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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  克哉が夕飯の片付けを終えている間に、リビングのテーブルの上には
適温に冷やされた一本のワインと二種類のチーズが用意されていた。
 …テーブルに近づくと、独特の匂いが鼻についてそれだけで…克哉は
微妙に顔を引きつらせていたが、御堂の方は涼しい顔だった。

「とりあえず…今夜はワインはベリンジャーのホワイト・ジンファンデルを。チーズの
方はフランスのブリチーズ…そしてリバロを用意させてもらった」

「…はい。有難く…ご馳走になります…」

 やはり、苦手意識を持ってしまった物が目の前にあると…どれだけ隠しても表情や
態度に現れてしまうものだ。
 その様子を面白そうに眺めながら、御堂は鮮やかな手つきでソムリエナイフを使って
ワインボトルからコルクを抜いていく。
  その動作は流れるようによどみがなく、見ているだけで惚れ惚れしてしまう。

(やっぱり…孝典さんはこういう処は、格好良いよな…)

 視線でその感情が表れてしまったのだろう。
 克哉からの眼差しに気づくと…御堂はふっと目を細めて微笑んでいく。

「…私に見蕩れても…これ以上は何も出ないぞ? 佐伯…?」

「えっ…そ、そんな事、ないです!」

 図星を突かれて、つい顔を赤く染めてそっぽを向くが…御堂はその様子を見て
喉の奥で笑いを噛み殺していく。
 この年下の恋人はこういう処が可愛くて堪らないのだ。
 そのままエクスペール型のワイングラスの中に、鮮やかな桃色のワインを
丁寧な動作で注ぎ込んでいく。
 薄いクリスタルガラス製のグラスの中で液体が微かに揺らめき…テーブルの上に
僅かに赤みがかった影が差し込んでいた。

「…今夜のワインは、ブリの方に合わせてチョイスしてある。リバロの方には
もう少しどっしりした味わいの赤ワインが良く合うが…こちらの方が君にとっては
飲みやすいだろう」

「はい…それでは、頂きます…」

 そうして、何度か軽くグラスを回して…匂いを楽しんでから一口、口に含んでいく。
 鼻腔を突く柔らかくフレッシュなアロマが心地よい。
 鼻から空気を抜きながら…ゆっくりと喉に流し込んでいくと、その鮮烈な風味と
心地よい甘酸っぱい味わいに顔を綻ばせていく。

「…美味しいです。これ…凄く…」

「気に入って貰えたなら、良かった。それは一本千五百円程度の安価な物だが、
上質のワインにもひけにたらないくらいの味わいがある…。
 それとなら、ブリチーズも良く合う筈だ。そちらも試してみるといい…」

「えぇ…それじゃあ、こちらも…頂きます」

 そうして一口大にカットされたブリチーズを軽く齧っていく。
 ブリチーズは日本ではお馴染みのカマンベールと同じ原材料と
製法で作られているチーズだ。
 日本で一般的に売られているカマンベールは、どちらかというとこのブリチーズの
方に味わいや香りが近い。
 トロリとした味わいと、濃厚なコク…そして白カビチーズ特有の鮮烈な香りが
特徴だがウォッシュタイプの物よりも香りの類は癖がなく、チーズ初心者でも
気軽に試せる一品でもある。
 克哉もこれはすでに何度か食べた事があるので、気に入っている。
 ただこのワインと合わせる事は初めての経験だった。

「…本当だ。何というか…口の中で交じり合って、凄く良い感じになってる…」

 克哉が感嘆の表情と言葉を浮かべれば、御堂もまた満足そうな顔になっていた。
 カマンベールや、ブリなどのあっさりとした

「…これは気に入ったみたいだな。それでは…本題のリバロの方に行くとしよう。
 これから私がやるのと同じ手順で…試してみると良い。良く見ててくれ」

「はい…」

 御堂はナイフとフォークを両手に持っていくと…皿の上に置かれた
リバロの外側の赤い皮の部分をナイフで綺麗に切り分けて、中の柔らかい
部分だけをフォークの上に乗せていく。

「…こうすれば匂いをあまり気にせずに…中身の旨みたっぷりの部分だけを
味わえる。君もやってみると良い…」

「…はい、やってみます」

 リバロに限らず、ウォッシュタイプのチーズは…チーズに馴染みのない
日本人にとっては味も匂いもきつく感じられて、なかなか食が進まないものだ。
 チーズの熟成中に色のついた塩水で何度も洗って、有用な菌を繁殖させて
作るので腐敗臭に似た、強烈な香りがするのが特徴である。
 しかしウォッシュタイプの物の中では匂いは強烈でも味の方はマイルドで
馴染みやすく、皮を取り除けばチーズ初心者に薦めやすい味をしていた。

 クサヤが食べれるなら…ウォッシュタイプのチーズも食べやすいが、克哉は
残念ながら成長過程でこういう類の物をまったく口にして来なかった。
 前回に至っては、自分から「考典さんの好物をオレも試してみたいです」と
言っておきながら食べる前に匂いに参って気持ち悪くなってしまったのだ。
 皮を切り分ける手が何度か震えたが…どうにか無事に終えて、恐る恐る
中身の部分だけを口の中に放り込んでいった。

「……凄い、これ…味が濃厚で、カマンベールとかよりも旨みが凄く複雑で…
美味しい…」

「…あぁ、私も最初の頃はこの匂いに辟易したがな。慣れるとこの味わいと香りに
病み付きになってくる。そうやって食べると…リバロも馴染みやすくなるだろう?
この間は教える前に…君がダウンしてしまって、その暇もなかったがな…?」

「…それを言われると、その…凄く申し訳ない気持ちになるんですけどね…」

「いや、良い。君はゆっくりとでも…私が好きなものを知ろうと努力をしてくれて
いるからな…焦らなくて良い。少しずつ理解してくれれば…私は、十分だと
思っている」

「えぇ…貴方が教えてくれるものなら、全てを吸収したいですから…」

 その言葉を聞いて、御堂は満面の笑みを珍しく浮かべていった。
 …この厳しい人がこんな嬉しそうな顔をしてくれると言うのなら、幾ら努力
したって惜しくない。
 克哉がワインやチーズを学ぼうと思った最大の理由はそれだった。
 初めてワインバーに連れていかれた頃を思えば、今の御堂は信じられない
くらいに優しくて、初心者であるこちらの目線に立って選んでくれている。
 ついていくのは大変でも、それ以上の実りも感じられるのなら勉強も
辛くなかった。
 
 そのまま…二人の間に、ゆったりとした穏やかな時間が流れていく。
 二人でグラス二杯分程度も飲めば、ワインボトル一本分くらいなら余裕で
空けられる。
 心地よい酩酊感に浸りながら…静かに、お互いを見つめ合う。
 …真っ直ぐに視線を返して、柔らかく微笑んでくれているのを見れるだけで
痺れるような幸福感を覚えていく。

(…オレは本当に…御堂さんの事が…好き、なんだな…)

 こういう時、言葉はいらない。
 こちらも黙って微笑んで…返していくだけだ。
 隣に座っている御堂の手にそっと手を伸ばして…自分の手を重ねていく。
 顔を寄せ合って、そっち唇が重ねられると…お互いに、今食べたワインとチーズの
味と風味がするのが、何かおかしくて…嬉しかった。

 御堂の整った指先が、克哉の髪をやんわりと撫ぜ擦って…くすぐるように
通り過ぎていく。
 椅子に座った状態で身体をひねり、上半身だけお互いに向かい合わせた状態で
克哉は恋人に抱きついていく。
 啄ばむようなキスを何度も落とし、戯れ続けていくと…ふいに舌先で唇を舐められて
ドキリ、となった。

「んっ…はぁ…」

 ぎゅっと御堂の首元に抱きつきながら…克哉は、身体の力を抜いていく。

「…そろそろ、ベッドに行くか…? 克哉…」

 甘い声で御堂が囁くと、何故か克哉は…緩く、首を振った。
 いつもなら、コクンと恥ずかしそうに頷いて応えてくれる筈なのに…どうして
今夜に限ってはこの流れで、NOのサインを出すのだろうか?
 こちらが怪訝に思っていると…克哉は艶やかな表情を浮かべて…口元に
笑みを刻んで、告げた。

「…今夜は、貴方と一緒に…お風呂の方に…先に、入りたいんです。
…駄目ですか? 孝典さん…」

 克哉の上気した頬と、潤んだ瞳を見て…御堂は言葉に詰まっていく。
 
(…ったく、君は本当に…自分の魅力というのを…判っていないな…)

 そんな顔と眼差しを向けられて、提案をされたら…こちらが断れる筈がない
事ぐらいは理解して欲しい。
 深い溜息を突きながら、しみじみとそう思った。

「…君にそう言われて、私が…断る筈が、ないだろう…? それくらいは判って
くれても良さそうだがな…」

「…はい、ありがとう…ございます!」

 御堂がそう答えれば、克哉は悪戯っぽく微笑みながら…もう一度、
ぎゅっと恋人の首筋に抱きついていった―。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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