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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 「NO ICON』      「マスター」

 俺は喫茶店の扉に「CLOSE」という札を掛けていくと…ここ最近の心労も
祟ったのか…椅子の上に座って、深く溜息を突いた。

(まったく…あの馬鹿息子。一体どこに隠れていやがるんだ…)

 あの日から、完全に足取りが判らなくなってしまった不肖の息子の顔を
脳裏に思い浮かべて、大きく舌打ちしていった。
 太一が失踪してから、そろそろ二週間近くが経過していた。
  …確かに冷静になれば、あの時の俺がやった行動は頭に血が昇っていて
行き過ぎだったのは認める。

 だが…本当に「親の心、子知らず」という諺は本当だな。
 どれだけアイツ自身が、あの男を慕っていたかを知っていても…可愛い息子に
あんな仕打ちをされて、どうして…親が黙っていられるというんだ?
 
 …本当は確実に仕留めたかったのに、な。
 被害者である太一にあそこまで食い止められるとは思っていなかった。
 そこまであんな男がアイツは好きなのか?
 確かに人の良さそうな奴だったのは認めるが…途中でどんな話し合いや
言い争いがあったが知らないが…テーブルの足にネクタイで縛られて
体液やミルク、そして血液で全身ベタベタの上に…泣き腫らした顔をした太一を
発見した時、俺は今まで密かに抱いていた好印象など完全に吹き飛んでいた。

 あんな男に二度と、太一を合わせたくなかった。
 だから…数日間の間…太一がショックで高熱を出して寝込んでいる間に
アパートの契約と、大学も退学手続きを取らせて四国の五十嵐の本家の
方に連れ戻す準備を始めていた。
 正直…俺はあの家の敷居にはあまり跨ぎたくないがな。
 息子を守る為なら止むを得ない。
 そう決意した上での行動だった。

 ―そして、二度とあの男に会う事がないように…処分をするつもりだった。
 だが、太一の奴…俺がやろうとしていた行動を悟っていたのか…愛用の得物を
キッチリと隠しやがった。
 おかげで…一撃で仕留めそこなったし、出血も通常より派手になって…発生から
数時間で大勢の人間に知られる結果になった。
 …俺はあれで一撃で殺すのは得意でも、サバイバルナイフで仕留めようとしたことは
なかったからな。
 あのまま捻って空気を入れてやれば確実に仕留められたんだが…そのタイミングで
太一の奴から電話が掛かって来て…結局断念したからな。
 佐伯、という男は一命を取り留めたらしい。
 そしてその翌日から…太一は俺の前から、完全に姿を消してしまった。

(あのやかましいのがいないと…こんなに、この喫茶店は…静かだったんだな…)

 明かりを落とし、静まり返った店内を眺めながらしみじみと呟いていく。
 …元々、落ち着いた雰囲気の喫茶店を経営してみたくて始めた趣味の店だ。
 だが、こっちの大学に通いたい! と転がり込んできた馬鹿息子のせいで…正直
俺が目指していた方向性とはまったく違うベクトルの空気がいつも蔓延していた。
 それがいつもならうっとおしくもあり…少しぐらい大人しくなったらどうだ…とイライラ
していたのだが…。

「早く…帰って来い…」

 俺はただ、そう祈るように呟くしか出来なかった。
 一応…手を借りるのは癪であったが、太一の失踪の件は今は母さんにも
伝言し…五十嵐組の人間の手を借りて全力で捜索に当たっているそうだ。
 俺が知っている範囲での太一の交友関係…大学の友人、バンドの仲間…
そしてあいつが住んでいたアパートの周辺の住民、そしてあの男が現在
収容されている大病院にも何人か…見張りをつけている。
 それなのに…どこにも引っかからず、まったく音沙汰がないまま…二週間近くが
経過しようとしていた。だから俺も…不安、だった。

 いつも息子がどうしているのか知らなければ不安定になる程…俺は子離れが出来て
いない親ではない。
 だが…どこにいるのか判らず、手がかりもない状況がこれだけ長い期間続けば
流石に無事なのかどうか気がかりになってくる。

「…ったく、あの馬鹿は一体どこに消えたんだか…」

 何度目になるのか最早数えるのも面倒なくらい、この間から何度も繰り返されている
この言葉を呟いていた。
 …お前は、五十嵐組にとっては最有力の跡取り候補だからな。
 …だから、俺は不安でしょうがない。
 俺や母さん、じいさんの組の人間の目が及ばない場所で生きる場合…常に「誘拐」や
「暗殺」される可能性を常に太一は帯びているのだからな。
 
 ボーンボーンボーン…。

 喫茶店の片隅に設置してある置時計の一つが23時の時刻を鐘で告げていく。
 …携帯の画面を確認しても、あれ以後は一通もメールも電話も来ないままだった。
 アイツの足取りはいつになったら、判るのだろう。
 俺の知っている範囲の場所は全部当たったのに…太一の影すらも掴めないままだ。

「…お前に望む事は、もう…一つだけだ。どうか無事に…帰って来てくれれば
それで良い…」

 もうそれ以上、俺に望むことなど何もない。
 どうか…あの馬鹿みたいに明るくて飄々とした笑顔を、この喫茶店で再び見る事が
叶うのなら…それ以外の欲求は特になかった。

―あいつの犬コロみたいな無邪気で人懐こい笑みが…どれだけ得難いもので
あったのか。
 俺はこんな事態に陥ったからこそ…その有り難味を深く噛み締めていた。

(太一…)

 どうか、元気でいてくれ。
 最後に見たお前の姿が…犯されて呆然と虚ろになった顔と…高熱を出して
苦しそうに歪んでいるものだなんて、冗談じゃないからな。
 俺は…お前が笑っていてくれればそれで良い。
 だから帰って来てくれと…心からの祈りを込めながら、俺は椅子の上を立ち上がり…
裏口からそっと店の外に出て―ゆっくりと帰路についていった。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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