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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 克哉の方から、相手の腕の中に飛び込んだことで…眼鏡は虚を突かれる形に
なっていた。
 一瞬、何が起こったのか状況が判断出来ずに…克哉の成すがままに
抱きしめられ続けていく。
 さっきまでこちらから逃げていた癖に、この行動は一体どういう意図で取っている
かが本当に読めずに、怪訝そうな顔になるしか…なかった。

「…どういうつもりだ…? <オレ>」

 不機嫌そうな声で問いかけていくが、相手は答える気配がない。
 ただ骨がしなるくらいに強い力で、こちらを抱きしめていくのみだ。
 ますます…相手の考えが読めなくて、眉を顰めていく。
 そんな状態で…どれくらいの時間が過ぎただろうか。
 ふと…窓の外を見上げると、銀色に輝く真円の月がとても…綺麗である事に
眼鏡は気づいた。
 月に視線が釘付けになり…どこか遠い眼差しになっていく。
 その頃になってようやく、沈黙し続けていた克哉が口を開いていった。

「…お前こそ、いつまで…セックスに逃げるつもりなんだ…?」

 腕の力が弱まり、見つめ合う体制になっていく。
 お互いの鼓動と呼吸が感じられるくらいの、間近な距離で二人は向き合い…
視線と思惑を交差させていった。

「…どういう事だ? 俺が…逃げているだと…?」

「…あぁ。お前は苛立つと…いつも、その怒りを発散する為にセックスを求めている。
…お前が秋紀っていう子や、御堂さん…それにオレにまで節操なく手を出してくる理由が
最初は判らなかった。どんな男でも、お前にとっては欲望の発散の対象になり得るし…
それがオレが、お前の存在を恐いと思う理由だった。だけど…」

 克哉はキュっと唇を引き絞りながら、次の言葉を口にする覚悟を決めていった。

「…今はその理由が、良く判った。だから…オレは恐くない。だって…お前は、寂しくて
苦しくて…それで一時、その辛さから逃れたくて…誰かの体温を欲していると
それがやっと判ったから…」

「…何だと!」

 その一言に、眼鏡は怒りを露にした。
 思いっきり襟元を掴まれて、強引に相手の方に引き寄せられる。
 爛々と輝く瞳は憤りに輝き…不謹慎だが、それを綺麗だと思ってしまった。

「…お前ごときが、俺の何を判ったというんだ…? おこがましい事を言うのもいい加減
にしておけっ…!」

「へえ? それなら…何故、お前はそんなに怒っているのかな…? <俺>?
オレの言っている事が本当に見当違いだというのなら…お前は怒ったりなどせずに
こちらの言葉など、一笑に伏せば良いだけの事じゃないかな…?」

「…黙れ」

 克哉の言い分は、正しかった。
 もし相手の言っている事がバカらしいとか、見当違いだというのなら…適当に流して
まともに受け止めなければ良いだけの事だからだ。
 だが…相手が怒るという事は、それだけ…今言った事が事実に近い事を認めている
ようなものだった。

 眼鏡は本気で怒っていた。
 そんな彼を…克哉はようやく、荒ぶる心を抑えて…静かな気持ちで向き合っていく。
 …彼の存在を認めていれば、もしくはどうして自分達の心が二つに分かれて
しまったのか。
 どちらかと克哉が向き合っていれば、この一件は回避出来たことなのだ。
 憤怒の光を瞳に宿す…もう一人の自分の頬を、そっと優しく撫ぜて…その髪を
梳いていく。
 そして、克哉の方から再び…その身体を抱きしめていく。

「…謝って済む事じゃないと思っている。けれど…本当に、御免な…<俺>
お前の存在を…否定していた事、済まなく思っている…」

 あまりにも真っ直ぐに、謝罪の言葉を言われて…眼鏡は黙るしかなくなった。
 …今まで降り積もっていた怒りの矛先を、どこに向ければ良いのか判らなくなって
しまったからだ。
 こいつが、自分の事を否定したままなら…憎み続けられた。
 だが、こんな風にバカ正直に謝られてしまったら、これ以上…こちらも酷い事をして
コイツに思い知らせてやろう…という凶暴な気持ちを抱けなくなってしまっていた。
克哉の衣服は未だに乱れて…傍から見て、かなり挑発的な格好をしているのに…それを
目にしていても、さっきのように犯してやろうという気持ちが湧いて来ない。
  毒気を抜かれた顔を浮かべた眼鏡を…克哉は微笑ましい気持ちで見つめていく。
 やっと…本当のコイツに、自分は気づく事が出来たからだ。

(やっぱり…そうなんだな。こいつは…)

 御堂を守ろうと、こいつの意識を奈落に突き落とした瞬間。
 あの時…一瞬だけ、もう一人の自分の顔が…12歳の頃の自分の顔に被って
見えたのだ。
 その光景を見た時から…克哉は自分なりに、必死になってその理由を考え続けていた。
 理解しようと意識が傾いた辺りから、ずっと封印し続けていた12歳前後の頃の記憶を
掘り起こし…克哉はやっと、昨日の夜に…自分達が二人に分かれたその原因となる
事件の記憶を思い出せたのだ。
 あの一件を機に、あいつの意識は深層意識の底で眠りに付き…代わりに自分が
生きる事となった。

 25年間の人生を、佐伯克哉として歩んできた。
 だが…あいつは子供時代の12年間を行き、中学に上がってから社会人になるまでの
13年間は…自分の方が生きていた。
 だから、そうなのだ。何でも出来る力を持っていて…自分よりも物事を見極める能力が
あって凄い奴だと思っていた。
 その実力の高さに密かに憧れていたくらいだった。
 しかし…こいつは…12の時から、眠りについていた。
 だから純粋な子供特有の残酷さと、恋愛の仕方の一つも知らない「子供同然」の部分も
持ち合わせていた事実に克哉はずっと気づけなかったのだ。

(お前は…愛し方を、知らないんだ。だから…征服という形でしか、人と繋がりを
持てない。酷い抱き方をして…快楽を与えて、相手の身体を支配する…。こいつは
こういう方法でしか…人を求められない奴、だったんだな…)

 二人で月光の降り注ぐ部屋の中で…両者のシルエットが重なり合う。
 相手をしっかりとその腕に抱きしめていきながら…精一杯の気持ちを、克哉は
眼鏡に伝えていった。
 それは…御堂に注いでいる気持ちとは異なる、家族に向ける愛情に近いものだった。

「…なあ、<俺>。…オレには、すでにとても大事な人がいる。その人と同じようには
お前の事を愛せない…。けど、オレは…お前の存在を受け入れたい。…お前の存在込みで
あの人と一緒に…『三人』でこれから先を歩んでいけたら…オレ、そんな事を願って
いるんだ…。おかしい、かな…」

「…『三人』で、だと…そんな事が可能だと…本気で思っているのか…?」

「…うん。それって…御堂さんに凄い負担が掛かってしまう事だっていうのは判っている。
けれど…お前は、オレの一部だから。やっと…お前の寂しいという気持ちも、こんな真似を
した動機も理解出来たから。…お前を蔑ろにしてまで、自分だけが幸せになろうとする
事は…もう出来ないし、したくないんだ…」

 泣きそうな顔になりながら、克哉はもう一人の自分に訴えていく。
 その顔を見て…本心で相手がそんな事をのたまっているのだという事実を認める
しかなかった。
 
「…それで、御堂と別れる事になってもか…?」

「…あぁ。そうだよ…。オレは本気で…あの人を愛しているし、別れたくなんてない。
だけど…オレの中にお前がいるのは事実なんだ。その事実から目を逸らしてまで…
どうしてオレだけが幸せに浸って生きれるというんだよっ!」

 克哉は…本気で、そんな馬鹿げた事を言っていた。
 最初はその言葉を疑った。
 こいつは正気か…? と頭の中を覗いてやりたい気分にすらなった。
 だが…この顔を見れば、嫌でも判る。
 これを演技で出来る程…もう一人の自分は器用な性分を持ち合わせていない。
 …眼鏡は、だから信じるしかなかった。
 今、コイツが言っているのは紛れもなく本心である事を…。

(…本気で、バカだな…コイツは…)
 
 いっそ、呆れるくらいだった。
 それと同時に…コイツに抱いていた憎しみや憤りが、次第にどうでも良いものに
変わっていく。
 その心境の変化は…いっそ清々しいものすら感じられた。
 毒気が抜かれた、という表現が一番正しいだろうか。
 だからこそ…眼鏡は少し、こんなふざけた事ばかり言う克哉を…試してやりたい。
 そんな気分になっていく。

「…お前は馬鹿か? 今なら…もっと簡単な手段で、幸せを掴めるだろう…?」

「えっ…?」

 お互いに密着しあう体制で…眼鏡の一言で、克哉はバッと顔を上げていく。
 それを見て…意地悪してやりたい気持ちになっていった。
 ―今から提案する事に対して、こいつがどんな答えを導き出すのか…
想像すると少し愉快、だった。

 相手の身体から、静かに離れていく。
 そのまま…眼鏡は真っ直ぐにキッチンの方に向かい…ステンレス製の包丁を
一本手に持って…部屋の方に戻ってくる。
 薄暗い室内でも、月の光を反射させて…包丁の刃がキラリ、と輝いて
自己主張をしていた。

「…な、んで…」

 そんなものを持ち出された事に…克哉は目を見開いて立ち尽くすしかなかった。
 眼鏡は…呆けているもう一人の自分の顔を、愉しげに見つめながら…悪魔の
囁きを口にしていく。

『今なら…俺たちはこうして、別々に存在している。…それなら、御堂と別れるリスクを
犯してまで…俺の存在まで受け入れて貰おうとしなくても良い。
 …この状態で、お前の手で…俺を殺して、消してしまえば良いだけの話だ。
 そうすれば…御堂とこのまま…幸せな日々を続けられるかも知れないぞ?
 さあ…どうする? <オレ>…?」

 そう、今なら…確かに眼鏡の意識は克哉の中で生きている訳ではない。
 Mr.Rの柘榴の実の魔力を借りて…別々の肉体を持って同時に存在出来ている。
 この状態なら…自分達は一蓮托生ではない。
 克哉がもし、眼鏡の意識を殺す事を選べば…同一存在ではなく、「他人」として
彼の存在を葬り去る事が出来るだろう。
 それを踏まえた上で…眼鏡は提案していった。

 そうして眼鏡はもう一人の自分の手に今持ってきた包丁を、そっと握らせていく。
…そのまま克哉の前で目を閉じて…身を差し出すように…その場に立ち尽くしていった

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プロフィール
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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