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以前に書いた残雪を、改めて構成し直して再アップ
したお話。太一×克哉の悲恋です。
1話と2話は以前にアップしたものの焼き直しですが…
3話目以降からは一からの書き直しになります。
書き掛けで止まっている話の方は(不定期連載)の方に
あります。
残雪(改) 1 2 3 4 5 6 7 8 9 10
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―人との出会いには、必ず別れが存在する
永遠に続く関係など本来ならば在りはしない。
どんな生物でも死という概念からは逃れる事は出来ず、
どれだけ親しくなっても、愛し合っても…寄り添い共に人生を歩く決断をして
伴侶という存在になっても、死という別離からは人は逃れられない。
なら、人を愛する事は無意味なのだろうか?
それは否である。
例えどれだけ一緒にいた時間が短くても、誰かを真剣に想い…
その心にお互いの存在を刻む事が出来たならば。
両者の想いがそれぞれの心の中で輝き、明るい光をもたらす事が
出来たならば…出会った事に充分、意味があるのだ。
例え死という別れが訪れてしまっても。
相手が与えてくれた気持ちは、受け取った相手がしっかりと抱きとめて
いる限りは永遠のものとなる。
大事なのは…相手からの気持ちを真摯に受け止める事と、それを
忘れずにいる事なのだから…。
―克哉さん、やっと会えたね…
2年ぶりにアメリカから帰国して、久しぶりに日本の土を踏んだ翌日…
父の報告を受けて五十嵐太一は佐伯克哉の墓へと訪れていった。
あの雪の日に最後に出会ってから、そして…今でも大切に持っている
石を受け継いだ日からはもう五年以上の月日が流れた。
佐伯克哉の墓の周辺には幾つかの桜の木が植えられていて…
今の時期は見頃を迎えていた。
季節は春を迎えて…すでに気候は暖かくなっている。
けれど、こうして克哉の墓を前にすると…鮮明に思い出されるのは
やはりあの雪の日の記憶だった。
太一と、その父親は花束と線香と柄杓、そして木桶に水を組んで
墓の前に訪れていた。
線香に火を灯すと、それぞれが半分ずつ持って…静かに墓前に
置いていった。
そしてそれぞれ…様々な想いを胸に秘めながら静かに黙祷を
捧げていった。
五分程度した頃、太一がそっと口を開いていった。
「親父、ちょっと…克哉さんと二人で話して良いかい?」
「あぁ、線香と花はもう捧げたからな。…お前の方がこの人との縁が
よっぽど深い訳だし…車の方で待っている。終わったら来い」
「ああ…サンキュ。ゆっくりと語り終わったら戻るよ」
父にそう軽口を叩いていきながら、人払いをしていった。
そうしてようやく克哉と一対一で話す事が出来た。
死人は口なし、と良く言う。
死んでしまって墓に入ったら実際に語り合える訳でも…やりとりが
出来る訳ではない。
それでも人が死んだ後に墓を作るのは、一種のその人への敬意や
愛情から派生するものだ。
例え肉体が滅んでも、関わった人達の中からその人物の記憶や
思い出が消えさる訳ではない。
葬式も、墓も…生きている人間が、死者への想いを断ち切る為に…
そして「死んだ後も思い遣る」為に存在している。
今の太一が、まさにその心境だった。
目の前に…大切な人がいるのと同じように、柔らかい笑みを微笑みながら
ゆっくりと墓の下の克哉に語りかけていった。
「…克哉さん、俺…夢が叶ったんだぜ。MGNの専属のCM曲の
アーティストになるって形で援助を受けてさ、アメリカの方では最近は
結構認められて来ているんだ…。結構、俺…頑張っているんだぜ。
克哉さんと同じサラリーマンに一度なるって決意した時は、こんな風な
未来が待っているなんて予想してもいなかったけどさ…。後、ついに
克哉さんの年を俺、抜いちゃったね。今は俺の方が…年上になるのかな。
そう思うと、ちょっと変な気持になるね…」
現在の太一は28歳、27で最後を迎えた克哉の年齢よりも上に
なってしまっていた。
克哉が五年前に死んでいるというのは…父から車の中で聞いた。
だから克哉はあの雪の日の直後には死んでいるというのを今は
太一は知っていた。
墓を前にしながら…ただ、克哉の面影を脳裏に描いていった。
思い出の中の克哉はいつだって、儚く優しく微笑み続けている。
桜の下に克哉が立ってその表情を浮かべているような…そんな幻を
見ながら…太一は言葉を続けていった。
「…克哉さんがさ、最後に俺に…優しさをくれた。あったかい想いをくれた。
その気持ちが…俺に夢を思い出させてくれたんだ。それで…克哉さんが
どんな気持ちでサラリーマンをやっていたのか理解したかった。
だから一度はMGNに勤務したんだ。その経験のおかげで今…俺は
結構OLやサラリーマンに共感して貰えるような曲や詩を書けるようになった。
…本当に今でも克哉さんに俺は助けられているって実感している。
だからこれからも…ずっとこれを大切にするから…」
そうして、太一は静かに掌にお守りを乗せて相手に見せていった。
克哉が最後に渡してくれた石、キラキラと変わらずに輝くダイヤモンドは
今も彼の心に温かいものを残してくれている。
眼鏡を掛けた方の克哉とはいがみあって、険悪な関係だった。
それが一時はどれだけ太一を荒ませていたのか…何もかもに絶望して
やけっぱちになっていた時期もあった。
けれど…嫌な事も良い事もひっくるめて、太一は今でも彼を愛している。
長い年月を経たからこそ…苦い記憶も一緒に、彼の中では昇華して…
それでも克哉を愛しているという結論を導き出した。
「…けど、出来るならさ…。俺、克哉さんに傍にいて欲しかった。
人生のパートナーとして…一緒に歩んで欲しかった。
貴方と一緒に成功を分かち合いたかったし、もっと触れ合いたかったし…
克哉さんを全身で愛したかった。それがもう叶う日は来ないのは残念だけど…
今では仕方ないな、と諦めている。…俺が、どちらの克哉さんも愛する事が
出来たなら…きっと違う未来が来ていたかも知れない。けど、あの頃の
俺は未熟で…貴方の良い面だけを見て、裏側の面を嫌悪してしまったから。
全てをひっくるめて克哉さんなんだって、そんな当たり前の事を判るのに…
何年もかかってしまったからね、俺は…」
苦笑しながらそれでも言葉を続けていく。
あの雪の日は今、思い返せば本当に短い時間しか会えなかったから。
克哉の気持ちと想いを、こちらに伝えるだけで精いっぱいで。
太一は己の心情や考え、そういった全てを口にするだけの時間は
存在しなかったから。
だから彼は、墓という形になってしまっても…胸に秘めていたものを
全て相手にぶつけていく。
この五年間、自分を支え続けていた…何よりも強い芯を。
そしてあの頃の己の弱さや未熟さも、全て踏まえた上で…。
やっと振り返ってあの頃を見つめ直す勇気が持てた。
この恋が叶わなかった理由は、極めて単純だったのだ。
あの人の…別人格をひっくるめて愛する事が出来なかった。
もう一つの心を自分は忌避して、否定して攻撃をし続けてしまったから。
二つの克哉の意識がどんな風に繋がっているのかなんて判らないけれど。
太一の中にも荒んで何もかもどうでも良い、壊してグチャグチャに
してやりたいと思う黒い心と…陽の当たる場所で生きていきたい、
音楽を何よりも愛する白い心が同居する訳なのだから…。
―誰だって二重人格的な要素は存在する…相反する、ジキルとハイドの
ような極端な二面性は…殆どの人間の中に在るものなのだ…
この五年間で様々な人間と接した。
人の汚ない心や、綺麗な気持ちも沢山見て来た。
サラリーマン社会や、日本とアメリカのそれぞれ異なる地で生活を
した経験や…音楽活動を通じて、学生だった時代とは比べ物にならない
ぐらいに沢山の経験を重ねて来た。
そうして視野が広がった事で太一は…ようやく、克哉の二面性を、
二重人格をごく自然に受け入れられる心境にまで達したのだ。
「今でも、貴方を愛している…克哉さん…ずっと、俺の中から
この気持ちは消えない…」
そして、やっと…この人に愛していると気持ちをぶつけていく。
その瞬間…堰を切ったように太一の目から涙がポロポロと零れていった。
どれだけ月日が流れても。
例え相手がこの世からいなくなってしまっても残る気持ちが存在する事を
太一は克哉を愛して初めて知った。
―俺が生きている限り、きっと…この気持ちは永遠だ…
死んでも残る想いがある。
すでに相手が消えてしまっても、誰に何と言われようと己の中で
生き続ける感情がある。
それはきっと『愛』と言われるもの。
独占欲やエゴや、過度の相手への期待や…否定や、そういった先に
潜んでいる強くて純粋な気持ち。
それを太一は、自覚した。
「克哉、さん…克哉、さん…!」
壊れた機械のように、ただ愛しい人の名前を呼び続ける。
こんなにもこの人を想っていた自分を、ようやく理解していく。
克哉が死んでいる事など、そして最後に逢った克哉が幽霊のような
ものであった事も太一は薄々とは気づいていた。
その現実を受け入れる為に、それでも最後に自分の元に訪れてくれた
嬉しさや切なさを全てひっくるめて、太一は泣き続ける。
五年前から自分の心の中で凍り続けていた想いが…やっと涙と
いう形になってキラキラと落ちていく。
―貴方を、愛している…俺は、ずっと…他の誰かを愛するようになっても…
それでも俺の中には貴方の存在は残り続けていく…それは間違いないから…
そしてその克哉の愛こそが、辛い事があっても彼を支えていく。
見えない手で守られ、庇護されるように。
苦難の時に、彼の心を照らす希望となって…
太一はそうして…彼に捧げる愛の歌を口ずさんでいった。
MGNの新商品に採用される事が決まった一番の自信曲を。
何よりも克哉への想いを散りばめた一曲を…この人を愛していると
日本中、世界中に叫んでいるに等しい一曲を…。
―黒い貴方も、白い貴方もひっくるめて今の俺は愛しているから…
そんな、太一の生々しくも強い想いが込められた一曲を…
墓の下の克哉に向かって歌い続ける。
心を揺さぶるような力強さに満ち溢れた声だった。
その瞬間、太一は幻を見た。
―ありがとう…太一…嬉しいよ…(悪くない曲だな…)
二人の克哉の声が、はっきりと重なりながら聞こえていった。
優しい声と、ぶっきらぼうな声。
それを聞いて…太一は、言葉を失っていった。
「克哉、さん…今の…」
たった一言、幻聴かも知れない声。
けれどそれだけで彼には充分だった。
強く強く、自分の手に残っているあの日の気持ちの結晶を握りしめていった。
これはまるで、永遠に消えない雪みたいだ。
雪は本来、儚く消えてしまうものなのに…白く輝き続けるダイヤモンドは
消えずに残り続ける雪の結晶のように太一には感じられた。
想いにとらわれていると、人は見るかも知れない。
けれど…それでも彼はもう構わなかったのだ。
「…一言でも、言葉を返してくれてありがとう…。克哉さんに気に入って
貰えたなら何よりだよ…。それじゃあ、俺はそろそろ行くから…」
まだまだ語りたい事や、伝えたいものは一杯あったが夕方からは
またこなさなくてはいけないスケジュールがみっしり詰まっている。
そろそろ東京に帰らないといけないという理性をどうにか働かせて…
太一は名残惜しげに墓から背を向けていった。
「けど、また会いに来るよ…。ここに、貴方がいるんだから…」
きっと、太一が生きている限り…彼は時々にでも、ここに克哉と
語らいに来るだろう。
今の自分は、きっとこの人と出会わなければいなかっただろうから。
苦しい事やドロドロした気持ちの果てに、ようやく彼は真実を見つけられたから。
もう揺らがない。
傍に克哉がいなくても…残された愛情は今も、太一の心に織り込まれて
血と肉となっているのだから…。
『またね、克哉さん』
さよなら、ではなく…また来ると、その意思を込めていきながら
彼はお寺の駐車場へと向かっていく。
桜の花がヒラヒラと風が吹く度に舞い散って、心地よい風が
吹きぬけていった。
「さて、これからも頑張らなきゃな…次に来た時に克哉さんに
胸を張って近況報告出来るように…」
そうして前向きに、未来を見据えていきながら…彼は
そう呟いていった。
死んでも、本当の想いが残せればそれは人を生かして、希望の
光へとなっていく。
克哉があの日託した石にはそれだけの力があったから。
だから太一はこれからも大切にするだろう。
―克哉が残してくれたキラキラと輝く、白い石を…彼が生きている限りずっと…
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当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
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…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。