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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  ※  この話はN克哉が事故で昏睡して記憶を失っている間、夢の世界で眼鏡と
  十日間を過ごすという話です。それを了承の上でお読みください(終盤です)


  体中に沢山のチューブが繋がれて、指一本さえも自由に動かなかった。
  鉛のように重い身体に…これが今の佐伯克哉の現状である事を思い知る。
  暗闇の中で…どうにか、ほんの僅かだけ…瞼を開いていく。
  眇めながら目の前を見つめていくと…怜悧な顔立ちをした一人の男が…病院の
ベッドの上に横たわる自分を見下ろしていた。

(…御堂)

 まだ、闇の中に目が慣れていないが…見間違えようがなかった。
 御堂考典。キクチ・マーケティングの親会社、MGNの商品企画開発部第一室部長。
 ようするにエリートコースを突き進んできた出来るビジネスマンの典型のような男だ。
 身体のあちこちに白い包帯が巻かれ、クリーム色のパジャマに身を包んでいる。

「克哉…」

 悲痛な声を漏らしながら、克哉の頬を優しく撫ぜていく。
 そのまま…唇にキスを小さく落とされた。
 眼鏡は…一言も声を漏らさず、静かにそれを受け入れていく。
 自分の腕には点滴用のチューブが差し込まれて、下手に動かすのが恐い状況に
なっていた。それでも御堂は臆する事なく…克哉の手に腕を伸ばして、その手を
ぎゅっと握り込んでいく。

 静まり返った病院の一室。カーテンが引かれているのを見る限りではどうやら
病院の4人部屋か、6人部屋の一室と言った感じだった。
 意識不明の状態であるおかげで、バイタルを確認する為に心拍数を確認する為の
機械が近くに設置されていた。

 切ない口付けを受けながら…言いようの知れない憤りに似た感情が、胸の奥に
湧き上がってくる。
 …先程、燃え上がった炎に大量の冷たい水を掛けられたような気分だった。
 そして…思い知る。佐伯克哉には…現実でこうして待っている人間がいる事を。
 自分だけのものには決してならない事を。
 
「…今夜も、君は目を覚ましてくれないんだな…」

 御堂の頬を伝って、透明な涙が克哉の頬に落ちていく。
 冷たい男だと思っていた。
 けれど…今、目の前にいる御堂孝典は…悲痛な表情をしながら、こちらを
真摯に覗き込んでいる。
 薄目を開けながら…その整った顔立ちを見つめていく。
 …この男が、対面も何もかも吹き飛ばして…こうして傍らに立ち、恋人の目覚めを
待っている事なんて…判りきっていた。
 それでも、その現実を目の当たりにして…眼鏡の胸に引き連れるような痛みが
走っていく。

(あいつはやはり…この男の、もの…なんだな…)

 いっそ閉じ込めてしまいたいと思った。
 このまま…あの世界で二人きりで生きれたら、という暗い思いが眼鏡の中に
生まれ出ていく。
 その想いが生じると同時に…Mr.Rの声が脳裏に響き渡った。

『…なら、貴方が望むようになされば良いと思います…。十日目の朝、あの世界に
現実に通じる扉が繋がります。その時…貴方が光に飛び込めば、貴方が現実で生き
克哉さんなら、あちらの方が現実に戻られます。当然…光のある内に飛び込まなければ
あの世界に貴方がた二人は閉じ込められ、そのままあの世界で生きる事も出来ますよ。
 …二人とも光に飛び込んだ場合は…そうですね。お一人は私の店の方で働いて貰う
事を条件に…もう一つの身体をご用意しても…一向に構いませんよ。
 …貴方達に用意された選択肢は以上の四つです。その中で…何を選ぶのか、残り
短い時間の内に考えておいて下さい。―猶予はあまり、ありませんよ…?」

 クスクスクスと…含み笑いをしながら、いつものように歌うような口調で滑らかに
こちらを惑わすような言葉を投げかけてくる。

『どうぞ、貴方のご自由に…!』

 まるで舞台のクライマックスかのように、高らかに黒衣の男の声は告げる。
 それと同時に…自分の意識が、混濁していくのが判った。
 …一時、水面に浮き上がった意識はまた再び深い水面へと沈んでいく。
 その中で脳裏に描かれたのは…もう一人の自分の、切ない表情だった。

 そして…今度は緩やかに世界が暗転していく。
 長いまどろみに暫く浸っていった。
 ようやく瞳を開けて…身体を起こしていくと、そこには…自分の隣で裸の身体に
毛布を纏いながらソファに腰掛けていた…もう一人の自分の顔が飛び込んできた。

「…起きた? 兄さん…?」

 全てを思い出したにも関わらず、佐伯克哉はまだ自分をそう…呼んだ。
 そのまま花を綻ばすように…彼は静かに笑った。

「おはよう…」

 そうして…克哉がこちらの唇にキスを落としていく。
 昨晩はあれだけ…脳が蕩けそうなくらいに気持ちよく、幸福感に満たされたのに
今朝のキスはどこか苦く…同時に、克哉の涙の味がしていた―

(あぁ…俺が目覚めるまで、お前は…泣いていた、んだな…)

 多分、自分の意識が現実に浮かび上がっている間に…克哉は、彼の事を
思い出していたのだろう。
 葛藤して…迷ったに違いないのに…それでも克哉は己のした事を受け入れて
静かな佇まいを見せていた。

 これは最初から予想されていた胸の痛み。
 それでも…心が引き絞られるように軋んでいた。
 目の前の克哉の切ない微笑みと、先程の御堂の悲痛な表情が重なっていく。
 戸惑いながらも…眼鏡の方から、克哉の身体をそっと抱きしめていった。

 相手の温もりを感じ取りながら…こうして二人でいられる時間が
本当に後僅かである事が惜しくて…仕方なかった。

 選択肢は四つ。
 その中で―すでに眼鏡の中では答えは決まっていた。

『克哉…』

 相手の名を小さく呼びながら、眼鏡の方からも口付けていく。
 朝日が静かに昇り、部屋の中を鮮やかな色彩へと染め上げた。
 そして…九日目は始まりを告げていった―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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