鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『御堂孝典』
第八課に課したプロトファイバーの販売期限がもう間近に迫っている頃。
―私はついに、佐伯克哉のお見舞いに一人で赴いてしまっていた。
彼が事故にあった直後に…一度、顔を出して以来のことだった。
(…つい、足を向けてしまったな…)
事故から二週間が経過した現在も、彼の意識は戻っていないままだった。
会話が出来ない人間の処に見舞いに行っても、何の意味も成さない。
それくらいは判っていたが…先日、起こった不可解な一件についての答えを
得たくて、私は取引先との会談の帰り…。
車で近くを通りかかったという理由もあったが、彼が入院している大学病院に
辿り着いた。
「確か彼は…三階の奥の、個室に入院していた筈だな…」
記憶を探り出し、受付の処で面会簿に記入をして…29と番号札が書かれていた
バッチを受け取り、それを胸に飾っていく。
…病院特有の、強い消毒薬の匂いが鼻に突いた。
最初は一瞬、不快だったが…すぐに慣れてスタスタと廊下を歩いていった。
エレベーターを使った方が時間短縮にはなるが、最近はプロトファイバーの増産ラインの
為の打ち合わせに忙しくジムに通う時間すらも殆ど取れない。
だから本日は階段を使って、三階まで向かっていった。
多少は運動不足を解消出来るだろうからな…。
317号室は、二畳ほどの広さの部屋だった。
並んでいる病室の前のナンバープレートを目で追って…真っ直ぐに317号室を目指して
中に入っていくと…。
(…何だ?)
何故か、彼のベッドの前に…強面のサングラスを掛けた黒服の男が立っていた。
まるでドラマや映画とかで見る、「ヤクザ」や「暴力団」の典型のような風貌の
人物だった。
どうして佐伯克哉の病室にこんな怪しい風体の男がいるのか、こちらがつい
訝しがっていると…男は何も言わずに、こちらに小さく会釈一つをして…そのまま
静かに立ち去っていった。
こちらはただ、言葉を失ったまま…その様子を見送っていくしか出来なかった。
「何故…あんなに怪しそうな男が君を訪ねてくるんだ…? 佐伯…一体君は私の
知らない処で、何をしていたんだ…?」
眠り続ける彼に、そう問いかけるが…やはり返答はない。
重く瞼を閉ざしながら…ただ、安らかな吐息を漏らし続けるのみだった。
ベッドの方に近づき…その傍らに何となく腰を掛けていく。
こちらの体重が掛かって、ベッドの端が軽く沈んでも…彼は身じろぎ一つも
しなかった。
(意外に整った顔をしているんだな…君は…)
今まで彼の顔をじっくり見る機会など殆どなかった為に気づかなかったが…
佐伯克哉の顔の造作はかなり整ったものだった。
つい、その貌をマジマジと眺めて…頬をそっと撫ぜていってしまう。
指先が軽く口の端に触れても…軽く身を震わせるだけで、目を開ける気配は
なかった。
「…今の君の問いかけても無駄だって事ぐらいは判っているけどな。だが…あれは
一体何なんだ。…君はどういう交際関係を持っていたんだ…?
あまりに理解不能すぎて…私には、君という人間の底が伺い知れない…」
そう、先日。
プロトファイバーの営業権の期限が切れる寸前の話だった。
佐伯克哉というエースを失った状態では、私が引き上げた営業目標を達する
事は決してない。
片桐君は「せめて佐伯君が意識を取り戻すまでの間だけでも延長をお願いします…」
とこの病室の前で嘆願して訴えてきた翌日の事だった。
昼間に腹部を正面から、刺されたというのは…顔見知りの犯行であった可能性が高い。
…ようするに誰かに刺されるような人間関係を構築していた、という点で…私自身としては
片桐君にどう頼み込まれようとも、期限内に達しないようなら…予定通りの処置を
するつもりだった。
だが、そこで予想外の出来事が起こったのだ。
…誰もが知っている某大手グループのトップから直々に…膨大な量の追加注文を頼まれ、
絶対に届かないと思われていた目標値をはるかに超える形で、目標達成したのだ。
何故そんな大物が…彼が刺された直後に動いたのか。
そこまでの交際関係を佐伯が持っていた事も予想外のことなので…こちらはともかく
アッケに取られるしかなかった。
それからずっと…私の中ではその謎がグルグルと渦巻いて、佐伯が気になって
仕方なくなっていた。
「君という男は…どこまで、謎めいているんだ…?」
そうして漏れる言葉にはどこか力がなく、独白に近いものがあった。
この佐伯克哉という存在は、初めて会った時から…私の予想の範疇を超える事ばかり
やり続けていた。
眼鏡を掛けた瞬間に別人のような態度と口調になって…プロトファイバーの営業権を
こちらからもぎ取る事から始まり、当初の目標値をあれだけ短期間で達成した上に…
更に上乗せした分までも、この状況で消化してしまった。
「何も…答えないんだな。君は…」
そんなのは、最初から承知の上だった。
今の彼に何を問いかけたって、答えが返ってくる事などない事など。
だが…夕暮れの光がそっと差し込む病室の中で、彼の色素の薄い髪がそっと
煌いているのが目に飛び込んで…胸が落ち着かなくなった。
(何故…私は彼の顔を見て、こんなに落ち着かない気分になっているんだろうか…?)
そんな事を自問自答しながら、つい…もっと間近に見たい衝動に駆られて
顔を寄せていってしまう。
…思いがけず、赤い夕日に照らし出された彼を綺麗だと感じてしまっていた。
何故…あの時、そんな事をしてしまったのか…私自身にもその時は自覚がなかったが、
気付いたら…眠っている彼の唇に、そっと自分のソレを重ねてしまっていた。
(意外に柔らかいな…)
交わした口付けは乾いていたが、それでも柔らかく暖かかった。
触れるだけの簡素なキスを暫く続けて…その頬を撫ぜて、顔を離していっても…
やはり彼は起きる気配などなかった。
「…何故、私はこんな事を…?」
唇を離して、暫く経ってから…今、やった事が自分でも信じられない思いがした。
何故、眠る彼を見て…口付けたいなどという衝動を覚えてしまったのか…自分でも
理由が判らなかった。
初めて会った時から、彼を見ていると苛立たせられたり…癪に障る事の方が
多い筈だった。
今、この瞬間も…彼に対してはすっきりしない、非常にモヤモヤした気持ちを抱いて
しまっている。
その苛立ちの原因が何なのか、自分でも把握しきれていなかった。
だから彼の顔など見たくない…視界にも入れたくないと思った事すらもあったが…
これでは、まるで…。
「私が彼に恋している…みたいじゃないか。そんな、馬鹿な…」
そんな言葉を力なく呟いても、目の前にいるのに彼は決して答えない。
重い瞼を閉じたまま…沈黙という形でこちらを拒絶し続ける。
「…おとぎ話か何かなら…今のキスで目覚めるんだろうがな。…現実はさすがに
甘くはないか…」
溜息をつきながら、そっと顔を離した瞬間…ドアが開閉する音が聞こえて
慌てて顔を離していったが…すぐにその気配は立ち消えて、室内は
静寂で満たされていった。
「…一体誰が…?」
もしかして、今の場面を見られたのか…と思うと蒼白の思いだったが、こちらを
現実に引き戻すかのように…メールの着信音が携帯から鳴り響いていく。
「…そろそろ時間だな。あまりここで無駄な時間を費やしていたら…これから先の
仕事に差し障りが出てしまう…」
その着信音を合図に、思考を仕事モードに切り替えていく。
今はこれ以上考えていても仕方がない。
…一度、仕事の方に戻って…自分がやるべき事を片付けてきた方が良いだろう。
そう判断して、一旦彼の病室を後にしていく。
だが…結局、その日…途中で誰が尋ねて来たのか、私には判らず終いだった―
第八課に課したプロトファイバーの販売期限がもう間近に迫っている頃。
―私はついに、佐伯克哉のお見舞いに一人で赴いてしまっていた。
彼が事故にあった直後に…一度、顔を出して以来のことだった。
(…つい、足を向けてしまったな…)
事故から二週間が経過した現在も、彼の意識は戻っていないままだった。
会話が出来ない人間の処に見舞いに行っても、何の意味も成さない。
それくらいは判っていたが…先日、起こった不可解な一件についての答えを
得たくて、私は取引先との会談の帰り…。
車で近くを通りかかったという理由もあったが、彼が入院している大学病院に
辿り着いた。
「確か彼は…三階の奥の、個室に入院していた筈だな…」
記憶を探り出し、受付の処で面会簿に記入をして…29と番号札が書かれていた
バッチを受け取り、それを胸に飾っていく。
…病院特有の、強い消毒薬の匂いが鼻に突いた。
最初は一瞬、不快だったが…すぐに慣れてスタスタと廊下を歩いていった。
エレベーターを使った方が時間短縮にはなるが、最近はプロトファイバーの増産ラインの
為の打ち合わせに忙しくジムに通う時間すらも殆ど取れない。
だから本日は階段を使って、三階まで向かっていった。
多少は運動不足を解消出来るだろうからな…。
317号室は、二畳ほどの広さの部屋だった。
並んでいる病室の前のナンバープレートを目で追って…真っ直ぐに317号室を目指して
中に入っていくと…。
(…何だ?)
何故か、彼のベッドの前に…強面のサングラスを掛けた黒服の男が立っていた。
まるでドラマや映画とかで見る、「ヤクザ」や「暴力団」の典型のような風貌の
人物だった。
どうして佐伯克哉の病室にこんな怪しい風体の男がいるのか、こちらがつい
訝しがっていると…男は何も言わずに、こちらに小さく会釈一つをして…そのまま
静かに立ち去っていった。
こちらはただ、言葉を失ったまま…その様子を見送っていくしか出来なかった。
「何故…あんなに怪しそうな男が君を訪ねてくるんだ…? 佐伯…一体君は私の
知らない処で、何をしていたんだ…?」
眠り続ける彼に、そう問いかけるが…やはり返答はない。
重く瞼を閉ざしながら…ただ、安らかな吐息を漏らし続けるのみだった。
ベッドの方に近づき…その傍らに何となく腰を掛けていく。
こちらの体重が掛かって、ベッドの端が軽く沈んでも…彼は身じろぎ一つも
しなかった。
(意外に整った顔をしているんだな…君は…)
今まで彼の顔をじっくり見る機会など殆どなかった為に気づかなかったが…
佐伯克哉の顔の造作はかなり整ったものだった。
つい、その貌をマジマジと眺めて…頬をそっと撫ぜていってしまう。
指先が軽く口の端に触れても…軽く身を震わせるだけで、目を開ける気配は
なかった。
「…今の君の問いかけても無駄だって事ぐらいは判っているけどな。だが…あれは
一体何なんだ。…君はどういう交際関係を持っていたんだ…?
あまりに理解不能すぎて…私には、君という人間の底が伺い知れない…」
そう、先日。
プロトファイバーの営業権の期限が切れる寸前の話だった。
佐伯克哉というエースを失った状態では、私が引き上げた営業目標を達する
事は決してない。
片桐君は「せめて佐伯君が意識を取り戻すまでの間だけでも延長をお願いします…」
とこの病室の前で嘆願して訴えてきた翌日の事だった。
昼間に腹部を正面から、刺されたというのは…顔見知りの犯行であった可能性が高い。
…ようするに誰かに刺されるような人間関係を構築していた、という点で…私自身としては
片桐君にどう頼み込まれようとも、期限内に達しないようなら…予定通りの処置を
するつもりだった。
だが、そこで予想外の出来事が起こったのだ。
…誰もが知っている某大手グループのトップから直々に…膨大な量の追加注文を頼まれ、
絶対に届かないと思われていた目標値をはるかに超える形で、目標達成したのだ。
何故そんな大物が…彼が刺された直後に動いたのか。
そこまでの交際関係を佐伯が持っていた事も予想外のことなので…こちらはともかく
アッケに取られるしかなかった。
それからずっと…私の中ではその謎がグルグルと渦巻いて、佐伯が気になって
仕方なくなっていた。
「君という男は…どこまで、謎めいているんだ…?」
そうして漏れる言葉にはどこか力がなく、独白に近いものがあった。
この佐伯克哉という存在は、初めて会った時から…私の予想の範疇を超える事ばかり
やり続けていた。
眼鏡を掛けた瞬間に別人のような態度と口調になって…プロトファイバーの営業権を
こちらからもぎ取る事から始まり、当初の目標値をあれだけ短期間で達成した上に…
更に上乗せした分までも、この状況で消化してしまった。
「何も…答えないんだな。君は…」
そんなのは、最初から承知の上だった。
今の彼に何を問いかけたって、答えが返ってくる事などない事など。
だが…夕暮れの光がそっと差し込む病室の中で、彼の色素の薄い髪がそっと
煌いているのが目に飛び込んで…胸が落ち着かなくなった。
(何故…私は彼の顔を見て、こんなに落ち着かない気分になっているんだろうか…?)
そんな事を自問自答しながら、つい…もっと間近に見たい衝動に駆られて
顔を寄せていってしまう。
…思いがけず、赤い夕日に照らし出された彼を綺麗だと感じてしまっていた。
何故…あの時、そんな事をしてしまったのか…私自身にもその時は自覚がなかったが、
気付いたら…眠っている彼の唇に、そっと自分のソレを重ねてしまっていた。
(意外に柔らかいな…)
交わした口付けは乾いていたが、それでも柔らかく暖かかった。
触れるだけの簡素なキスを暫く続けて…その頬を撫ぜて、顔を離していっても…
やはり彼は起きる気配などなかった。
「…何故、私はこんな事を…?」
唇を離して、暫く経ってから…今、やった事が自分でも信じられない思いがした。
何故、眠る彼を見て…口付けたいなどという衝動を覚えてしまったのか…自分でも
理由が判らなかった。
初めて会った時から、彼を見ていると苛立たせられたり…癪に障る事の方が
多い筈だった。
今、この瞬間も…彼に対してはすっきりしない、非常にモヤモヤした気持ちを抱いて
しまっている。
その苛立ちの原因が何なのか、自分でも把握しきれていなかった。
だから彼の顔など見たくない…視界にも入れたくないと思った事すらもあったが…
これでは、まるで…。
「私が彼に恋している…みたいじゃないか。そんな、馬鹿な…」
そんな言葉を力なく呟いても、目の前にいるのに彼は決して答えない。
重い瞼を閉じたまま…沈黙という形でこちらを拒絶し続ける。
「…おとぎ話か何かなら…今のキスで目覚めるんだろうがな。…現実はさすがに
甘くはないか…」
溜息をつきながら、そっと顔を離した瞬間…ドアが開閉する音が聞こえて
慌てて顔を離していったが…すぐにその気配は立ち消えて、室内は
静寂で満たされていった。
「…一体誰が…?」
もしかして、今の場面を見られたのか…と思うと蒼白の思いだったが、こちらを
現実に引き戻すかのように…メールの着信音が携帯から鳴り響いていく。
「…そろそろ時間だな。あまりここで無駄な時間を費やしていたら…これから先の
仕事に差し障りが出てしまう…」
その着信音を合図に、思考を仕事モードに切り替えていく。
今はこれ以上考えていても仕方がない。
…一度、仕事の方に戻って…自分がやるべき事を片付けてきた方が良いだろう。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
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