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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 『眼鏡克哉』


  延々と、今日も本多の暑苦しい友情論を夢現に聞かされていた。
  …俺はまだ意識を覚醒出来ない状況だというのに、枕元でそんなに不愉快なものを
聞かせられ続けるのは一種の嫌がらせに近かった。

(本当に暑苦しい男だな…)

 毎日、こいつが来る度に苛立たせられる。
 だが同時に…その怒りの感情があるおかげで日増しに俺の方の意識が強くなり
はっきりとしてきたのも事実だった。
 逆にもう一人の自分の方は…日増しに弱まっていた。
 俺の目の前で…アイツは、鎖に縛り付けられて戒められている。
 この鎖は罪悪感によって生じたもの。
 こいつの中には今…自分を責める感情しか存在していなかった。

(まったく…滑稽なものだな…)

 本多が暖かい言葉とやらを掛ける度に、こいつは自分にはこんな言葉を
受け取る資格などないと日々追い込まれていく。
 本当に本多という男は人の気持ちを推し量ったり…推測したりする能力が
欠落している奴だと思う。
 …まあ、今回に関してはあの男ばかりを責められないがな。
 実際に刺された日から二週間。
 ただの一度も俺達は覚醒して、誰かと会話したりする事すらなかったのだから―

「なあ…<オレ> 聞こえているか…?」

 今日も俺は罪悪感に囚われているコイツに語りかけていってやる。
 誰かが声を掛ける度に、ビクビクと震える姿はある意味…哀れでもあった。
 そういえば人間を一番縛り付けて臆病にさせる感情は「罪悪感」だと、どこかで
聞いた事があったな…。
 コイツは今、罪の意識に囚われて身動き取れなくなっている。
 あの時…眼鏡を掛ける事を選択して、俺を出さなければ…ずっとそうやって
自らを責めて、ズタズタに自分の心を切り裂いていた。

「…相変わらず、反応が薄い奴だな。もう…まともに言葉を紡ぐ気力すらも…
お前には残されていないのか…?」

 侮蔑すら込めた口調で、もう一人の俺に語りかけていく。
 こんなのでは…俺達の生存競争は比べるまでもない。
 俺側の圧勝で終わりだ。
 片方しか生き残れない状況だというのに…コイツはこの二週間、ずっと覇気の
ないままで幾ら言葉を掛けても反応一つ返さない。
 
「…せっかく俺が慈悲の心を持って、お前が回復するまで待ってやって
いるのに…足掻く真似すらしないのか? お前は…?」

 そう…俺がこの先にある出口まで向かった時点で…外界への扉は閉ざされて
恐らくこいつは何年も意識を表に出ることは叶わなくなるだろう。
 それを判っていながら、逃げるような事しか考えていないコイツが心底
腹立たしかった。
 どこまで偽善に走れば気が済むのだろう…と思った。

「お前がそのままでいるのなら…俺はそろそろ出るぞ。反応のない奴と押し問答を
続けていても…退屈なだけだからな…」

 挑発的な言葉を続ける。
 だが、相変わらずこいつは瞼を開く事もしない。
 退屈な獲物。
 せめて俺を睨むぐらいの反応くらい返せば…まだ楽しみようがあるのだがな。
 これだけ意識がはっきりとしてきたのなら、俺がこのまま表に出ても問題はない
だろう。だが…こんな弱りきった奴に生存競争で勝っても何の楽しみを齎さない。
 だから、最後に挑発してやった。
 今のコイツにとって…もっとも見過ごす事が出来ないであろう一言を、今までの
出来事を検索した上で導き出していき…ボソリと小声で伝えていってやる。
 
『――――――――――』

 それは良く耳を澄まさねば聞こえないくらいのごく小さな言葉で、告げた
最終通牒のつもりだった。
 だが、その言葉だけは流石に見過ごせなかったらしい。
 今まで無反応だったコイツの瞳が、カっと見開き…俺を睨んでくる。

(相変わらずおめでたい奴だ…)

 コイツを嬲る言葉を幾ら吐いても反応がなかったくせに、他人の事となると…
これだけ熱くなれるお人好しっぷりには正直腹立たしい気持ちになった。
 他人など、そんなに信じて何になるというんだ?
 腹立たしい気持ちになりながら、踵を返して…俺は出口の方に向かっていく。

『待てぇぇぇ! 行くな! 彼を…傷つけたら…!』

 掠れた、ガラガラの声でもう一人の俺は必死に声を掛けて…自ら生み出した
鎖を引き千切ろうと必死になってもがいていく。
 
(あぁ…それで良い…)

 俺は挑発的な笑みを浮かべながら、一旦立ち止まっていってやる。
 やっとコイツが活きが良くなってくれた事で、もう少しだけ退屈を紛らわせられそうだ。
 勝負が判り切っている出来レースよりも…全力で屈服させる勝負の方が心を
踊らされるからな。
 だから、俺は限りない慈悲の心を持って…もう少しだけ表に出るのは待ってやった。
 さあ…最終的に、表に出るのは…俺とコイツのどちらなんだろうな?

 コイツが本気で憤り、全力で抗ったのなら…結果が判り切っている勝負も
少しは引っくり返ったりするかもな…ククククッ…!
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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