより。
 死に掛けていたもう一人の自分が、活力を取り戻していく。
 望んでいた人の腕にやっと飛び込む事が出来て…。
 そして…最初は生命力に満ち溢れていた自分は…猛毒により心を
深く蝕まれ…徐々に弱り続けている。

 それでも…緑溢れる楽園と対照的に…断崖の向こうに広がる『奈落の底』は
眼鏡の中の絶望と連動して、徐々に広がり続けていく。
 愛される喜びが楽園を活気付け。
 憎まれる絶望が、死へと続く奈落への穴を更に深めていく。
 楽園が奈落を塞ぐ方が先か。
 死の穴が…光溢れる場所を屠って破壊しつくすのが先か。

 一人の人間に抱く、両者のそれぞれの愛情と憎しみの感情は…
互いに反発しあい…彼らの精神世界を深く切り裂いていく。
 もう…崩壊の時は、間際に迫っている。
 どちらかが眠らなければならないというのは…片方がこの穴に入らない限りは
互いの心は衝突を続けて、世界に亀裂を生み続けるからだ。
 負った傷が深いからこそ、魂は休息を求めている。
 其処まで…もう一人の自分を追い詰めた罪を…この瞬間、彼は自覚をさせられていた。

「…くそっ…! ここで…俺は、自分のした事に目を背けたら…それこそ、タダの
クズじゃないか…!」

 久しぶりに降りてきた楽園の荒廃を最初に見たからこそ、息を吹き返したその
姿を見て…彼は、罪責感を覚えていく。
 更に罪悪で紡がれた鎖で雁字搦めになり、身動きが取れなくなる。
 息すらもそのまま出来なくなりそうなくらいの圧迫感すらした。
 
 その瞬間…世界が真っ白い、眩いばかりの光に包まれていく。
 愛しい相手に抱かれて、もう一人の自分が…絶頂に達したからだ。
 目を開いている事すら困難な、余りに鮮烈な光の洪水が天を覆いつくし…
それからグラリ、と世界が揺らめいて…瞬く間に蒼い闇に包まれていく。

 どれくらい…そうしていただろうか。
 締め付ける鎖の与える苦痛すら、麻痺をして遠くなり始めた頃。
 まどろみに落ちた…もう一人の自分の意識がゆっくりとこの世界で形作り。

『久しぶりだね…<俺>』

 彼を不幸に叩き込んであろう、最大の罪人に対して…もう一人の自分は
穏やかな声で語りかけてくる。
 目を開けば、其処に…いつものように儚く微笑んでいる<オレ>が立っている。

「あぁ…そうだな…<オレ>」

 弱っている姿を見られたくなくて、それでも…胸が苦しみ、鎖で繋がれて自由が
効かなくとも…彼は気丈に笑っていく。
 
 言葉に乗せて、自分の本心を伝える事が苦手で。
 想いをぶっきらぼうにしか伝える事が出来ず。
 愛していても照れくさくて冷たい態度しかいつも取れず。
 弱みを晒せないが故にいつも不適に笑って己を守っている。

 そんな彼と、素直で愚直な性格の…もう一人の自分は、この心の中に作られた
仮初の楽園で『最後』の邂逅を果たしていく。
 作り物のような、仮面のような笑顔を浮かべ。
 だが、決して相手から目を逸らさずに強い瞳でお互いを見つめ続けていく。
 
 そしてこの滑稽なまでの悲劇の物語は、最終局面を迎えようとしていた―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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