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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ※この話は7月いっぱいに連載していた『在りし日の残像』の後日談に当たる話です。
  その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。それを了承の上でお読みください(ペコリ)

―あの事件から三年後、佐伯克哉はようやく…もう一人の自分と再会を果たす
事が出来た。
 それから長らく厄介になっていた片桐の家を後にして、克哉はどうにか…
マンションを借りて、もう一人の自分と一緒に暮らすようになっていた。
 それから一ヵ月後、新しく住み始めた近くで縁日が開かれると聞いて…
克哉はもう一人の自分と一緒に出かけたいと提案し、そして二人は…浴衣を
身に纏いながら縁日へと赴いていった。

 流石に都内の外れとは言え、祭の当日は相当な賑わいを見せていた。
 克哉は水色の、流水をイメージさせる柄の浴衣を。
 眼鏡の方は黒の記事に…銀色の、風の形を象った文様が袖口と背中に
掛けて流れるように刺繍されているシンプルな物を纏いながら、連れ立って
歩いていた。
 人ごみが半端じゃないので、手を繋ぎながら…人の波を掻き分けるようにして
進んでいく。
 神社の鳥居を潜ると、其処には様々な縁日の屋台が並んでいた。
 その上には鮮やかな提灯がぶら下げられて…周囲を照らし出し、すでに辺りは
完全に暗くなっているにも関わらず、眩くて目が痛くなるぐらいに明るかった。

「…随分な人の出だな。こんな処にわざわざ出かけたいと願うなんて…お前も
相当に酔狂だな…」

「…悪かったな。けど…せっかく、こうやって一緒に過ごせるようになったんだから…
思い出作りに、一緒に出かけたいと思ったって良いだろ? 俺達、ただでさえ…一緒に
暮らすようになってからも外出は殆どしてない訳だし…」

「あぁ、そうだな。再会してからというもの…週末は殆ど外にも出ないで、日長一日…」

 と、恐らくとんでもない内容を平然と続けそうな気配を感じて、克哉はとっさに
もう一人の自分の口を掌で塞いでいった。

「…っ! これ以上、ここでは言うなよ…! 誰が聞いているのか判らないんだし…!」

 軽く頬を赤く染めながら、克哉が拗ねたような顔を浮かべていく。
 それは言うまでもない。…週末になれば、克哉の今の仕事は土日のどちらかは休みが
貰える。それで…休日前になれば、熱烈に身体を重ねて…あっという間に一日は終わって
いるのだ。
 それは…三年間、焦がれて止まなかった腕をもう一度取り戻せたのだから仕方がない
事と判っていても…まるで高校生のカップルのような過ごし方に、恥ずかしくなる。
 けれど…その、一度くらいはちゃんと出かけたかったのだ。
 思い出になるような…そんな一日を、もう一人の自分とちゃんと過ごしたくて…浴衣を
こっそりと二人分用意して、誘いを掛けたのだ。

「ムガ…」

 眼鏡は暫くもがいていたが、暫くすると観念して大人しくなっていった。
 そして黙って…克哉の手を繋いで、進み始めていく。

「…お前、どこの屋台をまず見て回るつもりだ?」

「…ん、そうだね。何の屋台からが良い? りんご飴とかあんず飴、わた飴辺りが
定番だと思うけど…」

「却下だ。俺は甘い物を好きじゃないって…お前なら判る筈だが。というかそれくらいの
嗜好はお前と一緒の筈なんだが…?」

「いや、オレだって確かに甘いものは苦手だけど…一つぐらいなら、良いかなって
思うんだけど。せっかく縁日に来たんだから…さ」

 眼鏡の指摘した通り、克哉は甘い物の類は得意な方ではない。
 どちらかと言えば食べ物でも酒でも、辛党の方だ。
 だがまったく甘い物が食べれない、食べたくない訳ではない。
 出されれば多少は口にするし、疲れている時にはたまに食べたくなる事だって
あるのだ。
 特に縁日なら、その気分を満喫出来るなら一つぐらいは食べたい…という
気持ちがある。
 ちょっと困ったように言い返していくと…眼鏡は溜息を一つ突いて。

「…その中で、俺が付き合ってやっても良いと思えるのはせいぜいりんご飴だな。
それで良いな」

「えっ…う、うん…!」

 そして強引に人波の中を進んでいきながら、りんご飴の屋台の前で足を止めていく。
 迷わず、小さなりんご飴を二つ購入していくと一つを克哉の方に差し出していった。

「ほら、これで良いか…?」

 眼鏡らしい、ぶっきらぼうな物言いだ。
 けれどそれが…彼らしくて、つい克哉は懐かしくてクスクスと笑ってしまっていた。
 
「ありがとう。うん…一番小さい奴でOKだよ。…あんまり大きいのを最初から選んで
しまうと、他の物が入る余地がなくなっちゃうからね。…で、次はお前が食べたいのを
選んでよ。どうせだから…一緒に食べよう?」

 ニコリ、と微笑みながら…眼鏡の顔を見つめていく。
 すると…自分と同じ顔をした男はう~ん…と唸りながら少し考え込み始めていった。

「…やはり…たこ焼き、お好み焼き、焼きそば辺りが定番か?」

「うん、縁日らしい食べ物って言ったらその辺りかな? 後…焼きとうもろこしと
焼きイカっていうのもあるよ。どれが食べたいの?」

「…値段に見合うだけの味の物なら、どれでも良いがな…あの店で良いか」

 りんご飴の屋台から3軒くらい隣に、たこ焼きの屋台があった。
 そこのたこ焼きばボリュームがある代物らしくイイダコの他に、一つ一つに
うずらの卵が一緒に入っていて大きい物であった。
 その代わりに一つ一つが非常に大きく、6個も入れば透明な細長いパックの
中身はパンパンに詰まってしまっている。
 それが逆に500円という値段に見合っているような気がして…眼鏡は迷わず
其処のたこ焼きを一個購入していった。

「親父、そこのたこ焼きを一つだ!」

「へい! 毎度…少々お待ちを!」

 喧騒で声が掻き消されることを恐れてか、その屋台の店主の声が威勢が良い
ものであったせいか…つられるように眼鏡の声が大きいものへと変わっていく。
 店主は手馴れた様子で、たこ焼きの上に荒削りな鰹節と紅しょうが、そしてマヨネーズを
トッピングしていくと…細長い串を二本、輪ゴムの間に差して袋に入れて手渡していく。

「ほい! 兄さん毎度! うちのは美味しいからほっぺを落とさないように気をつけな!」

「は、はい…」

 そこら辺は流石に商売人である。
 愛想もまた料金の内というか…無骨な顔の造りの割りに、たこ焼き屋のおっちゃんは
満面の笑顔を二人に向けて見送ってくれた。

「うわぁ…たこ焼き、凄いあったかくて美味しそう。流石…『俺』だね。ちゃんと美味しそうな
店を選んでいる辺りが…」

「当然だ。あのりんご飴屋の周辺に他にも、焼きそば屋とお好み焼き屋もあったが…
あの近くだと、このたこ焼き屋が一番…手際が良くて、客の裁き方も上手かった
からな…。そういう処に、良い店か悪い店かの違いが出る…」

「…良くあの人込みの中でそこまで観察出来るよな…ある意味凄いよ…」

 克哉も観察力はそれなりに優れている方だが、やはり…眼鏡を掛けた自分には
その点は敵わない部分があった。
 あぁ、でも…まだ夕食を食べていないので暖かいたこ焼きの誘惑は耐え難い
ものがあった。
 グ~…と大きくお腹が鳴っていくのが判る。
 
「わっ…」

 つい、大きく鳴ってしまって克哉は顔を真っ赤にしていく。
 だが一人の自分はそんなのはお見通しらしかった。
 やや意地悪げに笑っていくと、フっと目を細めて…。

「…どうやら、お前は相当に腹を空かせているみたいだから…どこか落ち着ける場所を
探した方が良さそうだな。其処でそのたこ焼きを一緒に食べるか」

「う、うん…」

 恥ずかしさで顔を赤く染めながら、克哉は素直に頷いていく。
 そんな…克哉を見て、眼鏡は一瞬だけ柔らかい笑みを垣間見せていったのだった― 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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