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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※これ以降の話は「望まれない結末」を元にしているので相当に暗くなります。
 眼鏡×太一要素もかなり含まれます。
 それらを了承の上で、読み進めて下さい。(ペコリ)

 ―何故、もう一人の克哉にあそこまで自分は拘り続けたのか…彼と
決別してから何ヶ月も経過しているのに、どうしても太一には判らなかった。
 ただ一つ言えるのは、振り返ってみれば自分達は一緒にいて…
お互いを傷つけあう事しか出来なかった。

『あんたってどうして…いつだってそんなに冷たいんだよ! 克哉さんと同じ
顔をして、何でこんなに酷いことを繰り返せるんだよ! 返せよ!俺に
克哉さんを返してくれよ! あの人がいなかったら俺は…俺は…!』

 いつか、そんな言葉を泣き叫びながら訴えていった。
 普段はどれだけ太一が暴れようが、悪態をつこうが余裕の笑みや…
冷たい態度を崩さなかった男が、『克哉さんを返してくれ!』と訴えている時だけ
一瞬だけ、泣きそうな顔を浮かべていった。
 その瞬間だけ、水面が揺らめいて…あの人の面影が浮かんでくるような
そんな気がして、何度も何度も…決別する間際は叫び続けたのかも知れない。

 ―切なく悲しい顔を浮かべる時だけ、あの氷のような男の中に…
愛しい人の面影が重なる時があったから…

 その行為の報復は、いつだって陵辱めいた形で犯されることだった。
 相手を傷つけ、刺激すればするだけ…我が身にその行為のツケは返され
続けていた。それでも太一は止めなかった。

―今思えばあの頃の自分は…克哉を失った心の痛みを、相手にぶつける
事でしか…そして、身体に痛みを与えられるような行為をされることでしか
誤魔化すことが出来なかった。
 ヘラヘラと笑って差し障りのない言葉を吐くことすら…あの頃の太一には
苦しくて、辛いことだった。
 そのドロドロを唯一、ぶつけられる相手は…眼鏡を掛けた克哉だけだった。

―傷つけあう為に、自分達は一緒に暮らしていた

 その不毛な行為に…内心ではボロボロになって疲弊しきっていた。
 けれどそれでも…離れられなかった、その理由は…。

―太一が、本当に…儚い笑顔を浮かべる克哉を愛してしまっていたからだった

                       *
 目覚めると同時に、全身が悲鳴を上げてギシギシ言っていた。
 意識が朦朧として…一瞬、ここがどこなのか…把握出来なかった。
 しかし明かり一つない暗い室内でも、闇に目が慣れてくればうっすらと
見え始めてくる。
 
(あぁ…俺の部屋か…)

 力なくぼんやりと考えていきながら、太一は…ゆっくりと周囲に視線を
巡らせていった。
 窓際には…椅子に腰を掛けながら、憎たらしいあの男が紫煙を燻らせて
一服していた。
 それを見た瞬間…ムカムカと怒りが湧き上がってくる。

(腕の拘束は…一応解かれているみたいだな…。ったく、本気で悪趣味で
どうしようもない男だよな…。俺を抱く時、まず…組み敷いて縛ってから犯すし。
…手首の周辺が、いい加減擦り切れて沁みるしアザになっているし…本気で
SMの趣味でもあるのかって疑われ始めているからな…)

 そんな事を考えながら、自分の手首をジっと眺めていく。
 うっすらと紐が食い込んだような痕が残されていた。
 時間を掛けて慣らすなんて丁寧な真似など死んでもやってくれない相手だから
犯された時は、本気で腰が立たなくなる。
 …克哉がいなくなってから一年以上、頻繁に繰り返されているいつもの
自分達の光景だった。

「いてっ…ちくしょう…。本気で、手加減ぐらいしろよ…あいつは…」

 今夜も、太一の仕返しは失敗に終わっていた。
 こうやっていつも良いように抱かれるのが悔しくて仕方なくて。
 逆に相手を組み敷いて、同じ痛みを味あわせてやろうと…ここ半年は必死に
なって色々と策を張り巡らせたが、全部失敗に終わっていた。
 太一が呻いたことで、相手はこちらが起きたことに気づいたらしい。
 タバコを吸いながら…ゆっくりとこちらの方に向き直り、冷たい声で
言い放っていく。

「…目覚めたか」

 たった一言。抑揚のない声で言い捨てるように呟く。
 大丈夫か…という一言すらない。
 それはいつもの事だと判っていても、更に太一をイライラさせていった。

「あぁ…起きたよ。…相変わらず、あんたって…手加減なんてしてくれないよね。
抱かれる方のが負担が大きいっていうの判っている? それなのに全然、
こっちを気遣ってなんてくれないよな…」

「…俺に抱かれるのが嫌なら、俺を追い出すか…もうチョッカイを掛けなければ
良いだけの話だ。お前ごときの策など、幾らやられようとも通用などしないし…
この力関係をひっくり返させるつもりはない。いい加減諦めたらどうなんだ…」

「やだね、ずっとやられっぱなしで…大人しくなんて黙ってなんかいられるかよ!
あんたに…俺の気持ちを嫌ってほど…味わって貰わない限りは、俺の気持ちは
絶対に済まない。だから諦めないかんね…」

「…好きにしろ。まあ…そういう奴を屈服させて従えさせるのもそれなりに
楽しめるからな…」

 そういって冷然とした表情を浮かべながら…眼鏡はタバコを吸い続けていく。
 その様子を本気の怒りを込めながら太一は見遣っていった。

(…どうして、こんなやり取りしか…こいつとは出来ないんだろう…。同じ、
『克哉』さんである筈なのに…)

 克哉に裏サイトの件のことを問い質され、この眼鏡を掛けた方の人格に
辱めを受けた日を境に…太一は、それ以前の克哉と会えなくなってしまった。
 どれだけ求めても、焦がれても二度とあの人に会えない。
 その現実を認めたくなくて太一は今…足掻き続けている真っ最中だった。

(克哉さんと話していたときは…いつだって暖かい気持ちが心の中に
満ちていたのに…今のこいつと幾ら話しても、苛立つか…どす黒いものが
一層広がっていくばかりだ…。なのに、どうして俺は…こいつの元から
離れることが出来ないんだろ…)

 あの人が好きで、今も求め続けている。
 だから優しくされたい、慈しみたいという希望が…太一の中に宿っていた。
 だがこの状況は…望みを捨てきれないからこそ、彼を酷く追い詰めてしまっていた。
 繰り返される悪夢と陵辱。
 それにより…太一の心はかなり疲弊して、悲鳴を上げ続けていた。

―皮肉にも、酷い身体の痛みが…その心の痛みを、中和してくれていた

「克哉、さん…」

 会いたい、貴方の笑顔が見たい。
 そう思ったらごく自然に名前を呟いて…涙が浮かんでしまっていた。
 頭の中に、いつだって花が咲くようなあの人の優しい笑顔が浮かんでいる。
 どれだけ消したくても、消えない…鮮やかな記憶。
 それが…今の太一に希望を宿しているのと同時に、酷い苦しみを齎している
原因でもあった。

(ちくしょう…! こんな奴、大嫌いなのに…けれど、こいつの身体は克哉さんの
ものでも…あるんだ。だから…どれだけ嫌いでも、こいつが他の人間を抱いたり
するのなんて…許せない。だから…こんなバカな真似、俺はしているのかな…。
抵抗して、暴れて見せればこいつは…面白がって俺を抱く。
そうしている間は…他の奴に目を向けなくなる。だから…なのか…?)

 それは今も克哉を愛しているから生じるジレンマ。
 沈黙が訪れたまま…ジタバタと暴れたくなるような葛藤が胸の中に発生していく。
 自分の気持ちが、判らない。支離滅裂すぎて…どれが本心なのか太一自身にも
見えなくなって来た。
 それはまるで大きな迷宮に迷い込んでしまったかのような不安感。

―けれど、克哉が消えてしまって一年…太一はこの時点でもうかなり
疲れきってしまっていた

 心を凍らせて、どんな仕打ちをされても胸が痛いと思わないように心がけていても…
克哉のことを思い出すと、その凍った心が溶けて柔らかくなってしまう。
 だからその柔らかさと暖かさが…今の太一を苦しめる。
 いっそ何も感じないぐらいに心が冷たくなれば…何もかも諦め切れればきっと
楽になることは判っていたが…。

『この状況から、誰か…救い出してくれよ…』

 ベッドの上で仰向けになりながら、右手で目元を覆って…太一は苦しげに
そう呟いていく。
 この進むことも戻ることも出来ない、不毛な状況をどうにかしたかった。
 何かを、変えたかった。改善したかった。
 けれどその糸口を…今の太一に見出すことは出来ない。
 だから何かを祈るように…もう一度だけ呟いていく。

―克哉さん

 それは真摯な祈りのように…夜の闇に木霊していく。
 もう一人の克哉は、どれだけ太一が「克哉」と呟いても…決して太一の方に
視線を向けることすらなかった。
 その呼びかけは、消えてしまった方に向けられているのは明白だったから。
 二人で部屋の中にいても、どれだけ抱き合っていても…傷つけあう事しか出来ず。
 お互いの心は、氷のように冷え切ってしまっていた。
 だから、温もりを求めるようにそっと太一は指先を宙に伸ばしていく。
 目の前には…克哉の残影が、幻だが…確かに浮かんでいたから。

―会いたいよ…

 そう呟きながら自分の脳裏に描いた克哉に、そっと吐露していく。

―オレも、太一に会いたいよ…

 けれど、その幻は…一言だが、切ない瞳を浮かべながら返事をしてくれた。
 それだけで…太一は、とても嬉しそうな顔をしていった。

―会えると、良いね…たった一度でも、貴方と…どうか…

 それは儚い願いだと判っている。
 けれどそれでも…祈りながら、太一はそっと瞼を閉じていった。
 その瞬間、暖かい掌の感触を確かに感じた。

「克哉さん…」

 それが錯覚でも、幻でも構わなかった。
 それでも太一は嬉しかったから…そう思った瞬間、安堵の為に意識が
ゆっくりと落ち始めていった。

―おやすみ

 そう最後に告げた克哉の声は、自分の記憶よりも低かった気がしたが…
眠りに落ちる直前の太一は、そこまで気づけなかった。

「…いい気な、ものだな…」

 相手が寝入ったのに気づくと、眼鏡が太一の傍らで不機嫌そうに言い捨てていく。
 だが…相手が眠っているからこそ、何度かその髪をそっと撫ぜていった。

「…いつまで俺らは、この不毛な関係を続ける羽目になるんだろうな…」

 そうして、眼鏡は…どこか苦しそうな顔を浮かべていた。
 太一が起きている限り、決して浮かべることはない迷っているような顔。
 けれど…これ以上、こんな虚しいことを続けていても意味はない。
 もうすでに…男もそんな結論に達してしまっていた。

「そろそろ…ピリオドを打つべき時なのかもな…」

 そう呟きながら、眼鏡はそっと太一から離れていく。
 やりきれない気持ちを誤魔化すかのように…眼鏡は新たなタバコに
そっと火をつけて、その煙をたっぷりと吸い込んでいったのだった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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