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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
(それでも流れ上使えると思った部分は再構成した上で
使用することもあります。了承下さい)
書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。
残雪(改) 1 2 3
太一は夢を見ていた。
そして傍観者である男の意識もまた、今は太一の方の意識と
同調し、ゆっくりと意識の深遠へと共に堕ちていき…同じ幻想と
感情を共有していく。
現実が彼にとって目を背けたいぐらいに辛いものであればあるだけ、
かつての佐伯克哉との思い出がキラキラと結晶のように輝き続ける。
一緒にいた時間がどれだけかけがえのないものだったのか。
他愛無い日常の一幕を自分がどれだけ愛おしいと思っていたのか…
あの人を失ってしまったからこそ、嫌という程思い知らされる。
―克哉さん。せめて…夢の中だけでも良いから、俺は会いたいよ…
何故、自分を感情もなく抱く男と一緒に暮らしているのか。
それは…太一が、奇跡を信じているからだ。
あの男に、「すでにあの弱い方の佐伯克哉はもういない」と言われた日から
太一はそれでも祈り続けた。
せめてもう一度だけでも良い。
―あの人に会いたい、話したい。そして少しでも触れたい…!
そう希望を捨てない事が…彼の正気を辛うじて留めていた。
傍にいた時は克哉はとても綺麗で。
堅気の世界にいた人を…巻き込むのが怖いという想いが
先立って、なかなか気持ちを伝える事が出来ないでいた。
あの人に抱いていた感情が恋であったと気づいたのは…
皮肉にも、二度と会えないと宣言されてからの事だった。
―克哉さん、克哉さん…もう一度で良いから、会いたいよ…!
貴方の笑顔が、見たいよ…!
そう願うからこそ、太一は必死に自分の中から…克哉と
過ごしていた三ヶ月間の思い出を必死になって意識の底から
掘り起こしていく。
佐伯克哉に会えないと突き付けられようとも…自分の中の
思い出までは記憶喪失にでもならない限りは消える訳ではない。
だから何度も何度も、太一は反芻していく。
克哉を決して忘れない為に。
―この想いを決して見失わない為に…!
(お前なんかに、決して屈してなんかやらない…! お前みたいな奴を
押しのけて、必ず…克哉さんは戻って来てくれる…! だから、
負ける…もの、か…)
心の中で強く思いながら、太一は克哉の夢へと意識を向けていく。
それはかつて当たり前のようにあった日常。
再びそれを取り戻す日を強く望んでいきながら…太一は、ゆっくりと
克哉との思い出へと浸り始めていったのだった―
*
―過ぎ去ってしまえば、他愛無い思い出の一つ一つさえ、とても
大切なものであったことに気づいた。
あの人がまだ自分の傍にいて微笑んでくれた時、こんなにも早く
会えなくなる日が来るなんてまったく考えていなかったから。
過去を振り返り、太一はつくづく思う。
その時間がどれだけ掛け替えのないものであったかを思い知った
今の自分が…過去に戻れたなら。
―きっと、もっと克哉に気持ちを沢山伝えていただろう
伝えきれない言葉が結晶となり…己の中に積み重なっていく。
それは雪のように純粋で、冷たい透明な想い。
―ねえ、克哉さん。俺は本当に貴方が…好きだったんだ。恋だって
自覚する前から…貴方と、知り合った時から…ずっと…
何度も、心の中で問いかける。
けれどもう想いは伝わらない。
克哉の存在は、今となっては太一の心の中にしか存在しない。
それでも、何回も何回も問いかける。
第三者から見たら、きっと過去に囚われてウジウジしているようにしか
見えないのかも知れない。
けれど引きずるという事は…それだけ、その存在が自分の中に食い込んで
重要な存在だった証だ。
大切でも何でもない相手の為に、人は傷ついたりはしないのだ。
だからどれだけ痛みが伴っても、太一は…克哉に纏わる思い出の一つ一つを
丁寧に心の中に浮かべていく。
―己の心に潜む、透明でキラキラした想いを…見出す為に
太一の脳裏に浮かんだのは、克哉に対しての欲望を自覚した日と…
あの事件の間に起こった、他愛無い日常の一コマだった。
プロトファイバーの営業の件に関して、目標値に達するか達しないかの
瀬戸際に立たされていた頃。
克哉は、息抜きの為に仕事が終わった後…喫茶店ロイドの方に足を
向けてくれた日のことだった。
太一もまた、その日は三時には大体のカリキュラムをこなしていたので
夕方の早い時間帯に店の方に入っていた。
17時になった直後ぐらいの時間帯は、あまり客がいない事が多かった。
この店のマスターである太一の実父は、これぐらいの頃にフラリと外に
出てしまうことが多かったからだ。
18時頃の、客が足を向け始めるまでにはほぼ戻ってくるのだが…常連の
方も店主がいない事が判っているのか、太一だけしかいない事が多い
時間帯には、あまり来なかった。
そのおかげで暇を持て余し、仕方なくスプーンやフォークの類を
ピカピカに磨く作業をする事で時間を潰していた。
単調な仕事ながら、くすんでしまった銀製の食器を磨くのは…一度始めると
綺麗に輝き始めるので意外に楽しいものだ。
そうして暫く夢中になっていると…軽く軋み音を立てて、喫茶店の扉が開かれていった。
その向こうからは、会いたいな~と念を送り続けていた存在が少し申し訳なさそうな
表情をしながら、立っていた。
「…こんにちは。太一、今日はいるかな…?」
どこか浮かない顔をして、克哉が扉の向こうからそっと声を掛けてきた。
「克哉さん!」
相手の表情に少し翳りがあるのは少し気に掛かったけれど、克哉の顔を見れて
太一は嬉しそうに微笑んでいった。
そうしてさながら、大好きな飼い主と遭遇出来たワンコさながらに克哉の方に
駆け寄って、ニコニコと笑ってみせる。
「さぁさぁ、早く中に入ってよ! 今の時間帯って客が本当に来ないからさ、
俺…暇を持て余してしょうがなかったんだよね~! だから克哉さんが来てくれて
すっごい嬉しい! 貴方と話していると本当に楽しくて仕方ないからね!」
「た、太一…大げさだよ。オレなんかと話したって、そこまで楽しくはないと
思うんだけどね…」
「ううん、俺はすっごく楽しい。克哉さんは俺がどんな話題を振っても知っている
範囲で丁寧に応えてくれるし、耳を傾けてくれるから。俺…克哉さんのそういう
所、すっごく好きだよ」
「…っ! ありがとう…」
太一の大歓迎モードに、克哉は逆に腰が引けてしまっているようだった。
だが一切構わず、克哉の手を引いて強引にカウンター席に座らせていく。
今の言葉に照れてしまったのか、克哉は軽く頬を赤く染めていた。
それをこちらに見られたくなくて、顔を俯かせている仕草は本当に…自分よりも
4歳も年上の人なのに、可愛すぎると思ってしまった。
(あぁ…今日も、克哉さんってば本当に可愛いよなぁ…)
ポワーンとなりながら、手早くテーブルを拭いて…冷たい水をそっと差し出していく。
「克哉さん、今日の注文は…? また、いつもの奴で良い」
「うん、それで…。確か、卵のサンドイッチだけだったらマスターがいなくても太一が
作れるようになったって言っていたから、その腕前を確かめる意味でもお願いするね」
「うわ! 克哉さん酷い! 前回に来た時に…その腕前をちゃんと披露して、キチンと
実証したじゃんか! 俺の言葉と実力を疑うつもり?」
「はは、疑っていないよ。信用しているって。そうじゃなければマスターがいないって
判っている時間帯にわざわざ来たりしないし。午後五時から六時の間に来れば
太一の特製のサンドイッチが食べられるんだろ? だからわざわざ時間調整して
直帰にして…そのまま此処に来たんだしね…」
今の克哉の一言に、太一はジ~ンと幸せな気持ちを覚えていった。
自分が以前に伝えたことを、きちんと克哉が記憶してくれていたことが判って
半端じゃなく嬉しくなる。
この頃の太一はすでに、克哉への想いを自覚し始めていた。
だからこんな日常の他愛無いやり取りや、一言から…とても幸せな気持ちに
なっていたのだ。
「…マジ? うん! それなら…腕に寄りを掛けて、とびっきり美味しいサンドイッチを
克哉さんに食べさせてあげるよ! だから少し待っていて!」
そういって瞳を輝かせながら、太一は克哉の為に精一杯美味しいものを
作ろうと気合を入れていった。
エッグサンドの下ごしらえをしている時間すら、今思えば嬉しくて仕方なくて…
幸せな一時だった。
そうして太一が意気揚々と、仕上げたばかりの自信作を克哉の前に出していくと
翳っていた克哉の顔が、嬉しそうに輝いた。
「はい! 克哉さん…俺の自信作出来たよ! 早速食べてみてよ!」
「ん、ありがとう太一。それじゃあ早速食べさせてもらうね」
そういって会話をしている間は、克哉は柔らかい笑みを浮かべている。
だがこっちが熱中して作業をして口を閉ざしている間、やはり克哉の方の
表情はどこかぎこちなくて硬いものだった。
そこから…太一は、克哉の気持ちが今日は重いものになっていることを
読み取っていった。
(克哉さん、きっと今日…何かあったんだろうな。何か表情が浮かないみたいだし…
俺と話していない時は表情も硬い。…前にも、今やっている営業は結構大変
みたいな事を言っていたしな…)
克哉はあまり、自分の事を語らない。
そして愚痴めいたこともあまり言おうとしない。
けれど…最近は親しくなってきたので、断片的にだが会社でのことも少し
話してくれるようにはなっていた。
太一が知っている範囲で判ることは、克哉が今…営業を担当しているプロトファイバーは、
御堂とか言う上役のおかげで、結構大変な想いをしているらしいというぐらいだ。
そんな克哉を励ましたい、笑わせて少しでも気持ちを軽くしてあげたかった。
―克哉の為に何かをしたい、と純粋に太一は思った
「ねえ、克哉さん…良かったらサンライズオレンジでも飲む? 今たまたま…在庫に
あるんだ~。この間、特売で安かったから勢いでつい買っちゃったんだけど…」
ぶはっ!
サンドイッチを摘む前、軽く喉を潤そうとグラスに口をつけて、冷たい水を喉に
流し込んでいた最中の克哉が盛大に吹いていく。
「サンライズオレンジ」は克哉が取引しているMGNの、現在メインとなっている
「プロトファイバー」の前に大々的に売り出していた商品だ。
美容と健康を歌っていたが、身体にどれだけ良い成分を配合しても味があまりに
微妙すぎた為に…一般層には受け入れられず、大量の在庫を抱える羽目になった
いわくつきの商品である。
克哉からしたらこの状況でその単語が出たのは、予想外も良い所だった。
意表を突かれる形になった為に、盛大に水を吹いてむせる羽目に陥った。
「うわっ! 克哉さん大丈夫!」
「うっ…ケホ、ケホ…だ、大丈夫…ちょっとあまりに懐かしすぎる単語を耳に
して驚いただけだから…。けど、遠慮しておく。あれは一応…うちの部署も
営業扱っていた商品だけど、味は本当に微妙というかマズイっていうのは
よ~く判っているから…」
「ゴメン、克哉さんを和ませようと思って軽口を叩いていたんだけど…苦しい
思いをさせちゃったね…」
「いや、良いよ。オレ…正直言うとちょっと本当にこのままで目標値を達成出来るか
凄く不安になっちゃってさ…。だから、つい此処に足を向けてしまっていたから。
太一の傍にいると、安心出来るっていうか…自信が少し持てるようになるから。
だから気にしなくて良いよ。太一が気遣ってくれているだけで…オレは充分、
気持ちが暖かくなっているからさ…」
「えっ…」
真正面から、予想外のことを言われて…太一の頬が一気に赤く染まっていく。
何というか、あまりに嬉しいことを言われて顔が火照り始めていった。
(うわうわっ! 克哉さんってばもしかして無自覚…? 今の言葉、すっげ~俺…
嬉しかったんだけど…!)
太一がつい、無言で口元を覆って顔を赤くすると…どうやら克哉の方も自分が
恥ずかしいことを言ってしまった自覚が出たらしい。
二人して…何か居たたまれない気持ちになって、お互いからソッポを向いてしまう。
何というか、微妙な空気が流れていく。
甘酸っぱいような、恥ずかしいような…そんな雰囲気だった。
(な、何か話した方が良いよな…この流れを変えないと。俺の部屋とかでこういう
空気になるなら大歓迎だけど…もうじき親父が帰ってくる頃だし、他の客もこれから
押し寄せてくる時間帯だしな~)
心底残念に思いながらも、太一はどうにか…この流れを変える為の口実を
どうにか探していった。
本音言うと、克哉を引き寄せて抱きしめたりキスしたりしたい衝動に駆られていた。
だが…いつ、第三者が踏み込んでくるか判らない状況で、実行に移すわけには
いかなかった。
万が一それで常連客が来店して来て、ただでさえ少ない客が離れていくような
事態になったらそれこそ自分が父に殴られかねない。
辛うじてそう理性を働かせていきながら、その衝動を堪えていった。
だからポケットをゴソゴソと探していくと…先日、気まぐれに購入した品の包みが
指に当たって…太一は反射的にそれを克哉に向かって差し出していった。
「か、克哉さんこれ…良かったら貰って! 大したものじゃないけど…!」
「えぇ?」
唐突な展開に、克哉もまた…素っ頓狂な声を漏らしていた。
どうやら頭と場面の切り替えが上手く行っていないようだった。
それでも太一は現在の流れを変える為に半ば強引に、紙製の包装をされていた
その品を押し付けていく。
「それ、パワーストーンだから。俺の今の髪の色に近いからつい気になって買っちゃった。
確かサンストーンって言って…人の眠っている才能を目覚めさせたり…生命力や
活力を与えてくれる力があるんだってさ。俺もそんなに詳しくはないけど…今の克哉さん
落ち込んでいるみたいだしさ。俺は元気一杯だし、きっと力になると思う。
…お守り代わりと思って、受け取ってよ。それで少しでも克哉さんを励ましたり
力づけられるなら…俺、すっげ~嬉しいからさ…」
「えっ…でも、これ…太一が買ったものなんだろ? 貰って…良いのかな…?」
「うん、克哉さんに持ってて欲しい。俺の髪の色に近い石って言ったでしょ? だから
俺が傍にいて貴方を見守っているんだって…そう思って大切にしてくれたら…俺も
すっごく嬉しいからさ…」
「あ、うん…! ありがとう太一…嬉しい…」
この日の克哉は、本当に落ち込んでいた。
だからこそ…この太一の気遣いを、本当に心から感謝していた。
嬉し涙をうっすらと浮かべて、微笑んでいる克哉の表情はとても可愛くて…自分よりも年上で
身長も高い人だっていうのに、男の保護欲を酷く掻き立てられた。
太一が渡した、サンストーンは…古来より、「太陽」を意味する名称をつけられてきた石だ。
オレンジ色にキラキラ輝く姿は、太陽を連想させるからだろう。
「本当…この石、とても綺麗だね。太一の髪の色と良く似ているし…。
うん、太一が傍にいてくれていると思えば、すっごく心強いよ…」
「か、克哉さん…そんな風に真っ直ぐ見つめられながら言われると…その、
俺、すっげー照れるんだけど…!」
あまりに克哉が可愛らしい顔を浮かべていきながら、感謝の言葉を口に
していくのが柄にもなく太一は照れて、頬を赤く染めていた。
ふと見せた年相応の表情に、克哉は優しく瞳を細めて笑っていく。
その顔がまた青年には魅力的に映ってしまって…心臓がバクバク
言い始めているのが判った。
―今思えば、この日に…二人は密かに両想いになっていたのかも知れない
まだ告白をしていなかった。
それぞれの気持ちを口にしなかったし、出来なかった。
太一はすでに己の気持ちを自覚していたけれど…同性同士である、という壁がどうしても
高く感じられてしまって、率直に特別な存在として克哉を「好き」だとは言えなかった。
(あぁ…本当に、克哉さんは可愛いなぁ…。本当に、俺…この人の事が好きなんだな…)
その事をしみじみと実感した瞬間、店の入り口の扉が開いて…マスターが帰って来た。
瞬間、さっきまで流れていた甘い空気は霧散していく。
二人は平静時の表情を浮かべて、変に気取られないように…普通の態度へと
戻っていった。
だが克哉は、自分のポケットに今貰ったばかりのパワーストーンを収めていくと…
時折、それを確認するように愛おしげに握り締める仕草を繰り返していったのだった―
この予定調和を崩す、この日の克哉の来訪。
そして太一が贈ったサンストーン。
その二つの要素が、本来彼らが辿るべきだった道筋から、皮肉にも新たな道筋を
生み出す原因になってしまっていた。
この日の二人は、幸せだった。
けれど不幸にも…大きな事件が起こる前に、克哉が太一への自らの想いを自覚したことが、
彼らにとって、最大の不幸へと結びついてしまった。
どれだけ想いあっていても、ほんの僅かな歯車の狂いや…すれ違いで、人は思いも寄らない
運命を引き寄せてしまうことがある。
この日は、いわば…振り返ってみれば最大のトリガーだったのだ。
―そして、この日より二週間後。
太一は、もう一人の克哉に屈辱的な目に遭わされ…永遠に克哉を喪ったのだった―
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
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1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
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24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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