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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※この話は7月いっぱいに連載していた『在りし日の残像』の後日談に当たる話です。
  その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。
 それを了承の上でお読みください(ペコリ)
 
  ―遠くで祭囃子が聞こえる中、闇の中を二人で歩く。
 
 人気のない道のりを、眼鏡に強い力で手を引かれながら進んでいく。
 あまり舗装されていない、生い茂った雑草を掻き分けるようにして
歩き続ける。
 そうしている内に…水音が、近くでしている地点まで辿り着いた。
 
 先程の閑散とした神社の裏側に比べて…川べりはこれから始まる
花火を観覧するのに最適なスポットだ。
 チラホラと人影が見える。それが克哉には少し恥ずかしかった。

(…オレ達二人は、他の人にはどう映っているんだろう…)

 大の男二人が、手を繋ぎながら風を切るように歩いているのは…
どう映っているのかが少し気になってしまった。
 だが、自分の手を引く眼鏡の足取りに迷いはない。
 その自信に満ち溢れた背中に…はあ、と一つ溜息をつきながら克哉は
観念するしかなかった。

(…本当に、惚れた弱みとはこの事だよな…)

 さっき、彼に触れられた唇が火照っているように感じられた。
 あんな風に自信ありげで、ともすれば傲慢とも取れるような態度を久しぶりに
見て…心臓がバクバク言っている。
  手を引かれている自分の頬が、こんなにも赤くなっている事を誰かに
悟られないか…気が気じゃなかったが、そんな事を逡巡している内に…
いつの間にか、また人気がない地点に辿り着いていた。

 其処は先程の神社に負けず劣らず、人気がなさそうな場所だった。
 夏の間に生い茂った樹木が処狭しと天を覆い隠してしまっているので…
この辺りには殆ど人はいなかった。
 傍から見ても到底…花火を観るのに相応しい場所とも思えなかった。

(…どうして『俺』は…こんな処に連れて来たんだろう…?)

 克哉の中で疑問が次第に浮かんでくると…。

「用意は済んでいるか」

 生い茂った黒い木々の奥を進んでいくと…其処は随分と前に、人々に
打ち捨てられた木で出来た船着場のようだった。
 どことなく漂う朽ち果てた気配は、不気味な気配を漂わせている。
 その中心で眼鏡が立ち止まって…そんな事を口にしていくと…やや強い
風が吹きぬけて、周囲の樹木がザワザワザワと葉擦れ音を立てていく。
 
―次の瞬間、船着場の端に一人の男の人影が立っていた。

「えぇ、こちらの方に万全に整えてあります。お待ちしておりました…
我が主。こうしてまた、貴方にお会い出来てお役に立つことが出来たことを
光栄に思いますよ…」

「Mr.Rっ…!」

 オペラの役者のように、歌うように話すその口調を聞いて克哉が驚きの
声を上げていく。
 漆黒の衣装に、長い金色の髪をおさげで纏めてある…眼鏡の男。
 傍から見てここまで胡散臭い雰囲気を漂わせている人物などそうそう
お目に掛かれないだろう。
 其処にいたのは紛れもなくMr.Rと名乗る謎多き男。
 克哉の運命を大きく変えた銀縁眼鏡を手渡し…そして三年前の一件では
影ながらに自分達に援助をしてくれた人物だった。

「あぁ、お久しぶりですね…。佐伯克哉さん。貴方とこうしてお会いするのは
三年ぶりになるでしょうか。お元気なようでなりよりです」

「あっ…はい、ありがとうございます…」

 躊躇いがちに克哉が答えても…相変わらず黒衣の男は瞳を細めながら
ニコニコと笑うのみだ。
 いつ見ても作り物のような笑顔だと思う。
 一見すると人懐こく見えるのに…同時に仮面のようにすら思える時があって
そのせいでこの男の真意が見えた試しがない。

「…長々とした挨拶は良い。そろそろ案内を頼めるか…?」

「はい、仰せのままに。我が主…」

 眼鏡が焦れたように呟くと、男は恭しく頭を下げていきながら…
踵を返していく。
 夜の川は…まるで、一つの生き物のようにさえ感じられる。
 一定のリズムを持って波打つ水面は…街灯が殆ど存在しない藍色の
帳の中ではどこか怖いものさえ感じられていく。
 其処に向かって…Mr.Rがこちらを誘導していく様は…再び、この男に
非日常へと誘われているみたいで…克哉は少し緊張した。
 
―だが、そんなこちらの心中を読み取ったかのように…眼鏡が強く
克哉の手を握り込んできた。

「っ…!」

 その思いがけない指先の強さに、ハッとなって隣に立つ男の顔を
見つめていく。
 すぐ目の前に…心配するな、と訴えているような眼鏡の笑顔がある。
 それを見て…克哉はようやく安堵の息を零していった。

「…行くぞ。モタモタしていたら、せっかくの花火のを見そびれて
しまうからな…」

「…うん、御免。…行こう」

 そうして再び歩み始めていく二人に向かって、川風がゆるやかに
吹き上げて…身に纏う浴衣の袖や裾を靡かせていく。
 目の前に広がる、水面の闇に…少し怖いものを覚えたけれど、こうして
傍にもう一人の自分がいてくれるなら、怖くなかった。
 繋がった手から…相手の温もりと鼓動が感じられる。
 克哉の方からも、強く握り込んでいくと・・・それに応えてくれるように、
眼鏡も握り返してくれた。

(…凄く、幸せだな…)

 この関係を不毛と思う時期は、とうに過ぎていた。
 誰を傷つける事になっても、何でも…克哉は三年前にこの手を取る事を
すでに選んでいる。
 ただ、手を繋ぐだけ。こうしてお互いに寄り添っているだけでも…今の克哉は
とても幸せで、ふとした瞬間に涙ぐみそうになる。

―この手を永遠に失わないで済んだ事を、ただ感謝した。

 ゆっくりと古びた船着場を歩いていくと…ふいにMr.Rがこちらを向き直って
高らかに告げていった。

「貴方様が所望なされた物は…こちらにございます」

「…ご苦労だったな。飲食出来る物も用意してあるか…?」

「はい。簡単なものでございますが…貴方達が好みそうな酒や肴の類は
取り揃えてあります。…良い一時をお過ごし下さい」

(何があるんだ…?)

 その会話が成されている間…後ろを歩く、克哉にはまだ川辺に用意された品が
見えていなかった。
 だが、眼鏡がその手前に立って…ようやく、薄暗い中に浮かんでいる物を
確認していくとぎょっとなった。

「こ、これ…! どうしてこんな処に屋形船がっ!?」

「…我が主が望まれましたので、こちらで特別にチャーターさせて頂きました。
夜明けまで貴方達二人の貸切ですので…お好きなようにお過ごし下さい。
当然、寝具の方のご用意もさせて頂いてありますから」

「っ…!」

 寝具、という単語の指す意味を察して、克哉の顔が真っ赤に染まっていく。

「ほう…? 気が利くな」

「えぇ、愛し合うお二人がお過ごしになるのでしたら…必須になると思いまして」

(平然とそんな内容を話し合うな~!)

 今更、この男にそんな隠し事をしても無駄だというのは判りきっているが…
それでも自分達の関係が筒抜けである事は火が吹きそうになる程、恥ずかしい
ものがあった。
 だが、そんな克哉の心の叫びは目の前の二人に届く事はない。

「ほら、行くぞ」

「あっ…うん」

 そして、迷いのない手つきで…眼鏡に手を引かれていく。
   だが屋形船の手前に辿り着くと一旦、手を離されて先に眼鏡が軽やかな
足取りで船へと渡り、克哉の方に振り返っていった。

「…もうじき、花火が始まるぞ…。時間が勿体無いから早くついて来い」

「…うん、判った」

 相変わらずの、ぶっきら棒な物言い。
 だけど…どれだけ暗くても克哉には判ってしまった。

―今、目の前に浮かべられている笑顔がとても優しいことに

 それに気づいて…克哉は神妙に頷きながら、向こう岸から差し出された手を
そっと取っていく。
 …眼鏡の手は、相変わらずとても暖かかった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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