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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―あの事件から三日が経過していた。
 
 本多の手術は無事に成功して、その晩の内に峠は越したが…
二日間は個室に入院して、面会謝絶の状態になっていた。
 その間、御堂と克哉は…警察に出頭して事情聴取の協力をしたり
現在の御堂の勤めている会社の駐車場の敷地内で起こった事で、会社の
方にも説明をしに赴かなければならなかったりと…やる事が山積みに
なってしまっていたので、あっという間に土日は過ぎてしまっていた。
 こんな状態では、克哉と甘い時間を過ごす処ではなかった。
 そして月曜日、御堂はいつものように出社して精力的に仕事をこなした後、
定時で上がり…本多が収容されている病院へと足を向けていた。

「418号室…ここか…」

 御堂はメールに記されていた部屋の番号を確認していくと、その個室の
病室の扉を開いていった。
 本多はどうやら起きていたらしく、ベッドの上で身体半分を起こした状態で
どうやらテレビを見ていたようだった。
 個室は5~6畳ぐらいの大きさの部屋で、入り口の処にはちゃんと
洗面所やトイレの類もついている。

 ベッド周りにはテレビ台やクローゼット、ミニ冷蔵庫の類も
ちゃんと完備されていて身の回りの事でそんなに不自由は感じさせない
造りになっていた。
 だが、御堂が室内に足を踏み入れると…普段、人懐こい笑みを浮かべて
いる男の顔が引き締まったものになっていく。

「…御堂さん、来てくれたんですね」

「あぁ…君には借りがある。呼び出されたのならば…応じない訳には
いかないだろう」

「…来て下さって感謝します。…どうしても、御堂さんに一つだけきちんと
聞いておきたい事がありましたから…。あ、どうそその辺の椅子にでも
適当に掛けて下さい」

「いや、良い。普段ディスクワークで座りっぱなしだからな。少しぐらいは
立っていた方が筋力低下を防げる」

 座るのは断ったが、御堂はゆっくりと…本多の方へと歩み寄っていった。
 冷たいリノリウムの床の上に、革靴がコツコツと音を立てて反響していく。
 窓の外に広がる空には、相変わらず曇天が覆ってしまっている。
 本日も午前中は雨で…夕方からは降ったり止んだりを繰り返しているような
不安定な天候だった。

「…大した物ではないが、見舞いの品だ。食欲があるようなら…食べて
やってくれ」

「わっ…これ! 凄い高級そうな箱に入っていますけど…もしかしてメロン
ですか? 俺の為にわざわざ…?」

「そうだ。これくらいで君から受けた借りが返せるとは思っていないが…
せめてもの私からの気持ちとして受け取って欲しい」

「う…ス。ありがとうございました」

 そこでようやく、本多の方の緊張が少し解れたらしい。
 いつもの彼らしい朗らかな笑顔が覗き始めていった。
 
「…あ、克哉は…キクチからなら…多分、6時くらいまではここには来れないでしょうから
それまでに話を終わらせましょう」

「あぁ、それは私も賛成だ。それで…君が私に聞きたい事というのは…何だ?」

 本日、日中に御堂の元に本多から一通の電話が届いた。
 それは御堂が現在勤めている会社に就職が決まった際に…以前に付き合いが
あった人間に対して一斉に送ったハガキに記してあったものだった。 
 そして電話で「本日、仕事が終わったら早めに来て欲しい」と告げられて…
終業後に一緒に見舞いに行こうという話を取り付けて、克哉から病室の番号の
確認メールを受け取って、御堂はここに赴いた訳である。
 二人の間に、緊張が走っていく。
 それはそのまま…三日前の、駐車場での空気の再現に近いものがあった。

「…あの日の話の続きっすよ。御堂さん…克哉の事をどう、想っているんすか。
今回は…正直に答えて貰えますよね」

「…なら、私の方からも…一つだけ問い返させて貰おう。何故…君は
そんな事を私に聞くんだ?」

 御堂は何となく、その理由をすでに察してはいた。
 だが敢えて確認の意味でそう問いかけ返していく。

「…そちらに正直に答えて貰いたいなら、俺の方も率直に言うのが筋ですよね。
だからはっきり言います。俺は…気づいたのはつい最近なんですが、克哉の事が
好きなんです。友達としてでなく…特別な意味で。けど、克哉は…御堂さんの事を
心から想っているみたいだから、俺は…吹っ切る意味でも、あんたの気持ちを
聞いておきたいんです。あいつが…幸せになれると、そう確信出来そうな答えを…
御堂さんの口から聞けたら、俺はきっと…諦められると思うから」

「…やはり、な」

 本多からの返答は、ほぼ御堂の想像した通りの内容だった。
 普通…ただの友人の為に、雨の中にその相手先の下に押しかけたり…自分が
大怪我をするか一歩間違えれば命を落とすかも知れないのにこっちを庇ったりは
しなかっただろう。
 それだけの事をしでかすには、その相手に…そう、恋心を抱いているとか
強烈な事情がない限りは考えにくい事だ。

「…君が克哉を、特別な意味で好きだという理由ぐらいなければ…あの日の
君の行動も言動も腑に落ちないものが多すぎたからな。普通はただの「友人」の
為だけにそこまではしないものだ」

「はは…バレバレでしたよね。けど…うん、まああの時は損得勘定なんて
吹っ飛んで反射的に身体が動いちまっていたし。俺も御堂さんも結果的には
助かって、こうして無事にここにいるんですから良いっすよ」

「無事、だと…?」

 本多が何でもない事のように笑っていくのが妙に気に障って、御堂の眦が
一気につりあがっていく。
 アバラが何本も折れて、あちこちの骨にヒビが入って…出血多量と体温低下で
生死の境を彷徨ったのは普通「無事」とは言わないだろう。

「…命を危険にまで晒した癖に…無事などと言う君の神経が理解出来ないな」

「…大丈夫っすよ。昔、バレーの猛特訓とかで骨にヒビが入るぐらいは何回も
ありましたし。それくらいなら…俺の中じゃ大怪我には入らないんで」

(どこまで体育会系バカなんだ…この男は…)

 流石に今の発言だけは御堂の理解の範疇を超えていたので、正直眩暈が
してきた。自分と本当に生きている世界が違うのだと思い知らされた感じだった。

「…って、本題から話を逸らさないで下さいよ。…まだ、俺が聞きたい事に
対しての返答を聞いていないんですから。…お願いですから、しっかりと答えて
下さい。御堂さんが…克哉の事をどう思っているかを…!」

 その瞬間、本多の顔は真摯なものへと変わっていった。
 真っ直ぐで、直情的で…作為的なものなど何も感じられない真摯な態度。
 …こちらもそれに絆されたのだろうか?
 御堂はようやく観念して、胸に秘めていた克哉への気持ちを目の前に男に
吐露していった。

「…愛している」

 それは、克哉にさえ照れ臭くて言えていない…想いの篭った一言。
 あまりにストレートな言葉が飛び出して来たので…最初それを聞いた
本多自身がびっくりしてしまった。

「はっ…?」

「えぇい! 何を呆けた顔をしているんだ! 君が聞いたんだろう…!
 私が克哉をどう想っているか…今の言葉が全ての答えだ! これで
満足だろう!」

「えっ…あ、の…その。御堂さんの口から…まさかそこまで直球な言葉が
飛び出してくるなんて…思って、いなくて…! ちょっと驚いてしまって…!」

「だ、か、ら! 君が質問したんだろう! 何度も言わすな…! 今の一言が
私の気持ちだ! だから…克哉の事は諦めて貰おう! 私は…克哉を
手放すつもりはない。君につけいる隙など…与えるつもりはまったくないからな!」

 顔を真っ赤にしながら、そんな事を御堂が言うなんて…想像もしていなかった
だけに…本多は面食らっていた。
 心底驚いて、顔を真っ赤にしながら…その場に硬直してしまった。

「…な、何ていうかその…そこまで言われると当てられますね…」

 聞いているこちらの方が恥ずかしくなるような…想いの込められた答えに
顔を真っ赤にしながら本多が口元を覆っていくと…。

 ガシャン!

 ドアの向こうで…何かが盛大に落ちて割れたような、そんな音が響き
渡っていった。
 瞬時にして二人が身構えていく。
 
「だ、誰だ!」

 御堂が誰何の言葉を発していくと…控えめな様子で、ドアがゆっくりと開いていって
其処には顔を耳まで真っ赤にした克哉が立っていた。

『『克哉!』』

 本多と御堂の声が、綺麗にハモっていく。
 そんな二人を…いつもの背広姿の克哉が、申し訳なさそうに交互に見回していった。

「…あ、あの…立ち聞きをするつもりはなかったんだけど…二人があんなに大きな声で
話しているから…嫌でも、聞こえてしまって…! 特にオレの事が話題に上って
いたから…その…」

 どうやら床に落下したのは…お見舞いの花を生けてあった小さな花瓶だったらしい。
 床の上では克哉が購入してきた花がちょっと無残な状態で広がっていた。
 けれど…片付けよりも、克哉は今の御堂の爆弾発言が気になって仕方が無いらしい。
 オズオズと…御堂の方を見つめていきながら、克哉は呟いていった。

「…あの、今の…言葉、本当ですか…? 御堂さん…」

「…あぁ、私の本心だ。だが克哉…一体、いつから其処に…」

「…御堂さん。実は、今日は…克哉はそちらよりも早くに俺の病室にお見舞いに
来てくれていたんすよ。片桐さんの計らいでね…」

「何だと!」

 そう、通常のキクチの定時であったのなら…その本社からこの病院まで辿り着くのは
早くても18時は越えるだろう。
 だが、本日は…片桐が気を利かせて、結果的に克哉は御堂よりも早い時間帯に…
本多の病室に立ち寄っていたのだ。
 だが、本多は…この話だけは御堂とサシでつけたかったから…お見舞い用の花と
何か果物を買って来て欲しいと口実をつけて克哉を一時的に遠ざけたのだ。
 そして帰って来た克哉は…その現場を耳にする事となった訳である。

「…全て、聞いていたのか…?」

「は、はい…」

 克哉が顔を真っ赤にしながら…コクン、と俯いていく。
 その仕草が妙に可愛らしい。
 本多がすぐ傍にいなかったら、その場で唇を奪って貪りたくなるくらいに
愛らしくて仕方なかった。

「…こんな、偶然に聞いてしまった形でしたけど…その、御堂さんが…オレの
事を愛してるって言ってくれて…凄く、嬉しくて…」

 頬を赤く染めながら潤んだ瞳で克哉がこちらを見つめてくる。
 それを見て…御堂の方の心拍数は増大していった。

 ドクンドクンドクンドクン…!

 二人の間に、甘い空気が流れ始めていく。
 御堂と克哉はお互いに見つめあい…そして、沈黙していった。

「…あ~あ、人の前で見せ付けてくれちゃって。まったく…付け入る隙がないって
もう充分判りましたから、続きは他の処でやって下さいよ。もう…御堂さんの
気持ちは聞けましたしね…」

「ほ、本多…」

 本多は苦笑しながら、それでもどこかさっぱりしたような表情を
浮かべていた。
 これは彼にとって、失恋決定の場面だった。
 御堂の気持ちは克哉に向いていて、克哉の気持ちもただ…御堂に
一途に注がれている。
 この状況で、自分が入り込む隙間なんてない。
 これで克哉を欲しいと自分が望んで、引き裂くような真似をしたら…却って
大切な友人を苦しめてしまうだけだろう。
 その事実をようやく…彼は受け入れて、恋心を手放す決意をしたのだ。

「…幸せに、なれよ。俺の見舞いはもう良いから…行けよ。もう…
答えは聞けたから充分だし、今はちょっと…一人にさせて貰いたいからさ」

「で、でも…」

「良いんだ。克哉…行こう。こういう時はそっとしておいてやるものだ…」

 克哉は、花瓶の件もあったし…本多の事が気になって留まろうとした。
 だが、それを御堂は制していく。

「本多君。ありがとう…君が私を庇ってくれたことは…心から、感謝する。
君のお節介な心遣いは…正直、ちょっと閉口したがな」

「へえ、御堂さんを閉口させることが出来たなら俺もなかなかのモンですよね…」

 本多の顔が、笑みを刻もうとするが…それはどこか、泣いているような
切なさを帯びていってしまっていた。
 ダンダンと顔を俯かせて、二人に顔を見られないようにしていく。

―それを無理に暴かないでいてやるのが、最大の労わりだろう。

「…お幸せに」

 それは、本多からの精一杯の強がりの、祝福の言葉。
 好きだと自覚した直後に…この想いを諦めるのは辛かった。痛かった。
 涙が零れそうになりながら…それでも、精一杯の気持ちを込めて…本多は
その一言を搾り出していく。
 それは本当に心から相手を想って、身を引く潔さがなければ出来ない行為。
 克哉は…本多から、その言葉を受け取って迂闊にも涙を零しそうになっていた。

「あぁ、幸せになる。ありがとう…本多君」

 克哉が言葉に詰まって返事出来ないでいると…代わりに御堂がそう答えて
そっと、その肩を抱いて退室していく。
 それは…灰色の雲の中に差す、一条の鮮烈な陽光のような…輝ける言葉だった。

「…あり、がとう…」

 そして克哉も、掠れた声でそう…本多に告げていく。
 儚い言葉が届いたのか、届かなかったのか二人には判らなかったけれど
その瞬間…俯いている本多が、微かに笑ったような気配を感じた。
 そして…二人は病室を後にしていく。

―その瞬間、曇天の雲の隙間から鮮やかな黄金の太陽が煌いていた

 もうじき日が沈み、夜の帳が覆おうとしている寸前に…最後に見せた
陽の光は…とても鮮烈で、目を焼く程であった。
 
「わぁ…」

 克哉の口から、思わず感嘆の声が零れる。
 それを見て…御堂はそっと克哉を引き寄せていった。

「…雨ばかりが続いていたから、凄く…太陽が眩しく見えますね…」

「あぁ…」

 どんなに冷たい雨が続いても。
 悲しみが続こうとも、雨が必ず止んで太陽が覗くように。
 悲劇も終止符を打たれる日が絶対に来るのだ。
 
 僅かな時間だけ垣間見えた太陽の光を受けて…御堂の中の
雨の中で泣いている克哉のイメージが一瞬だけ、消えていった。
 代わりに…。

 ―この瞬間、日の光を受けて柔らかく微笑む克哉の笑顔が刻まれていく

「…克哉」

 それはとても愛おしいもののように感じられて…御堂はぎゅうっと強く
抱きすくめていく。

「み、御堂さん…っ?」

「…黙っていてくれ。他の人間が来て…しまうだろう…?」

「…はい」

 言われた通りに、御堂の腕の中に収まった状態で克哉が黙っていく。
 陽の光を浴びた色素の薄い瞳は、まるで何かの宝石のように映った。
 それに引き寄せられるように…御堂はそっと顔を寄せて。

―愛している

 今度こそ、彼に向かってずっと言えなかった言葉を伝えていく。
 克哉は…幸福の余りに、一筋の涙の粒を零していった。

「…御堂、さん…」

 そして、太陽が再び闇に消える直前に…二人の唇は瞬きする
間だけ重なっていく。
 何度も何度も再会してから…想いを通じ合って、やっとこの瞬間に
お互いにそれを噛み締めて実感出来たような気がした。

 お互いの気持ちは、間違いなく注がれていると。
 ようやく確信することが出来て…二人は幸せそうに微笑んでいく。
 愛しさがこみ上げてくる。
 その幸福感を、こみ上げてくるような想いを感じながら…二人は
そっと抱き合っていった。

 ―もう御堂の中で悲しみの雨の記憶は遠くなっていく
 
 雨は必ず止む日が来る。
 もう…悲しい思い出に振り回されるのは止めよう。
 そして幸せな記憶を積み重ねよう。
 心に刻んでいこう。

―ようやくこの瞬間に、紆余曲折を経て…自分達は幸福をこの手に
掴み取れたのだから…

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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