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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 『第三十九話 貴方が目覚めたら…』 「五十嵐太一」


 五十嵐太一は、深い溜息を突きながら…ベッドの傍らの椅子に腰掛けていた。
 時計の針は朝八時をすでに指しているが、何度懸命に起こしても克哉が起きる
気配がなかったので…結局、もう一泊する手続きをしたばかりだった。

 結ばれた直後に意識を落としてしまった克哉は、それから朝を迎えても…一向に
目覚める気配はなかった。
 最初は、それだけ克哉を悦くしてしまったのかなと自惚れたり…無理をさせてしまったの
だろうかと不安になったり、一喜一憂していたが…これだけ長い時間、意識を失った
ままだと…昏睡状態になっていた時の事を思い出してやはり不安になる。

「克哉さん…もしかしたら、また…暫く眠ってしまうのかな…」

 そうなるかも知れない可能性がふと過ぎって、彼は…自分がした事に深く後悔を
覚え始めていた。
 …久しぶりに穏やかな方の克哉と出会えて、結ばれた方ではない。
 もう一人の克哉に対して…行ってしまった行為についてだ。
 
(…幾ら、アイツの方に無理矢理ヤラれたからって…同じ事をしたら、俺も同じ穴の
ムジナになるって事なんだよな…。計画した時は、頭に血が昇っていて…そんな
事、考える余裕がなかったけれど…)

 …克哉と会えて、結ばれる幸福を感じる事が出来たからこそ…やっと自分の心に
余裕のようなものが出来て、己のした事を客観視出来た。
 父親の暗殺道具を隠した時に手に入れた例の薬は、万が一何かあった時用に…
念の為持ち歩いていたものだった。

 量的には数時間で効能が切れる範囲までしか用いなかったが…あの薬は、一般には
流通していない非合法なものである。
 ただでさえ…40日程前に刺されたばかりで、本多の話ではまだ安定していない時も
ある克哉に服用させてしまったのは…浅慮過ぎたのではないだろうか。
 その事実に思い至って…彼は、深い自己嫌悪を覚えていた。

「ほんっと…俺、克哉さんに会いたくて会いたくて…半ば、狂っていたみたいだ…。
こんなみっともない真似…しちまう、なんて…」

 目覚めてから、何度目になるか判らない深い溜息を繰り返しながら…室内を
見回すと…大雑把にたたんでおいた克哉のスーツやYシャツが…かなり汚れて
ボロボロになっている事に改めて気づいた。
 この部屋に来た時から少し痛んでいたが、その上で更に無理矢理…眼鏡の方を
抱こうとした時に力任せにやってしまったので…ボタンやジッパーの部分が危うい事に
なってしまっていた。

「…十時過ぎになれば、この近くの店も開き始めているかな…。そうしたら、やっぱり…
克哉さんの着替えとか買って来て上げた方が良いよな…。
 それにホテルのルームサービスも高いし…ある程度、食料の類も…明日の朝の分
くらいまでは買って来た方が良いよな…」

 正直、ここ一ヶ月働いていないし…バンドの方に入って来た金の大部分はつぎ込んで
いたので…太一の懐事情は相変わらず厳しいものだった。
 それでも、変な話…何十万かくらいは…過去に親戚一同から貰ってきたお金を
溜め込んであるので、そこまでケチケチしなくても急に日干しになったりはしない。
 それでも温存しているのは…いざという時に、海外にも逃亡出来るようにだ。
 自分の実家から…どれくらいの期間、国内で逃げ回る事になるか…今の時点では
未知数な為に、収入の充てのない今は…幾ら倹約しても、しすぎる事などないだろう…。

(ホテル代と、克哉さんのスーツ代の出費はそれでも痛いけどね…)

 けど好きな人の為にお金を使えるのなら、気分はむしろ嬉しいくらいだ。
 あまり高い物を買って来る事は出来なくても…安い予算でも、克哉に似合いそうな
スーツやネクタイを揃えてやるくらいなら可能だろう。
 その時、克哉は急に苦しげに眉を寄せて荒い呼吸を繰り返し始めていた。
 彼の突然の急変に、血相を変えて…太一は駆け寄っていく。

「克哉さん大丈夫っ? 俺はここにいるよ…!」

 克哉の手をしっかりと握り締めていきながら、声を掛けていくが…暫くはその
もがくような動作が続いていた。
 だが…太一の必死の祈りが通じたのだろうか…間もなくして、克哉の状態は
落ち着いて…少し穏やかなものになっていく。

(克哉さん…お願いだから、どうか…目覚めて…)

 心の中に描くのは、優しく微笑む方の克哉の顔。
 もう一度…自分は、彼に会いたい。
 そして…改めて、今後…自分の事情とか、どうしていきたいか…この気持ちをはっきりと…
彼にキチンと伝えたいのだ。

(俺には…貴方しか、いないのだから…)

 彼に伝えていない、彼に捧げる為のラブソング。
 それも…今すぐは無理だけど、いつかは…克哉に伝えたいと願っているから。
 眠る彼の唇に、あの時のように口付けていく。
 
 ―どうか、今度目覚める時は…あの人の方でありますように…。

 それは眼鏡を掛けた方の彼からしてみれば、残酷すぎる願いだと判っている。
 だが…もう己の心を偽る事など出来ない。
 …その希望こそ、彼の紛れもない本心であるのだから―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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