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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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ほんっと、信じられない! 太一のバカァ!

 数時間前の、自分の叫びを思い出していきながら
佐伯克哉は、都内の小さな噴水のある公園の敷地内に
立ち寄って、ベンチに座りながら空を眺めていた。
 10月の中旬に入って、空気はひんやりとし始めていたが
太陽が出ている間はやはりポカポカと暖かくただ、目を瞑って
日向ぼっこをしているだけでも気持ちが良かった。

(良い天気だなぁ
 
 しみじみと思いながら、佐伯克哉はそっと、手を上に組み上げて
座った状態で大きく伸びをしていった。
 克哉は着慣れたシンプルなデザインのパーカーにジーンズという
簡素な服装をしていた。
 太一と一緒に駆け落ち同然にアメリカに渡ってから三年。
 向こうで成功して、それなりに名が知られるようになった頃連絡を
続けていた本多の紹介で、MGNの新商品のタイアップ曲に太一の
新曲が登用される事になった。
 克哉と太一はそれをキッカケに帰国して現在は日本を拠点にして
活動をしていた。
 
 CMに使われたタイアップ曲は、太一が全力を注いで作った力作で
あった為に大変な評判を呼び、あっという間に日本国内においても太一の
バンドは名が知られるようになった。
 それから実に多忙な日々を送って何ヶ月ぶりかに二人でゆっくりと
何日か過ごせる休暇をようやく設定出来たのだ。
 そして本日は久しぶりに恋人同士として甘い一時を過ごせる幸福な三日間の
始まりであった筈なのに

「あ~あ勢いで飛び出してしまったけれどこれから先、本当に
どうしようかな

 しょんぼりと肩を落としていきながら少し切なそうな表情を浮かべて
克哉は空を眺めていった。
 空には眩いばかりの太陽が燦然と輝いている。
 お日様を見ていると、どうしても太一の事ばかり考えてしまう自分は
本当に重症だと思った。

「太一の、バカあんな事を、エッチした翌朝に耳元で囁かれたら恥ずかしくて
顔を見ていられなくなって当たり前じゃないか

 つい、無意識の内に右耳を押さえながら克哉は顔を真っ赤にしていく。
 
―…
克哉さん、あのね………

 一瞬、さっき囁かれた言葉が鮮明に脳裏に蘇って、火が点きそうな勢いで
瞬く間に耳まで朱に染まっていった。
 そう、その言葉が余りに恥ずかしくて照れくさくて、こそばゆくて仕方なくて
それで、それを隠す為に太一に向かってバカバカ言って、軽い喧嘩をしてしまって
飛び出してしまったのだ。

(せっかく二人で一緒に休める連休が取れた初日に何をやっている
んだろうなオレって

 現在、東京都内を拠点に活動しているので東京郊外のマンスリーマンションを
借りて二人は暮らしていた。
 それで先に飛び出して来たのは自分の方の癖に、太一はちゃんとした
朝食を食べただろうかとか気にしてしまっていた。

太一、ちゃんと今朝作っておいたワカメとネギの味噌汁に気づいて
飲んでくれたかな。放っておくと、太一ってコンビニ食とかカップラーメンで
過ごしちゃうからな

 恋人としても、太一のバンドをマネージメントしている人間としても
どうしても相手の体調や健康が気になってしまうので、ついそんな心配を
してしまっていた。
 太一のコンビニ好きは海外で三年過ごした上でも相変わらずいや、むしろ
日本を離れていた分だけちょっとグレードアップしてしまっている部分があった。
 だから暇を見て移動中にコンビニに行きたがるし、目を盗んで抜け出して
知らない内に新しいレトルト食品やカップラーメン、お弁当類の類が
増えている事は数え切れないくらいあった。
 
(…って、喧嘩して出て来たばかりなのに、どうして太一の体調の心配とか
しちゃっているんだよ…オレは…)

 そんな事を真剣に考えている自分に気づいて、つい突っ込みたくなりながら…
ホウっと息を吐いて空を眺めていく。
 克哉の中で、太一のイメージはいつだって太陽だ。
 ポカポカと暖かく、こちらの身も心も暖めてくれる。
 彼にとって、今…自分の大切な恋人となった年下の青年は、そんな存在だった。

「本当に、太一は…オレの事を全身で好きだって言ってくれる…想いをちゃんと
口に出して伝えてくれるのは凄く嬉しいけど、ね。あんまりにもストレートすぎて、
真っ直ぐすぎて…やっぱりたまに、困惑しちゃうな…」

 苦笑を浮かべながら、三年間一緒にいて…今まで太一がこちらに与えて
くれた沢山の宝石のような言葉を思い出していく。
 それを思い出した後、鮮明に相手の笑顔を思い出して…幻の中の太一が
しっかりと告げていく。

―克哉さん、大好き!

 あまりに屈託なく、そう告げてくる太一の顔を思い出して…知らず微笑んで
しまっている自分がいる。
 せっかくのオフの日に、こうして離れて過ごしているのは不毛なもかも
知れない。
 けれど…まだ、太一の下に帰る気になれなかった。

(…まだ気持ちがモヤモヤして、すっきりしていないな…)

 太陽を眺めて、つい恋人の事ばかり考えてしまっている癖に…同時に
形容しがたい感情がジワリ…と広がっていった。
 そう、それは言葉に出せない違和感に近かった。
 こんなささいな事で、太一のことを嫌いになんてなる訳がない。
 今までの人生の中で彼ほど、自分を好きだと言ってくれた人間はいなかった。
 必要としてくれた存在はなかった。

 けれど…帰国して日本国内で正式に音楽活動を始めてからは余りに
多忙な日々が続いていてて…こんな風に一人で物思いに耽る暇すら
なかった事に気づいた。
 そのことに気づいて、克哉は己の胸に手を当ててそっと考え始めていく。

―何か忙しい日々の合間に、取りこぼしてしまった想いがある…

 太陽を見てて、その事におぼろげながら気づいていく。
 その答えを知りたくて、もう少しだけここにいたい気持ちになった。

(もうちょっとだけ…こうして、日向ぼっこをしていようかな…)

 恐らく、あんな書き置き一枚残して黙ってアパートを出て来た自分を
太一は必死になって探しているだろう…それは判っていた。
 けれど、もう少しだけ…一人になって、しっかりと見つめてみたかった。
 こんなモヤモヤした気持ちを抱えたままでいるよりも、すっきりとした気持ちと
笑顔で戻りたいと思ったから。
 そう考えて、空を眺め続けている克哉に向かって爽やかな風が静かに
吹いていった。

―忙しい日々に埋もれた、自分の想いをカケラを見つけ出したかった

 そう思ったから、克哉はそっと吹き抜けていく秋風を素直に受けていきながら
目を伏せていく。
 顔を上げていくと見事な秋晴れの空が広がっていたのだった―



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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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