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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―最初は何が起こったのか、良く判らなかった。
 
 轟音が周囲に木霊すると同時に、目の前には…一台の車の上に
人間が落下というという惨状が広がっていた。

「本多、君…?」

 とんでもないものを目撃したかのように、御堂の全身が震えていく。
 たった今、目の前で起こった事がとても現実の事とは思えなかった。
 自分達を目掛けて突撃してきた車のフロントガラスからボンネットの
部分にかけて落下した本多の巨体は、車体の前面部分を大きくひしゃげ
させて…盛大にガラスを破壊していった。

 フロントガラスは盛大にひび割れて、ボンネットの上やその周辺に
大きな破片が散らばっている。
 何個か、その大きな破片は本多の身体の奥深くに突き刺さり…辺りを
血に染めていく。
 だが、車の上で本多は苦悶の声を漏らし…時折、身体を震わせている。
 それだけで…彼は即死は免れた事に気づいて安堵していった。
 運転している男は、突然の事態に混乱しているようだ。
 ピタリ、と車が止まっているのを確認すると…御堂は本多を介抱すべく
その手前まで駆け寄っていった。

「…どう、して…! 私など庇った! 君は私の事を嫌っているんじゃ…
なかったのか…!」

 車の上に仰向けで倒れている本多に向かって、やや険しい表情を
浮かべながら問いかけていく。
 大声で声を掛けていくことで…本多の意識も覚醒したらしい。
 普段に比べると随分と弱々しい笑顔を浮かべながら…男は、
答えていった。

「…あ、ぁ…ずっと、前からあんたの事は、取り澄ました…嫌な奴だと
思って、いたぜ…」

「…なら、どうして庇った! あの状況で私を突き飛ばしたりなどしたら
自分がどうなるか判らなかったのか…!」

 御堂は、本気で憤りながら本多に訴えていく。
 嫌悪している相手に、こんな風に庇われるなど目覚めが悪くて
しょうがなかった。
 本多の行動が理解出来ないとばかりに怪訝そうな視線を投げかけて
何故、と問いかけてくるばかりだ。
 …まあ、その方が御堂らしいと思った。
 ここで自分に対して素直に感謝の言葉を言う御堂など、逆に気持ち悪くて
仕方ないだろう…。

「…俺だって、馬鹿な真似したなと思っている、さ…。だけど、あの瞬間…
克哉の顔が浮かんだ、んだ…。あんたの事を好きだって、切なそうな顔
して俺に答えてくれた…あいつの、顔がな…。それを思い出したら、
あんたに何かあったら…きっと、克哉は泣いて悲しそうにし続けるんだろうって
そう思っちまって…そしたら、反射的に庇っちまったんだ…」

 それは普段の彼の声の大きさに比べれば、まさに蚊の鳴くような
弱々しいものだった。
 そう、本多がとっさに御堂を庇って代わりに跳ねられた理由。
 それは…もしあれで、この男が命を落としたりなんかしたら…克哉は
きっと泣いて、嘆いて…正気でいられなくなるだろう。
 とっさに、そう考えたからだった。

「…あんたの為、じゃねえよ…克哉の為だ…。俺が、あんたを
庇っちまったのは…な…。俺にとって、どれだけあんたが嫌な奴で
いけすかなくても…克哉にとって、あんたは…大事な、人間なんだ…。
なら、ダチの為に身体を張るのは…当然、だろ…?」

 この時、本多は敢えて克哉を「ダチ」…ようするに友人と言い切った。
 克哉を特別な存在として想う気持ちはあった。
 けれどそれを必死に押し殺し…あくまで、ここで御堂を庇ったのは
友人の為と言い切るのはかなりの精神力を要した。
 御堂は、それで少しだけ納得したような顔を浮かべるが…すぐに
頭を切り替えて、今度は…ジタバタしながら、足をもつれさせた状態で
車を飛び出して来た「犯人」を捕まえようと駆けていった。

「うわぁぁ…! 目が、目が…何も、見えねぇ! 何が起こったんだ…!」

 男は、車内にいた状態でフロントガラスが盛大に粉砕し、大きな破片が
飛び散った事で…何枚かの破片で頭部を出血してしまい、自らの血が
目に入ったことで視界を失っていた。
 頭部は負傷すると、傷の大きさの割に大量に出血する部位だ。
 溢れんばかりに自分の頭から血が流れ続けている事で軽いパニック
状態に陥っているらしい。
 そんな男の肩を、御堂は乱暴に引き掴んでいくと…雨で濡れたアスファルトの
地面の上に引き倒していく。

「…観念しろ! 今…警察を呼ぶ! …こちらに対する殺人未遂でな!」

「…っ! その声は御堂か! 何でお前が無事なんだ…! 俺は確かに
あんたを狙って…!」

「…その、声は…! もしかして貴方は…工場長か? 風の噂で…
私が解雇されたのと同じ時期に、責任を取らされて首を切られたとは
聞いていたが…! 何故、こんな真似をした!」

 男の風体はかなりみずぼらしくて、ヨレヨレの灰色のコートに水色のワイシャツ。
それとゆったりしたサイズのライトブラウンのズボンを穿いていて…目元を隠す
ように毛糸の帽子を深く被っていたから…この男性に関しては作業服のイメージが
強かっただけに最初は判らなかった。
 だが、MGNでの商品の殆どは彼が工場長を勤めていた工場で生産していた
訳だから…声は聞き覚えがあったのだ。

「…うるせえ! お前がそれを聞くのか! 俺たちに責任をなすりつけて
とんでもない事を引き起こした癖に…責任を取って辞めたあんたはあっさりと
新しい会社で良いポストに就いて…! 俺なんて…定年退職まで本当に後、
数年の処まで来たのに長年かけて築いたポストも、当てにしていた退職金も
退職後のプランも全部奪われて…散々な目に遭っているっていうのに、
あんただけノウノウと暮らしているのが…許せなかっただけだ!」

「…誰がノウノウと暮らしている…だと? 私だって長年努力して
築いた部長という肩書きを失墜させられたのは同じだ! それが
理由でこんな真似をしたというのなら貴方は甘えているし…
こちらに対して逆恨みをしているだけだ! いい年をして恥ずかしく
ないのか!」

「何だと! 責任をこちらに押し付けて来たのはあんた達の方だろうが!」

「違う! 例の発注ミスは…工場側の確認ミスで起こっている。
ようするに…大隈専務が言っていたように、子会社であるキクチ側の
社員の責任ではない。君の部下の一人の間違いによって起こっている!
貴方はそれを知らなかったのか?」

「…っ!」

 この工場長と御堂が解雇される原因となった一件。
 それは…新商品の大量の発注ミスだった。
 大量の商品を、小口の処に。
 代わりに大手の処にごく少数の商品しか届かなかった事は
会社の信用問題にも関わる大きな失敗であった。
 だが、MGNの大隈専務は…その責任をキクチになすりつけようとして
御堂がそれを阻止し。
 そして結果…その失敗の穴を埋める事が出来なかった御堂は
MGNを去ることになった。
 それ以後、大騒動となってしまった事で御堂一人だけでは足りなくなって
結果…この工場長と営業、広報を担当していた責任者がそれぞれ
首を切られる結果となったのだ。

「・・・それは、本当なのか…? 本当に…ウチの工場の人間が
間違えて…?」

「…恐らく、貴方は失敗したキクチの社員を私が庇って失墜することに
なったという噂の方を耳にしたのだろう。だが…事実は違う。
あの一件は「工場側」の確認ミスで起こっている。断じて…キクチ側の
責任ではなかった。貴方はその事実を知らなかったから…湾曲して
物事を捉えてしまったんだな…」

「…あぁ、そうだ! あんたがいなくなってから色んな憶測や噂が
飛び交ったよ! 俺は特にあんたを信頼していたからな…。キクチの
人間なんて庇って、失墜した時に失望したし…その癖、自分はあっさりと
他の会社の役職について…。結局あれはあんたがMGNを陥れて
別の会社に移籍する為の茶番に過ぎなかったという噂を聞いた直後に…
俺の首切りも決定した! だから…俺はあんたが憎くて仕方なかったんだ!
時に強引な指示を出すあんたを信じてここまでずっとやって来たのに…
そんな真似をしたっていうのなら…それで、本来俺が得る筈だったもの
全てを奪われたのなら許せないと…そう、思ってな!」

「…そう、か。その辺まで…気が回っていなかったのは…私の失態で
あったかも知れない。だが…貴方がどう勘違いをして、このような事を
引き起こしたのか…同情の余地はあるかも知れないが、罪は罪だ。
警察の裁きは受けて貰おう…」

 そのまま…暴れる男を必死になって押さえつけながら、御堂は…
どうにか片手で携帯を懐から取り出し、警察に連絡をつけていった。
 だが、男が抵抗し続けるので…救急車の手配にまではどうしても
手が回り切れなかった。

「離せっ! 離せぇぇ!」

「…大人しくしていろ! これだけの事をして…罪を逃れようとするなど
絶対に許さない!」

 本気の怒りを込めながら、御堂は工場長を押さえつけていった。
 だが…そのおかげで、本多の方を介抱出来ない。
 あの重態で、この大雨の中に晒され続けていたら…恐らく
じきに危険な状態になる。
 せめてあの車の上から下ろすぐらいの事はしたかったが…今の自分は
この男を押さえつけるだけで精一杯だった。

(誰か…! 頼むから来てくれ…!)

 このままでは本多が、自分を庇って大怪我をしてしまった男の
命すら危うくなってしまう。
 今まで御堂にとって本多とはうっとおしいだけの態度のでかい男に
過ぎなかった。
 だが、あいつは…克哉がこちらを想っているから、という理由でこっちを
庇うような馬鹿な真似をする奴なのだ。
 …このまま、その馬鹿が命を落とすような事態になるのだけは
勘弁して貰いたかった。
 だから、真剣に御堂が祈っていくと…新たな人影が、駐車場に現れていく。

「…嘘、だろ…」

 その人物は呆然としながら、目の前の惨状に直面していく。
 目は大きく見開かれ、呆けた表情を浮かべながら…手に持っていた傘を
地面に落としていった。
 其処に立っていたのは、御堂と今夜約束を交わしていた佐伯克哉だった。
 御堂の方もそれに気づいていく。

「何で、本多が…」

「克哉! 今は呆然としている場合ではない! 早く救急車の手配を…!
事は一刻を争うんだ! 早く電話を!」

「えっ…あ、はい…!」

 ビクン、と震わせながら御堂の一喝しながら指示された事の通りに…
自らの携帯電話から119へと掛けて、ここの住所を告げていく。
 それが終わると同時に、克哉は慌てて…本多の元に駆け寄っていく。

―そんな彼らに、ただ…12月の冷たい雨は降り注ぎ続けていた―

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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