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そのせいで窓の向こうに広がる夜景が、圧倒的な力を伴って網膜に飛び込んでくる。
赤、青、緑、黄、橙、白…夜の街にはこれだけの色彩がひしめき、瞬いていた事に
御堂は驚きを隠せなかった。
室内が真っ暗でなければ、日常の中に当たり前に存在する光が…これだけ美しかった事に
改めて気づく事はなかっただろう。
地上よりほど高い場所にある展望室。
静寂をたたえた其処に、一人の男のシルエットが浮かび上がる。
夜の光を背後に称え、眼鏡の奥に傲慢な輝きを宿したその男の姿を見て…御堂は
心臓が早鐘を打つのを感じた。
「…来たか、御堂…」
男は、不敵に笑う。
この男は記憶にある限り、眼鏡を掛けている時はいつだってこうやって自信満々の表情を浮かべる。
おどおどした態度をしていた頃の記憶はすでに遠い。
まるでこの夜の全てを統べる帝王がごとく、堂々とした態度で…
男―佐伯克哉は、前面ガラス張りの展望室に佇んでいた。
「来たか、じゃない…何だって君は私をこんな処に呼び出したんだ?」
「…ほう。それが判らないほど、お前が野暮だったとはな…」
「…佐伯。まさかと思うが…これはお前からのデートの誘い…なのか…?」
コツ…コツ…。
静かな室内に、御堂の上等な靴の音が響き渡る。
不遜な男の下に、一歩ずつ歩み寄り…真っ直ぐにその顔を見据えていく。
目の前の男の口元に、不敵な笑いが刻まれている。
「…仕事上がりに、お前に場所の指定をした。それだけで…察してくれても
良さそうなものだがな…」
低く掠れた声音。
それだけで腰に来そうなくらいに甘さを帯びながら…克哉の指先が御堂の頬を
そっと静かに撫ぜていく。
冷たい指先が整った頬の稜線を辿り…耳の後ろから、項の辺りをやんわりと
辿っていく。
「…っ!」
それだけで電気が走ったかのような…鋭い感覚が走っていく。
…例の一件から立ち直り、彼と再会して…一緒に会社を興してから一年近く。
自分の身体はすでにこの男の与える感覚に慣れすぎてしまっている。
飽きるどころか、日にちを重ねる度に自分の知らない神経が開拓されている感じだ。
それだけの動作で肩を揺らした御堂を、克哉は面白そうに眺めていた。
「…まだ、頬を撫ぜただけだぞ…?」
「…誰が、私をこんな身体にしたと思っているんだ…?」
気丈な眼差しで、克哉を見つめ返していく。
その澄んだ瞳に、こちらへの欲情の色を感じ取って…御堂の鼓動も落ち着かなくなっていく。
幾度も訪れた、独特の濃密な空気。
「…俺以外には、ありえないな…」
「…判っているじゃないか…」
互いの瞼を伏せて、唇が重なり合う。
触れるだけのキスが暫く…続いた。
「ふっ…」
口の端から漏れるのは、甘い声と熱い吐息。
触れるだけのキスでこれだけ昂ぶるのだから本当に重症だ。
克哉の手が背広の内側に忍び込んで…シャツの上から御堂の腰のラインを辿っていく。
「ん…さ、えき…」
軽く唇を吸われれば、陶然とした表情を浮かべて口付けを享受していく。
しかし…克哉の腿が、こちらの足を割り始めた辺りでぎょっとなった。
「なっ…! 何を…」
今夜は指定された場所が場所だから、こうやって夜景を楽しみながら
甘いキスや抱擁を楽しむだけだと思い込んでいた。
しかし…こちらが戸惑っている間に克哉の魔手は確実に伸びてきて…
こちらのシャツのボタンををやや荒々しく外し始めていく。
均整の取れた御堂の胸板が外気に晒されていくと…克哉は強気な笑みを
浮かべていった。
「…判らないのか? 今夜…ここで、あんたを抱くつもりだが…」
その言葉に、一瞬…相手の正気を疑った。
「な、何を考えている! ここをどこだと…!」
「心配するな。その為に貸切にしたんだ…ちゃんと担当の人間に言い含めてあるから、朝までは
誰もこのフロアに立ち入る心配はないぞ…?」
「そ、そういう問題じゃない! こ、こんな処で出来る訳がないだろ!」
羞恥で顔を真っ赤にしながら訴える頃には、気づけば窓際まで追い詰められていた。
大きなガラスと、克哉の身体の間に閉じ込められていく。
「…あんたの意見は、聞く気はない。…今夜、俺の誘いを受けた時点で…合意したと
見なさせてもらう…」
「ふざけ…っ!」
御堂が最後まで言葉を終える前に、その叫び声は…傲岸不遜な男の唇によって吸い取られた。
ある秋の夜。
御堂孝典は指定された場所へと、タクシーを出して急いでいた。
今現在、自分達が興した会社を退社したばかりだ。
(まったく…あいつは、本当に傲慢すぎるにも程がある…)
タクシーのシートの上で、軽く憤慨しながら…自分の公私にわたるパートナーに対して思考を巡らせていく。
彼は本日分の自分のやるべき仕事を終わらせてさっさと帰っていった癖に、こちらが丁度仕事を片付け終える時間に丁度電話を寄越して、いきなり呼びつけたのだ。
しかも、こういうパターンの場合…いつもならば使い慣れたホテルなのに、何故か今夜に限っては展望タワーを指定してきたのだ。
少し不可解に思いながらも、惚れた弱みという奴だろうか。
御堂は深い溜息を突きつつも、相手の元に真っ直ぐに向かっていく。
タクシーの窓の向こうに広がるのは、色鮮やかなネオンの群。
一つ一つの光は、まるで生き物のように光り輝き、蠢いている。
そんな深夜の街の息吹に触れている内に…車は目的地へと辿りつき、五千円札を一枚運転手に手渡して悠然と言い放っていく。
「つりはいらない。そのままで…」
態度こそ、いつものままだが…本音を言えば運転手がつり銭を用意する時間すらも今は惜しい。
だからそんな太っ腹な事を言ってのけて、タクシーを降りていく。
この展望タワーはいつもなら、この時間帯はカップルたちで溢れている。
しかし今夜は…どこか活気がないように見受けられた。
だが、そんな違和感など頭の隅に追いやって…入り口に足を踏み入れていく。
(何故…こんなに人が少ないんだ?)
先程感じた違和感は、更に強まっていく。
夜のこの時間帯に、デートスポットとして有名なここがここまで閑散としているのは少しおかしい気がした。
「御堂孝典様ですか?」
しかし、そんな事を考えていると…エレベーターの前に立っている女性から声を掛けられいていく。
服装からして、この展望台の案内係…といった処だろう。
髪を綺麗に纏め上げ、薄い控えめなメイクをしている処が好感が持てた。
「あぁ…そうだが…」
「はい、それなら…お連れ様の佐伯克哉様が展望室でお待ちです。伝言を頼まれましたので…確かに御堂様にお伝えしました」
恭しく女性が頭を下げて、伝言を伝えていく。
「…後、本日21時からは佐伯様の希望で、当タワーの特別展望室は貸切となっております。ゆっくりと夜景をお楽しみ下さいませ。それでは失礼致します」
言葉を言い終えると同時に、女性は御堂にエレベーターに乗るように動作で薦めていった。
その優雅な動きは、洗練されていて見ているだけでつい目を奪われる程だ。
「あぁ、ありがとう。それでは失礼するよ…」
そう告げて、御堂はエレベーターに乗り込み…特別展望室へと向かっていった―。
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。