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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※太一×克哉の悲恋前提の物語です。
 ED№29「望まれない結末」を前提に書いているので
眼鏡×太一要素も含まれております。暗くてシリアスなお話なので
苦手な方はご注意下さいませ(ペコリ)

 五十嵐太一の記憶は、そのまま…過去へ遡っていく。
 思い出しているのは…あの救いの日の一週間ほど前の
出来事だった。
 自分も、あの男も…この救われない関係に疲弊して…
やりきれなさを噛み締めていた頃。
 その頃の自分の心情がゆっくりと蘇って来て…太一はただ、
苦笑するしかなかった―

 ―大切なものは一度失くさないと判らない

 以前の自分なら、きっとそんな良く言われている口上など
鼻先で笑っていただろう。
 失くして後悔するぐらいなら、失くさないように行動すれば良い
だけじゃん…とあっさり言って、共感する事などなかっただろう。
 だが、年月が過ぎれば過ぎるだけ…今はその言葉に含まれた
意味と、痛みを理解出来るようになった。
 …どれだけ先に生きた人間が後世の者に向かって良い教訓の
言葉を残していても、人は経験した事以上の痛みを理解したり
察することは難しい生き物だ。

―太一は皮肉にも、もっとも大切な人間を失って初めて
『痛み』というものを知った。
 
 本当ならそろそろ大学に行かなければならない時間帯なのは
判っていたが…太一はどうしても起きる気力が湧かずに、ベッドの
上で寝そべり続けていた。
 太一が寝ている間に、あの男はいつの間にか部屋から出て行って
しまったようだった。

(…何か最近、忙しいみたいだしな…。俺の実家の後ろ盾とか色々と
利用してやっているみたいだし。その件に関しては勝手にすれば良いと
思っているけど…。道理も判らずに稼いだり、人を踏みつけにすれば…
それ相応のしっぺ返しを食らうもんだからな…。あいつがどうなろうと…
俺からしたら、知ったこと知ったことじゃない…)

 自分の実家の権力を利用して、裏の社会へと進出し始めているのは
太一も知っていた。
 けれどそれを知った上で…太一は好きにさせていた。
 あんなロクデナシで人の心を理解しない男は、絶対にその内に摩擦が
生じて…敵を作るだけだとどこかで判っているからだろう。
 頭の芯は酷く冷えてて、冷淡な感想しか最早抱かない。
 長くベッドの上に横たわっていたおかげでさっき目覚めた時よりかは
身体の調子はマシになっていた。
 
「何で、俺…あんな奴から離れられないままなんだろ…」

 自分の肉体が酷く軋むことを自覚しながら、ぼそりと…太一は力なく
呟いていった。

―もう二度と、以前の克哉とは会えないと諦めてしまえば良い

 理性ではとっくの昔にその答えは出ている。
 なのに…結局、実行に移せぬまま苛立ちながらあの男と長い
時間を過ごしていった。
 どれだけ抱かれようとも、寝食を共にしようとも…自分と眼鏡の間には
決して情のようなものは生まれなかった。
 克哉とあれだけ楽しく、暖かな時間を過ごせたことなど嘘のように…
自分と、変わってしまった後の克哉とは冷たい時間が広がるだけだった。

「ちくしょう…どうして、あいつを見ていると…こんなにムカムカするんだろ…」

 心底悔しげに、太一は呟いていく。
 この時の彼には、どうしてもその答えを見出せぬままでいた。
 未来の救われた方の太一であるなら、その回答をすでに持っている。
 …あの男の冷酷さと闇と同じものを、太一自身も持っていて…この時点の
彼は自分の中にそれがある事を認めていなかったからだ。

 人は…自分の中にある認めがたい要素を受け入れていない時…それと
同じものを持っている人間を嫌悪する傾向にある。
 心理学的に言えば「投射」と言われる反応だ。
 太一は、己の闇を…自分自身で受け入れることも、他者に受け入れて
貰うことなく…自覚した日から過ごしていた。
 己を受け入れていない人間は、他者の中に認めたくない部分を見出した時…
その相手を憎悪し、嫌うことで遠ざけようとする。
 振り返れば…どうしても眼鏡と上手く行かなかった理由は、そこに帰結
するのだが…この頃の太一は迷路に迷い込んでしまっていてその回答を
見出せないままだった。

「克哉さん…」

 そして、自分を正の世界に留める為に…太一はただ、失ってしまった方の
克哉を呼んでいく。
 今、目の前にいる方の彼など、決して認めないと…そう言い聞かせるように。
 けれど、太一は気づかなかった。
 その行為が、奥に眠っている克哉を一番傷つけていた事を。
 彼がもう一人の克哉を否定すればするだけ…あの男の奥底に沈んでいた
克哉をズタズタに引き裂き続けて、弱らせてしまっていた事を。
 
―どんな彼でも、同じ佐伯克哉だ

 もし…あの頃の太一が、たった一言でも発していたのならば…自分達が
辿る結末は変わっていたのかも知れない。
 人の中には色んな要素が眠っている。
 善と呼ばれるものから、悪と見なされる類の感情まで…様々なものを内包して
『一人』の人間は成り立っている。
 太一は、その事実を…克哉を聖域のように扱っていたからこそ、まだ気づけて
いないままだった。

―あの頃の俺って、視野が本当に狭くなっていたよな…。克哉さんが
酷い言葉を放っているその奥にいた事を…知らないままだったし、
あの日に一度だけ会えるまで…気づけなかった。
 だから俺は…あの人を失ったんだな…

 全てを知った上なら、己が犯した罪がどれだけ…重かったか、自覚出来る。
 その行為が眼鏡だけじゃなく、あの人をも傷つけていた。
 もっと早くにその事実を知っていたら…自分はどうしただろうか?

―きっと、克哉を救えていた。眼鏡を掛けたあの人を含めて…

 相手を認める思いやりの言葉と、裏の面を含めて一人の人間を
受容し信じること。
 幸せになるにはたったそれだけの事が出来るようになれば良い。
 単純だが、絶対的な真理。
 だが…自分も、あの男もきっと…人の愛し方を知らなかった。
 傷つけあう言葉と態度しか、終始取れないままだった。

―胸の中に、暖かい想いはあったのに…

 伝えられないまま埋もれた想いでは意味がない。
 けれどきっと…自分達は傷つけあうしか出来なかった。
 太一が克哉に拘って、「眼鏡」を見ようとしなかったから。
 酷い男だと思い込んでいたあいつにも、こちらへの情があったのだと…
『克哉』の口から聞かされる前に気づけていたのなら…あいつも、
自分は救えていたのかも知れない。
 けれどこの時の太一はただ…やりきれなさだけを感じて、ただ…一日を
ベッドの上で過ごすしか出来なかった。

―何もかもどうでも良い

 そんな投げやりの言葉を、疲れた様子で呟きながら…何度も、まどろみと
覚醒を繰り返していく。
 …気づかぬ間に、自分達の報われない関係は…終焉のときを確かに
迎えようとしていたのだった。
 

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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