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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※現在、体調だの別ジャンルの原稿等でぶっちゃけ
新しいの書き下ろす余裕ありません。
 という訳でとりあえず以前にアンソロジーに寄贈して
すでに一定期間を経てサイトに掲載許可を得ている
作品を掲載させて頂きます。
高速シャングリラ様が主催した 『克克アンソロジー1』に
寄贈させてもらった作品です。
 すでに手に入れて読んだことがある方は
本当に申し訳ございません。
 

『慰撫 -イブ-』
 
                         
―はあ
 
 深い溜息を突きながら、佐伯克哉は今夜も帰路についていた。
 トボトボトボ…と実に覇気のない重い足取りで、自分のアパートへ続く
道のりを歩いて向かっていく。
 今夜の克哉の気分は最悪だった。
 本多と協力して、バイアーズとの契約も正式に結んで…プロトファイバーの
売り上げ目標も無事に達成してから早半年。
 季節はいつの間にか初夏を迎え、木々も青々しく繁るようになっていた。
 だがどれだけ生命力に満ち溢れた光景も、今の克哉には何の感慨も与えない。
 彼の胸の中には本日、自分がやってしまった失態の事だけで大部分を
占められてしまっていた。
 
(いつまでも落ち込んでいても仕方がないって判っているんだけどな…)
 
 以前なら、本日やったレベルの失敗など日常茶飯事の事だった。
だが現在は社内での八課の評判も上がり、克哉自身も以前と違って自信が
かなりついてきた頃だ。自信がついてからの失敗、というのは時に大きな影響を
与えるものだ。
 
(本多か…片桐さん辺りにでも、話を聞いて貰えれば良かったんだろうけどな…)
 
しかしこういう日ほど間が悪いもので、克哉一人だけキクチ本社から遠い会社に
営業で向かい、そのまま直帰するというスケジュールだったので到底二人と
会えそうになかった。
それに現在、八課全体の評価が上がってきたおかげで…彼らも自分の仕事で
多忙を極めている事が多くなっているのだ。
たかが自分が落ち込んでいるせいで…そんな彼らを終業後に呼び出してまで、
こちらの愚痴を聞いて貰うなどと言った図々しい事を出来る訳がなかった。
 
「こんな日は…自宅で一人酒でもするかな…」
 
 週末の夜に、そんな真似をするなんて侘しすぎると自分でも思うが…克哉は
元来、人見知りが激しい性分だった。
 知らない人間に囲まれた空間で、一人きりで飲んで楽しむ事など到底出来ない。
 それなら自分が安心できる場所でゆったりと酒を嗜んだ方が気持ちは
静まりそうであった。だが…それも少しだけ寂しいと思う気持ちもあるのも本当で…。
 
「…何か、今夜はおかしいな。何でこんなに、人恋しくなってしまっているんだろ…」
 
 そんな自分に苦笑していきながら、アパートの前へと辿り着いていった。
 だがその瞬間、違和感を覚えた。
 最初は見間違いだと思ったが…少し冷静になってから、ゆっくりと部屋の
窓の数を数えて確認していくと…間違いないようだった。
 
「…どうして、オレの部屋の明かりが点いているんだ…?」
 
 家族と同居していたり…誰かと同棲している身分なら、帰宅時に部屋に
明かりが灯っていても何も不思議ではない。
 だが自分は正真正銘、一人暮らしである。
 そして彼は光熱費の節約の為、朝出る時は余程遅刻スレスレの時以外は…
家を出る前に電気を消したか必ず確認するように心がけている。
 自分は今朝、間違いなく電灯の類は消して行った筈だ。それなのに…
煌々と部屋の電気が点けられているのは不可解な事、この上なかった。
 
(合鍵を持っているのなんて…管理人さんくらいしかいない筈だし。確かに
二階のベランダから出入りは出来なくはないけど…どうして、だろう…?)
 
 それに自分にはあまり親しい友人、知人の類はいない。
 栃木に住んでいる両親たちも、連絡もなしに勝手に自分の家に上がりこむ
ような真似をする人達ではなかった。
 
―じゃあ、今…自分の部屋にいるのは一体誰だろう…?
 
 幾ら考えても、そんな行為をしでかしそうな人物に心当たりはなかった。
 その分だけ…明かりが灯されている事実が余計に不気味に思えて仕方がなくて。
 もしかしたら空き巣の類だろうか…? そんな不穏な考えもチラリと頭を
過ぎっていったが…一先ず、様子を見てみる事にした。
 
(本当は警察に通報か何かをした方が良いかも知れないけれど…現時点では、
単なるオレの電気の付け忘れかどうか判別つかないしな…)
 
 深く溜息を突きながら、一旦様子を伺おうという結論に達し…ゆっくりと
アパートの階段を昇っていく。そうして部屋の前に辿り付くと…自室の前に
立っているというのに、いつになく緊張してしまった。
 ドアノブに手を掛けると、やはり鍵は掛かっていない。尚更不可解だった。
 電灯の消し忘れだけならともかく…同じ日に、鍵の掛け忘れまでやるなど…
朝が余程遅刻寸前の時以外にやる事とは思えない。
 どうしようか…と迷いながら部屋の中に入っていくと。
 
「…やっと帰ったか。飯の準備は出来ているぞ…」
 
 と、鍋掴みを両手に装備しながら…大きな土鍋を持っている自分と
同じ顔をした人物にいきなり遭遇していった。
 
「はあ?」
 
 予想外の光景に、一瞬克哉は呆けて硬直していく。
 一体これは何だというのだろうか?
 何故、前触れもなくもう一人の自分が其処にいて…キッチンに立って
食事の支度などしているのだろうか?あまりに異常な場面に突然
出くわした為に…克哉はリアクションすらまともに出来なくなってしまっていた。
 
「…何をボーと突っ立っている。わざわざ俺が…お前の為に夕飯の支度を
している事がそんなに驚く事か?」
 
「お、驚くに決まっているだろ! 何でいきなり…人の部屋に上がり込んでいるんだよっ!」
 
 しかももう一人の自分はキチンと緑のエプロンを着用していた。
 たまに自炊をする時に克哉自身が愛用している品だ。それを身に纏いながら…
『俺』がこちらを出迎えてくれるなど考えた事もなかったので克哉はびびりまくっていた。
 
「…お前が落ち込んでいる気配を感じてな。それで元気付けてやろうと…一時間
ほど前からこうしてやって来て夕飯の準備までしてやったというのに…大した
言い草だな『オレ』」
 
「えっ…? そ、そうなの…?」
 
 思ってもいなかった返答をされて、克哉は驚きを隠せなかった。
 
「あぁ…俺はそれなりに親切な性分だからな。とりあえず…今夜は湯豆腐を
メインに、簡単にだが飯を作っておいた。そこにボーっと突っ立っていないで
そろそろ上がったらどうだ? せっかくの夕飯が冷めるぞ」
 
「あ、ああ…判った。今…上がるよ」
 
 この部屋の本来の住居人は克哉である筈なのだが、もう一人の自分が
あまりに堂々としているので知らぬ間に仕切られてしまっていた。
 夕食を用意してあった…という言葉に嘘はないようで、部屋に上がった瞬間…
プーンと良い香りが鼻腔を擽っていった。
 匂いを嗅いだ途端、現金なもので…さっきまでは落ち込んでいて空腹など
感じる余裕もなかったのが嘘のように腹の虫が鳴り始める。
 
グゥゥゥ…。
 
 はっきりと相手に聞こえるぐらいに大きな音で、腹が鳴っていくと…
恥ずかしさの余りに死にたくなった。
 
「わわっ…」
 
「…本当にお前の身体は正直だな。しっかりとその音…聞こえたぞ?」
 
 ククッと喉の奥で笑いを噛み殺しながら、眼鏡が呟いていく。
 それだけで克哉は居たたまれない気分になってしまった。
 
「まあ、俺が作った夕食を堪能するんだな。…それなりにお前の舌を
満足させる出来栄えだろうからな…」
 
「う、ん…楽しみにしている…」
 
 不安半分、期待半分と言った感じで克哉は頷いて見せた。もう一人の
自分の手料理を食べるなど初めての経験だから…少々、怖い部分が
あるけれど…同時にどれくらいの腕前であるのか興味が湧くのも事実だったからだ。
 
「あぁ、期待していろ。きっとお前も気に入るぞ…」
 
 そうして…自信満々に男は微笑んで見せる。何故か克哉は…一瞬だけ、
その表情に見惚れてしまったのだった―
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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