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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 こんにちは、香坂です。
 とりあえず本日は6月28日の新刊の
序盤を、試し読み用としてアップさせて
頂きます。
 一応、今回のカップリングは克克ですが…
眼鏡とRしか最初は出て来ていません…あれ?

 まあ、序盤である程度…話の雰囲気は
掴めるかと思います。
 良ければ読んでやって下さいませ。

 とりあえず現在、次の連載準備中。
 明日までに、もうちょい構想纏めます。
 テーマは「酒」にする予定。
 …もう少しだけ付け焼刃でも、知識を集めた上で
書き始めますです。はい。


 ―闇の中、艶やかに舞う蝶は……見る者を静かに幻惑の世界へと
誘っていく―
 
 今夜も遅い時間に帰宅すると、いつもと同じく…薄暗くて、誰の気配も
感じられない冷たい空気だけが広がっていた。
 一人暮らしにしては広すぎる部屋。
 待遇が上がり、高給取りになった彼からすれば身の丈に合った室内も
…連日、寝に帰るだけの状態になり果てれば…どこか空しく感じられてしまった。
 定期的にハウスキーパーを入れて清掃させている為、室内のどこを見ても
綺麗に整えられていて清潔だ。
 その代わり…住んでから結構な月日が過ぎているにも関わらず、モデルルームの
ような印象が拭えない状態になってしまっていた。
 必要な物しか、自分が気に入った家具しか置いていない完成された筈の空間。
本来なら自分にとって最も快適に感じられなければいけない筈なのに…
どうしてこんな気持ちになるのか、彼自身にも判らなかった。
 
(以前よりも部屋が広くなったというのに…どうして俺は、こんなに空虚な
気持ちになっているんだ…?)
 
 いつもだったら、この部屋を見たって何も感じることなどないのに…
何故、今夜に限ってはこんなにも感傷的に思えてしまうのか、彼自身
にも不思議だった。
 プロトファイバーの営業を大成功させてからは、親会社であるMGN内の
克哉に対しての評価は非常に高いものとなった。
 それをキッカケに、彼の年齢からしたら素晴らしいと言える程の待遇で
キクチ・マーケティングから引き抜かれる形となった。
 
 最初はこちらの引き抜きに対して良い顔をしていなかった人間たちも、
彼の能力の高さと実力を目の当たりにすれば何も文句が言えなくなっていった。
 そうしてMGN内での彼の評価は一層高まり、それを機に気分を変えるために…
この部屋へ引っ越した。それ以前の自分が購入して所有していた服や調度品の
類は全て処分して、自分好みのインテリアに変えた。
 生活水準は確実に上がっている。今の克哉の年齢からしたら十分過ぎる
ぐらいの年給を得ている。贅沢だって、多少は出来る収入だってある。
 どうして…こんなにも自分の心が餓えているのか、彼自身にも判らなかった。
 イライラして、気分がささくれ始めていく。
 そしてそれは次第に大きく膨れ上がり、彼の心の中を圧迫していく。
 
「ちっ……今夜も、ブランデーでも煽るか…」
 
 そして彼は、その奇妙な苛立ちを酒で沈める事を選択していく。
 足音を大きく響かせながらキャビネットの方に近づいていくと…乱暴な
仕草で扉を開いてその中に収められたウィスキーの瓶とグラスを取り出していく。
 銘柄はカミュXOエレガンス。コニャック地方で作られる最高級のブランデーの一種だ。
 かつての安月給の時の自分だったらおいそれと飲めない銘柄だった。
だが今の彼にとっては常備しておくのが容易いものに変化していく。
 それを一切薄めることなく、ストレートのまま…喉の奥へと流し込んでいく。
 芳醇な香りが、スミレの香りに似た風味が鼻腔を突いた。
 
「はぁ…」
 
 ウィスキーはゲール語ではウィスゲ=ベーハー…生命の水とも呼ばれる。
 極寒の地では人は凍死しない為に…その身の熱を燃やすためにウィスキー
のような強い酒を良く飲むとも聞く。
 人が酒に逃げるのは、アルコールが与える酩酊感の他に…身体の奥に
火を点けられるような鮮烈な感覚を束の間でも味わいたいからかも知れない。
 冷え切った身体が酒によって急激に熱く火照るようになっていく。
 最初に注いだ酒を一気に飲み干していくと…再び瓶を傾けて、もう一杯求め始めた。
 立て続けに二杯目も胃の中へと流し込んでいく。
 空っぽの胃に何の肴も食べずに強い酒を流し込むことは…胃壁を相当に
傷める行為だとは知っていた。
 だが、今は熱さを感じたかった。身体に火を点したかった。
 瞬く間に二杯目も飲み干し、三杯目を求め始めた瞬間…ふいに、誰かの声が聞こえた。
 
―そんな風に、自分を痛めつけるように酒を飲み続けて楽しいですか…?
 
 ふいにベランダの方から、歌うような声が聞こえた。
 弾かれたように慌てて声がした方を振り返っていくと…唐突に窓は大きく
開け放たれ、勢い良く突風が吹きこんでくる。
 一瞬、それで咄嗟に瞼を閉じていくと…次に目を開けたその時には…
鮮やかな金髪を讃えて、黒衣のコートを纏っている一人の男が立っていた。
 
「…どうして、お前がここにいる…?」
 
「…おやおや、久し振りにこうして会えましたのに…随分な謂われよう
ですね。…こうして私が貴方の前へと現れたのは…一人寂しく酒に
逃げている貴方を、少しでも救って差し上げようと思ったからですよ…?」
 
「…人を憐れんでいるつもりか? それなら余計な御世話だ。…お前に
救われることなど何もない。さっさと帰ることだな…」
 
 男がにこやかに答えるのに対して、彼は極めて不機嫌そうな顔を
浮かべていきながら言い捨てていく。
 
「…相変わらず強情な方ですね。ご自分の心をどこまで誤魔化される
つもりですか?」
 
「…俺の心を勝手に推測するのは止めて貰おう。それに俺は誤魔化して
などいない。根拠のない発言は止めて貰おうか…」
 
「…ほう、それならどうして貴方は今…そんな乱暴な飲み方をされて
いらっしゃるんですか? 最高級のウィスキーを味わいもせずに一気飲み
し続けるなど…どう見てもやけ酒をされているようにしか私には映らないんですけどね…」
 
「っ…!」
 
「良い酒は…じっくりと堪能するように飲まなければ勿体ないですよ…?」
 
 それは一見、こちらを案じるような発言とも取れる。だが彼は相手の口元に
微笑が浮かんでいる事から…ただ単に面白がっているだけと感じ取れてしまった。
 極めて不機嫌そうに睨みつけながら、克哉は言い捨てていく。
 
「…黙れ。呼んだ訳でもないのに…勝手に部屋に入って来るなど…不法侵入も
良い処だろう。警察でも呼んでやろうか…?」
 
「おやおや、嫌われたものですね…私はこんなにも貴方のことを案じて、
心配しているというのに…」
 
「とてもそうには見えないな…」
 
 きっぱりとそう言い捨てて、彼はまた一杯…酒を煽っていく。
 上質の酒だけが持つ芳醇な旨みや香りも、こんな得体の知れない
人間を前にしながら飲んだのではせっかくの味わいも半減だった。
 不機嫌そうに一瞥しながら、彼は溜息をついていく。だがこちらが
どれだけ機嫌を悪いことを滲みだしていっても相手はまったく怯む気配を見せなかった。
 完全に男を無視しながら、三杯目の酒もあっという間に飲み干していくと…
相手は妖しく笑いながら言葉を続けていった。
 
「おやおや…言った傍からまた勿体ない酒の飲み方をされますね。
そんなにも私が今夜…貴方の前に現れたことがお気に召しませんか…?」
 
「…断りもなく、堂々と不法侵入をされて歓迎するようなおめでたい奴が
そういるとは思えないがな…」
 
「おや、それは失礼しました。けれど…こうして私が今夜、貴方の前に
現れたのは心配して慮る気持ちからだという事だけは申し上げておきますけどね…」
 
「お前が、俺を心配してだと…? そんな事がある訳ないだろうが…」
 
 Mr.Rの言葉を鼻で笑って流していくと…克哉は煙草に火を点して、
紫煙を燻らせ始めていく。
 これ以上、相手を無視する為に強い酒を立て続けに飲んだら…酒に
それなりに強い方である彼とて、危険な状態になると判断したからだ。
 相手から目を反らして…無心に煙草をふかし続ける。
 
「…相変わらず、つれない方ですね…貴方は。其処が私にとっては大変、
魅力的なんですけどね…」
 
「…お前が俺に執着しようと、俺はお前に何の興味も関心もない。
…くだらない事を言うためだけに目の前に現れたというのなら即刻帰って貰おうか…」
 
 剣呑な光を瞳に宿りながら、彼は威嚇していった。
 こんな態度など、恐らく男はモノともしないだろう事は最初から判り切って
いることだが…それでも、徹底的に拒絶する態度を貫き続けた。
 克哉のその態度を見て、不意に男は喉の奥で笑っていく。それが馬鹿に
されたように感じられて妙に克哉の気に障っていった。
 
「…何がおかしい?」
 
「いえ…今の貴方はまさに手負いの獣と言った感じですよね…。
誰も寄せ付けず、何も必要としていない。
 孤高と言えば聞こえは良いですが…どうやら貴方は私の知らない間に
随分と寂しい人間へとなってしまわれたみたいですね…」
 
「なん、だと…?」
 
 相手の言葉に聞き捨てならないものを感じて、彼はソファから
立ち上がっていった。
 本気の憤りを込めて、黒衣の男の元に歩み寄っても…相手は
動じることなく、いつもと変わらぬ笑みを湛えるばかりだった。
 
「…征服するべき人間と慣れ合い、愛とかいう甘ったるい感情に
貴方が目覚めて輝きを失ってしまうのも興醒めですが…寂しいだけの
存在になってしまった貴方を見るのもどこか侘しいものがありますね…」
 
「……言いたい事は、それだけか?」
 
 その瞬間、克哉は冷たい怒りを瞳に宿していきながら…相手の
胸倉を掴んでいく。
 吐息が触れあいそうになるぐらいに近い距離で睨みつけていった。 
 だが、男はそれでも動じない。
余裕たっぷりの笑みを浮かべながら…小馬鹿にするように瞳を眇めるのみだ。
 
「帰れ。お前の顔を見ているのは不愉快だ…」
 
「おやまぁ…それは随分とつれないお言葉ですね。けれど…何もせずに
帰るなど、勿体ないですから…その提案は却下させて頂きますね…」
 
 そうして、男が愉快そうに笑った瞬間…いきなり噎せ返るような
濃厚な香りが部屋中を満たしていった。
 其れは熟れた柘榴の果実の香りにも似た、濃密で甘酸っぱい芳香だった。
 鼻腔にその匂いが届いた瞬間、頭の芯が痺れて真っ白になっていくような…
そんな感覚を覚えていく。
 手足が急速に鉛のように重くなって、身体の自由が利かなくなった。
 
「お、ま……え、一体…俺に、何を、した……?」
 
 本気の憤りを込めて、Mr.Rを睨みつけていく。
 だが男はどこまでも愉快そうな笑みを湛えるだけで明確な
答えなど返さなかった。
 そうして睨みつけている内に、意識が遠くなり、朦朧となり始めていく。
 すでに彼が抵抗するのも困難で…その状態までこの症状が進行
してようやく男は言葉を紡いでいった。
 しかし悔しい事にその頃には意識も遠くなって…目も霞み始めていた。
 
「…長らくの孤独の日々を過ごされて、随分と心が乾いてしまった
ようですから…貴方にオアシスでも、と気まぐれを起こしてみました。
今から貴方は…彷徨える一人の旅人となります。
長い旅路の果てに、今まで関わった人間たちと再び出会って言葉を
交わし…そんな乾ききった貴方に手を差し伸べるのは誰か…探り当てて下さい。 
後は貴方の御心のままに…私が紡ぎ出した一時の夢を楽しみ下さいませ…」
 
 どこまでも恭しい口調で、難解な謎かけのような内容を男は告げてくる。
 何か、言い返してやろうと思った。だが、もう…満足に頭も口も働いてくれない。
 
(くそ…意識が、もう…)
 
 この男の思いどおりに、良いようにされるなど屈辱以外の何物でもない。
なのに…蟲惑的な香りは、彼の神経の全てを蝕んで…急速な眠りへと誘っていった。
 それはまさに甘美すぎる誘惑。
先程まで強い酒を何杯も煽り続けていた事も手伝って…ついに彼は
深い闇の底へと意識を落としていく。
ぐったりとソファの上に横たわる青年の姿を愉しそうに見下ろしながら…
黒衣の男は歌うように語りかけていった。
 
「おやすみなさい…佐伯克哉様。どうかこちらが提供する一夜の幻想を
心行くまで楽しんで下さいませ…」
 
 最後に、夢現にその一言をぼんやりと聞いていきながら…佐伯克哉の
意識は、完全に途切れて…謎の男が紡いだ夢の世界へと静かに招かれていった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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