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描写になっています。
それを了承の上でお読みください(ペコリ)
それでも随分と遠くて小さくしか見れないし…。まあ、そのおかげで
こうして二人きりで過ごせる訳ではあるがな…」
軽く染まっていく。
突き刺しながら克哉の口元にそれを宛がっていた。
口に納めるのはちょっと大変だったが…口の中でトロリと
蕩けるようで美味しかった。
口の中に放り込んでいく。
かも知れなかった。
たこ焼きを二人で半分こした程度では腹が膨れそうもないからな…」
お好み焼きとかじゃがバターとか…」
あぁ、でも…どんな屋台があったかな…)
いきなり眼鏡の唇がそっと寄せられていく。
つい条件反射的に喉が鳴ってしまっていた。
立ち寄る可能性があるかも知れない。
そんな笑みを口元に刻んでいった―
その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。それを了承の上でお読みください(ペコリ)
―あの事件から三年後、佐伯克哉はようやく…もう一人の自分と再会を果たす
事が出来た。
それから長らく厄介になっていた片桐の家を後にして、克哉はどうにか…
マンションを借りて、もう一人の自分と一緒に暮らすようになっていた。
それから一ヵ月後、新しく住み始めた近くで縁日が開かれると聞いて…
克哉はもう一人の自分と一緒に出かけたいと提案し、そして二人は…浴衣を
身に纏いながら縁日へと赴いていった。
流石に都内の外れとは言え、祭の当日は相当な賑わいを見せていた。
克哉は水色の、流水をイメージさせる柄の浴衣を。
眼鏡の方は黒の記事に…銀色の、風の形を象った文様が袖口と背中に
掛けて流れるように刺繍されているシンプルな物を纏いながら、連れ立って
歩いていた。
人ごみが半端じゃないので、手を繋ぎながら…人の波を掻き分けるようにして
進んでいく。
神社の鳥居を潜ると、其処には様々な縁日の屋台が並んでいた。
その上には鮮やかな提灯がぶら下げられて…周囲を照らし出し、すでに辺りは
完全に暗くなっているにも関わらず、眩くて目が痛くなるぐらいに明るかった。
「…随分な人の出だな。こんな処にわざわざ出かけたいと願うなんて…お前も
相当に酔狂だな…」
「…悪かったな。けど…せっかく、こうやって一緒に過ごせるようになったんだから…
思い出作りに、一緒に出かけたいと思ったって良いだろ? 俺達、ただでさえ…一緒に
暮らすようになってからも外出は殆どしてない訳だし…」
「あぁ、そうだな。再会してからというもの…週末は殆ど外にも出ないで、日長一日…」
と、恐らくとんでもない内容を平然と続けそうな気配を感じて、克哉はとっさに
もう一人の自分の口を掌で塞いでいった。
「…っ! これ以上、ここでは言うなよ…! 誰が聞いているのか判らないんだし…!」
軽く頬を赤く染めながら、克哉が拗ねたような顔を浮かべていく。
それは言うまでもない。…週末になれば、克哉の今の仕事は土日のどちらかは休みが
貰える。それで…休日前になれば、熱烈に身体を重ねて…あっという間に一日は終わって
いるのだ。
それは…三年間、焦がれて止まなかった腕をもう一度取り戻せたのだから仕方がない
事と判っていても…まるで高校生のカップルのような過ごし方に、恥ずかしくなる。
けれど…その、一度くらいはちゃんと出かけたかったのだ。
思い出になるような…そんな一日を、もう一人の自分とちゃんと過ごしたくて…浴衣を
こっそりと二人分用意して、誘いを掛けたのだ。
「ムガ…」
眼鏡は暫くもがいていたが、暫くすると観念して大人しくなっていった。
そして黙って…克哉の手を繋いで、進み始めていく。
「…お前、どこの屋台をまず見て回るつもりだ?」
「…ん、そうだね。何の屋台からが良い? りんご飴とかあんず飴、わた飴辺りが
定番だと思うけど…」
「却下だ。俺は甘い物を好きじゃないって…お前なら判る筈だが。というかそれくらいの
嗜好はお前と一緒の筈なんだが…?」
「いや、オレだって確かに甘いものは苦手だけど…一つぐらいなら、良いかなって
思うんだけど。せっかく縁日に来たんだから…さ」
眼鏡の指摘した通り、克哉は甘い物の類は得意な方ではない。
どちらかと言えば食べ物でも酒でも、辛党の方だ。
だがまったく甘い物が食べれない、食べたくない訳ではない。
出されれば多少は口にするし、疲れている時にはたまに食べたくなる事だって
あるのだ。
特に縁日なら、その気分を満喫出来るなら一つぐらいは食べたい…という
気持ちがある。
ちょっと困ったように言い返していくと…眼鏡は溜息を一つ突いて。
「…その中で、俺が付き合ってやっても良いと思えるのはせいぜいりんご飴だな。
それで良いな」
「えっ…う、うん…!」
そして強引に人波の中を進んでいきながら、りんご飴の屋台の前で足を止めていく。
迷わず、小さなりんご飴を二つ購入していくと一つを克哉の方に差し出していった。
「ほら、これで良いか…?」
眼鏡らしい、ぶっきらぼうな物言いだ。
けれどそれが…彼らしくて、つい克哉は懐かしくてクスクスと笑ってしまっていた。
「ありがとう。うん…一番小さい奴でOKだよ。…あんまり大きいのを最初から選んで
しまうと、他の物が入る余地がなくなっちゃうからね。…で、次はお前が食べたいのを
選んでよ。どうせだから…一緒に食べよう?」
ニコリ、と微笑みながら…眼鏡の顔を見つめていく。
すると…自分と同じ顔をした男はう~ん…と唸りながら少し考え込み始めていった。
「…やはり…たこ焼き、お好み焼き、焼きそば辺りが定番か?」
「うん、縁日らしい食べ物って言ったらその辺りかな? 後…焼きとうもろこしと
焼きイカっていうのもあるよ。どれが食べたいの?」
「…値段に見合うだけの味の物なら、どれでも良いがな…あの店で良いか」
りんご飴の屋台から3軒くらい隣に、たこ焼きの屋台があった。
そこのたこ焼きばボリュームがある代物らしくイイダコの他に、一つ一つに
うずらの卵が一緒に入っていて大きい物であった。
その代わりに一つ一つが非常に大きく、6個も入れば透明な細長いパックの
中身はパンパンに詰まってしまっている。
それが逆に500円という値段に見合っているような気がして…眼鏡は迷わず
其処のたこ焼きを一個購入していった。
「親父、そこのたこ焼きを一つだ!」
「へい! 毎度…少々お待ちを!」
喧騒で声が掻き消されることを恐れてか、その屋台の店主の声が威勢が良い
ものであったせいか…つられるように眼鏡の声が大きいものへと変わっていく。
店主は手馴れた様子で、たこ焼きの上に荒削りな鰹節と紅しょうが、そしてマヨネーズを
トッピングしていくと…細長い串を二本、輪ゴムの間に差して袋に入れて手渡していく。
「ほい! 兄さん毎度! うちのは美味しいからほっぺを落とさないように気をつけな!」
「は、はい…」
そこら辺は流石に商売人である。
愛想もまた料金の内というか…無骨な顔の造りの割りに、たこ焼き屋のおっちゃんは
満面の笑顔を二人に向けて見送ってくれた。
「うわぁ…たこ焼き、凄いあったかくて美味しそう。流石…『俺』だね。ちゃんと美味しそうな
店を選んでいる辺りが…」
「当然だ。あのりんご飴屋の周辺に他にも、焼きそば屋とお好み焼き屋もあったが…
あの近くだと、このたこ焼き屋が一番…手際が良くて、客の裁き方も上手かった
からな…。そういう処に、良い店か悪い店かの違いが出る…」
「…良くあの人込みの中でそこまで観察出来るよな…ある意味凄いよ…」
克哉も観察力はそれなりに優れている方だが、やはり…眼鏡を掛けた自分には
その点は敵わない部分があった。
あぁ、でも…まだ夕食を食べていないので暖かいたこ焼きの誘惑は耐え難い
ものがあった。
グ~…と大きくお腹が鳴っていくのが判る。
「わっ…」
つい、大きく鳴ってしまって克哉は顔を真っ赤にしていく。
だが一人の自分はそんなのはお見通しらしかった。
やや意地悪げに笑っていくと、フっと目を細めて…。
「…どうやら、お前は相当に腹を空かせているみたいだから…どこか落ち着ける場所を
探した方が良さそうだな。其処でそのたこ焼きを一緒に食べるか」
「う、うん…」
恥ずかしさで顔を赤く染めながら、克哉は素直に頷いていく。
そんな…克哉を見て、眼鏡は一瞬だけ柔らかい笑みを垣間見せていったのだった―
例の事件の後、本多は二週間ほどで職場に復帰し…彼を跳ねた工場長も
それに見合う刑罰を素直に受けたようだった。
本多の怪我は全治一ヶ月程度で、幸いにも輸血を受けたので今後献血が
出来なくなった程度の後遺症しかなかった為…刑罰も傷害罪と、近くの車を
何台かぶつけたりして損傷させた器物損傷罪の二つを受けた。
傷害罪が懲役15年以下又は罰金30万。
器物損傷罪は三年以下の懲役、又は30万の罰金だ。
これが本多が死亡したり、後遺症を負ったりしたらもっと刑罰は重いものに
なっていただろうが…幸いにも、一ヶ月程度の怪我で済んだ為に男の刑罰は
思ったよりも軽いものになっていた。
ただ、50代後半の無職な男が支払うには…その額でも大金ではあったが。
金銭がない以上、男が受けたのは懲役刑の方で…両方合わせて、5~6年は
世間に出てくる事はないだろう。
御堂達は男が受けた刑罰の内容を知ってからは、その後は特に追わなかった。
また逆恨みしてこちらに危害を与えてくる可能性がないではなかったが…その時は
こちらも幾つか対策を立てて迎え撃てば良いだけの話であった。
そして全てが片付く頃には、季節は春を迎えていた。
三月の下旬ともなれば…寒さも穏やかになり麗らかな陽気の日もチラホラと
出てくる頃だ。
だが、桜の開花を間近に控えているせいか…近頃は天候がぐずついた日が
多く、この日の朝もうっすらと灰色の雲に空全体が覆われて、ポツポツと雨が
降り注いでいた。
御堂孝典はその光景を…ベッドから身体を起こして、ぼんやりと眺めていた。
(もう…朝だな…今日は雨か…。まあ、克哉と過ごす場合…週末はあまり外に
出かけたりはしないから影響は少ないがな…)
ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、ゆっくりと自分のすぐ隣のスペースを
眺めていった。
キングサイズのベッドの上、自分の傍らには克哉が安らかな顔を浮かべながら
静かな寝息を立てていた。
当然、二人共…裸である。
三ヶ月前には自分達は名実ともに恋人同士になっているのだ。
…週末に、こうやって一緒に過ごして愛し合うのは…すでに当たり前の日常の
一部と化していた。
「…良く眠っているな。…まあ、昨晩も随分と遅くまでつき合わせてしまったのだから
無理もないがな…」
フっと瞳を細めながら…克哉の柔らかい髪に指を伸ばしていく。
サラリ、とした感触が妙に心地良くて御堂は優しく微笑んでいった。
克哉の身体のアチコチには、幾つもの赤い痕が刻み込まれている。
それは…御堂の強い、彼への執着心の現れみたいなものだった。
正式に交際するようになってから、すでに三ヶ月が経過しているのに…
自分は別会社に勤めているのに対して、克哉が本多と一緒の会社に未だに
勤務している状態は、御堂の心をやはりヤキモキさせていた。
それが週末、こういう形で表に現れてくる。
(…自分がここまで、大人げなかったとはな…)
佐伯克哉という存在と出会ってから、どれぐらい自分ですら知らなかった
一面に気づかされた事だろう。
どんな良い女と付き合っても執着して来なかったのが嘘のようだ。
克哉だけは、絶対に他の人間に取られたくないと切に思う。
恋人の気持ちは自分だけに注がれているというのは判っている。
だが、御堂と結ばれてからの克哉は…何と言うか妙に色っぽくて可愛くて、
傍にいるだけで心が大きく揺れ動く程だ。
だから御堂の心は、落ち着くことはない。
―今もまだ、こんなに克哉を求めている気持ちが吹き荒れている。
「克哉…」
まるで壊れ物に触れるかのように、自分の隣で安らかに眠っている克哉の
頬にそっと触れていく。
暖かくて柔らかい、滑らかな頬の感触に満足げに笑みを浮かべていく。
「んっ…御堂、さん…」
克哉がうわ言で、こちらの名前を呼んでいくと更に愛しさが募っていく。
柔らかく唇を塞いで、熱い吐息を吹き込んでいくと…。
「んん、んぅ…」
甘ったるい声を零しながら、克哉は覚醒していった。
「…起きたか?」
とても優しい瞳を浮かべながら御堂が声を掛けていく。
それを見て…パっと克哉の顔が真っ赤になっていった。
まったく…恋人同士になってすでに三ヶ月、週末が来る毎に数え切れないくらい
抱き合っているというのに、未だに克哉の反応はウブで…時折、見ているこちらの方が
照れてしまうぐらいだ。
「…はい、おはようございます。御堂さん…」
「あぁ、おはよう…」
恥じらいの表情を浮かべる克哉に妙にそそられて、御堂の中に悪戯心が
湧き上がっていく。
そのまま克哉の耳元に唇を寄せていくと…耳穴の入り口の周辺に舌を
やんわりと這わせて、くすぐり始めていった。
「…ひゃっ…!」
「…相変わらず敏感みたいだな。まだ朝だというのに…そんな声を聞いたら
こちらは妙にそそって、仕方なくなってくるぞ…?」
「そ、そんな…! それは御堂さんがこちらに、悪戯なんて…仕掛ける、
からですし…んんっ!」
揶揄するような御堂の言葉に反論していくも、緩やかに熱い舌先で耳の中を
犯されて、抽送を繰り返されていくと妙に卑猥で…起き抜けだというのに身体が
熱くなってしまう。
クチュ、グチャ…ヌチャ、グプ…!
脳裏に余りに卑猥な水音が響いていく。
それは行為中の接合音をいやでも連想させてしまって…昨晩の淫らで熱い夜の記憶を
克哉の中に蘇らせていった。
(だ、駄目だ…! こんな音を聞かされたらどうしても昨日の事を思い出して、しまって…
もう、抗えない…)
ただ耳の奥を舌先でくすぐられていくだけで克哉の身体は反応してしまい…背筋から
這い上がっていく甘い衝動に耐えるように全身を震わせていく。
「あっ…はっ…や、朝から…そ、んな…!」
「ほう? 口ではそんな事言っている癖に…君のここは早くもこんなにしこって…
私の指を弾き返さんばかりになっているぞ…。相変わらず感度は抜群だな…」
「ひゃ、うっ…!」
気づけば御堂から上に圧し掛かられるような体制になって、両方の胸の突起を摘まれて
執拗に愛撫を施されていた。
恋人に指摘された通り、胸の尖りは硬く張り詰めていて触れられる度に克哉の全身は
ビクビクビク、と鋭敏に跳ね上がっていく。
耳と胸、たったそれだけ弄っただけでも克哉の身体は真っ赤に染まり…瞳には艶めいた
光が浮かんでいく。
恐らく、他の誰も知らない克哉の媚態。
それがこんなに御堂の心を熱くさせて、深く捕らえていく。
―誰にも渡さない。君は私だけのものだ…!
愛しさと独占欲が同じ激しさを持って御堂の心の中に湧き上がっていく。
己の所有を示すように、首筋に…胸元に、赤い痕を刻みまくった。
痛み交じりに、強引に快楽を引きずり出されていって克哉は荒い吐息を零しまくって
必死に御堂の背中に縋り付いていく。
そんな余裕のない仕草すらも、御堂の心を煽って仕方なかった。
「あっ…御堂、さん…! そんなに、弄ったら…オレ、は…」
「…どこまでも感じれば良い。幸い、今日は週末だ。君を可愛がる時間はたっぷりと
あるからな…」
「そ、んな…! 昨晩も、あんなに激しく…した、ばかりなのに…あぁっ…!」
御堂の手が強引に性器を握り込んで、やや性急に扱き上げていくとそれだけであっという間に
手の中で硬度を増して、先端から蜜を零し始めていく。
「…そんな事を言って。君のモノはすでに…こんなに、熱く張り詰めて私の指を弾き返さん
ばかりになっているぞ…?」
「そ、れは…! 貴方に触られたら、オレはいつだって…感じずに、なんて…いられない
んですから…!」
「良い、言葉だな…。そんな事を言われたら、もっと君を啼かせたくて仕方なくなってくる…」
「あうっ…! はっ…あ、んんっ…!」
御堂の手はあまりに的確に克哉の快楽を引き出していくので次第にまともな単語すら
紡げなくなっていく。
形の良い唇から零れるのはただ、熱く悩ましい嬌声だけ。
それを聞きながら御堂は克哉の肌に、所有の痕を刻みつけながら…もう一方の手で
奥まった箇所を暴き始めていった。
「んあっ…! や、其処は…」
「…口では拒んでいる割には、すぐに私の指を食んで離さなくなっているぞ。…もう、
ここに欲しくて仕方ない。そう訴えているみたいだな…」
「や…ぁ、お願いです…。そんな事を、口に出して…言わないで、下さい。恥ずかしくて…
死にそう、になりますから…」
「事実だろう…? それに、私だって君が欲しくて…堪らなくなっているんだ…」
恋人同士になってセックス時に、揶揄するような意地悪な物言いをする部分は
あまり変わりはなかった。
それでも、以前に比べて、どれだけ際どくて意地悪な発言をしていても…瞳だけは
とても優しく、慈しみに満ちていた。
自分の下肢の狭間に、すでに硬くなっている御堂の灼熱を押し当てられて…ゴクリ、と
息を呑んでいく。
触れられている箇所が、ドクドクドクと荒く脈動を繰り返して自己主張している。
愛しい相手からこんなものを宛がわれてしまったら、抗えない。
「あ、熱い…です…。御堂さん、のが…」
「…あぁ、君の中に早く入りたいって、暴れている。入るぞ…克哉…」
「ん、あぁ…!」
唇を貪るように重ねられていきながら、御堂のモノが強引に克哉の内部へと押し入って
根元まで捻じ込まれていく。
その圧迫感に、質感に…克哉はその背中に懸命に縋り付いていきながら耐えていった。
昨晩、散々に貫かれて御堂を受け入れ続けた其処は、再びあっさりとそのペニスを深々と
飲み込んでキツく締め付け始めていく。
「…くっ…まさに、私のを食いちぎらんばかりだな…君の、此処は…!」
「はっ…あぁ! や…そんな、に早く…奥を突かない、で…! すぐに耐えられなく、
なってしまいそう…ですから…」
「…それは聞けない、な…。私は、君をグチャグチャにしたくて…もう、堪らなく
なっているのだからな…」
「んあっ…!」
そのまま激しく、強く御堂が律動を刻み始める。
克哉はそれにただ翻弄されるしかない。
最奥に向かって執拗に突き上げられる中で、片手でペニスの敏感な部分を攻め上げられて
気が狂いそうになる程の悦楽が背筋を走り抜けて、克哉を支配していく。
感じる部位は、御堂に昨晩に散々弄られ続けて痛いぐらいだ。
それでも更に其処を攻められ続けていくので強烈な快楽と鈍い痛みが交互に克哉を
苛むように襲い掛かって来る。
「あっ…はっ…御堂、さ…! ダメ、も、う…本気で、オレ…おかしく、な、る…!」
「あぁ、どこまでもおかしくなれば、良い…。君が乱れて狂う姿を…私は、もっと…
見たくて仕方ないからな…」
「そ、んな…はっ…! あっ…イイ! 御堂さん、ソコ…悦い…!」
御堂の丸みを帯びた先端が的確に克哉のもっとも感じる部位を擦り上げていくと
顕著にその身体を跳ねさせて、克哉が悶え始めていく。
余裕なさそうに克哉が必死に御堂に縋りつく瞬間。
男としての支配欲と独占欲がもっとも満たされる時でもあった。
「あぁ、もっと…私を感じろ。克哉…私、だけをな…」
他の事が、他の男の事などその瞬間だけでもまったく考えられなくするように
抽送を早めて克哉を快楽の園へと叩き落していく。
これだけの攻めに果たして誰が抗えるというのだろうか。
ただただ、克哉は御堂の激しさに翻弄されて喘ぐ以外の事は出来そうにない。
(御堂さんのが…こんなに、張り詰めてオレの中でドクドク…言ってる…!)
御堂の欲望を、情熱を最奥で感じ取って克哉は身を震わせていく。
呼吸は乱れてまくって苦しいけれど、それはもっとも彼が満たされる一時でもあった。
愛しい人間が自分の中にいて、感じてくれている。
求めてくれている、それをまざまざと感じ取って…克哉の身体が大きな喜びと愉悦で
震えて小刻みな痙攣を繰り返していく。
―もうすでにこれが起き抜けである事なんて関係がなかった。
ただ御堂が欲しくなって、浅ましいくらいにこちらからも腰を振りながら強く締め付けて
共に頂点を目指していく。
「あっ…御堂、さ…んっ! も、う…!」
克哉が切羽詰った声を漏らしていきながら…一足先に上り詰めて、射精しながら御堂の
腕の中で果てていく。
それに連動するように、御堂にも限界が訪れる。
ほんの何十秒かの時間差。それによって達したばかりで鋭敏になっている身体に
勢い良く熱い精が注がれていく。
それだけでも感じて、感じまくって克哉の身体はビクビクと激しく跳ねていった。
「克哉…!」
御堂が掠れた声音で恋人の名を呼びながら…その身体の上に崩れ落ちていく。
お互いに忙しい息を吐いて、肩で呼吸をしていた。
触れ合っている肌は両者とも汗ばみ、うっすらと雫が伝い始めていった。
「ん…好き、です…大、好き…」
「あぁ、私もだ…」
うわ言のように零れる睦言に、同意を示していきながら…唇にキスを落としていってやると
克哉は本当に嬉しそうに微笑んでみせた。
二人の胸に幸福感が満ちていく。
あまりに幸せなので、このまま眩暈すら感じそうだ。
そのまま静かに抱き合っていくと…荒かった鼓動が収まり、代わりに激しくなった雨音が
部屋中に響き渡っていく。
自分達が愛し合っている間に、雨脚は随分と強くなってしまったようだった。
「…雨、随分と降っているみたいですね…」
「…そうだな。君を抱いている間は行為に夢中になってて気づかなかったがな…」
「もう…そういう、恥ずかしくて居たたまれなくなるような事を平気で言わないで下さい…」
そういって自分の胸に顔を埋めて、耳まで赤くなっている恋人をクスクスと笑いながら
抱き寄せていく。
そういえば、こんな風二人でいる時にこうやって土砂降りの雨が降るのは三ヶ月前の
あの日以来なような気がした。
今思えば、あの日…本多がやって来て、目の前であの男が跳ねられて。
その数日後に、あの男に対して「克哉を愛している」と正直に答えた日から…自分達は
正式な恋人同士になれたような気がした。
その前にも一度、抱き合っていたが…あの時はまだお互いに怯えが残っていて
遠慮しあっていたように思う。
誰にも渡したくないと。本気で愛しているのだと…命を狙われて、死を意識したからこそ
気づいた本心でもあった。
(…雨、か。今思えば…克哉と何かあった時は…いつも、雨が降っていたな…)
最初の雨の日では、決別を。
遠くから彼と本多を眺めていた日も、一ヶ月ぶりに再会した日も、そしてあの事件が
起こった日も全て雨が降り続いていた。
そのおかげで…どうしても、接していてあの日の泣きそうな顔を浮かべながらマンションの
前に立っていた克哉のイメージが御堂の中で消えてくれなかった。
それがいつの間にか払拭されて…克哉の笑顔がすぐに頭の中で再生出来るようになった
のは果たしていつぐらいからの事だったのだろうか…?
「…最初、貴方と再会したばかりの頃は少しだけ雨が怖くなっていました…」
暫く沈黙が続いた後、ポツリと…克哉が呟いていく。
「貴方と決別した日が大雨だったから、雨が降る度に…また、貴方がいなくなって
しまうような気がして…去年の12月くらいは雨が降ると密かに憂鬱になっていました。
せっかく会えたのに…また、貴方と離れてしまうのは嫌だと。そう願っていたから
あの当時は雨が怖くなっていました…」
「私、もだ。…また、君の背中を見失ってしまうんじゃないかと…あの当時は少し
不安を感じていたな…」
「…御堂さんも、ですか。…ふふ、何か同じ気持ちだったと聞くと少しだけくすぐったい
気持ちになりますね…」
そういって、御堂は優しく克哉の髪を梳いていった。
その手つきはとても優しくて、愛されているのだと強く実感出来た。
「…けど、今は怖くない。ちょっと時間は掛かってしまったけれど…貴方に愛されているって
実感していますから。もう…あんな風にうやむやな形で貴方を見失ってしまう事は
ないって…ようやく思えるようになりましたから…」
そうして、蒼い瞳を穏やかに細めながら…克哉は嬉しそうに笑っていった。
「あぁ、私ももう…あんな形では君の手を離したり何かしない…」
あの時はお互いの気持ちが見えなかった。
だから潔く身を引く事が、あの決して対等ではない…恐らく克哉にとっては屈辱的な
感情が伴う関係を終わらせるのが彼の為だと判断した彼は、一度は克哉の前から
姿を消す決断をした。
だがどうしても、自分の中から克哉への想いが消える事はなかった。
あの時はどうしても引け目を持ってしまって、強気に出れなくなっていた部分があった。
だが今は違う。お互いに想いあっている手応えを感じている。
克哉に愛されていると実感出来る。だから二度とあんな形では御堂は克哉の手を離す
ような真似は出来ないだろう…。
「…嬉しい。貴方が、そういってくれるのが…」
そういって花が綻ぶように笑う克哉が心から愛しく感じられた。
もっと近づきたい、重なりたい衝動を覚えて…まだ繋がった状態のままで克哉の
手を指を絡めるように握り込んでいった。
「…君をもう、誰にも取られたくないからな…」
その本音を呟きながら、唇を重ねていく。
もうすでに…雨音も、気にならなくなっていた。
そうして入間に心地良い疲労感を感じて、眠気が訪れる。
「…どうしよう。今…凄く、幸せです。御堂さん…」
「…そうか」
そっと瞳を伏せながら、克哉が胸元に頭を擦り付けてくる。
御堂はそんな恋人を、フっと微笑みながら抱好きにさせていった。
そのままそっと抱き締めて、改め互いの身体の上に布団を被せていった。
―もう、雨が降っても怖いと思う事は二人はなかった。
相手の気持ちが、今は自分に向けられていると確信出来るから。
それが二人の間に絆を生み出していく。
雨が降ろうが大嵐になろうと、もう天候で気持ちを左右される事はない。
気持ちをそれだけ強く持てるようになったのも…愛し、愛される関係に自分達が
なれたからだろうか。
言葉がなくても、穏やかに満ちた何かが二人の間に流れていく。
こうやって寄り添っていれば、確かなものが感じられる。
それが二人の心を確実に強くしていった。
もう、雨の日に起こった悲しい記憶は遠い。
代わりにそれは幸せな記憶に上書きされて、儚いものへと変わっていった。
これからも自分達はこんな幸せな日々を積み重ねていけるだろう―
「…孝典、さん…大、好き…」
克哉が勇気を振り絞って、御堂の下の名前を呼んでいく。
甘い痺れとくすぐったい気持ちが湧いてくる。
「…まったく、君はどこまで可愛い真似をすれば気が済むんだ…?」
そう言いながら、こちらの心を大きく跳ねさせる発言を零した唇をお仕置きとばかりに
深く塞いで抱き締めていく。
日曜日の昼下がりはそうやって過ぎていく。
彼らはこれからも、そんな甘くて幸せな日常を繰り返していくのだろう。
悲しみの記憶が薄れて霞むぐらいに。
もう雨を見ても、泣いている克哉の残像が御堂の中で蘇ることがなくなる日までずっと―
祈りは時に大きな力を生む
一人の男が失恋してでも、本気で想う相手の幸せを願った事で
本来ならばここまでの幸せを得る事が出来なかった道のりで、二人は確かな
幸福を手にする事が出来たのだ。
この幸せを当然のものと思わず、感謝し尊いものである。事を噛み締めていく限り
彼らはこれからも、こうやって幸せを積み重ねていける。
どんな雨も、悲しみも必ず晴れる日は来る。
暖かな太陽が雨を退けるように、悲しみに凍った心が人の優しさで柔らかさと暖かさを
取り戻していくように…。
優しい時間と空気が流れるようになった二人は、もう過去の痛みの伴う気持ちで
支配されて強い不安に苛まれることはなかった。
相手に愛されていると、今は強く確信を持てるから…。
「克哉…」
愛しい男の腕に包まれて、克哉は安らかな寝息を零し始める。
そんな彼を優しく包み込みながら御堂もまた…再びまどろみの中に落ちていく。
そっと指を絡めていきながら、二人の意識は落ちていく。
―その時の二人の顔は、どこまでも満ち足りた幸せなものであった―
帰宅してからすぐに力尽きてしまって、ソファの上で朝まで眠りこけて
しまっていたので書けませんでした。
…今週の前半とかは中耳炎で痛くて満足に寝れてなかったから
その影響とかあるんでしょうね(苦笑)
という訳で本日中に書き上げる形にしました。
が、気合入れて書き過ぎて現在ちょっと話が長くなっているので
恐らく30日中に上がりません。
日付は確実に越えます(汗)
その代わり待たせてしまった分、最終回は少しサービス要素入れて長めの
内容にする予定。
…ちょっと小説版の御克読んで、萌えチャージもしておいたし(笑)
日付はどれくらい越えるか判りませんが、とりあえず今晩はこれを書き上げて
からじゃないと眠らないぜ! ぐらいの気持ちで行きます。
日付越えから午前二時くらいまでの間にアップします。
二日連続で休むのはちょっと嫌なんで!(きっぱり)
次の連載は、例のアンケート企画で二位に来た克克の夏祭り、在りし日の
残像のその後、を間に挟むか…すぐにメガミドカツな、夜の繁華街を舞台にした話に
するか悩み中…がお。
一から新しく書き直したらこの時間になりました。
日付変更まで掛かりました。うわ~ん!
ま~でも…こっちの方が良い出来になったので良しとする。
最初に克哉と御堂さんが一緒にお見舞いに行ったバージョンだと、本多が
ちょっと御堂さんに意地悪や挑発しまくってギャグな展開になってしまって
いたので…(汗)
お笑いに走って全てを台無しにする寸前でしたわ…。
という訳で次回最終回です。
けど起きれなかったら…金曜日夜にアップする形になるかもです。
ご了承下され(ペコリ)
本多の手術は無事に成功して、その晩の内に峠は越したが…
二日間は個室に入院して、面会謝絶の状態になっていた。
その間、御堂と克哉は…警察に出頭して事情聴取の協力をしたり
現在の御堂の勤めている会社の駐車場の敷地内で起こった事で、会社の
方にも説明をしに赴かなければならなかったりと…やる事が山積みに
なってしまっていたので、あっという間に土日は過ぎてしまっていた。
こんな状態では、克哉と甘い時間を過ごす処ではなかった。
そして月曜日、御堂はいつものように出社して精力的に仕事をこなした後、
定時で上がり…本多が収容されている病院へと足を向けていた。
「418号室…ここか…」
御堂はメールに記されていた部屋の番号を確認していくと、その個室の
病室の扉を開いていった。
本多はどうやら起きていたらしく、ベッドの上で身体半分を起こした状態で
どうやらテレビを見ていたようだった。
個室は5~6畳ぐらいの大きさの部屋で、入り口の処にはちゃんと
洗面所やトイレの類もついている。
ベッド周りにはテレビ台やクローゼット、ミニ冷蔵庫の類も
ちゃんと完備されていて身の回りの事でそんなに不自由は感じさせない
造りになっていた。
だが、御堂が室内に足を踏み入れると…普段、人懐こい笑みを浮かべて
いる男の顔が引き締まったものになっていく。
「…御堂さん、来てくれたんですね」
「あぁ…君には借りがある。呼び出されたのならば…応じない訳には
いかないだろう」
「…来て下さって感謝します。…どうしても、御堂さんに一つだけきちんと
聞いておきたい事がありましたから…。あ、どうそその辺の椅子にでも
適当に掛けて下さい」
「いや、良い。普段ディスクワークで座りっぱなしだからな。少しぐらいは
立っていた方が筋力低下を防げる」
座るのは断ったが、御堂はゆっくりと…本多の方へと歩み寄っていった。
冷たいリノリウムの床の上に、革靴がコツコツと音を立てて反響していく。
窓の外に広がる空には、相変わらず曇天が覆ってしまっている。
本日も午前中は雨で…夕方からは降ったり止んだりを繰り返しているような
不安定な天候だった。
「…大した物ではないが、見舞いの品だ。食欲があるようなら…食べて
やってくれ」
「わっ…これ! 凄い高級そうな箱に入っていますけど…もしかしてメロン
ですか? 俺の為にわざわざ…?」
「そうだ。これくらいで君から受けた借りが返せるとは思っていないが…
せめてもの私からの気持ちとして受け取って欲しい」
「う…ス。ありがとうございました」
そこでようやく、本多の方の緊張が少し解れたらしい。
いつもの彼らしい朗らかな笑顔が覗き始めていった。
「…あ、克哉は…キクチからなら…多分、6時くらいまではここには来れないでしょうから
それまでに話を終わらせましょう」
「あぁ、それは私も賛成だ。それで…君が私に聞きたい事というのは…何だ?」
本日、日中に御堂の元に本多から一通の電話が届いた。
それは御堂が現在勤めている会社に就職が決まった際に…以前に付き合いが
あった人間に対して一斉に送ったハガキに記してあったものだった。
そして電話で「本日、仕事が終わったら早めに来て欲しい」と告げられて…
終業後に一緒に見舞いに行こうという話を取り付けて、克哉から病室の番号の
確認メールを受け取って、御堂はここに赴いた訳である。
二人の間に、緊張が走っていく。
それはそのまま…三日前の、駐車場での空気の再現に近いものがあった。
「…あの日の話の続きっすよ。御堂さん…克哉の事をどう、想っているんすか。
今回は…正直に答えて貰えますよね」
「…なら、私の方からも…一つだけ問い返させて貰おう。何故…君は
そんな事を私に聞くんだ?」
御堂は何となく、その理由をすでに察してはいた。
だが敢えて確認の意味でそう問いかけ返していく。
「…そちらに正直に答えて貰いたいなら、俺の方も率直に言うのが筋ですよね。
だからはっきり言います。俺は…気づいたのはつい最近なんですが、克哉の事が
好きなんです。友達としてでなく…特別な意味で。けど、克哉は…御堂さんの事を
心から想っているみたいだから、俺は…吹っ切る意味でも、あんたの気持ちを
聞いておきたいんです。あいつが…幸せになれると、そう確信出来そうな答えを…
御堂さんの口から聞けたら、俺はきっと…諦められると思うから」
「…やはり、な」
本多からの返答は、ほぼ御堂の想像した通りの内容だった。
普通…ただの友人の為に、雨の中にその相手先の下に押しかけたり…自分が
大怪我をするか一歩間違えれば命を落とすかも知れないのにこっちを庇ったりは
しなかっただろう。
それだけの事をしでかすには、その相手に…そう、恋心を抱いているとか
強烈な事情がない限りは考えにくい事だ。
「…君が克哉を、特別な意味で好きだという理由ぐらいなければ…あの日の
君の行動も言動も腑に落ちないものが多すぎたからな。普通はただの「友人」の
為だけにそこまではしないものだ」
「はは…バレバレでしたよね。けど…うん、まああの時は損得勘定なんて
吹っ飛んで反射的に身体が動いちまっていたし。俺も御堂さんも結果的には
助かって、こうして無事にここにいるんですから良いっすよ」
「無事、だと…?」
本多が何でもない事のように笑っていくのが妙に気に障って、御堂の眦が
一気につりあがっていく。
アバラが何本も折れて、あちこちの骨にヒビが入って…出血多量と体温低下で
生死の境を彷徨ったのは普通「無事」とは言わないだろう。
「…命を危険にまで晒した癖に…無事などと言う君の神経が理解出来ないな」
「…大丈夫っすよ。昔、バレーの猛特訓とかで骨にヒビが入るぐらいは何回も
ありましたし。それくらいなら…俺の中じゃ大怪我には入らないんで」
(どこまで体育会系バカなんだ…この男は…)
流石に今の発言だけは御堂の理解の範疇を超えていたので、正直眩暈が
してきた。自分と本当に生きている世界が違うのだと思い知らされた感じだった。
「…って、本題から話を逸らさないで下さいよ。…まだ、俺が聞きたい事に
対しての返答を聞いていないんですから。…お願いですから、しっかりと答えて
下さい。御堂さんが…克哉の事をどう思っているかを…!」
その瞬間、本多の顔は真摯なものへと変わっていった。
真っ直ぐで、直情的で…作為的なものなど何も感じられない真摯な態度。
…こちらもそれに絆されたのだろうか?
御堂はようやく観念して、胸に秘めていた克哉への気持ちを目の前に男に
吐露していった。
「…愛している」
それは、克哉にさえ照れ臭くて言えていない…想いの篭った一言。
あまりにストレートな言葉が飛び出して来たので…最初それを聞いた
本多自身がびっくりしてしまった。
「はっ…?」
「えぇい! 何を呆けた顔をしているんだ! 君が聞いたんだろう…!
私が克哉をどう想っているか…今の言葉が全ての答えだ! これで
満足だろう!」
「えっ…あ、の…その。御堂さんの口から…まさかそこまで直球な言葉が
飛び出してくるなんて…思って、いなくて…! ちょっと驚いてしまって…!」
「だ、か、ら! 君が質問したんだろう! 何度も言わすな…! 今の一言が
私の気持ちだ! だから…克哉の事は諦めて貰おう! 私は…克哉を
手放すつもりはない。君につけいる隙など…与えるつもりはまったくないからな!」
顔を真っ赤にしながら、そんな事を御堂が言うなんて…想像もしていなかった
だけに…本多は面食らっていた。
心底驚いて、顔を真っ赤にしながら…その場に硬直してしまった。
「…な、何ていうかその…そこまで言われると当てられますね…」
聞いているこちらの方が恥ずかしくなるような…想いの込められた答えに
顔を真っ赤にしながら本多が口元を覆っていくと…。
ガシャン!
ドアの向こうで…何かが盛大に落ちて割れたような、そんな音が響き
渡っていった。
瞬時にして二人が身構えていく。
「だ、誰だ!」
御堂が誰何の言葉を発していくと…控えめな様子で、ドアがゆっくりと開いていって
其処には顔を耳まで真っ赤にした克哉が立っていた。
『『克哉!』』
本多と御堂の声が、綺麗にハモっていく。
そんな二人を…いつもの背広姿の克哉が、申し訳なさそうに交互に見回していった。
「…あ、あの…立ち聞きをするつもりはなかったんだけど…二人があんなに大きな声で
話しているから…嫌でも、聞こえてしまって…! 特にオレの事が話題に上って
いたから…その…」
どうやら床に落下したのは…お見舞いの花を生けてあった小さな花瓶だったらしい。
床の上では克哉が購入してきた花がちょっと無残な状態で広がっていた。
けれど…片付けよりも、克哉は今の御堂の爆弾発言が気になって仕方が無いらしい。
オズオズと…御堂の方を見つめていきながら、克哉は呟いていった。
「…あの、今の…言葉、本当ですか…? 御堂さん…」
「…あぁ、私の本心だ。だが克哉…一体、いつから其処に…」
「…御堂さん。実は、今日は…克哉はそちらよりも早くに俺の病室にお見舞いに
来てくれていたんすよ。片桐さんの計らいでね…」
「何だと!」
そう、通常のキクチの定時であったのなら…その本社からこの病院まで辿り着くのは
早くても18時は越えるだろう。
だが、本日は…片桐が気を利かせて、結果的に克哉は御堂よりも早い時間帯に…
本多の病室に立ち寄っていたのだ。
だが、本多は…この話だけは御堂とサシでつけたかったから…お見舞い用の花と
何か果物を買って来て欲しいと口実をつけて克哉を一時的に遠ざけたのだ。
そして帰って来た克哉は…その現場を耳にする事となった訳である。
「…全て、聞いていたのか…?」
「は、はい…」
克哉が顔を真っ赤にしながら…コクン、と俯いていく。
その仕草が妙に可愛らしい。
本多がすぐ傍にいなかったら、その場で唇を奪って貪りたくなるくらいに
愛らしくて仕方なかった。
「…こんな、偶然に聞いてしまった形でしたけど…その、御堂さんが…オレの
事を愛してるって言ってくれて…凄く、嬉しくて…」
頬を赤く染めながら潤んだ瞳で克哉がこちらを見つめてくる。
それを見て…御堂の方の心拍数は増大していった。
ドクンドクンドクンドクン…!
二人の間に、甘い空気が流れ始めていく。
御堂と克哉はお互いに見つめあい…そして、沈黙していった。
「…あ~あ、人の前で見せ付けてくれちゃって。まったく…付け入る隙がないって
もう充分判りましたから、続きは他の処でやって下さいよ。もう…御堂さんの
気持ちは聞けましたしね…」
「ほ、本多…」
本多は苦笑しながら、それでもどこかさっぱりしたような表情を
浮かべていた。
これは彼にとって、失恋決定の場面だった。
御堂の気持ちは克哉に向いていて、克哉の気持ちもただ…御堂に
一途に注がれている。
この状況で、自分が入り込む隙間なんてない。
これで克哉を欲しいと自分が望んで、引き裂くような真似をしたら…却って
大切な友人を苦しめてしまうだけだろう。
その事実をようやく…彼は受け入れて、恋心を手放す決意をしたのだ。
「…幸せに、なれよ。俺の見舞いはもう良いから…行けよ。もう…
答えは聞けたから充分だし、今はちょっと…一人にさせて貰いたいからさ」
「で、でも…」
「良いんだ。克哉…行こう。こういう時はそっとしておいてやるものだ…」
克哉は、花瓶の件もあったし…本多の事が気になって留まろうとした。
だが、それを御堂は制していく。
「本多君。ありがとう…君が私を庇ってくれたことは…心から、感謝する。
君のお節介な心遣いは…正直、ちょっと閉口したがな」
「へえ、御堂さんを閉口させることが出来たなら俺もなかなかのモンですよね…」
本多の顔が、笑みを刻もうとするが…それはどこか、泣いているような
切なさを帯びていってしまっていた。
ダンダンと顔を俯かせて、二人に顔を見られないようにしていく。
―それを無理に暴かないでいてやるのが、最大の労わりだろう。
「…お幸せに」
それは、本多からの精一杯の強がりの、祝福の言葉。
好きだと自覚した直後に…この想いを諦めるのは辛かった。痛かった。
涙が零れそうになりながら…それでも、精一杯の気持ちを込めて…本多は
その一言を搾り出していく。
それは本当に心から相手を想って、身を引く潔さがなければ出来ない行為。
克哉は…本多から、その言葉を受け取って迂闊にも涙を零しそうになっていた。
「あぁ、幸せになる。ありがとう…本多君」
克哉が言葉に詰まって返事出来ないでいると…代わりに御堂がそう答えて
そっと、その肩を抱いて退室していく。
それは…灰色の雲の中に差す、一条の鮮烈な陽光のような…輝ける言葉だった。
「…あり、がとう…」
そして克哉も、掠れた声でそう…本多に告げていく。
儚い言葉が届いたのか、届かなかったのか二人には判らなかったけれど
その瞬間…俯いている本多が、微かに笑ったような気配を感じた。
そして…二人は病室を後にしていく。
―その瞬間、曇天の雲の隙間から鮮やかな黄金の太陽が煌いていた
もうじき日が沈み、夜の帳が覆おうとしている寸前に…最後に見せた
陽の光は…とても鮮烈で、目を焼く程であった。
「わぁ…」
克哉の口から、思わず感嘆の声が零れる。
それを見て…御堂はそっと克哉を引き寄せていった。
「…雨ばかりが続いていたから、凄く…太陽が眩しく見えますね…」
「あぁ…」
どんなに冷たい雨が続いても。
悲しみが続こうとも、雨が必ず止んで太陽が覗くように。
悲劇も終止符を打たれる日が絶対に来るのだ。
僅かな時間だけ垣間見えた太陽の光を受けて…御堂の中の
雨の中で泣いている克哉のイメージが一瞬だけ、消えていった。
代わりに…。
―この瞬間、日の光を受けて柔らかく微笑む克哉の笑顔が刻まれていく
「…克哉」
それはとても愛おしいもののように感じられて…御堂はぎゅうっと強く
抱きすくめていく。
「み、御堂さん…っ?」
「…黙っていてくれ。他の人間が来て…しまうだろう…?」
「…はい」
言われた通りに、御堂の腕の中に収まった状態で克哉が黙っていく。
陽の光を浴びた色素の薄い瞳は、まるで何かの宝石のように映った。
それに引き寄せられるように…御堂はそっと顔を寄せて。
―愛している
今度こそ、彼に向かってずっと言えなかった言葉を伝えていく。
克哉は…幸福の余りに、一筋の涙の粒を零していった。
「…御堂、さん…」
そして、太陽が再び闇に消える直前に…二人の唇は瞬きする
間だけ重なっていく。
何度も何度も再会してから…想いを通じ合って、やっとこの瞬間に
お互いにそれを噛み締めて実感出来たような気がした。
お互いの気持ちは、間違いなく注がれていると。
ようやく確信することが出来て…二人は幸せそうに微笑んでいく。
愛しさがこみ上げてくる。
その幸福感を、こみ上げてくるような想いを感じながら…二人は
そっと抱き合っていった。
―もう御堂の中で悲しみの雨の記憶は遠くなっていく
雨は必ず止む日が来る。
もう…悲しい思い出に振り回されるのは止めよう。
そして幸せな記憶を積み重ねよう。
心に刻んでいこう。
―ようやくこの瞬間に、紆余曲折を経て…自分達は幸福をこの手に
掴み取れたのだから…
執筆時間だけでは書き切れませんでした。
という訳で、続きは夜に書いて掲載させて頂きます。
23話も、余裕あったら書き足して万全にするかも…。
いかんせん、昨日の夜は疲れて21時前にはソファで力尽きて
眠りこけてしまっていたので書き足しする処じゃなかったので。
今晩に時間取れたらやります。
では、また夜に参上します。ではでは…(ペコリ)
―ほんっと、信じられない! 太一のバカァ!
…数時間前の、自分の叫びを思い出していきながら…
佐伯克哉は、都内の小さな噴水のある公園の敷地内に
立ち寄って、ベンチに座りながら空を眺めていた。
10月の中旬に入って、空気はひんやりとし始めていたが
太陽が出ている間はやはりポカポカと暖かく…ただ、目を瞑って
日向ぼっこをしているだけでも気持ちが良かった。
(良い天気だなぁ…)
しみじみと思いながら、佐伯克哉は…そっと、手を上に組み上げて
座った状態で大きく伸びをしていった。
克哉は着慣れたシンプルなデザインのパーカーにジーンズという
簡素な服装をしていた。
太一と一緒に駆け落ち同然にアメリカに渡ってから三年。
向こうで成功して、それなりに名が知られるようになった頃…連絡を
続けていた本多の紹介で、MGNの新商品のタイアップ曲に太一の
新曲が登用される事になった。
克哉と太一はそれをキッカケに帰国して現在は日本を拠点にして
活動をしていた。
CMに使われたタイアップ曲は、太一が全力を注いで作った力作で
あった為に大変な評判を呼び、あっという間に日本国内においても太一の
バンドは名が知られるようになった。
それから実に多忙な日々を送って…何ヶ月ぶりかに二人でゆっくりと
何日か過ごせる休暇をようやく設定出来たのだ。
そして本日は…久しぶりに恋人同士として甘い一時を過ごせる幸福な三日間の
始まりであった筈なのに…。
「あ~あ…勢いで飛び出してしまったけれど…これから先、本当に
どうしようかな…」
しょんぼりと肩を落としていきながら…少し切なそうな表情を浮かべて
克哉は空を眺めていった。
空には眩いばかりの太陽が燦然と輝いている。
お日様を見ていると、どうしても太一の事ばかり考えてしまう自分は
本当に重症だと思った。
「太一の、バカ…あんな事を、エッチした翌朝に耳元で囁かれたら恥ずかしくて
顔を見ていられなくなって当たり前じゃないか…」
つい、無意識の内に右耳を押さえながら克哉は顔を真っ赤にしていく。
―…克哉さん、あのね………
一瞬、さっき囁かれた言葉が鮮明に脳裏に蘇って、火が点きそうな勢いで
瞬く間に耳まで朱に染まっていった。
そう、その言葉が余りに恥ずかしくて…照れくさくて、こそばゆくて仕方なくて
それで、それを隠す為に太一に向かってバカバカ言って、軽い喧嘩をしてしまって
飛び出してしまったのだ。
(せっかく…二人で一緒に休める連休が取れた初日に…何をやっている
んだろうな…オレって…)
現在、東京都内を拠点に活動しているので東京郊外のマンスリーマンションを
借りて二人は暮らしていた。
それで先に飛び出して来たのは自分の方の癖に、太一はちゃんとした
朝食を食べただろうかとか気にしてしまっていた。
「…太一、ちゃんと今朝作っておいたワカメとネギの味噌汁に気づいて
飲んでくれたかな…。放っておくと、太一ってコンビニ食とかカップラーメンで
過ごしちゃうからな…」
恋人としても、太一のバンドをマネージメントしている人間としても…
どうしても相手の体調や健康が気になってしまうので、ついそんな心配を
してしまっていた。
太一のコンビニ好きは海外で三年過ごした上でも相変わらず…いや、むしろ
日本を離れていた分だけちょっとグレードアップしてしまっている部分があった。
だから暇を見て移動中にコンビニに行きたがるし、目を盗んで抜け出して
知らない内に新しいレトルト食品やカップラーメン、お弁当類の類が
増えている事は数え切れないくらいあった。
(…って、喧嘩して出て来たばかりなのに、どうして太一の体調の心配とか
しちゃっているんだよ…オレは…)
そんな事を真剣に考えている自分に気づいて、つい突っ込みたくなりながら…
ホウっと息を吐いて空を眺めていく。
克哉の中で、太一のイメージはいつだって太陽だ。
ポカポカと暖かく、こちらの身も心も暖めてくれる。
彼にとって、今…自分の大切な恋人となった年下の青年は、そんな存在だった。
「本当に、太一は…オレの事を全身で好きだって言ってくれる…想いをちゃんと
口に出して伝えてくれるのは凄く嬉しいけど、ね。あんまりにもストレートすぎて、
真っ直ぐすぎて…やっぱりたまに、困惑しちゃうな…」
苦笑を浮かべながら、三年間一緒にいて…今まで太一がこちらに与えて
くれた沢山の宝石のような言葉を思い出していく。
それを思い出した後、鮮明に相手の笑顔を思い出して…幻の中の太一が
しっかりと告げていく。
―克哉さん、大好き!
あまりに屈託なく、そう告げてくる太一の顔を思い出して…知らず微笑んで
しまっている自分がいる。
せっかくのオフの日に、こうして離れて過ごしているのは不毛なもかも
知れない。
けれど…まだ、太一の下に帰る気になれなかった。
(…まだ気持ちがモヤモヤして、すっきりしていないな…)
太陽を眺めて、つい恋人の事ばかり考えてしまっている癖に…同時に
形容しがたい感情がジワリ…と広がっていった。
そう、それは言葉に出せない違和感に近かった。
こんなささいな事で、太一のことを嫌いになんてなる訳がない。
今までの人生の中で彼ほど、自分を好きだと言ってくれた人間はいなかった。
必要としてくれた存在はなかった。
けれど…帰国して日本国内で正式に音楽活動を始めてからは余りに
多忙な日々が続いていてて…こんな風に一人で物思いに耽る暇すら
なかった事に気づいた。
そのことに気づいて、克哉は己の胸に手を当ててそっと考え始めていく。
―何か忙しい日々の合間に、取りこぼしてしまった想いがある…
太陽を見てて、その事におぼろげながら気づいていく。
その答えを知りたくて、もう少しだけここにいたい気持ちになった。
(もうちょっとだけ…こうして、日向ぼっこをしていようかな…)
恐らく、あんな書き置き一枚残して黙ってアパートを出て来た自分を
太一は必死になって探しているだろう…それは判っていた。
けれど、もう少しだけ…一人になって、しっかりと見つめてみたかった。
こんなモヤモヤした気持ちを抱えたままでいるよりも、すっきりとした気持ちと
笑顔で戻りたいと思ったから。
そう考えて、空を眺め続けている克哉に向かって爽やかな風が静かに
吹いていった。
―忙しい日々に埋もれた、自分の想いをカケラを見つけ出したかった
そう思ったから、克哉はそっと吹き抜けていく秋風を素直に受けていきながら
目を伏せていく。
顔を上げていくと見事な秋晴れの空が広がっていたのだった―
21時を回った頃くらいだった。
到着した直後、手術室の前で心細そうな表情を浮かべて長椅子に
座っていた克哉を見て…思わず保護欲を掻き立てられてしまった。
すぐ傍の手術室には『手術中』と言うランプが点灯している。
それを眺めながら…思ったよりも本多の体内に突き刺さっていたガラスは
多かった事を思い知った。
「…克哉、本多の容態は?」
「…まだ手術中のランプが消えないから、判りません。ただ…病院に到着
してから看護婦さんとか医者が血相を変えて手術室に空きを作らなくてはとか
体温を暖めたり輸血の準備を…って言っていたから、余り良いとは言えない
状況です…」
「そうか…なら、私も一緒にここで待とう。…一応、念の為に夕食につつしまやかで
申し訳ないが簡単につまめる物を持って来ておいた。一緒に食べよう」
「…はい、わざわざありがとうございます」
そういって手に持っていたコンビニ袋を掲げて見せながら…御堂はさりげなく
克哉の隣に座っていった。
こうして近くで見てみると…克哉の顔は相当に青かった。
本多の事を心から案じているのだろう。
そう思うとまた、チリリ…と嫉妬心が疼く想いがした。
(何をさっきから考えているんだ…本多は克哉にとって、同僚であり友人でも
あるんだ。大怪我したりしたら…心配するのは当然じゃないか…)
そう理性が囁いていくが、どうしても胸の中の焼け焦げるような感情は
消えてくれない。
だから…さりげなく克哉の肩に腕を回して抱き寄せていった。
…病院内で人目につく可能性があったが、克哉は本気で顔を青ざめている。
それなら…本気で案じている友人を労わって、と見えなくないだろう。
御堂はそう判断して、らしくない態度を取った。
「…暖かい」
暫くしてから、ボソリ…と克哉が呟いていった。
「…何も食べていないから、恐らく身体が冷えているのだろう。…そんな物しか
用意出来なくてすまないが、何も胃に入れないよりはマシだと思う…」
「はい、ありがとうございます。…けど、御堂さんがコンビニのおにぎりを買って来るとは
思いませんでした。何となくイメージに合わない気がして…」
「…あぁ、普段は滅多に食べない。時間の無い時にテイクアウトするのはサブウェイとか
街にあるある程度名の知れたパン屋の類が多いからな…」
「やっぱり…何となくオレにもそういうイメージがありました。何かしっかりした店を
選んで食べていそうだなって…」
そういってようやく、克哉がクスクスと笑っていく。
御堂は何となく居たたまれないような気持ちになって…頬を染めながら軽く
ソッポを向いていた。
いや、彼とてもう少し時間的な余裕があったのならば…しっかりした店でサンドイッチの
一つぐらいは用意したかった。
しかし警察の調書作成に協力したら思いの他、時間が取られてしまっていて…例の
事故が起こった時から二時間以上があっという間に過ぎてしまっていたのだ。
本多と克哉の事が心配で心配で、大急ぎで駆けつけている最中…警察署のすぐ近くに
コンビニエンスストアがあったので、そこで久しぶりに…おにぎりぐらいは買って向かおうと
4つ程、購入したのである。
「頂きますね」
「うむ…」
すぐ隣で克哉がおにぎりの包装を剥がしていく音がする。
それに倣って…御堂も一旦、克哉の肩から腕を外して…コンビニのおにぎりの
包装を剥がし始めていった。
だが普段忙しい時に食べ慣れている克哉と違って、御堂は若い頃ならばともかく
ある程度の役職についてからはめっきり、こういった物を食べなくなって長い年月が
過ぎていた。
その為、手つきは何とも不器用なものになってしまっていって…。
ビリッ!
無残にも外側の包装に包まれていたおにぎりが破れる音が響き渡ってしまって
何となく恥ずかしい気持ちになった。
すぐ隣で、克哉はまたクスクスと笑っていた。
…何となく格好悪いような気がしてならなかった。
「…何か御堂さん、凄く可愛い…」
「言うな、克哉…。私だって凄く今…恥ずかしかったんだ…」
「…すみません、本当なら笑うべきじゃないって判っているんですけど…貴方のそんな
姿が見れるとは思いませんでしたから…」
「ふん…」
そして照れ隠しに、豪快に微妙に端の海苔が破れたおにぎりを頬張ってみせる。
克哉もそれに付き合って、黙々と食べ始めていく。
この時間まで何も食べていなかったせいか…各自、おにぎり二つなどあっという間に
平らげてしまっていた。
この分だったら、もう一つずつぐらい購入しておけば良かったと少し後悔したぐらいだ。
ついでに用意しておいたペットボトルのお茶を飲んでいきながら…克哉はしみじみと
呟いていった。
「ふふ、でも凄く嬉しいです。…貴方がこんな風に、オレに気を遣って労わって
くれる日が来るなんて…以前は想像した事もなかったから…」
「…あぁ、確かに…以前の私は、君に対して…酷かったな…」
先程、眼鏡を掛けた克哉の姿を見て辛辣な事実を叩きつけられたからだろうか。
どことなく…今の克哉の言葉と、表情が胸に突き刺さる想いがした。
そしてもう一度…さりげなくその肩を抱き寄せていく。
克哉の身体も…まだ、どことなく湿っていて冷たいような気がした。
お互いに雨に打たれていた事をその時、思い出した。
「…寒くないか」
「…大丈夫ですよ。病院内は空調が効いていて…むしろ空気が少し乾燥
しているぐらいですから…」
「そうか…」
どことなくぎこちないやりとりが続いていく。
けれど…ふとした瞬間、克哉の瞳が揺れている事に気づいた。
やはり、手術中の本多を案じているのだろう。
「…本多が心配、か?」
「はい…」
「…彼が助かると良いな。…私も、それを一緒に願おう…」
「…ありがとうございます…」
また、どこか儀礼的なやりとりが続いていく。
克哉の表情がまた浮かないものになって…心配の色が濃くなっていく。
それを見て、つい呟いてしまっていた。
「妬けるな…」
それは珍しく、御堂の本音からの言葉だった。
克哉はその一言を耳にして本気でびっくりしていった。
「…妬けるなって、御堂さんが…ですか?」
「あぁ、そうだ。本来ならそんな事を感じている場合じゃないって判っているが…
君がそんなに私以外の男の事を心配していると思うとな…」
何故、そんな事を言ってしまったのか…自分でも不思議だった。
だが、さっきの眼鏡の言葉に何かを感じたからだろうか。
自分はあまりに、言葉が足りないと。全て自分の胸の中に閉じ込めて
漏らさないから…周りの人間はそれで苦しんでしまっていると。
だから、ついポロリと本音が零れてしまった。
「…本多は、オレの友達です。貴方とは…次元が違いますから…」
「あぁ、判っている。だが…私達は再会してたった三日だ。想いを確かめ合ってから
それだけの月日しか流れていない。だから…私よりも長い時間、君と一緒にいた
彼に嫉妬している。私を庇ってくれたのは事実なのに…このまま助かって欲しいと
強く願っているのに…同時に、彼への嫉妬心が消えない…」
そういって、強く克哉を抱き締めていく。
少しだけその身体が震えているような気がした。
克哉がこちらの頬にそっと手を伸ばしてくる。
優美な造りの少しだけ冷たくなっている指先を感じて…御堂は真っ直ぐに
克哉の瞳を覗き込んでいった。
真摯な眼差しを、そのアイスブルーの瞳に注ぎ込んでいく。
「…貴方が、そんな事を言ってくれるなんて…思ってもみませんでした…」
「…みっともないな、私は…」
「…いいえ。オレは逆に安心しました。…嫉妬をしてくれるくらい、貴方はオレの事を
想ってくれたんだなって…」
どこか儚く、克哉が笑っていく。
その表情はすぐに壊れてしまいそうなぐらいに切ないもので…それを留めたくて
強く強く、その身体を抱きすくめていく。
お互いの肉体が熱く感じられる。
思いがけず、想いの篭った抱擁を受けて…克哉は、嬉しそうに呟いていった。
「…こんな時に、不謹慎だと想うけど…凄く、嬉しい…」
泣きそうな瞳を讃えながら、克哉が呟いていった。
引き寄せられるように…そっと顔を寄せていく。
窓の外には大雨が未だに降り続いて、病院の廊下にもその雨音が響いている。
そんな中で…二人は、静かに唇を重ね合う。
「好きだ…」
初めて、御堂の唇から…『好きだ』という単語が零れていく。
それを聞いて…一筋の涙を、克哉は伝らせていった。
「…御堂、さん…」
こんな時に言うのは反則かも知れないという想いはあった。
けれど…知らず、言葉は口を突いてしまっていた。
雨はまるで涙のようだけれど。
―涙には心を浄化する作用がある
この溢れるように流れる雨が、御堂の意地を張る心をほんの少しだけ
潤わせて柔らかくしていったのだろうか…?
「…オレ、も…貴方を大好きです…」
その一言を告げて、やっと…克哉が微笑を浮かべていく。
それは御堂にとって…宝物にしたいぐらいに、綺麗で可愛らしい表情だった―
御堂の背後と、目の前に同一人物が立っている。
同じ服装に、同じ造作の顔。
しかし目の前に立っている男の瞳だけは…自分の知っている
佐伯克哉と大きく異なっていた。
どこまでも冷たいアイスブルーの瞳。
御堂にとって愛しいと感じる頼りない方の克哉の青が、海を連想させるなら
目の前の男の瞳は大気圏のどんな生き物も生息できない空の、他者を
絶対に寄せ付けない蒼だ。
(これは誰だ…? 本当にこの男は克哉…なのか…?)
「どうして君がここにいるんだ…? ですか…連れないですね。愛しい御堂さんの為に
頑張って先回りをしただけの話ですよ…」
からかうような口調で、男が声を紡ぐ。
声音すらも…まったく別人のようになってしまっている事を怪訝に思いながら
御堂は即答する。
ザーザーと雨が激しく降り注ぐ中、それでもお互いの声だけははっきりと
聞き取る事が出来たのは…それだけ相手の言葉に意識を集中させていた
からだろうか…。
「嘘だな。君は私の背後で…本多の為に、自分が濡れるのも構わずに傘を
必死に差している筈だ。私の先回りをしてその男を捕まえるなど…不可能だ」
「…けど、実際に俺はこうして此処にいるでしょう? それに俺の協力があったからこそ
貴方はこの男を取り逃がさずに済んでいる。それなら、それで良いでしょう。
同じ人間が同時に存在する…そんな奇跡も、この雨が見せた一時の気まぐれな
幻とでも解釈しておけば良い。生きていれば…時に、そんな神秘や不思議に一度ぐらいは
遭遇する事はありますよ…」
「悪いが、私はそういった類はまったく信じる主義ではないな」
これもすっぱりと即答する御堂を見て、可笑しそうに眼鏡は嗤(わら)う。
そこに不快なものを感じて…見る見る内に御堂の表情は強張ったものに
なっていく。
見れば見るだけ、接すれば接するだけ…これが自分が知る佐伯克哉と違いすぎて
不信感が増していく。
だが、自分はこんな彼に過去に接したことはなかっただろうか?
そうだ…克哉と初対面の時、一瞬にして別人のようになって。
目の前の男は、その傲慢で自信に溢れさせている方の克哉だ。
「…けど、事実ですよ。そんなに頭が固いと…思わぬ所で、真実というのを
取り零す恐れがありますよ…」
そして、男はコツコツ…と靴音を響かせながらゆっくりと御堂の方へと歩み
寄って行った。
咄嗟に、御堂は身構えてしまいながら…それを待ち受けた。
「…そんなに硬くならなくても良いですよ。俺は…もう行きますから。
あぁ、そういえば一つだけ言って置かないといけない事があったな。
…御堂さん、もう一人の『オレ』を頼みますよ。あんたに何かあったら
あいつは恐らく嘆くだろうから。あんたの良さは…人の事を当てにせずに
責任感を強く持って事に当たる事だが、言葉が足りなさ過ぎて…今回のように
大きなすれ違いを生んでいく。この男だって…」
そうして、自分が気絶させた男を一瞥しながら…。
「…あんたを、信頼していたんだよ。だから…何の説明も弁明もなく会社を
去っていった事でショックを受けた。そして噂に翻弄されて…間違ったあんたの
像を自分の中に作って、恨むしかなくなったんだ。哀れな奴だが…その悲劇の
一旦は、あんたにもある。もう一人のオレも…あんたと再会するまでは、本当に
悩んで苦しんでいたんだ。…あんたの一人で抱え込む性分は時に、そのような
苦しみを…生み出す時もあるんだと。それぐらいは…自覚してくれよ」
「…っ!」
御堂は、その言葉を受けて強張った表情を浮かべていく。
今まで、そんな事を自分に向かってぶつけてきた奴など…一人もいなかった
からだ。
だが、どれだけ指摘されようと…32年間生きて来て形成された人格を一朝一夕で
変えられる訳ではない。
「…克哉は、苦しんでいたのか…?」
「あぁ、あいつもあんたを好きで好きで…しょうがなかったからな。だから…
もう二度と、あいつに黙って姿を消さないで下さいよ? じゃあ…俺はそろそろ
行きますよ。もうじき…パトカーや救急車も到着するでしょうからね…」
眼鏡がそう告げると同時に、この駐車場の隅の一角に一台のパトカーが
到着したのが目に入った。
「待て…! 言いたい事だけ言って君は消えるのか…!」
「えぇ、そうですよ。同じ顔した男が同じ場所に二人存在していたら面倒な事にしか
ならないでしょうからね…」
そうして、本当に言いたい事だけ好き勝手に言ってのけた男はあっさりと
踵を返していく。
御堂はそれを追いかけようとした。
だが一度だけこちらを振り返った男の顔を見て、立ち尽くすしか…なかった。
余裕に満ちた、皮肉な笑顔が…とても切なく、悲しいものに変わっていたから。
そして…小さく、ポツリと告げていく。
―あいつを宜しく頼みますよ、御堂さん
それはまるで…とても大切な者を託すかのような、切な声音だった。
御堂は驚いて、言葉を失って立ち尽くしていく。
そうしている間に幻のように…眼鏡の姿は掻き消えていった。
それは雨が見せた一時の幻だったのだろうか?
御堂の心の中で猛烈な疑念が湧き上がっていく。
そうしている間に…救急車の方も到着して、本多は搬送されて…克哉も
付き添いとして同乗する事になった。
そして御堂は、元工場長の引渡しと状況説明する為に…その場に残る
事を選択していく。
本当は本多に克哉を付き添わせるのは、チリリと胸が焦げるような想いがしたが
自分には成すべきことがある。
個人的な感情に振り回されて良い時ではない。
それに克哉は、自分の事を好きだと言った。
大切な人間だとはっきりと告げてくれたのだ。
だから御堂は克哉を信じて…事後処理をこなしていく事に勤めていく。
そして全てが一通り片付いた後、克哉と連絡して…本多が搬送された病院へと
自分も駆けつけたのだった―
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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