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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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「今日の夕食は…美味しかった。佐伯、ありがとう…」

 夕食が終わった時、御堂が満足そうに微笑みながらそう言ってくれたおかげで
克哉の方にも嬉しげな笑みが刻まれていく。
 
「…いえ、御堂さんが少しでも満足してくれたなら…良かった、です…」

 恥ずかしそうに俯きながら、呟いていく。
 御堂が帰って来てから少し甘い時間を一緒に過ごしてから…こうして二人で
夕食を楽しんだ。

「君は…どんどん、料理に関しても進歩しているな。カマンベールのフォンデュというのは
初めてだがシンプルでも意外に味わい深かった。君が用意した野菜の他に、
ドイツソーセージにもつけてみたが…良く合ってて楽しめた」

「えぇ…最初にレシピを知った時は簡単すぎて、大丈夫かなって思いましたけどオレも
これは気に入りました。早く食べないとすぐに冷めちゃうのが難点ですけどね」

 今夜克哉が作ったカマンベールのフォンデュの作り方は簡単だ。
 チーズの上の白カビで覆われている部分を薄く削いで、電子レンジに30~40秒ほど掛けて
黒コショウとレモン汁少々を加えて混ぜ込んでいくだけだ。
 これに茹でた野菜類やソーセージ、他の魚介類やカリっと焼き上げられたパンの類などを
つけて食べるとちょっとした贅沢な一品になる。

「いや、良い。他にもシーザーサラダの上に…レッドチュダーを細かくして乗せていたな。
そのアイディアは悪くないが…少しチーズの味が強すぎて、ドレッシングとぶつかり合っていた。
恐らくそのドレッシングなら…パルメザンチーズを細かくしたのか、フレッシュ系のものを
乗せた方がマッチすると思う。ただ…挑戦してみようという君の心意気は買おう」

「えぇ、少し俺もレッドチュザーだと…味と風味が強すぎたな、と思いました。
 白いドレッシングだから…白いチーズを掛けるより、鮮やかなオレンジの物を使って
みた方が色合い的に綺麗かな…と思ったんですけどね」

「…なるほど、君が使おうと思ったのはその視点の為か。それなら…色合いを良くしたいなら
シーザーサラダの上に少し焦がしたクルトンや、粉末のパセリの方を使うと良い。私が利用
しているような店では、そのようにして色合いを綺麗に仕上げていた」

「あぁ…なるほど。粉末パセリを使えば良かったんですね。勉強になります…」

 御堂は面白そうに笑いながら、こちらに対して丁寧に改良のアドバイスを
与えてくれている。
 克哉がサラダの上に細かく削って使ったレッドチュザーは南米産のアナトーという
植物染料を用いた、鮮やかなオレンジ色をしているチーズだ。
 プロセスチーズの類は、ベースにこれを使用しているので…日本人には馴染みやすい
味わいで濃厚で包み込むようなコクとバランスの良い酸味が効いているのが特徴だ。
 風味はそれほど個性が強くなく、これはチーズにあまり馴染みのない克哉でも
すぐに気に入った一品でもあった。

 パルメザンチーズは、洋食屋で良く「粉チーズ」として使われている物の
日本的な名称だ。
 正式名称はパルミジャーノ・レッジャーノと言い…本場のものだと世界中の
チーズの中でも最高峰と言われる味わい深いものだ。
 日本で一般的に使われているものは等級が低いもので、味わいも匂いも癖がない。
 逆にどんな料理にでも使えて、安価であるというメリットがある。

「後、ガーリックトーストもパリッと仕上がっていて美味しかった。スープも塩加減や旨みの
バランスが絶妙だったしな。…君は本当に少しずつでも腕前を上げているな。
…君に夕食を作って貰うのがこうやって…楽しみになるとは正直、嬉しい誤算だった」

「…御堂さんにそういって貰えると、こちらも作った甲斐があります…」

「…お世辞ではないからな。さて…こうして君にチーズを使った美味しい夕食をご馳走に
なった訳だし…私の方からも是非お返しをさせて欲しい。…良いな?」

 本来なら御堂からそう言われれば気持ちは嬉しい、と感じている筈なのに…何故か
克哉の顔が一瞬、強張っていく。
 それを察して、御堂は心から愉快そうに笑っていた。

「…佐伯、心配しなくても…この間のように何種類もウォッシュタイプのチーズをズラっと
並べたりしないさ。それに今夜は初心者でも大丈夫な食べ方をきちんと伝授しよう」

「えっ…あ、はい。それなら…オレも、頑張ります…」

 微妙に顔を引きつらせながら答える克哉に、更に愉しそうな表情になる。
 付き合い始めの頃に…お互いの好物の話が出て、御堂がウォッシュタイプのチーズと
ワイン全般と答えた時にマンステールやAOCの認定が出ている本場ノルマンディー地方の
匂いが強烈なカマンベール、リバロやウォッシュチーズの王様と言われるエスポワなど
四種類くらい見繕ってご馳走したら、強烈な香りの四重奏だけで克哉が降参してしまって
殆ど味わえなかった…という苦い思い出があった

 それがあったからこそ…初心者向けの匂いや味のマイルドなものから御堂に教えてもらい
積極的に味見したり、勉強したりする原動力にもなった訳だが。
 日本製のカマンベールや、ブリチーズ、レッドチュザーやピザや前菜にも使われる
モッツアレーラチーズなどは美味しいと思えるし抵抗感はない。
 しかし最初にあれだけのトラウマを刻んでくれたウォッシュタイプの物は…やはり
躊躇いがあるのだ。

「…私を信じろ、佐伯。ちゃんと今度は…君にウォッシュタイプのチーズの魅力を
伝えよう。新しい味覚を広げていく事はきっと…今後の君のプラスにも繋がるだろう」

「…………はい」

 御堂が自信満々の様子で言い切っているのを見て…ゆっくりと硬かった表情を
綻ばせていく。
 この三ヶ月で、ある程度は御堂考典という男の性格を理解し始めている。
 彼がこういうのなら、絶対に大丈夫だろう。
 克哉はそう信じていた。
 恋人の顔が和らいでいくのを見て…また御堂も、満足そうに強気な笑みを
浮かべていった―。

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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