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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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※4月1日からの新連載です。
それぞれ異なる結末を迎えた御堂と克哉が様々な
謎を孕んだまま出会う話です。
 彼らがどんな結末を辿った末に巡り合ったのかを
推測しながら読んでください。
 途中経過、結構ダークな展開も出て来ます。
 それらを了承の上でお読み下さいませ。


―完全に、消えたくなかった

 自分という存在が殆ど空気のようになり…皆にとって何の意味が
なくなってしまっていても、その想いだけは消えてくれなかった。

―何かを残したかった

 自分が生きたという証を。
 認めてくれる存在を、あの二人のように…自分も、人とそんな関係を
築きたかった。
 たった一度で良い。
 愛し愛される…お互いが必要としあう関係を作り上げたかった。
 それが己のエゴであると判っていても、このままでは自分が消えてしまうと
悟ったからこそ…見つけ出した唯一の願いだった。

―お願いします、オレを必要として下さい…!

 それは彼の心からの願い。
 体裁も建前も何もかも脱ぎ棄てて、最後に残った純粋な想いだった。
 だから男はそんな彼を気まぐれに拾った。
 最終的に、利用するつもりで。 
 何もしないでいたら…静かに消え去ってしまう存在に悪魔のような笑みを
浮かべていきながら…優しく、手を差し伸べていく。
 その奥に不穏なものを感じながらも…黙って消えたくなかった彼は、
それでもその手を繋いでいく。
 どんな意図で、男がこちらに手を差し出したのかを理解しないまま…。
 
―彼は亡霊のような儚い存在から、ゆっくりと実体を持ち…再び
己の意思で語り、世界を感じる事を赦されていった

                       *

 プロトファイバーの営業が終わってから数カ月、季節はすでに
春を迎えようとしていた。
 先月までは春を迎えた筈なのに…彼岸を過ぎた辺りから半端ではない
寒さが襲いかかっていて、桜の開花を迎えたというのに夜は五度前後の
気温まで冷え込んでいる日々が続いていた。
 そして四月の初め、、ようやく暖かくなり始めた頃…その日は濃霧に
都内は覆われていた。
 この時期に車の運転も厳しくなるぐらいに深い霧が発生するなど
極めて珍しい事であり…その為にこの日の御堂孝典は車ではなく、
電車と徒歩で帰宅する事となった。
 普段は車で20~30分程度の距離だが、こうやって電車を使って
通勤すると新鮮な気分になった。
 まあそれもたまになら…の話だ。

 基本的に昼食を取る時間すら削って仕事に追われている御堂に
とっては通勤時間が長くなるのは望ましくない。
 それでも白い霧に覆われた今日に限って言えば、万が一にも
事故を起こしてしまってはシャレにならないと考えて…安全の為に
公共の交通機関を使う事になったが、それでも時間帯によっては
速度制限される時もあって、色々と混乱があったようだ。
 幸いにも…御堂が使用した時間帯はどちらもその難を逃れていたが。

(…今年は本当に異常気象の連続だな…)

 しみじみとそう実感していきながら、御堂は速足で帰路についていた。
 白い霧で覆われていると言っても、遠方の方が霞んで見えるだけで…
歩いて動く距離に関してはそんなに問題ない。
 だが、街灯に照らされている部位には細かい水の粒子がフワフワと
浮かびあがって普段とは違った装いを周囲は見せていた。
 見慣れた道を歩いている筈なのに、まるで異世界に迷い込んでしまった
ような奇妙な錯覚を覚えていく。

「…こんなに春なのに濃い霧が発生するとはな…。珍しい事が続くな…」

 軽く溜息を吐いていきながら…ようやく御堂は自宅のあるマンションの
周辺へと辿りついていった。
 ここまでは慎重に、怖々と進んでいた部分もあったが…馴染みがある
処まで辿りつけば安堵が広がっていく。
 霧が出ているせいか、先日よりも少しはマシになっているとはいえ…
今夜は充分に冷えている。
 早く家に帰って、今夜はシャワーだけではなく…久しぶりに湯を溜めて
湯船にでも浸かるか、とふと考えた瞬間…背後から声を掛けられた。

―こんばんは

 その声は、まるで舞台か何かで発されたかのように酷く周囲に
反響していった。
 とっさに御堂は後ろを振り向くが…そこには誰もいない。
 目を凝らして探しても、人の姿らしきものはどこにもなかった。

「…誰だ…?」

 その声は聞き覚えがあるような、ないような…少なくとも御堂の身辺に
いる人物の誰のものとも異なっていた。
 しかしたった一言でもまるで舞台で役者が演技しているような…そんな
歌うような響きを持った声音だった。

―ふふ、そんなに探さなくても…私の姿はただ、霧の中に紛れているだけの
話ですよ…。話すだけならそんなに支障はないのですから…そんなに
懸命に探さなくても大丈夫ですよ…

「…一体、君は誰だ? 姿も見せない相手に…馴れ馴れしく話しかけられる
謂われなど私にはないのだが…」

―ふふふ、つれない反応ですね。もうじき捧げられる存在だというのに
己のその結末を知らない哀れな子羊に噛みついても仕方ないですが…。
貴方に一つ、頼みたい事がありましたから…今日はこうして姿を現させて
もらったのですが、宜しいですか…・?
 
「顔も見せない相手の頼みなど私には聞く義理はまったくない」

 相手の言葉をばっさりと一刀両断していきながら、御堂はさっさと
踵を返していった。
 まったく相手に構う意思すら見せない、毅然とした見事な態度だった。

―お待ち下さい。貴方は…周囲で姿を消した方々がどうなったのかを…
知りたくはないですか…?」

「っ…?」

 その一言を聞いた瞬間、御堂は一瞬だけ足を止めていった。
 御堂の周囲は、確かに関係者が何人か…ここ一カ月の間に姿を
消してしまったという報告があった。
 今では直接的な関係はなく、徐々に疎遠になっていく間柄であったから
あまり気に止めていなかったが…それは確かに、御堂の中で気がかりに
なっている事でもあった。

(この男は…彼らが消えた理由を知っているのか…?)

 その好奇心が、つい御堂の足を止めていく。
 僅かな間を、相手は見逃さなかった。
 相手の声がした方をつい振り返った瞬間…其処に長い金髪をなびかせた
黒の長いコートを纏った謎多き人物が、ゆっくりと白い霧の中から
浮かびあがって、彼の前に現れていったのだった―
 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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