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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※本日から新連載です。
 無印の眼鏡×御堂ルートのED.NO2…「因果応報」を前提にした話です。
 シリアスで、ちょっとサスペンス風味の強い話です。
 眼鏡×御堂ルート前提ですが、眼鏡なしの克哉も色々と出張ります。
 それでも良い、という方だけ付き合ってやって下さいませ。

―それは月がとても綺麗な夜に起こったことだった

 目の前には、血まみれになった青年が倒れていた。
 たった…今、自分がこの手で刺した。
 何度も、何度も心の底からの恨みを込めながら相手の身体に凶器を突き刺した。
 手には相手の血液がべったりと付いている。
 返り血を大量に浴びて…彼自身も、陰惨な様子になった。

「あ…ははははははっ!」

 そして彼は、狂ったように笑い続けた。
 まるで糸が切れた人形のように、全ての感覚が麻痺して遠くなって
しまっている。
 感情の制御がすでに出来ない。
 自分の意思と関係なく、大きな笑い声は零れ続けて…公園中に木霊
していくようだった。
 今の御堂には、周囲に気を配る余裕すらなかった。

 いや…もうとっくの昔に、自分はおかしくなってしまっているのだろう。
 この男と出会ってから、何もかもが壊れてしまった。
 大学に出てからの十年間の間に、自分が必死になって築き上げた全ての
ものが…この男一人のおかげで、全て失ってしまった。
 全てが水泡に帰して、無になろうとしていた。
 …自分が努力し続けて、やっと手に入れることが出来た大企業での部長という
地位ですら…もうじき、この男の手に渡ろうとしている。
 その事実を、偶然…知ってしまった彼は…ついに堪え切れず、この男を
手に掛けてしまった。

「ざまあみろ…! 佐伯…! お前が、悪いんだ…! お前が、私から…
全てを、奪うから…ははははははははっ…!」

 自分の心の奥から、どす黒いものが溢れてくるのが判った。
 誰かをここまで憎いと思ったのは、生まれて初めてだった。
 その衝動のままに行動して、とてつもなく爽快な気持ちと…人を初めて
殺めてしまったという罪悪感と、やり切れなさで頭の中はゴチャゴチャだった。
 夜の空気は冷たく、冴えわたるようで…現場となった公園を、月明かりが
煌々と照らし出している。
 殺人を犯した者が、現場でこんな風に大声で狂ったように笑い続けているなど…
早く捕まえてくれ、と言っているようなものだ。
 こんな愚かしい行動、普段の彼ならば…絶対にしない。
 けれど…まるで性質の悪い麻薬に犯されてしまったかのように、まともな
思考回路が破壊されてしまっている。
 おかしくて、おかしくて堪らなかった。
 自分の感傷が、制御出来なくて…どうしようもなくなっていた。

「み、どう…」

 苦しい息を吐きながら、男がこちらの名を呼んだ。
 何故かその瞬間…胸が引き絞られるようだった。

「…まだ、息が…あった、のか…?」

 自分は相手の腹部を刺した筈だ。
 心臓を一撃、とは行かなかったが…複数の箇所を刺したことで
致命傷を与えている筈だったのだ。
 なのに…それでもまだ、相手が存命して…こちらの名前を呼ぶことが出来るなど
思ってもみなかったので、御堂は瞠目していく。

「み、どう…」

 しかし相手の瞳は、いつものように自信に充ち溢れたものではなく…
酷く儚い色を湛えていた。
 ギラギラと輝いていた宝石が、まるでガラス玉になってしまったようだ。
 その力のない瞳が、フイに…彼を正気に戻していく。

「あっ…」

「み、どう…」

 何度も、何度も壊れた機械のように…相手はこちらの名前を呼び続けていく。
 その度に、何とも言えない感情が湧き上がっていった。
 憎くて憎くて、仕方のない男だった。
 先日のとても大切なプレゼンの時に…尻の中にバイブを入れろなどと言って…
こちらの事など、一切慮ることなく…その強度を上げ続けた。
 そのせいで大勢の前でとんでもない失態を演じることとなり、其処から
多くの歯車が狂い始めた。
 部長職を失う一歩手前まで追い詰められたのは…この男がそんな風に
こちらの心を踏みにじり、脅迫行為を続けたからだ。

(ど、うして…お前に名前を、呼ばれて…こん、な…)

 憎い筈だったのに、それ以外の感情が湧き上がってくるのを感じて…
御堂自身が、混乱を隠せなかった。
 どうして、何故…自分は、こんな事で惑っているのだろうか。
 すがるように男が、こちらに手を伸ばしてくる。
 その手が血まみれなのは、口元から一筋の血が伝い落ちているのは…
自分がこの手に掛けてしまったから。

「す、まない…」

「っ…!」

 ふいに、男が…そんな風に自分に謝罪の言葉を吐いたのを聞いて、
御堂は眼を見開いていく。
 どうして…この後に及んで、自分に謝ったりするのだ。
 あんな風にこちらを辱めるような行為を続けた酷い男。
 なのに…そんな風に、謝られたら、どうすれば良いのか判らなくなる。

「今、更…謝られても、私は…君のした、事を…許せない!」

「だ、ろうな…」

 しかし、相手の謝罪の言葉を跳ねつけるように…御堂は必死になって
訴えかけていく。
 今までは御堂は…一方的な被害者という立場だった。
 しかし…この夜から、二人とも、咎人となった。

 佐伯克哉は…御堂孝典を何度も凌辱し、その光景をビデオカメラで撮影して
彼を脅迫し続けて追い詰めた。
 そして御堂は…その事に耐えきれず、ついに殺人という行為で…彼を
手に掛けて、殺めてしまった。
 
 どちらも、大罪だった。
 しかし…罪の重さを言えば、やはり殺人の方が遥かに重いだろう。
 相手の命の灯が、どんどん弱くなっているのを感じる。
 公園の舗装された道は、血の海を作り…毒々しいまでに、赤で染まって
しまっていた。
 途端に、目を背けたくなってしまった。
 だが…御堂は、どうしても…目の前の相手に釘付けになってしまった。

―自分が、彼を殺してしまった…

 まだ辛うじて息はあるが、この出血量から見ても…大急ぎで病院に
搬送しても、彼はもう助からないことは明白だった。
 後、十分もすれば…彼の命は確実に途絶えるだろう。
 そうなれば…言い逃れは出来ない。
 御堂に待っているのは殺人者という烙印。
 捕まれば…これから先、十数年は拘束されるか…下手をすれば
死刑となるだろう。
 情状酌量を求めるとすれば、あの凌辱された事実を警察に
話さなければならない。
 だから…自分の刑は軽減されることは絶対にない。
 …その事を誰かに話すぐらいなら、素直に罪を被った方がマシだからだ。

「だ、ろう…な…なら、受け取れ…俺の、ポケットに…ある、から…」

「な…にを…?」

 相手の声は、あまりに掠れていて…聞き取りづらかった。
 けれど…苦しそうでも、彼は必死になってその言葉を綴っていった。

「お前の…ビデオ、の…録、画…だ…」

「っ…!」

 その言葉を聞いた時、信じられなかった。
 だが男は…微かに笑いながら…身体を必死になって捩って…
御堂が、取りやすいように僅かに…右側のポケットを露出させていった。
 最後に気まぐれに見せた、相手からの情。
 それが憎くて仕方なかった相手を…別の存在に変えていってしまうのが
信じられなかった。

「そ、んなの…嘘、だ…」

「早く…。それを、受け…取った、ら…、逃げ…ろ…」

「なっ…!」

 更に信じられない気持ちになった。
 だが、男は…儚い表情を浮かべながら、見つめていく。
 
「どうして…この後に、及んで…そんな事を言うんだ…!」

 とっさに御堂は叫んでしまっていた。
 今まであれだけ酷い男であり続けた癖に…最後の瞬間にこんな
事をいうなど、反則以外の何物でもなかった。
 憎いだけの相手なら、殺したって胸の痛みなど何も覚えないで済むと
いうのに…どうして、今更…こんな温情を見せるのか、逆に恨みたくなった。
 御堂にとって、そのビデオの録画は…絶対に他者の目になど触れられたくない
代物だった。
 あれがどんな形でも、誰かに見られてしまったら…御堂にとっては
身の破滅を招きかねない。
 だからこそ脅迫の材料に使われてしまったのだ。
 それを男は、自分が刺されて…命を失うその寸前に、返そうとしていたのだ。
 何故、そんな真似をするのか…御堂には分らなかった。
 だが、その行為によって麻痺していた心が…痛みを訴え始めていく。

―それでようやく、御堂は自分が強い後悔をしている事を自覚してしまった

 鼓動が、呼吸が乱れ始める。
 心臓が壊れてしまって、そのまま破裂しそうなぐらいだった。
 それでも、御堂は相手の元に近づいて…そのテープを回収しようとした。
 その時、意識がふいに遠のくのを感じていった。

「っ…!?」

 突然、ブレーカーが落ちてしまったかのように…身体の自由が
効かなくなって、意識がブラックアウトしていく。
 前触れなど、まったくなかった。
 けれど抗いがたいぐらいに…闇が、唐突に襲いかかって御堂の
意識を呑みこんでいく。
 だから御堂は、受け取れと指示されたビデオの録画を…

 バタン!

 そうして…彼は、意識を昏倒させてその場に倒れ込んでしまった。
 だからこの夜に…この後、どのような事が起こったのか、 彼は一切の
情報を得ることが出来なかった。
 この惨状を知る存在の祈りも、堕落へ誘う悪魔の囁きも…すでに深い
闇に落ちてしまった彼には知るべくもなかった。

―やれやれ…面倒くさい事になってしまったものですね・・・

 そして、御堂と佐伯が倒れているその現場に…もう一人の第三者が
立って呆れたような声を漏らしていった。

―その後、何が起こったのか…御堂は知ることがないまま…夜明けまで
深い眠りの中へと浸り続けていったのだった―
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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