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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ―克哉の願いが通じたのか、御堂は…冬に差し掛かった寒い朝の日に
初めて言葉を取り戻した。

『ずっと…そこにいたのか?』

 最初は、たった一言。
 それでも…虚ろだった瞳が少しだけ焦点を取り戻して自分を見てくれた時
彼の目はこんなに綺麗だったのかと、思い出せた。

「御堂…」

 泣きそうになる。
 たったそれだけの事に、瞳から雫が浮かび上がって…静かに頬を伝っていく。
 駆け寄って、ベッドの上に力なく身体を起こした御堂を抱きすくめる。
 しかし…その身体は、カチカチに強張っている。
 現状が理解出来ない。
 そんな困惑の表情を浮かべていた。

「…どうして、お前が…ここ、に…?」

 目覚めたばかりの御堂には、ここが自分の部屋だという認識はある。
 しかし…どうして、彼が『今も』この一室にいるかが…判らなかった。
 どれくらい時間が過ぎたのか、まだ把握出来ていない。
 それでも長い―長い間、自分は心を閉ざして…夢の世界に生きていた。
 うっすらとそれくらいは判っていた。

「…あんたを、ずっと…待っていた…」

「ど、う…して…お前は、私を…抱く、価値も…ない、と…」

「弱気で愚痴っぽいあんたよりも、いつもの高慢で生意気なあんたの方が
俺は好きだからな…」

「そ、れ、なら…どう、して…」

 御堂の声は切れ切れで、掠れるような小さな声だった。

「俺は…あんたを、好きだから…」

「…………嘘、だ………」

「嘘じゃない。じゃなければ…壊れたあんたの面倒を…一年近くも
する訳がない…だろう…」

「い、ち…ねん…っ!?」

 何ヶ月か、くらいは覚悟していた。
 しかし…そんなに長い時間が経過していた事に御堂は驚きを隠せない様子だった。
 その肩と指先はワナワナと震えて、内心の動揺を現している。
 
「…ずっと、あんたを待っていた…御堂孝典…」

 その頬に優しく触れて…愛しげになぞり上げていく。
 御堂は瞠目し、信じられないと眼差しで訴えかけていた。

「そ、んなの…」

 壊れる間際の地獄が、一瞬だけ脳裏を過ぎる。
 あんなに自分に酷い仕打ちをして…今まで築き上げてきた全てのものを
奪い取った男が、自分を愛しているという。
 そんなの…有り得る訳がなかった。
 愛しているのなら、何故…あんなに酷い事を自分にし続けたのか。
 あれ程の地獄を、自分が泣いて叫ぼうとも止めてくれなかったのか。

―心を閉ざす程の、痛々しい記憶の数々が…意識が目覚めると同時に
蘇り、御堂の心を侵食していく―

「嘘だ、嘘だ…嘘だ…どこ、まで…お前は…わた、しを…」

 御堂は必死になって自分を抱きしめてくる克哉の腕から逃れようと
身を捩って抵抗していく。
 しかし一年以上、自らの意思で動かす事のなかった身体は鉛のように重く
満足に動かす事すら出来ない。

「嘘じゃない。これは紛れもなく…俺の本心、だ…」

「……ふっ…ぅ…う、そ…だぁ…」

 克哉はこの一年で、強く感じていた御堂への愛情を口にしていく。
 しかし御堂は信じない。受け入れようともしない。
 嫌いなままでいれば…余計な期待もしないで済む。
 あれだけの仕打ちをされても…不思議な事に、御堂は佐伯克哉という
傲慢な男の事を嫌いになり切れなかった。
 けれど、信じたくない。これは自分にとって都合の良い幻とか空想に
過ぎないのだと…必死になって言い聞かせた。

「お前が、こんなに…優しい訳がない。夢なら…早く覚めて、くれ…
こんな夢を見て…また、あんな酷い事を…され、たら…私は、もう…
耐えられ、ない…!」

 御堂の目から、滂沱の涙が溢れてくる。
 痛々しい表情だった。
 しかし…ここまで、彼を追い詰めたのは自分だ。
 その罪の重さを感じ取り、克哉は突き刺さるような胸の痛みを覚えていく。

「御堂…っ!」

 それでも、強く強く抱きしめていく。
 御堂から、抱き返される事がなくても…腕に力を込め続ける。

(それでも…あんたは、帰って来てくれた。どんな憎しみの言葉も
拒絶の言葉も…引き受ける。だから…どうか…どうかっ…!)

 自分の罪は、自らの手で贖うしかないのだ。
 そう心に秘めて…二人の影は朝日の差し込む中―重なり合う。
 それが…新たな、関係の始まりでもあった―。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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