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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ※  この話はN克哉が事故で昏睡して記憶を失っている間、夢の世界で眼鏡と
十日間を過ごすという話です。それを了承の上でお読みください(終盤です)

 午後から外は猛烈な吹雪になっていた。
 勢い良く吹き付ける雪と風の様子は、まるで今の自分達の心境のようだった。
 強風で建物全体が大きく揺れる中、お互いに服を纏い…表面的にはいつもと変わらぬ
日常を送っていく。
  当たり障りのない会話に、他愛無いやり取り。
 
 昨夜あれだけ夢中でお互いを求め合ったのが嘘のようだった。
 同時にそれが取り繕っているが故の平穏である事も判っていた。
 二人とも敢えて…深く踏み込んだ会話をする事もなく、夕食の時間帯まで迎えて
そして…いつしか、世界は宵闇に覆われていた。
 
 空に浮かぶ月は真円を描いていた。
 初日は三日月より少し太いくらいの大きさだった月が…最終日の前夜に満月に
なるなんて、少し出来すぎだと思った。
 ふと…月を見つめながら眼鏡は思う。
 昨日の朝から…今日、この時間までに起こった出来事はあまりに濃密過ぎて、
気持ちの整理がまったく追いついてなかった。

 入浴によって濡れた髪を乾かすべく、暖炉のある部屋でそっと寛いでいく。
 ソファに座りながら煙草の一本でも吸いたかったが…この世界にはそんな物が
ないので手持ち無沙汰だった。

(煙草の一本でも本気で吸って…少しでも気持ちが落ち着けられたら…な…)

 ふう、と深く息を吐いて…勢い良く燃える赤い炎の揺らめきを眺めていった。
 その時…ふと、鮮烈なコーヒーの香りが鼻腔を突いた。
 気になって振り向いてみると…同じく入浴によってほんのりと頬を上気させた
克哉が、毛布を羽織ながら…両手に二個のマグカップを持って立っていた。

「…コーヒー淹れて来たんだ。良かったら隣…良い?」

「あぁ…好きにしろ…」

 ぶっきらぼうにそう告げると、嬉しそうな笑顔を浮かべながら…眼鏡の隣にチョコンと
座っていく。
 ゆっくりと身体を寄せて、その身体を寄り添わせて来たが…眼鏡は特に何も言わずに
相手の好きなようにさせていった。
 触れる部分から伝わる相手の温もりが、心地よかった。
 自分の分のマグカップを両手で包みながら、一口液体を含み…切なげな表情を
浮かべながら克哉が口を開いた。

「…兄さん。一つ聞いて良い…? オレ…本当に…御堂さんと恋人同士、なの…?」

 いきなり、その話題を振られるとは思っていなかったのと…その確信のない聞き方に
眼鏡は少し驚きながらも、一つ頷いて答える。

「あぁ…お前と御堂は、れっきとした恋人同士だ…。それをちゃんと、思い出したんじゃ
ないのか…?」

「…嘘、でしょう…? 何でオレに対してあんなに冷たくて…酷い事をした人と…
恋人同士に、なっているの…?」

 唇を震わせながら、呟く姿に…今度こそ眼鏡はぎょっとなった。
 こうして御堂の事を口に出す姿に、相手への恋情らしきものはまったく伺えなかった。
 しかし…ふと、思い至る事があって、念の為に確認していく。

「…待て。お前は御堂との事を…どの辺りまで思い出したんだ…?」

「……八課のみんなの為に、要求を引き下げて貰うように頼んで…無理やり…口で、させられたり
身体を椅子に拘束されて…良いようにされた辺り…まで…」

 かなり言い辛い内容だったが、ようやく観念して…正直に答えた。
 それを聞いて…眼鏡は納得していく。
 御堂孝典と佐伯克哉が恋人同士に至るまでの間には、複雑な感情がお互いに絡み合っていた。
 最初の頃の御堂と克哉の関係はお世辞にも良好とは言い難かった。
 眼鏡が初めて表に出て…御堂が全力を注いで製作した新製品「プロトファイバー」の営業権を
彼を言いくるめてもぎ取った事で…正直、良い感情を抱かれていなかったのだ。
 それで目標を達成する間際に、在り得ない営業目標を上げられてしまい…そして克哉は
達成出来なければ自分の所属する営業八課は解散という事態を回避する為に…御堂と半ば
無理やり、肉体関係を結ぶ形になっていた。

 克哉が思い出した記憶は、関係を結んだばかりの…もっとも御堂を憎く思っていた頃の
ものまでだった。そこまでしか思い出していないのなら…御堂に対して、良い感情を抱けない
のも仕方ない事だ。
 その後から、何度も抱かれている内に…お互いの感情に変化が訪れて、克哉の方から
御堂に想いを告げたことで…二人は正式な恋人同士となった。
 そういう複雑な結ばれ方をしただけに…幸せになった後の記憶まで戻っていないのならば
このような物の言いようになるのも…無理はなかった。

「…貴方と、以前にどんな風にセックスしたのかも…今はおぼろげだけど、思い出している。
…結構、酷いなと思ったけれど…あの人の扱いよりは、ずっとマシだと思うし…。
どうして、オレは…御堂さんと恋人同士になったのか…今はまだ、全然思い出せない…
だから、信じられないんです…何故、って…」

 そうやって独白している克哉の表情は…混乱しているようだった。
 やっと思い出した恋人の記憶が…もっとも酷い感情を伴うものしかないのならば…こうなるのは
当然だ。しかし…今までの人生の中で、誰よりも御堂は克哉の心を大きく揺さぶり、最初は
憎しみという形であれ…他人と関わらず、干渉もせずに生きてきた佐伯克哉の中に…強い
感情を引きずり出した存在でもあるのだ。
 自分はその過程を…こいつの内側から、ずっと見ていた。
 そして…イライラしていた。
 何故、俺を出さないのか。どうしていつまでも御堂の言いなりになっているのか。
 …そこら辺の憤りも、一度は眼鏡が心の奥で眠りについた理由の一つでもあるが。

「…さあな。俺にもお前の心の動きは全然理解出来なかった。どうして…あんな真似をされて
御堂を愛しく思ったのか、好きだと告白したのか…まったく、な…」

「…オレから、告白…した、んですか…?」

「あぁ…それが、事実だ…」

「…信じられない…」

 そうして、克哉の瞳の奥に強い感情の揺らめきが宿っていた。
 …眼鏡の心の奥に、ふと暗い感情が再び過ぎっていく。
 今の克哉の様子なら…この世界に閉じ込めておくのも、容易だと感じた。
 御堂の事を全て思い出していない今なら…こいつの心の中を占めているのは恐らく
自分の方だろうと…感じた。

「…全てを思い出したら、どうなるか判りません。けれど…今のオレの中では、貴方の
方がよほど…強く愛している。それでも…オレは、帰らないと…いけないんですか…?」

 弱々しい表情を浮かべながら…今日一日、迷い続けていた想いをこちらにぶつけてくる。
 互いの視線が、交差する。
 …両者、まったく引く様子も見せず…その瞳を真っ直ぐ見つめあい。
 再び唇が寄せられていく。
  眼鏡は即答しない。
  ただ、相手から腕を伸ばされて…首元にしっかりとその腕が絡みついてくるのを静かに
受け入れていく。
 暫く眼鏡は…何も言わなかった。
 ただ強く強く…その身体を抱きしめて、自分の切ない気持ちだけを伝えていく。

「兄さん…オレは、貴方と…ずっと、一緒にいたい…! 帰りたく…なんか、ない…!」

 泣きながら、克哉が己の気持ちを直球で投げかけてくる。
 同時に…脳裏に浮かぶのは、一瞬だけ現実に戻った時に見た…御堂の泣いている顔と
熱い涙だった。
 もし…こいつが帰らずに、俺とこの世界で生きる事になったら…あの男はどれだけ
絶望するのだろうか?
 そんな考えが胸の中で湧きあがり…優越感や、嫉妬や…様々な感情が眼鏡の
胸の中で混ざり合っていった。

「…克哉…」

 小さく、本当に愛しさを込めて…眼鏡は相手の名を呼んでいく。
 紛れもなく…心からこちらを慕ってくれている克哉の存在が、眼鏡にとっては
不本意だが…可愛くて、危なっかしくて仕方がなかった。
 相手の頬を両手で包み、優しいキスを落としていく。

「…にい、さん…」

 本当は、兄なんかじゃない事ぐらい判っている。
 それでも彼は…自分の事をそう呼ぶ。それを滑稽に思いながら…触れるだけの
キスを何度も落として、その唇を啄ばんでいってやる。
 暖炉の火が燃え盛る中…二人は飽く事なく唇を啄ばみあい、きつくその身体を
抱きしめ続けていく。

 本当に…この腕の中にいる存在が愛しい。
 だからこそ…自分が選ぶべき道はたった一つしかないと確信していた。
 いつの間にこんな感情が、己の中に芽生えたのだろうか? 
 どうして気づいたら…こいつに関しては、自分はここまで甘くなってしまっているのだろうか?
 自嘲めいた気持ちを浮かべながら、克哉は…シニカルに笑っていた。

 自分の出した答えと、予想される結末。
 それを覚悟していきながら…せめてこの瞬間だけでも脳裏に刻もうと
きつくきつく克哉を抱きしめて、その感触を全身で感じ取っていく。

 克哉も、自分の腕を拒まなかった。
 そうして…最後の夜は静かに更けていく。
 お互いに眠りに落ちる直前まで交わし合った口付けと抱擁は…どこまでも切なくて
…甘かった―

  

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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