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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―それは、太一が知ることのない真実のカケラだ。

『直径一センチ以上の胃ガンが見つかりました。恐らく重度の
ヘビースモーカーである事と、アルコール度の高い酒の頻繁の
摂取。そして過剰なストレスに長い期間晒され続けていた事が
原因でしょう…。そして、残念ですが転移もすでに見受けられます。
…このまま治療して放置していたら、余命は長くて2年前後。
しかも…かなりの苦痛を伴います』

 眼鏡は、神妙な表情を浮かべながら年配の医師が先日に
語った言葉を思い出していた。
 太一のアパートを出てから、佐伯克哉は…裏の世界で展開している
事業の作業中に吐血していた。
 …掌にはべったりと赤い血がついていた。

(ついに…ここまで血が出るようになったか…)

 冷めた目で己の血を見つめていきながら…眼鏡は深々と溜息を
吐いていった。
 若い内にガンが発生すれば、進行が早くて命を落とすケースも
多いというのは結構耳にしている。
 だが…自分の身にそれが降りかかってくるとは、半年ぐらい前までは
まったく考えなかった。

「俺に残された時間は…そんなに、ないか…。未だに実感は
湧かんがな…」

 もうこの一年ぐらい、胃の痛みを感じることなど日常茶飯事に
なってしまっていたから…慣れ切ってしまっていた。
 今、目の前に自分の血がべったりとついていても…何の感慨も
湧きはしない。
 他人事のように…酷く冷めた目で、それを見つめていた。

―いつの間にか、心も身体も麻痺してしまって…痛みというものに
酷く鈍くなってしまっていた

 能面のように冷たい無表情。
 心はいつの間にか氷のように凍り付いてしまっていた。
 何をしても、やっても…心の底から楽しいと思うことも感情が
揺さぶられることもない。
 人間はあまりに苦痛を与えられると、脳内麻薬を分泌したり
その痛みを感じないように完全にシャットアウトする機能がある。
 今の眼鏡は…その繰り返しだ。
 太一を苛め抜くように抱いている時だけ、快感を…鮮烈な何かを
感じていく。
 その度に、もう一人の自分が「もう止めてくれ!」と叫び続けている。
  張り裂けるような胸の痛みが、何も感じられなくなった自分が
知覚する事の出来る、唯一の痛みだった。

(俺は…どうして、あいつの傍にいるのか…? 何も感じなくなった
状態では…痛みや快楽を感じるのは、あいつの傍だけだからだ…。
 一瞬の高揚、興奮。そして…苦くて辛い気持ち。それだけが…
生きている証のように…感じられるからだ…)

 身体はいつしか、鉛のように思い通りに動かなくなっていた。
 自分の肉体の筈なのに、まるで借り物のような感覚さえしてくる。
 深く溜息を吐く。
 本気で、苦い思いをしながら…胸元を押さえて、呼びかけていく。

―なあ、お前はいつまで…俺の中で苦しい、苦しいとだけ訴えて
何もしないでいるつもり…なんだ…

 苛立ちを覚えながら、不甲斐ないもう一人の『オレ』へと声を
掛けていく。
 だが、ピクリとも…反応もなければ、答えはない。

「駄目、か…」

 幾ら呼びかけても、眼鏡が一人でいる状態ではもう一人の自分の
気配は絶対に感じられない。
 だが、太一のいる時だけは…時折、その気配を感じる。
 しかし皮肉にも…僅かに波を立ててもう一人の『オレ』と繋がっている
時に限って、太一は自分を否定する言葉ばかりを吐いていく。
 呪う言葉、嫌悪の言葉、拒絶、否定…罵声、悪態…それらの言葉を
『眼鏡』に吐いていくと同時に、『克哉』をも傷つけていく。

「…このままだと、お前は何も言わずに消えることになるぞ…。
それでも良いのか…? 大した負け犬根性だな…。自分が
惚れた男を俺に陵辱され続けても、何も行動しないままで
いるつもりか…?」

 挑発する言葉を吐いても、やはり反応がない。
 眼鏡が太一を抱くもう一つの理由。
 それは…その時だけ、コイツの存在をくっきりと強く
感じる瞬間があるからだ。
 …コイツの存在は、今となっては精神の方のガンのようなものだ。
 意識の底に沈んで、普段はまったく存在感など感じない癖に…
意識の深い処では泣き続けて、苦しみもがいている。
 天の岩戸のように深く心を閉ざしている癖に、その毒素は次第に
強まっていき…そして、ついには肉体的にも『ガン』という結果を
与えることとなった。

 けれどほんの僅かな時間。
 もう一人のコイツと意識が繋がると、繰り返し聞こえ続ける言葉が
存在していた。

―ごめんなさい、ごめんなさい…!

 ただ、克哉は…謝り続ける。
 虚しく、すでに誰に向けられているのか判らない謝罪の言葉を
壊れたスピーカーのように流し続けていく。
 まともな単語は、すでに紡ぐ能力すら失われてしまっているの
かも知れない。
 最愛の人間を傷つけてしまった。
 その罪の意識が、克哉を雁字搦めにして目を曇らせ…そして
深層意識という深い処にある檻の中で…自らを閉じ込め続ける。

「…いい加減に、しろ…!」

 苛立ち混じりに叫んでいくが、相手と儚く繋がっていたものが…
プツリ、と途切れる形で終わっていった。

「…何で、ただ俺の中で泣き続けて何もしようとしない奴に…身体まで
蝕まれなければならないんだ…! くそっ!」

 近くにあった灰皿を思わず手に取り、窓に向かって勢い良く投げつけていった。
 手にべったりと付いていた血がガラス製の灰皿に付着し、それが

 ガシャッ!!

 普通の窓ガラスに命中したものだから…大きくひび割れていった。
 幸い、厚目の窓ガラスを用いてあったから大穴は空けずに
済んでいた。だが…やり切れなさだけは、確かに感じていた。

「…いつまで、お前らに俺は振り回されていなければならないんだ…?」

 腹にモヤモヤしたものを感じながら、怒気を込めて呟いていく。

「…お前らが過ごした期間より、俺と過ごしている時間の方がずっと
長いはずなのに…どうして、あいつの目は決して俺を見ようとしないんだ…?
お前の影だけを見て、俺という存在は素通りか…否定されるかのどちらかだ!
どうして…一年以上も前に力をなくして消えて、ただ俺の中で泣き続けて
いるお前の存在だけが求められる!?
 こんな不毛な関係…もうゴメンだ!」

 そう、眼鏡の心は随分前から何も感じなくなってしまっていた。
 しかし…ただ二つ、例外がある。
 太一と、克哉に関係する事だけは痛みを、怒りを、悲しみを、憤りを…
様々な感情を実感する事が出来るのだ。
 他者の前で感情を吐露できない男は…一人きりで、己の手を鮮血で
染め上げていきながら、本心を爆発させていく。

―訴えかけているのはもう一人の自分

 けれど、決して応えられることはない。
 耳と目を閉ざし、ただ自分だけを守り続ける。
 …自分の心だけをどうやって、消え去れば良いのか…そんな
後ろ向きな気持ちだけを胸に抱いて…

「応えろよ! なあ…!」

 そうして、眼鏡は再び激しく、何度も咳き込んでいく。
 …床には、目を覆いたくなる程の細かい血飛沫の痕が
きっかりと付着していた。

「…お前達二人の恋愛に、振り回されるのはもう…ゴメンだ…」

 そう力なく呟きながら、眼鏡はフローリングの床の上に倒れていく。
 汚れが全身につくから、出来れば床を拭った後で倒れこみたかったが
今はそんな事に拘っている暇はなかった。

「もう…疲れ、た…」

 最後に、彼自身も無気力に…人形のようになりながらそっと
一人…孤独に自分のアパートの床の上に倒れこんでいく。

―何もかもがどうでも良い…

 太一と同じように、やけっぱちになりながらそう呟いて…眼鏡も
意識を手放していく。
 余命二年で、果たして自分に何が出来るのか。
 これから先のことを考えた方が良いとは理性の上で判っている。
 けれど…今は、手元にあった火を吹きそうになるぐらいに強い酒を
そのままラッパ飲みしていきながら…泥のように眠った。

―悪夢など、もう一人の自分の声など決して聞こえないぐらいの深い処へ

 ただ一人…自分の部屋の安物のベッドの上で…青白く、疲弊した
表情を浮かべながら…静かに眠りの淵へと落ちていったのだった―



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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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