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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―その話を藤田から最初に聞かされた時は信じたくない、と
正直に思った。
 
 だが、御堂孝典は物事を曖昧にしておくのが何よりも嫌いな
性分だった。
 かつての自分の部下でもあった男が口にした―佐伯克哉が
夜の歓楽街で遊んでいるという噂。

 それを聞いた時、ショックだった。
 自分とて男だ。同性の生理欲求というのは良く判っている。
 男性である以上、ストレスが溜まっていたり疲れてくると無性に
快楽を欲する時がある。
 それくらいは判っているのだが…「あんたの事も好きだともっと早くに
気づけば良かった…」と、自分にそんな告白を残して消えた男が、自分と
再会したにも関わらず…他の相手と遊んでいるという事実が、どうしても
御堂には腹立たしかった。

 あんなのは偶然だと思おうとした。
 そんな真似をしでかしている奴なら、さっさと忘れてしまおうとも考えた。
 だが…話の真偽を確かめなければ、間違った判断を下してしまう恐れも
あったので…御堂は一人、夜の歓楽街。
 例の佐伯克哉が最近、頻繁に出入りしているという新宿二丁目へと
足を踏み入れていった。
 目の前に広がる鮮やかなネオンの集まりは、夜の帳が下りた後では圧倒的な
存在感を放ってこちらの目を焼くぐらいだ。
 其処に緊張した面持ちでその入り口に立っていくと…御堂は険しい表情を
浮かべながら人の流れを目で追っていた。

(本当にこんな処に…アイツが、いるのか…?)

 今までの人生の中で、接待でゲイバーなどを指定してくるクライアントとかも
あったので何度か夜にこの界隈に来た事があったが…一人で歩いたことは
一度もなかった。

―まさかこのような場所に足を踏み入れる事になるなんて、予想もした
事がなかった。

 しかし、この近辺を歩いたことがない以上…どの辺りを探せば良いのか
自分には判らなかった。
 知識がない以上、どこを歩けば効率が良いのか…どの店に行けば良いかすら
見当がつかない。
 だから御堂はともかく、ガムシャラに高速で歩き始めていた。

(ともかく奴を見つけるしかない…)

 もし、必死に捜索して見つからなかったとしたら…その時はあの噂は
デマに過ぎなかったと割り切れば良い。
 そう考えて、鬼気迫る形相で大股で歩き始めた。
 御堂自身はそれで注目を浴びている事などまったく気づいていなかった。

(何をそんなにジロジロと見ている! 私は人探しをしたいだけだっ!)

 心の中で苛立ち混じりに叫んでいく。
 その瞬間、目元が恐ろしいぐらいに吊り上って更に怖い形相になっていた。
 御堂自身、非常に整った容姿の持ち主である。
 全身を仕立てがしっかりとしたスーツに身を包んで…髪の毛のセットにも
一部の隙もない。
 そんなエリートサラリーマン然をした人物が、夜の街を険しい顔で練り歩いたり
したら目立つことこの上ないのだが、本人にその自覚はまったくなかった。

 御堂の硬質な美は、知らず…周囲の男達の視線を集めていく。
 だが、余りに顔が怖い状態なので…誰も声を掛けられない状態になっていた。
 ジロジロと見られてしまっている事だけは気づいているが、それが余計に
周囲の注目を集めていってしまう。
 この時間帯に街を歩くのは目的の店に向かう道筋か、待ち合わせ場所に
向かっているか…もしくは、相手を物色しながらナンパの機会を狙っているか…
そんな感じだ。
  御堂に声を掛けたい、と思う男は何人もいたが…恐ろしい速さで歩き
回っている為に誰も声掛けられない。
 悪目立ちも良い処であった。

「佐伯、どこだ! どこにいるっ!」

 知らない間にそんな言葉を零していきながら…
 そんな調子で30分も街中を歩いていたら、疲れて来た。
 早足をスーツ姿でそんな長時間続けていたら体力の消耗が激しくて
当然であった。
 流石に少し休もうと肩で息をしながら、少しペースを緩めていくと…
近くにいた男が近寄ってくる。
 黒髪の、蒼い目をした男だ。カラーコンタクトを使っているのか…
独特の雰囲気があって、少し目を惹く人物だった。

「…おに~さん、美人だね。一人?」

「取り込み中だ。ナンパに応じる気はまったくない」

「あ、そ、そうなんだ…」

「…という訳で失礼する」

 相手がこちらに会話の糸口を求めて声を掛けているのに関わらず
一切取り付く暇を見せなかった。
 きっぱりと切り捨てるように言い放っていくと…そのまま踵を返す辺り
ナンパしようとする人間の立場すらなかった。
 ショボンと黒髪の青年は落ち込んでしまっているようだが…初対面の
人間に必要以上に関わる気はまったくない。
 自分が求めるのはただ一人…あの男だけ。
 
(佐伯…どこにいるんだっ!)

 念じるように、心の中で叫んでいく。
 強く、激しく…まるで焦がれているかのように!
 その強い念が功を成したのか…ふと、行き交う人波の狭間に…一瞬だけ
あの男の後姿を見たような気がした。
 誰か、見知らぬ人間を連れて二人で歩いている姿を見て…御堂は
思わず追いかけていってしまった。

「佐伯っ!」

 声を掛ける、だが振り向く気配はない。
 御堂の声は、夜の街の喧騒に掻き消されてしまって少々声を
張り上げたぐらいでは届かなかった。
 だが、それでも御堂は諦めない。
 必死の表情をしながら…佐伯克哉と思しき人物の背中を追いかけ始めていく。

 ―その後に、どんな運命が待ち受けているかも未だ知らずに―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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