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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『NO ICON』 「第三十八話 告白」 「三人称視点」」

 こうして顔を合わせていると、過去に起こった出来事が喚起されていく。
 あれはあの男から、自分を解放する銀縁眼鏡を受け取って間もない頃だった。
 自分を否定する男と仲良くし、一向に自分の存在を認めようとしない<オレ>に
苛立って、夜のオフィスで仕事を手伝ってやるという口実をつけて犯してやった
時の事だった。
 あの夜の快楽によって、乱れている<オレ>の姿とそのやりとりを
思い出していく。

もう前だって、俺を求めて臨戦態勢じゃないか

あっあぁあぁっ

認めろよ。お前は男好きのナルシストだってな

ちがうっ違う

 そんな風に嫌がっていた癖に最後には自分から腰を振って強請ってさえいた。
 淫乱で淫らな<オレ>。
  その夜に自分は、ギリギリまで<オレ>を焦らした時、こう告げた。

俺とお前には決定的な違いがある。それは何だと思う? 自分の欲望に忠実かどうか、だ
だから、自分の欲望を認めないお前は何も得られない

 間違いなくそう告げた。そして自分を欲しいとようやく口にした<オレ>を
存分に何度も犯してやった。
 あの時はただ、ようやく欲望に正直になった<オレ>の狂態を見て満足し自分も
存分に愉しんだだけだった。その時点では、それだけの意味しか成さない行為だった。
 だが、今彼は想い知らされている。
 その出来事もまた、大きく歯車を狂わせてしまっていた一因になっていた事を

(ちっこんな事を思い出して、今更何になる

 さっきまで、コイツは太一に抱かれていたせいだろう。どうしてもあの夜のコイツの痴態を
思い出してしまう。
 睦言も、好意を告げる事なくただ快楽だけを追い求めて身体を重ねた夜。
 太一にも、コイツにもどちらかにでも、「好きだ」という本心を告げる事さえ出来たなら
このような結末は、回避できていたのだろうか

鎖に繋がれた自分を見下ろす、<オレ>の姿は…自分が知っているよりも
自信を持っているように映った。
 最初にこうやって向き合った時は確か…Mr.Rや太一と出会った頃よりも
少し経った頃だろうか。
 かつてコイツが禁断の果実を口にした時に、自分を良いように犯した男が…
鎖に繋がれている姿を見て…彼は果たして何を想っているのだろうか。
 暫し互いに見つめあい…そして。

「その鎖、どうにかならないの…?」

「…どうにか出来るなら、とっくの昔にやっている…」

「そう。けど…お前がそんな状態じゃマトモに話せない気がする。ちょっと我慢
していて…」

 そうして…彼は眼鏡の傍らに跪いて、叫んでいく。

「解けろっ!」

 これが現実ならば、決してこんな言葉だけで何本もの鎖がどうかなったり
しないだろう。
 だが…克哉自身もここは自分の夢の世界であるという事は自覚している。
 彼がそう告げると同時に…あれだけ強固だった鎖は氷が割れるようにピキピキッと
音を立てながらひび割れて、そして砕けていった。
 眼鏡はあれだけ外そうと試みてもビクともしなかった鎖を、たった一言で壊された
事実に呆然となっていく。

(…もしかして、この世界の主導権は…もうコイツに移されているのか…?)

 そうかも知れない可能性を考えて、チッ…と小さく舌打ちしていく。
 だがそんな苦々しさを表情には浮かべず…いつもと同じ取り澄ました態度を取って…
もう一人の自分と向き合っていった。
 両者とも、真っ直ぐに相手を言葉もなく見据えていく。
 ―暫しの睨み合いの後、先に口を開いたのは…克哉の方だった。

「…こうやって、お互いに向き合うのって凄く…久しぶりだよね。…実際の時間から
したら、一ヶ月程度の事なんだろうけど…うんと遠くの事のように感じられる…」

「そうだな…お前が、俺の存在に気づいてから…大体四ヶ月近く、といった処だな。
…で、何で此処まで降りて来たんだ…。やっと表に出て、念願の愛しい太一に再会
する事が出来たんだろう…? それなら、どうして…結ばれた直後にこんな処に
わざわざ来たんだ…?」

「…あの穴を、塞ぎに来たから…だよ…」

 その一言を聞いた瞬間、眼鏡は瞠目していった。
 あまりに予想外の言葉だったからだ。
 信じられないような目を見るような眼差しを…もう一人の自分に向けていったが…
彼は儚く微笑むだけでそれ以上、何も言わない。

「…お前は、バカかっ! どれだけ…太一がお前を望んでいたのか、ついさっきまで
散々教えられただろうに…! その直後に何故そんなバカな事を考えるんだっ!」

「じゃあ…お前の方をあの穴に突き落とせっていうのかよっ! いつ目覚めるのか
判らない奈落の底にっ? それこそ…オレには出来ないよっ!」

「どうしてだっ! お前が太一と幸せになるのなら…それこそ、俺の方を突き落として
お前が生きれば良いだけの事だっ! 俺はお前に主導権を奪われて…あの鎖に
繋がれた時、肉体の主導権を乗せた天秤はお前の方に傾いたと覚悟していた。
それなのに…どうしてお前は、そんな馬鹿げた事を言っているんだっ…!」

「それ、は…」

 その瞬間、克哉は口ごもって…俯いていく。
 彼の表情は酷く惑い、自分自身でも良く判らない…という色を濃く宿していた。
 暫く…互いの間に沈黙が落ちていき、そして…信じられない一言を呟かれた。

「オレは…お前も、愛して…いる、から…」

「な、に…?」

 その一言に、眼鏡は驚愕していく。
 今…コイツは何を言ったのだろうか…と我が耳を疑ったが、彼は…自嘲的な笑みを
浮かべて…もう一度、その言葉を繰り返していく。

「…聞こえなかった? …だから、オレは…お前の事もいつの間にか…好きに
なっていたんだ…。最初は、オレ自身だって信じられなかった。けど…お前に、
現実で…二度ばかり、抱かれた事があっただろ…。あの日から、何故だか…
オレは…お前を忘れる事が出来なかった…」

 泣きそうな顔を浮かべながら、彼は訥々と…己の気持ちを告げていく。
 眼鏡の方は呆然としている。
 そんな事など、考えた事もなかったからだ。
 …コイツは、太一だけを想っているのだと…そう思い込んでいた。
 俺に抱かれて、あれだけ悦んでいた癖に…徐々に他の男を想い…愛していく
コイツに苛立って、そして…その無意識下の憤りが…太一を弄りながら犯した
あの事件へと繋がっていたのだろうか…?

「…お前、自分が何を言っているのか…判っているのか…?」

「…勿論、判っているよ。ずっと…眠っている間…自問自答していた。そんな風に
想っている自分の本心を何度も疑ったよ。だから…オレには、太一を想う資格なんて
ないと感じていた。特に…マスター…いや、太一のお父さんに刺された時は…自己嫌悪
が酷かったよ。あぁ…お前を止めなかった事で、オレは太一をそこまで傷つけてしまった
んだって…その現実を受け止めて、だから…消えようとした。
 …好きな人間傷つけておいて、その傷つけた張本人をも…想っているような人間が
太一と寄り添う事なんて…許される訳がない、と…思っていたから…」

 その気持ちこそ、刺された直後…彼を絶望へと陥らせた…最大の原因だった。
 自分自身を愛せない人間は、他人も愛せないという言葉があるが…自分と、眼鏡を掛けた
方の自分の関係は…それに当てはまらないような気がして。
 ポロポロと…泣きながら、切々に…己の想いを語る克哉の姿を見て…眼鏡は茫然自失
状態になっていた。
 
「…だが、太一は…お前だけを求め続けていた。俺の事など…素通りして、な。
あいつの目は…決して俺には向けられなかった。向けられた感情は「憎しみ」だけだっ!
 それなのに…俺を生かして、自分を消すというのか…ふざけるのも大概にしろっ!
そんなの…太一を絶望に突き落とすだけだぞ…! それを…俺の中から見続けていた
んじゃないのか…! それでも、そんな戯言を言うのか…お前は…!」

「その台詞、お前にそっくり返してやるよ…! それなら…どうしてオレが弱りきって
いた時期に…お前は自らの手でオレを殺して、生命力を奪ったり…あの奈落の穴に
突き落とそうとしなかったんだ? 浅い処でオレの意識を留めておけば…お前自身を
徐々に蝕んで弱っていくだけだったのに…何故?
 お前は…ずっと、一度…オレとこの世界で話してからは…オレをどうにかしようと
した事はなかった。夢を自由に見させておいて…それ以上の介入をしようとしなかった。
 それは…お前を生かそうとするオレの心理と、同じものが働いているんじゃないのか…っ?」

「…うるさい! 黙れっ!」

 その瞬間、眼鏡は激昂した。
 克哉の指摘は、図星だったからだ。
 瞬く間に彼の瞳に怒りの感情が宿り、爛々と輝いていく。
 そして…楽園の土の上に、克哉は組み敷かれていった。

「それ以上…ふざけた事を言うな…!」

「ふざけてなんか…いない。…事実、なんだろ…ねえ、<俺>…」

「言うなっ…それ、以上は…」

 怒りを押し殺した表情から、一転して泣きそうな表情に変わっていく。
 至近距離で、互いを見詰め合う。
 吐息を感じ合えるくらい、近くに相手の顔がある。
 …そういえば、身体を二度も繋げたことがある癖に…一度も、自分たちは
キスをした事がなかったな…とふと、そんな事を繋げた。

「…その割には、泣きそうな顔しているよ…<俺>…」

 そうして、克哉は…眼鏡の身体を強く抱きしめていく。
 心の中の世界だから、はっきりと鼓動とか体温とかを常に現実と同じように
感じる訳ではない。
 それでももう一人の自分の身体は温かく感じられていた。

「…お前が、オレの事を…どう想っているかなんて…判らないけれど。
…オレは、お前を好きだよ…<俺>…」

 彼がどれだけ、太一に素っ気無い態度を取り続けて傷つけたか。
 この…太一の父親に刺される、という絶望的な流れを引き起こしたのも…
もう一人の自分の愚かな行為に結果だと判っている。
 それを恨んだり、正直…憎もうとしたけれど、結局それは果たせずに…
こんな事を告げる自分は、本当にバカなのだろう。

「…お前は、どうして…」

 こんな俺を好きだと告げて、優しく抱きしめたりするのだろうか…。
 そうされる事で、責められるよりも遥かに強く…己の罪を思い知らされる。
 詰らせるよりも時に赦される方が辛い時がある。
 今の眼鏡の状態は…まさに、それだった。

「…大好き、だよ…。こんなオレに…太一に愛される資格なんて、やっぱり…
ないんだよ。だから…」

 そして、身体が折り重なっている状態で…うっすらと涙を浮かべながら、とても
儚い表情で…克哉が微笑んでいく。
 その顔を見た時、このまま…胸が張り裂けてしまうかと思った。
 それくらいのやりきれなさが…心中に生まれ、そして告げる。

「だから…オレが穴に落ちるよ。どうか…生きて…<俺>…」

 そして、初めて…フワリと自分たちの唇が重なった。
 夢の世界なのに…何故か、そのキスは涙の味がして…どこか塩辛くて…
切ない味がしていた―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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