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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※この話は以前にアップして連載が止まっていた
「残雪」を一から妬き直して改めて書き綴ることに
したものです。
 基本ベースは残雪で使っていた設定や時間軸ですが、
改めて1から書き直す事にしました。

 理由は、連載が止まっている「バーニングクリスマス」や
「残雪」をそろそろ再開して着手しようとした時に…残雪が
時間軸設定とかが非常に判り難くて…太一の
回想視点ばかりで語られていて判りづらい話に
なっていると自分自身で読み返した時に感じたからです。

 もう少し整理して、読みやすい形にした方が良い。
 そういう理由で多少…第一話と二話だけは以前にアップしたものを
加筆修正した上で掲載しますが…それ以後の展開を多少
変えていきます。
 それを了承の上でお読み下さい。

 この話は太一×克哉の悲恋であり、眼鏡×太一要素も含まれている
シリアスで悲しい話です。
 けど、太克版の「雪幻」に当たる話なので…自分にとっては愛着の
ある話なのでもう一度着手します。
 良ければ付き合ってやって下さいませ。

 ―オレ、太一の事が好きだったよ…

 眩い銀世界にヒラヒラと雪が舞い散っている中…克哉の姿が
儚く消えていく。
 何度も、何度もそれは太一の中で繰り返される悲しくて切ない夢。
 けれど…そう告げる克哉の顔はとても綺麗で、愛しくて…
だからその夢を見る度に彼は涙を流し…そして、改めて今も
自分はこの人を愛しているのだと思い知る。

―克哉さん、過去形になんてしないでよ…! 俺は今でも、貴方の事が
世界で一番好きなんだ…! 愛しているんだからね…!

 粉雪の降り注ぐ中、力いっぱい太一は叫んで訴えかける。
 それでも目の前の克哉が…消えていくのを今回も止めることは
出来ない。

―ありがとう。その一言だけで、オレは充分だから…

―たったそんな事で満足なんてしないでよ! 俺がもっと色んなことを
克哉さんに与えてあげるから! もっといっぱい幸せにして…暖かい言葉を
貴方に捧げるから…! だからどうか、消えないでよ克哉さん…!

 この夢を見ながら、どれくらい太一はそう願い続けていただろう。
 けど、夢で何をしようとも現実は変えられない。
 そして過去をどれだけ変えたいと願っても、時間は常に流れて可逆
する事はない。
 一度過ぎたものは決して戻らない。
 その度に太一は絶望を覚えていく。

―大好きだよ…太一…

 そしてまた、胸が熱くなるような…綺麗で儚い微笑を浮かべていきながら…
微かに目元を潤ませて、愛しい人の姿が雪の中に紛れて消えていく。

―もう、克哉さん…本当に酷いよ。そんな顔をしながら…言われたら、
絶対に忘れることなんて…出来ないのに…

 そう、力なく呟きながら太一は雪原に倒れていった。
 雪は冷たくて…うっかり目を瞑ったらそのまま意識が浚われて
しまいそうだった。
 けど、それで良い。克哉の姿がもう存在しないなら…この夢の中に
いつまでも留まっていたくはないから…。
 何度も何度も繰り返される幻想。
 けれど、どんな形でもあの人の姿を今も追い求める太一にとっては…
本当に束の間であったとしても、克哉と会えるなら其れで良い…。

―あ~あ…夢の中ぐらい、俺と克哉さんがハッピーエンドを
迎えてくれたって良いのになぁ…

 そんな悪態をつきながら、太一の意識はゆっくりと覚醒していく。
 目覚めると、眩いばかりの光が部屋に差し込んでいるのが
目に入ったのだった―


                     *

 あの一件から気づけばかなりの年月が過ぎ去っていて、太一にとって
東慶大学を卒業して最初の春が訪れようとしていた。

 大学在学中に、とある大企業の内定を得る事が出来てから半年…
ようやく本日が初出勤に当たる日だった。
 慣れないリクルートスーツに身を包み、五十嵐太一は緊張した面持ちで
必死に自分の髪を撫で付けていく。
 真っ黒な髪をしている自分に激しく違和感を覚えていく。
 観念して昨日、髪を染めた訳だが…見慣れない自分の姿を改めて
見たことで心底、苦い顔を浮かべていた。

「うっへえ…やっぱり、サラリーマン風の髪って俺には本気で似合わないよな。
髪も一応…初日だから黒に戻したけど、早く会社に慣れて…オレンジに
戻したいよなぁ…。何で日本のサラリーマンって、髪の色が黒とか薄い茶色とか
じゃないと認めないんだろ…本っ気でナンセンスだよな…」

 中学の頃から、大学を卒業してほんの数日前まで…太一の髪は明るい
オレンジ色に染め上げられていた。
 だが、流石に就職活動していた時期も流石に黒くしなければヤバイと
判断して染め直したのた訳だが。
 半年振りに見る自分の黒髪の姿に改めて、苦笑したくなる。
 しかも以前と違って、これからはこの黒髪の自分が…職場では
徐々に定着していくのだろう。
 このスーツの色と…ダークレッドのネクタイの色は、自分にとって今も
忘れがたい存在が良くしていた服装だった。

「…やっぱり俺に、サラリーマンって絶対に似合わないよなぁ…。薄々とは
判っていたけど、こうやってスーツとか着てみると…思い知らされるっていうか。
 …けど、何年かこういう経験をしてみるのも悪くないって…自分で決めた
道だし、仕方ないか。ライブとかの時は、スプレーか何かで以前の髪色に
染めるかカツラを使うかすればどうにかなりそうだしね…」

 そういって、シャツの襟を整えて…太一はネクタイをぎこちない動作で
絞めて整えていく。
 どうしてこんな苦しいものを首に絞めるのが、現代のサラリーマンの
正装なのか、堅苦しいものが大嫌いな太一には殺意すら覚えてしまう。

「はは…俺にはやっぱり、貴方と同じ服装は…似合わないね。けど…
俺…貴方のことを忘れたくないから。もう二度と会えなくても…それでも、
克哉さんのことを忘れたくないし、サラリーマンをやっていた頃の貴方の
気持ちを少しでも知りたいって、そう思ったからさ…」

 その色合いのスーツを着た自分を眺めている内に、今も鮮明に自分の
脳裏に刻まれている愛しい人の面影が蘇る。
 鏡に映っている自分の姿が霞み、代わりに…今も焦がれて止まない
優しい笑顔を、その向こうに思い浮かべていく。

「克哉、さん…」

 その瞬間、鏡の向こうで…その面影が優しく笑ってくれたような気がした。

―太一なら、大丈夫だよ…

 そう一言、幻聴かも知れないがあの人が言ってくれたような気がした。

―そうだね。貴方が今でも…傍にいてくれているからね…

 そうして、あの日からずっと…肌身離さずに持ち歩いているお守りを
上着のポケットから取り出していく。
 このお守りの中に入っているのは、ただ一つ…愛している人が残して
くれた物だった。
 今となっては、佐伯克哉はどこにもいない。
 本当にあの人が存在していたのか…どこに消えてしまったのか、
克哉と同じ会社に勤めていた友人、本多ですらも足取りを
掴めないままだと言っていた。
 克哉が最後に現れた時、太一は唯一の目撃者だった。
 そしてその時、目の前で彼が消えていくのを見たから…もう佐伯克哉が
…どちらの克哉であってもいない事を知っている。

 太一も、克哉との思い出の品など…携帯で2~3枚、ライブの時に
撮影した写真画像と、一枚の写真。そして…このお守りの中に
収められているものぐらいだ。
 自分にとって、憎んで止まない眼鏡を掛けた方の克哉も…完全に
消えてしまった。
 五十嵐組の力を持ってしても、生死は判らない。
 生きているのか死んでいるのか…どこで何をしているのかも
どうやってもこの数ヶ月、掴めないままだった。
―けれど、愛憎を抱いた存在が幻のように消えてしまった現状でも
それでも太一を支えてくれたのは、最後に残してくれたこの愛情の
結晶だった

 太一は強く、お守りごとそれを握り締めていく。
 その度に愛しいという気持ちと…力づけられるような気がした。
 人との繋がりは、想いは…例え目の前からその存在がいなくなって
しまっても―喪っても消えないのだと、あの人と知り合ったからこそ
太一は初めて知ることが出来た。

「克哉さん…俺、今でも貴方を愛しているよ…」

 ごく自然に、あの人に向かって声を掛けていく。
 己の中にある負、黒くてドロドロとした感情。
 どんな時も渦巻いて苦しくて仕方なかったその闇を払って
くれたのは…心から自分を愛してくれたあの人と出会えたからだった。
 だから、この先…別の人間と結ばれ、その人間と手を取り合って
生きていく日もあるかも知れない。
 だが、このお守りの中にある物だけは…太一が絶対に生涯手放すことは
ないだろう。

―これは彼を、『白』い世界に留めておく鍵のようなもの

 自分と同じ、光と闇を…黒と白の、二つの異なる魂を持つあの人が…
『今』の自分を留めさせる為に与えてくれた『光』そのもの。
 自分の弱さが、愚かしさが儚く脆い存在だったあの人を消してしまった。
 それでもただ一度だけ…あの日に出会えて、これを与えてくれた。
 そして…残してくれた。

「克哉さん…」

 あの日を思い出すと、涙がうっすらと浮かんでくる。
 けれどその痛みもまた…大切なものだから。
 どれだけの痛みが伴おうとも、決して忘れたくないあの雪の日。
 苦しくても辛くても、切なくても…自分は、貴方を…。

「…俺、一旦サラリーマンをやるよ。それで貴方の気持ちを少しは
理解したい。けど…夢は諦めるつもりもないから。いっそ国外逃亡して
どっかの国で音楽活動でもした方が…俺って天才だから、早くトップ
アーティストの仲間入り出来そうな気するけどね。
 けど、あの時の俺って弱くてガキで…一緒に過ごせたあの短い期間、
貴方のことを理解出来なかったし、否定ばっかしていた。
 だから…今からでも、俺は克哉さんのことを知りたい。どんな気持ちで
働いて来たのか…肌で感じたいんだ。それで少しでも解りたいんだ…。
俺にこんなの似合わないって判っているけどね、それでも…」

 鏡の中におぼろげに思い描いている、克哉の幻影に…沢山
語りかけていく。
 こんなの、第三者がいて見られたら危ない人間以外の何物でも
ないだろう。危険な独り言でしかない。
 けれど仕方ないだろう…自分が傍にいて欲しかった存在、色んな
想いを伝えたい存在はもうこの世にはいないのだから。
 それでも伝えたかったら、独りよがりでもなんでも…こうやって対話
する以外にないのだ。

「…だから、見守ってて。克哉さん…ここで…」

 そうして、お守り袋をそっと自分の胸ポケットの中に納めていく。
 それだけで…ホワっと心が温かくなった気がした。

「…貴方が俺を見守っていてくれているなら…『黒』い俺に、
負けないでこれからも生きていけると…そう、思うから…」

 そう祈るような真摯な声音で、告げていく。
 気づけば…もう家を出なければならない時刻が迫っていた。

「おっと! そろそろ家を出ないと…幾らなんでも初出勤の日に
遅れるなんて真似はしたくないよな~」

 そういって、明るい様子で太一は身支度の全てを整えてアパートを
飛び出していく。
 外は、清々しいくらいの快晴だった。
 桜が舞い散る風景を、風を切るように走り抜けていく。
 こんな暖かな日は気分が良い。
 去年の春はどれだけ陽気が良い日でも、こんな風に感じられる
ことはなかった。絶望の淵に、太一はいたからだ。
 けれど…今の太一は、その世界の暖かさをしっかりと感じられている。
 その世界の受け止め方の違いの全てが、お守り袋の中にある。

―克哉さん、貴方のおかげで…今、俺はこんなに暖かく世界を
感じられるようになったよ…

 そう感謝しながら、太一は…克哉を喪った日からの一年以上に渡る
切なく苦しかった記憶を、ゆっくりと蘇らせていく。
 今までは辛くて振り返れなかった。だが…今の自分なら少しは
客観的に見ることが出来るだろう。
 必死に走る最中、青年は…佐伯克哉という存在に纏わる記憶を
ゆっくりと意識に上らせていった。

―彼にとって、もっと絶望に満ちた時代と、救いの記憶を―

 
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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