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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※この話は7月いっぱいに連載していた『在りし日の残像』の後日談に当たる話です。
  その為、克克の夏祭りのお話でありますが…その設定が反映された会話内容と
描写になっています。
 それを了承の上でお読みください(ペコリ)

―花火が終わってからも、二人は何度も求め合った。
 お互いの心臓が破裂するのではないかと思えるくらいに激しく。
 相手の事以外、身体を重ねあっている瞬間だけでも考えられない
くらいに夢中に。
 両者とも、どれくらいの数…その間に果てたのか、すでに途中から
数えることすら忘れてしまっていた。

 そして、力尽きるようにしてまどろみの中に落ちてからどれくらいの
時間が経ったのだろうか…?
 気がつくと克哉は、少しだけさっぱりとした感じで…布団の中に収まって
もう一人の自分の腕の中に包み込まれていた。
 例の屏風の内側にあった、布団一式の中に…屋形船の縁側の部分で
抱き合った後に運び込まれていたらしい。
 清潔でフカフカの感触がする薄手の布団に包まれているおかげで…
裸の状態でも、寒いとはまったく感じずに済んでいた。

(…いつの間に布団の中に入ったんだろう…?)

 その記憶がすでに克哉の中では定かではなくなっている。
 花火が終わってからも、激しく抱かれ続けていたのは辛うじて覚えているが
それからどれくらいの時間が過ぎたのか、すでに間隔が判らなくなっていた。

「…何か、あのまま腹上死でもするかと思った…」

 寝ている間に、眼鏡の方が肌だけでも拭っておいてくれたのだろうか。
 内部にはまだ残滓が残っている感覚があるけれど、あれだけ行為の最中に
汗だくになっていた割には、爽快な気分だった。
 そういえば昔…記憶を失って、あの別荘地の屋敷で目覚めた直後も…
意識を失うまで抱かれ続ける事はしょっちゅうあったような気がする。

―お互いの想いを確認して、眼鏡の様子が落ち着いてからはそんな事は
殆どなくなっていたけれど…。

「…けど、あの頃も…意識を失って翌朝目覚めると、一応…こちらを介抱して
くれていたんだよな。ふふ…懐かしいな…」

 …三年前、一緒にいた頃の記憶は正直、苦いものも多かった。
 あの一件を機に、克哉は太一と決別したからだ。
 記憶が無くて不安で、空白の一年間の間に何があったのか判らなくて
凄く苦しかった。
 …けれど、その時期があったから…今、こうして眼鏡と一緒にいる事を
選択したのもまた事実だった。

「…お前の寝顔も、あの頃はまったく見れなかったもんな…」

 懐かしむように瞳を細めて、自分のすぐ側で安らかな寝顔を浮かべている
眼鏡の顔を見つめていく。
 …今、思えば…三年前の眼鏡はいつだって張り詰めた顔をしていた。
 いつ、五十嵐組の追っ手が飛び込んでくるのか判らない状況では無理が
なかったとはいえ…そのおかげで、眼鏡はいつも克哉よりも遅く寝て…早朝に
起きて、銃の訓練や戦闘訓練を欠かしていなかった。
 そんな殺伐とした日々も、すでに遥か遠い過去のこととなりつつある。
 こんな風に二人で抱き合っていても、何の心配も抱かなくて良い。
 克哉は、その事実に…感謝していた。

(…オレ達の身辺も、平和になったよな…。あの時、毎日のように…
オレを守る努力をしてくれていて…ありがとうな、『俺』…)

 愛しげに、眼鏡の頬を撫ぜていきながら…小さくその頬にキスを落とそうと
した瞬間…ぎょっとなった。

「なっ…?」

 起きてから暫くは、頭がボーとしていたから無理がないとは言え…いつの間にか
克哉の左手の薬指にはシルバーのリングが嵌め込まれていた。
 こんな物、克哉には買った覚えもなければ、つけた記憶すらない。
 呆然となりながら…自分の指に輝く指輪を眺めていると…。

「…気に入ったか?」

 ふいに…自分の傍らでもう一人の自分の声が聞こえていった。
 慌てて振り向いていくと…いつの間にか眼鏡の方は意識を覚醒させていたらしい。
 愉しげな笑みを浮かべながら、腕の中の克哉を見つめていた。

「こ、これって…お前、が…?」

「あぁ、俺達の結婚指輪だ」

「へっ…?」

 突然、思ってもみなかった事を口走られて克哉は呆けた声を漏らしていく。
 しかし…そんな克哉の反応はすでに予測済みだったらしい。
 可笑しそうな顔を浮かべながら…眼鏡は平然と言ってのけた。

「…さっきも言っただろう? お前に今夜…花火大会に行きたいと誘われてから
一週間も時間があった。その間に…俺が何も準備をしないでいると思ったか…?」

「あっ…」

 そう言われて、合点が言った。
 この男はそれで…二人きりになれるように、この屋形船をMr.Rに言いつけて
用意しておいた方の周到ぶりだったのだ。
 確かに…一週間という時間があれば、指輪の一つぐらいは…この男なら
準備するくらい訳ないだろう。
 しかも、指輪のサイズも確認する必要もない。
 何故なら、自分達は同一人物なのだから…この男のぴったりなサイズの物を
用意すればそれで事足りるのだから…。

「…もしかして、その期間の間に…これ、を…?」

「あぁ、そうだ。俺達は…養子縁組という形で、籍を入れるという訳にも行かない
間柄だからな。せめて…指輪ぐらいは用意して、区切りぐらいはつけておいて
やりたかったからな…」

「…そう、なんだ…」

 現在、日本国内では同性同士の婚姻は認められていない。
 だが…養子縁組をするという形で、同籍に入るぐらいの事は出来る。
 しかし彼ら二人の場合、同一人物である為…眼鏡の方には自分の戸籍と
いう物が存在しない。
 公の場や、何かあった場合は…「佐伯克哉」の戸籍を共有して使っていく
以外に方法がないのだ。
 結婚するという手段も、籍を一緒にするという事も出来ない関係。

 けれどそれでも…少しでも証を残してやりたくて眼鏡はこっそりと…この指輪を
用意したのだ。
 …いつまでこうして、二人で一緒にいられるかは誰にも判らない。
 それでも、万が一終わりが来てしまったとしても…その記憶が、想いを少しでも
残しておきたくて…形となるものを贈っておきたかったのだ。

「…本当に、これを…オレ、に…?」

「…あぁ、本気だ。そうじゃなければ…わざわざ、こうして対になるものを
俺もつけたりはしないさ…」

「…あっ…」

 眼鏡がそっと自分の左手を、克哉の目の前に突きつけていく。
 其処には同じデザインの指輪が、光を放っていた。
 それを見て…克哉の胸は締め付けられて、思わず涙ぐみそうになった。
 嬉しかった。彼の気持ちが。
 …自分だけが、この男を好きな訳じゃない。
 彼もまた…自分を想ってくれている。その証を目の当たりにして…
克哉は思わず、その指輪にそっと触れていた。

「…嬉しい。凄く…嬉しいよ。ありがとう…『俺』…」

「そうか…」

―その瞬間、眼鏡はとても優しく笑っていた

 …それが愛しくて、仕方なくて。
 克哉は吸い寄せられるように顔を寄せて、そっと唇を重ねていった。
 何度も、何度も啄ばみあうように…優しいキスを繰り返していって。
 上質の酒を飲んだ時のような、甘い酩酊感を覚えて…頭の芯すらも、
ボウっとなっていきそうなくらいだった。

「…お前が喜んでくれるなら、こちらも準備した甲斐があったな…」

「…うん、今までの人生の中で一番嬉しい贈り物かも知れない…。
ありがとう…『俺』…」

 そういわれて、眼鏡は少しだけ複雑な顔をしていった。
 …そうして、難しい顔をして考え込んでいく。

「…どうしたの? 『俺』…?」

「…ふと思ったんだが、こういう時…『オレ』とか『俺』と呼び合うのが…
少し虚しいと思ってな…?」

「えっ…? でも、オレ達の場合は…それ以外に何て呼び合えば良いんだよ…?」

「…難しい問題だがな。…よし、克哉。俺に名前をつけろ…。お前のネーミング
センスと服装のセンスの悪さはよ~く知っているが…俺が許す。今から…
俺に相応しい名前をつけてみろ」

「えええっ~!?」

 指輪を贈られただけでもびっくりなのに、いきなり命名しろと言われて
本気で克哉は叫び声を挙げていく。
 だが、眼鏡の目は本気だった。

「…こうして、二人で存在している以上…俺達は「二人」だ。それなら…
個別の名前を持っていたって良いだろう? …この世界で、お前だけが…
俺をその名で呼ぶんだ。いわば…真名(マナ)をつけるようなものだ。
そう考えれば…悪くない提案だろう…」

「…そ、それはそうなんだけど…責任、重大だよね…」

「あぁ、変な名前をつけたら即効で却下させて貰おう。せいぜい…
俺にぴったりな名前をつけて貰おうか…?」

 幸福感から一転して、人生最大ともいえる難題をつきつけられて…克哉は
ともかく困惑するしかなかった。
 もう一人の自分に、命名?
 そんなとんでもない事態が襲ってくるなど予想もしてなかったから…半ば
混乱寸前だ。
 だが、彼が自分を「克哉」と呼ぶ以上…彼だって恐らく、同じように自分に
名前を呼んでもらいたいから…そんな提案をしたっていうのは判っている。

(こいつにぴったりな名前…え~と…もう一人の俺って言ったら傲慢で、
強気で…何が何でも勝ちに行こうとする性格で、どんな事でも器用にこなせて…
負けず嫌いで、頑固で…意地悪で、残酷で…)

 恐らく、彼から連想出来る要素や単語を必死に頭の中で考えていきながら
克哉は良い名前をつけようと考え続けていく。
 だが…ポロリと、考えを零すように呟いてしまっていた…。

「…俺、様…?」

 それは、その性格や性分を考えたら…『俺』に様をつけるぐらいが
丁度良いんじゃないか…という単なる思い付きだったのだが、それを耳にした
途端、盛大に眼鏡の額に青筋が浮かんでいった。

「…ほう? それが…お前が俺につける名前だというのか…?」

「うわっ! 違う…違うってば! だからそんなに怖い目でオレの事を見ないで
くれ~! 目だけで本気で殺されそうだから…!」

「…だったら、もう少し真面目な名前を考えろ! 幾らなんでも…『俺様』は
無いだろうが! 『俺様』は…!」

「ご、御免! 本気でオレが悪かった…! だからそんなに怒らないでくれってば!」

 こんな間近に顔を寄せ合っている状態で、射すくめられそうな強烈な眼差しを
向けられたらそれだけで失禁してしまいそうなくらいに怖い。
 機嫌を直して貰いたくて、必死に瞳を潤ませながら…克哉は謝り続けていく。

「…御免。今度こそちゃんと考えるから…怒らないでくれ。突然、そんな
提案をされたからこっちもびっくりしてしまって…まだ、考えが纏まって
いないだけだからさ…?」

 そういって、チョンと克哉から唇にキスを落としていくと少しだけ眼鏡の溜飲は
下がっていったようだった。
 少しだけ瞳が柔らかくなったのを確認していくと…ホっと安堵の息を吐いていきながら
克哉は改めて考え始めていく。

(…っ! そうだ、これなら…)

 彼のイメージと、ぴったりの名前が唐突に閃いていった。
 確かに自分のネーミングセンスは限りなく悪い。
 過去に知り合いのディエット名の案を考えろと言われて「オレザイル」なんて
提出したら思わず失笑を買ってしまった過去すらあるぐらいだ。
 だが…これなら、きっと…気に入ってくれるという確信があった。
 
「ねえ…『俺』。この名前は…どうかな…?」

 克哉は優しく微笑みながら、たった今…閃いたその名前を彼の
耳元で囁いていく。

―…………と、言うのはどうかな…?

 負けん気の強い、向上心が強い彼にぴったりの漢字を使ったその名前を
静かに囁いていく。
 それは…「克哉」という名前にも少し意味が被っていて、対になっている。

「…お前にしては、悪くない命名だ。気に入った。今度から…俺の事を
ちゃんと、そう呼べ…。世界でただ一人、お前だけが呼ぶ…俺の名前
なのだからな…」

「うん…」

 相手が気に入ってくれたのを確認して、克哉は幸せそうに微笑んでいく。
 慈愛に満ちた空気が、部屋中を満たしていく。
 そして静かに顔を寄せ合って…。

―お互いの名前を静かに呼び合っていった。

 心の底から幸せそうな笑顔を浮かべながら…二人は改めて、相手の身体を
抱き締めあって、その温もりを感じ取っていった―

 そうして…その日を境に、一つの季節が過ぎ去っていく。
 それは夏の終わりの、二人の思い出のカケラ。

 どれ程辛い日々も、輝ける日々も…その瞬間が過ぎ去ってしまえば
まるで残影のように儚く、遠いものになっていく。
 それでも…印象深いこと、大切な記憶となって何度も再生されていくものは
どれだけ長い月日が流れてもその人の心で決して色褪せる事なく輝き続けていく。

 この日、克哉に贈られた銀色の指輪は…眼鏡の気持ちが、間違いなく
自分に向けられている事を示してくれていた。
 それは永遠の誓いの証。実際に永遠に続く関係など存在しない事は
承知の上でも…一日でも長く、お互いが寄り添い会える事を。
 こうして二人でいられる事を願って贈る、繋がりの印を眼鏡が…
自分の為に用意してくれた。
 その事実だけでも、克哉にとっては充分だった。

 出来るなら、ずっとこうして傍に…。
 死が再び、二人を分かつ日まで。
 こうして寄り添って時を過ごしていける事を…。
 心から望んでいきながら、一つの季節が過ぎ去っていく。

 数多の苦難を乗り越えて結ばれた二人の指には…
これからも、想いの証が輝き続けるだろう。
 こうして…二人で、一緒にいる限り…ずっと―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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