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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※この話は以前に掲載して、一年ぐらい更新が止まり
続けていた『残雪』を一から構成し直して開始したものです。
 以前の話が時間軸が曖昧で判りづらい部分がありましたので
少々加筆をして、再掲載をしています。
 前回が太一の回想、という形で進めていたのに対して
新しい話はMr.Rがある人物に、夢という形で佐伯克哉と
太一のそれぞれの視点と思惑を垣間見せていくという形に
修正させて頂きました。
  太克悲恋、そして眼鏡×太一要素も含まれている話です。
 それでも構わないという方のみお読みになって下さい。



―五十嵐太一が過去を振り切り、新しい一歩を踏み出したのと
同じ夜、一人の男が赤い天幕で覆われた部屋へと迷い込んだ。
 その店の名はクラブR。
 主である男に見込まれた人間以外は決して足を踏み入れる
事が出来ない場所だった。

―おやおや、鳩が豆鉄砲を食らったような顔を
浮かべていますね。そんなに…当店に招いたことが
お気に召しませんか…?

「…………」

 男は、何も答えなかった。
 瞳には強い警戒心が宿っている。
 ここが何処なのか、目の前にいる男が何者なのかを
判らない限りは迂闊に口を開かない算段のようだ。
 何も言わなくても、目は口程に物を言う。
 その強い眼光だけで…男の気持ちは現れていた。
 だから相手から何の反応がなくても、Mr.Rは瞳から感情を
読み取り、自分のペースで進行することにしていった。

―嗚呼、何も話す気がないならそれで構いませんよ…。私も貴方と
楽しくおしゃべりをする目的で当店に招いた訳ではありませんから…。
ですがちょっとした気まぐれをしましてね。一年ぐらい前に起こった出来事の
一連を貴方に語っても良いと思ったから…お連れしたんですよ。
 …ずっと、太一さんに何があったのか知りたかったんでしょう…?
 私は貴方が追い求めていた答えを知っています。それを教えて差し上げる為に
招待したんですよ…

 そう、親切そうに語っても相手の瞳からは警戒心が消えることはなかった。
 だがそれぐらいで怯むRではなかったので、相手が沈黙を保ったままでも
気にせず自分の好きなように言葉を紡いでいた。

―嗚呼、私を信用出来ない。疑わしいと思うのでしたら…何もしゃべらなくて
結構ですし、何なら…そのままお帰りになって構いませんよ。けど、
今夜…私が貴方をお招きしたのは本当に気まぐれの事。今宵を逃したら
貴方が追い求める答えは決して…判らないままでしょう。
 それで構わないのならば…どうぞ、お引取り下さい。
 ああ、それは困るようですね…。聞く気があるようでしたら…どうぞ
その赤いソファの上へと掛けて下さい。机の上には…カミュを用意して
あります。…お酒は飲めない訳ではないでしょう? それなら…
その芳醇な味わいのブランデーを堪能して下さい…

 相手の様子は今もなお硬いままだが、店を出て行く様子はなかった。
 赤い豪奢なソファに腰を掛けていきながら…観念して、酒を手に持って
それを勢い良く煽っていく。
 こんな胡散臭い相手が出した酒なぞ、通常の彼ならば決して…手を伸ばす
ことはなかっただろう。
 だが、その場の流れ的に…この男の招待を受けなければ…彼がずっと
知りたかったものは判らないままだと悟った瞬間、腹を括ることにした。

―太一に一体、何があったのか

 彼は、激変した時から何もこちらに話してくれなくなった。
 荒んでしまった太一、そしてある日復活して…元の彼に、否…ある意味
別人のように考え方が変わってしまったことに男はずっと疑問を
覚えていた。
 どんな話が果たして飛び交うか判らないが…腹を括って、怪しい男が
差し出した一杯を飲み干していくと…不意に意識が遠くなった。

―ふふ、薬が効いてきたみたいですね…。嗚呼、心配ありませんよ…。
それは貴方に、太一さんに起こった出来事を夢という形でお伝えする為の
触媒を混ぜておいただけですから…。
 私が口で全部語って差し上げても宜しいですが、その方が…より臨場感を
感じられるでしょう…?
 そうそう、どうせなら…詳しく理解出来るように、何故太一さんが白の世界に…
日の当たる場所で生きることを望むようになったのか、その発端をお見せする
ことにしましょうか…?
 ごゆっくりと堪能して下さいね…

 その言葉に、男は強く睨むことで応えていったが…薬が一気に
効いてた為にもう何もする事が出来ない。
 そうして意識が急速に遠ざかり、何も考えられなくなっていく。

―おやすみなさいませ。どうぞ良い夢を…

 そして最後に、ムカっと怒りを覚えていきながら…男の唄うような
声を聞いて、彼は意識を手放して太一の過去の記憶へと
リンクしていったのだった―

                      *
  ―昔のことを思い出すと、真っ先に浮かぶのは高校時代のあの出来事だった。
 
  それは太一が克哉と出会う、何年も前の話。
  今から七年以上前のことだった。

―生まれて初めて、人を刺した日の記憶

 あれは、親父を守る為には仕方なかったと思っている。
 けれど…まだ未成年だった自分には重過ぎた。
 自分の就職した会社へと走って向かっている最中、まるで走馬灯の
ように太一の脳裏に苦痛の記憶が蘇っていく。
 今思えば…自分が克哉に執着したのも、原点はここなのかも知れなかった。
 そうして…太一は、七年前の実家で起こった大事件をゆっくりと意識の上に
浮かべていった―

 それは五十嵐組の本邸、父に宛がわれた部屋でのことだった。
 その場に居合わせたのは、偶然だった。
 久しぶりに実家に顔を出した父親と、少し話したいなと思ってフラリと
立ち寄っている最中に、太一はとんでもない光景に出くわしてしまった。

―父親が二人の男に襲撃されて、片方の男を撃退している最中に…もう一方に
銃を向けられている現場だった。

 それを見た瞬間頭が真っ白になった。
 同時に、自分が助けなければ…親父が危ないと、心底思った。
 今までの人生に、ケンカや暴力沙汰の方はそれなりの経験を積んで来ている。
 だが、命のやりとりの現場に遭遇したのは…その時が初めてだった。
 太一は、知らぬ間に叫びながら…護身用にいつも肌身離さずに持ち歩いていた
ドスを懐から取り出していた。
 幼い頃から、この家に身を置くのなら絶対に身体から武器を離すな…と言われて
育ってきた。
 五十嵐の本邸は、大きなグループの総帥である母と…五十嵐組の頭目である
祖父がいるせいで、いつその恨みを持つ者が襲撃してもおかしくない環境だったから。
 だから物心をついた時には、幾つも護身術を学ばされた。ドスや、ナイフの類を持ち歩く
習慣も、小さい頃からのものだった。
 けれどその習慣を、その時ほど感謝したことはなかった。そしてその教えの意味を
この瞬間ほど、理解した瞬間は今までなかった。

『親父から、離れろぉ!!』

 父は、好きだった 
 だから考えるよりも早く…身体が動いていた。そして太一は…父の命を狙っていた男の
背面…右脇腹の部分に、ドスを突き刺していった。
 あの手ごたえは忘れない。そして…動脈に触れる部分を刺したおかげで…
見る見る内に、刺した部位から血が溢れて来て…自分の手が汚れていった。
 人を刺した時の、あの鈍くて重い感触、苦い感情。
 それが知らない誰かであっても…自分の中の良心が、酷く疼いた。

―その瞬間に、太一の中で…何か黒い自分が目覚めていった

 太一は、人を刺した瞬間…笑っていた。
 現場にいた誰もが、目の前の光景があまりに凄惨すぎて…太一のその表情の
変化に気づいたものはいなかった。
 けれど…生まれて初めて、血と殺戮を悦ぶ感情が己の中に存在しているのを
自覚してしまった。
 それが冷静な部分では怖くて仕方なくて…けど、そんな太一の内心の怯えと
裏腹に…自分の顔は、冷笑を浮かべてしまっていた。
 返り血を、血飛沫を浴びて…全身を汚した状態で、太一は冷たく言い放った。

『親父からさっさと離れろよ…あんたも、こうなりたくはないだろ…?』

 その瞬間の太一の様子を見た父親からは、「あの時のお前は別人みたいだった。
怖すぎてちびっちまうかと思ったぞ…」と称していたけど、内心で自分も
そう感じていた。
 自分がこんなに冷たい顔と声音が出来るなんて、今まで知らなかった。
 氷のように冷たい眼差し。そして…本気の殺意を向けながら、太一は
冷然と…微笑んでいた。
 その凄味は…とても十代の少年のものとは思えなかった。
 自分の肉親を守る為なら、全力を持って戦う…その時の太一には
その気概があった。
 そして父親もまた、裏の世界では凄腕の殺し屋として名を馳せている男だ。
 二対一の状態で、不意打ちを突ければ男たちにも勝算があっても…
今は逆の立場となってしまっている。
 男は、舌打ちをしながらその場から隙を突いて逃げ出していった。

―現場に残されたのは自分達親子と、たった今…この手で刺した男だけだった

 危機を脱したと自覚した瞬間、太一は…ドっと疲れを感じて呼吸を乱していった。
 その時点になってやっと正気が戻って、今…自分がした行為の恐ろしさを自覚
していった。

『良く、やった…お前のおかげで、命拾いしたぜ…ありがとうな…』

 そういって父親は労いの言葉を掛けてくれた。
 だが、太一は…平然と人を刺して殺そうとした自分が…怖かった。

『親父、無事で…良かった…』

 太一はその時、泣いていた。
 父親を助けられた安堵と、緊張が解けたせいで…その場に膝を突いてしまった。
 それだけなら、感動のシーンだっただろう。

 だが、太一は…この時に初めて、自分が育っていた環境の恐ろしさというものを
五十嵐組のトップになるという事がどういう事なのかを思い知った。
 この時点では、太一の中では…祖父の跡取りとなることと、音楽の道に進みたい
という夢は半々ぐらいだった。
 けれど…五十嵐組を継ぎたくない。そういう想いが生まれたのは…自分の
中にドロドロと黒い、狂気めいたものがあると初めて自覚したこの日からだった。
 泣きながら、歯の音が合わなくなっていた。
 生まれて初めて、人を刺して返り血を浴びた…その強烈な体験は、まだ
未成年の子供だった太一には強烈な体験過ぎたのだ。
 そんな自分を、父親は抱きしめてくれた。
 子供の頃以来の、父親からの抱擁だった。それが辛うじて…『白』い世界に
自分を繋ぎとめてくれた。

―親父、俺…怖いよ。生まれて初めて…人、を…

 泣きながらそう訴えると、父親は黙って太一を抱きしめ続けた。
 任侠の世界に身を置けば、裏の世界に生きるという事はこんな事が起きる
危険も承認しなければならない。
 それを思い知った瞬間、怖かった。
 
―自分の中に、血を見て興奮して喜んでいる自分がいる。どうしようもなく
黒くて…それを愉快に思う部分がある

 それは今までの人生で、気づくことはなかった己の闇。
 …自分は、堅気の世界に身を置きたかった。日の当たる場所で行きたいと
この瞬間に痛烈に思った。

 その事件の記憶が少し遠くなって、高校卒業後の進路を決めなくては
ならない時期に差し掛かった頃には、太一は己の進みたい道筋を
見出していた。
 その当時の太一は、己が『白』の世界で生きる為には…何を犠牲にしても
構わないと思った。
 上京して、都内の大学に通う際に祖父が出した交換条件。
 それは犠牲になる人間たちのことを思えば、本当なら許されるものでは
なかったけれど…音楽をやりたいという気持を持って、まっとうな世界に居続けたい
太一は、その条件を飲み込むしか…当時は道を見出せなかった。

―今、思えば自分があの人に執着したのは…『白』い自分のままで
いたいという…その想いから発したものかも、知れなかった―


 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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