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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『NO ICON』   「三人称視点」

 ―それは秋紀が克哉の病室を訪ねる少し前の事だった。

 一日、殆ど眠りながら病室で過ごしていた克哉を目覚めさせたのは…太一専用の
メールの着信音だった。
 電話の音でも、メールの着信音でも…彼だけがその曲を使用されているので
聞けば一発で、太一から来たものと判ってしまうのだ。
 そのメールの本文には、簡潔にこう記されていた。

 ―この近くにあるセントラルホテル 1017号室で待っている。 太一より

 その短い一文を見て…暫く考えた末に、眼鏡は…身体を起こして、やや覚束ない
足取りで病室を抜け出し…ここから徒歩十分以内の圏内にある…セントラル
ホテルへと足を向けたのだった。
 丁度克哉の病室から見えるこのホテルは、都内の夜景を一望出来るスポットと
して有名であり…タクシーや、この周辺の道行く人に尋ねても大抵は皆、知っている
くらいである。
 
 ホテルのロビーに辿り着けば、「五十嵐の連れだ」と係の人間に告げて…
1017号室への行き方を説明して貰う。
 エレベーターで十階まで向かい、扉を出て右側の通路を進んでいけばすぐに
見つかると教えて貰い、人前に出ている間だけでも…気力を振り絞って、シャンと
した足取りで向かっていた。
 
(かなり…身体がキツイ、な…)

 克哉の消耗は、昨日…唐突に太一と顔を合わせた時から一気に進んでいた。
 久しぶりに顔を見ただけで…暫く大人しかったもう一人の自分がざわめき始めて…
それから、体中から力が抜ける感覚が抜けてくれなかった。
 だが、それでも…黒服の男たちに囲まれた時点ではどうにか、こちらからも応戦して
辛うじて逃げる事が出来たが…今の自分が襲われでもしたら、とても太刀打ち出来なく
なっている事だろう。
 その事実に気づいて…克哉は目的のフロアに降り立った時…つい苦笑してしまっていた。

(こんな様で…あいつと顔を合わす羽目になるとはな…)

 いっそ、ここから引き返してしまおうか…という想いが一瞬過ぎったが…明朝に…
自分の本心に気づいてしまったせいだろうか。
 …厄介な事に、太一からのメールを無視する事が出来なくなってしまっていた。
 こちらの無様な姿を見て、果たしてどんな反応をするのか…歯噛みしたくなったが
廊下を歩いている間に、気持ちを整えて…平静を取り繕っていった。
 程なくして、1017号室は見つかった。
 扉の上部を何度かノックして、外からそっと声を掛けていく。

「俺だ…太一。開けろ」

 限りなく横柄とも言える態度で声を掛けていくと、すぐにカチャという開錠する音が
聞こえて内側からドアが開かれていった。

「…どうぞ」

 隙間から覗く太一の顔は、相変わらずどこか…不機嫌そうだった。
 笑顔で歓迎される事など端から諦めていたので…今更傷つくこともなかったが…
人を呼びつけておいてその態度をされるのはやはり不快だった。

「入るぞ」

 こちらも短くそう答えて、室内に入り込んでいく。
 二人して部屋の中心に移動して…面を向かって対峙していく。
 その瞬間から室内中に息が詰まるような緊張感が漂い始める。
 両者とも、瞳の奥に剣呑な光を宿しながら睨み合っていく。
 先にその沈黙を破ったのは…太一の方からだった。

「そろそろ…来る頃だと思った。このホテル、克哉さんがいた病院からそんなに
遠くないし…多分、迷わずに来れるだろうと踏んでいたから」

「あぁ…一応、ここは病室から見えるからな。…それで、どうしてこんな処に
俺を呼び出した? また…俺に可愛がって欲しいのか…?」

 不遜な態度でこちらがそう挑発していくと…一瞬、太一の顔に…怒りのような
ものが滲み始めていく。
 だが…そっぽを向いて、こちらから背を向けていくと…ミニキッチンを使用して
淹れておいたコーヒーの入ったマグカップをこちらに手渡していく。

「…そんな訳、ないだろ…っ! はい…コーヒー。多分長い話になるだろうから…
飲んでおいてっ!」

 そういって、太一から…コーヒーを受け取っていった。
 珈琲特有の濃厚な香りが鼻を突いていく。
 …それで思い出す。そういえば太一は…喫茶店ロイドのアルバイトをやっていた事を。
 
(そういえばあいつと…太一は、あの喫茶店で知り合ったんだったな…)

 ふと、そんな事を考えながら…黒い水面に視線を向けていく。
 その瞬間…何故か違和感を覚えた。
 太一の顔が、酷くこわばっているにも関わらず…ぎこちなく笑顔を浮かべようとして
いたからだ。

(何を企んでいる…?)

 暫く顔を合わす事も、言葉を交わす事もなかったせいで…ここ最近に関しての
相手の情報を克哉は殆ど持っていなかった。
 おかげで、相手の意図がまったく読む事が出来ない。
 だが…躊躇いながらコーヒーに一口、口をつけた瞬間に…自分が覚えていた
違和感の正体にやっと気づいていく。

―何故、こいつは俺があの病院に入っていた事を知っていたんだ…?

 昨晩、意識不明状態になってから…ついさっきまで、克哉の意識は途切れ途切れに
なっていて…誰にも連絡など取る事が出来なかった。
 それなのに、来た早々に「そろそろ来る頃だと~」と太一は言っていた。
 このホテルを選んだことからして、最初から…克哉があの病院に入っている事を
事前に知っていなければ辻褄が合わないのだ。

「…なあ、どうして…お前は俺があの病院に入っていた事を…知っていたんだ?」

 相手を鋭い眼光で睨み付けながらそう問いかけていくと…太一の表情も、作り笑いから
一変して…強い憤りを宿した顔へと豹変していく。

「…本多さんから連絡があったんだよ。それで俺も…大急ぎで駆けつけただけだよ」

「嘘だな」

 太一の返答に、克哉は確信を持って一刀両断するように否定していく。

「…俺は昨日から今日に掛けて、誰にも…自分から連絡して、あの病院に入っていた
事など…連絡していない。だからおかしいんだ…。どうしてお前が、あそこに俺がいる事を
知っているんだ…?」

「誰にも…? へえ…それなら、アイツは何? 克哉さんの病室に朝方に堂々と居座って
いた奴。…どうして、俺にも本多さんにも連絡がなかった癖に…他の人間が、克哉さんの
病室に…あんな時間帯にいた訳? しかも…やらしい事をしながらさ…!」

「…っ!」

 太一の一言を聞いた時、克哉の方が驚愕してしまった。
 今、太一が言った言葉は…紛れもなく秋紀がいた時の情景をそのまま口にしていたからだ。
 それで符号が一致する。
 今朝方、扉を叩きつけられるような音で…行為は中断されてしまった。
 …その音を立てた犯人は、恐らく太一だと克哉は確信しながら言葉を続けていった。

「見ていたのか…お前。人のお楽しみを…邪魔するのはヤボじゃないのか…?」

「…てめえっ! 人を無理やり犯しておきながら…あっさりと…他の奴を平気で抱いたり
するのかよっ…! ほんっと、あんたって最低だなっ!」

「昨日は抱いてないぞ…。どっかの誰かさんが、思いっきり邪魔をしてくれたからな…」

 平然とした顔で言葉を続けていく克哉に、太一の方はペースを乱されまくっていく。
 相手からの容赦ない言葉がぶつけられる度に、青年の胸には…グルグルと怒りのような
感情が湧き上がっていった。
 相手がドンドン、憤っていく姿が愉快で…優位に立っているのは自分だと、眼鏡は油断して
しまっていた。
 だから…最初は警戒していたコーヒーにも、話が進む間に…喉がカラカラだった為に…
つい口に流し込んでしまっていたのだ。

 怒りの感情を瞳に浮かべながら、太一は…憎々しげに克哉を見遣っていく。
 …克哉は、それで良いと思った。
 もう一人の自分を前にしたように…決して笑ってくれないのならば。
 それなら…いっそ憎まれて、嫌われたりした方が…諦めがついて楽だったからだ。
 だから、言葉が止まらない。
 勢い良く、彼を挑発し…怒られる類の言語ばかりが口を突いて飛び出し続けていた。

「…あんな光景を目の当たりにして、俺が冷静でいられると…本当にあんたは
思っている訳?」

「…そちらこそ、俺を怒る権利などないだろうに…。別に俺とお前は、付き合っている訳でも
正式な恋人同士でも何でもない。俺が誰と寝ようと…恋愛しようと、太一…お前にこちらを
咎める権利などない筈だが…?」

 心の底から愛しいと思っている存在と同じ顔と声で…こんな事を言われて
傷つかない人間などいないだろう。
 冷たくそう言い放たれると同時に…太一は泣きそうな顔になっていく。

「…あんたが、それを…俺に、言う訳…?」

 呆然としたような、今にも涙を零しそうな…そんな危うい表情で太一が呟く。
 それを眼鏡は…冷然と肯定する。

「あぁ…そうだが?」

 そう、眼鏡が返した瞬間…唐突に頭が真っ白になるような…身体中の
力が一気に抜けていくような感覚が襲い掛かってきた。
 一気に背筋から凍るような悪寒がしたかと思えば…暫くすると、脊髄の
辺りからジワジワジワ…と妙な熱が競りあがってくる。
 その感覚に、目を見開いていく。

「…な、んだ…これ、は…っ!」

 いきなり、克哉が床に膝をつくような格好でその場に崩れていく。
 その身体を…太一は、不適な表情を浮かべながら…支えていった。

「…やっと、薬が…効いて来たみたいだね…」

 眼鏡が優位だった空気が、一気に形勢逆転していく。
 その時の太一の表情を見て…克哉はぎょっとなった。
 こんなに冷たく…獰猛な顔を浮かべている彼など、今までに一度も見た事が
なかったからだ。

「最初…克哉さんが警戒してコーヒーを飲んでくれなかった時には…正直
ヒヤヒヤしたけど…自分が優位になったと確信したら、やっぱり油断した
みたいだね…。そこら辺の読みは、俺の勝ちだったかな…」

「き、さま…!」

 その一言を聞いて、克哉は本気で苦渋の表情を浮かべていく。
 …万全の体制ならば、それくらいの事を予測出来た筈だったのだ。
 だが…今の自分の詰めの甘さが、この事態を招いた事に気づいて…
悔しがったが、もうすでに…遅かった。

「…さあ、これからは…俺があんたをお仕置きしてやるよ。かつて…あんたが
俺にしたようにね…っ!」

 そう克哉に向かって告げた太一の表情は、恐ろしいまでに冷たく…
猛々しいものだった。
 そんな彼に…気持ちだけでも負けるまい、と。
 眼鏡は…強い眼差しで相手を睨み付けていたのだった―
 
 
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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