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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第二十話 甘い毒』 『眼鏡克哉』

  結局、丸ごとカレーの中の具を…一口大で食べやすい大きさで調理し直した後に
本多に本題を切り出して、太一を預かって貰う事になった。
 …アイツ、本気で何か言いたそうな顔をしていたが、敢えて無視をさせて貰った。
 ま、本多の熱血漢な所は俺も時々苛立たせられる事が多いからな。
 …そこら辺に引いたのかも知れんな。
 俺もたまに、チームワーク論にはついていけない…と思う部分があるからな。

 夕方頃、本多の家を出て…自宅に帰ると、何故か妙に侘しい気持ちになった。
 やっと…退院して自宅に戻れたというのに、嬉しさよりも…感傷的な気持ちの方が
強かった事に自分でも違和感を覚えた。

(あいつの匂いが…何となく残っているような気がする…)

 そう、俺が何となく落ち着かないのは…太一の匂いがこの部屋に残っていたからだ。
 正確にどれくらいの期間、あいつがこの部屋で過ごしていたのかまでは聞かなかったが…
部屋に何となく残り香が残留する程度の日数はここで過ごしていたんだろうな…と思うと
妙に胸がザワついていた。

「…くそっ! 何で俺までが…こんな気持ちにならないといけないんだ…!」

 苛立ちながら、スーツの上着を脱ぎ捨てて…ネクタイを外し、Yシャツとズボンだけの
ラフな格好になって、ベッドに転がっていく。
 …布団には妙に濃密に、太一の匂いが残っていて…何故か、胸の奥から何とも言いようの
ない感情が湧き上がってくる。

『太一…』

 ふと、もう一人の自分の声が聞こえた気がした。
 …そうだ、太一の傍にいると…本来なら深い眠りに陥っている筈のもう一人の自分の
眠りが浅くなり、ノイズのように…弱い方の俺の声が混じり出すのだ。

(うるさい…お前は黙って寝ていろ…!)

 心の中で呼びかけていくが…それと同時に、ジワリと…向こうの感情が俺の方に
流れ出していく。
 それは…あいつ側の、太一を想う強い感情。
 それが…甘い毒のように俺の中に染み渡り、そして…侵していく。

『太一、太一…ごめん、ごめんなさい…』

 胸の奥で、アイツが泣き続ける。
 罪悪感に囚われて、申し訳ない気持ちがいっぱいになって。
 愛しいと本気で願いながら…同時に、二度と顔向け出来ないという後悔の念に
浸りながら…ただ、涙を流している。

(どうして…お前の方が、そんな感情を抱く…?)

 …感情に任せて、アイツを犯したのは…俺側なのに、何故そんなにお前が罪悪感に
囚われるんだ。
 その事実もまた…俺を苛立たせ、行き場のない憤りを生み出していった。

「黙って…寝ていろ…!」

 ベッドの上で仰向けになりながら胸を掻き毟り、もう一人の自分に向かって…
熱り立っていく。
 …猛るような凶暴な感情が自分の中で出口を失って…荒れ狂っている。
 今の心境を一言で言い表すならまさにそれだった。

「…今の俺達には、二人分の意識を頻繁に出せるだけの余力はない…!
だからお前は寝ていろ! そうしなきゃ…片方すらも出れなくなるんだぞ…!
 お前が深く眠って温存に努めれば…何年かすれば元通りになる可能性が
あるんだ…! だから、大人しく寝ていろ…!」

 本気でムカつきながら、もう一人の自分に向かって…訴えていく。
 その間に何とも形容しがたいモヤモヤした感情と、あいつ側の悲痛な感情が
心いっぱいに広がって…健常である筈の俺の領分までも侵略していく。

(判っている…だけど…)

「判っているのなら…寝て、いろ…!」

 アイツが、泣いている。
 もう一人の自分がポロポロポロポロ、涙を溢して…俺を乱す感情を滲ませている。
 …そんなに、どうして…強く求めているのなら…俺がアイツを抱く前に…
手に入れようとしなかったのか。
 俺にはそれが理解出来なかった。
 欲しいなら、手に入れれば良いだけだろう?
 俺はあの時の自分の感情と、欲望に従っただけだ。

 …認めたくないが、あいつと俺の感情は根っこで繋がっている。
 アイツが好きだと思うものは…俺も好ましいと思う事が多い。
 だから、生意気な態度を取った太一を抱いた理由の中に…あいつ側の感情も
影響していた事は…否定出来なかった。

「あの時…判っただろう! 今のお前には…俺を押しのけて出る程の
生命力がすでに残されていない! あれだけ煽って怒りを湧き立たせてすらも…
俺にはまったく適わない状況だった。
 根本的に…今のお前はどう足掻いても「表に意識を出す力」すら残されていない
状況なんだぞ! いつまでも未練を残して…余計なエネルギーを消耗させるな…!」

 そう、もう一人の俺が弱りすぎていて…勝負しても、まったく話にならないレベルだった。
 肉体が、無意識の内に…俺の意識の方を根ざさせてしまい…今の状況では決して
あいつは表に出て…主導権を握る事すら出来ない状態なのだ。
 <オレ>の方だって、それは良く判っている筈だ。
 なのに…太一に余りに強い執着を残しているアイツは…太一の前にいたり、思い出させる
ようなものに触れると心をざわめかせて…俺の方まで侵してくる。

 俺に一体…どうしろ、と言うんだ…?
 たった一つだけ…お前が表に出れる手段は存在する。
 だが…俺には、コイツの為にそこまでしてやる程の踏ん切りはつかなかった。
 
 …良く考えてみろ。
 他人を幸せにする為に、これからの自分の時間全てを明け渡せるか?
 自分が手にする為の幸せを全て譲渡して、不遇な立場に追いやられると判っていても
…それを選択する、そんな慈悲深い真似が…そうそう出来るか?
 たった一つ残された手段は、ようするにそういう事だ。
 俺はそんなのをあっさりと選べる程…お人好しには出来ていない。
 …だから、諦めて貰うしかない。
 
 そう思って宥める言葉を向けていくが…あいつ側の意識は更に揺さぶられて…
一層強く、太一への想いを滲ませていく。

(くそ…!)

 そんな<オレ>の感情に舌打ちしていきながら…俺は一旦、眠る事にした。
 このすっきりしない気持ちも、一寝入りすれば…少しは晴れるだろうか?
 …瞼を閉じて、身体の力を抜きながら…一時の眠りに落ちていく。
 見た夢の後味は…最悪、としか形容しようが…なかった。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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