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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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      佐伯克哉

  
 その瞬間、地面に銀縁眼鏡が落下して転がっていくのを俺は目の端で捉えました―

「あっ…あっ…」

 目の前がクラクラ、する。
 腹部には燃えるような灼熱感と激痛が同時に走り抜けていった。

 ポタリ、ポタリ…ポタリ…。

 少しでも痛みを紛らわせたくて、患部に宛がった手から…じんわりと、俺の生命の証で
ある血液が零れ落ちて…地面に滴り落ちていった。

 痛い、痛い、痛い、痛い…!!

 あまりの苦痛に、涙がうっすらと滲んで…視界がぼやけていく。
 いつの間にか喘ぐような呼吸に代わり…肺から呼吸が無くなっていくようでした。

「ごめん、なさい…助けっ…てっ…」

 泣きながら、自分の目の前に立っている男性に訴えかける。
 この人の怒りに触れるような事をしたから、この結果が招かれた事ぐらいは判っていた。
 それでも…許しを請うように、必死に謝りながら助けを求めていきました。

『自業自得だな…』

 だが、その男性は…冷たい声で、一言でそう切り捨てていった―。
 冷然とした、感情の篭っていない声。
 こちらに対して、一切の同情など含まれていないとすぐに判るトーンでした。
 
 自分の身体が…グラリと崩れ落ちて、地面に倒れこんだ。
 その間も…刺された場所からはドクンドクン、と血が溢れ続ける。
 心臓の鼓動に合わせて、ゆったり…じんわりと血が滲み続けて、その度に
頭の芯がぼやけて…ボウっとして何も考えられなくなっていった。

 あまりの激痛に脳内麻薬でも分泌されたのか、最初の頃に比べれば幾分か痛みの
方はマシになっていた―
 それでも俺の胸は…引き絞られるような胸の痛みで満たされて…いつしか、傷の痛みよりも
そちらの方が余程、辛くなっていた。

「ごめんなさい…」

 掠れるような微かな声で、それでも目の前の人に謝り続ける。
 だが…その男性は微動だにせず。
 静かにこちらを見下ろして、俺を助け起こそうともしませんでした。

(あぁ…この人の怒りは、それくらい…強くて、深いんだ…。俺をこうして、刺して…
助け起こそうともしないくらいに…)

 当然だと思った。
 昨日、自分が犯した罪は…男性にとってはこのぐらいの罰を受けるに値する程の
ものだったのだ。
 自分とて、許されるものではないと思った。
 
 それでも償いたかった。
 謝って…その罪を雪げれば良いと思ったから、あの場所に足を向けたのだし…
この男性に、この公園に来るように誘われても疑いもせずについてきたのだから。

『…あんたが今、ここで野たれ死んでも俺は一切…同情はせん。それに値する事を
自分がやった自覚ぐらいはあるだろう…からな』

 だが、一切の憐憫の情すら垣間見せず…男の人は俺にそう告げました。
 それでもまともに思考が働かない状態のまま、俺は壊れた機械のように…一つの
単語だけを紡ぎ続けました。

―ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい、ごめんなさい…!

 心のままに、少しでも許して貰いたくて。
 脳裏に浮かぶのは…昨日自分が傷つけてしまった存在の事。
 彼の事を必死に考えて、迷って…そして最悪の行動を俺は取ってしまっていた。
 どれだけ言葉が通じなくても、あんな事をするべきじゃなかったのに!
 それでも一時の感情に任せて…俺は彼を傷つけてしまった。

「あっ…くぅ…!」

 それでも、脈動にシンクロするように時折…強烈な痛みが走り抜けて、苦悶の
声を漏らすしかない瞬間もあった。
 それでも贖罪を求めるように…俺は壊れたスピーカーのように、訴える言葉を
言い続けていた。

「ご…め、ん…な、さ…い…」

 泣きながら、いつの間にか…俺は虫の息になっていた。
 ずっと血が溢れ続けているのだ。
 体中から力が抜けて…もう指一本、まともに動かす事も叶わない。
 公園の土の上で…赤い血液が池を作り上げていく。
 
 その鮮烈なまでの緋は、俺を生かしていた生命の証。
 一回、脈拍を繰り返す度にポンプから水をくみ上げるように…傷口から
じんわりと滲み出していく。
 気付けば、俺のスーツも…手も、何もかもが赤に染まっていた。
 痛みにもがいていたせいで、顔もグシャグシャで…涙と涎でベトベトだった。

「ごめ、ん……い……っ…」

 昨日傷つけてしまった相手の名前を紡ごうとした。
 だが、もうまともに声すらも出てくれない状態になっていた。
 喉がカラカラなのに、眼窩からは熱い涙が零れ続けていく。
 どれだけ後悔しても、何でも…一度起こってしまった過去は変える事は出来ない。
 それをどれだけ悔やんだって、それが現実なのだ。

 その瞬間、着信音が辺りに響き渡った。
 男性の携帯だろうか。
 自分にとって聞き覚えのある少し切ないメロディのものだった。

『あぁ…たった今、始末した。…何?』

 それから、電話の相手と…男性は言い争いを始めていったが、すでに意識が朦朧と
している俺には…どんなやり取りをしていたのか、はっきりと聞き取る事は出来なかった。
 白熱する、二人の討論。
 その気迫だけで…お互いに一歩も譲れないのだという事だけは伝わってくる。
 時折、憎々しげに…男性は俺を睨み、何度も舌打ちしていく。

 あぁ、見れば判る。
 この人は本当に…今、俺が憎たらしくてしょうがない事ぐらいは―

『ちっ…! 判った。お前がそこまで言うのなら…この男の命ぐらいは助けてやる。
 だが、自分が言った事…忘れるなよ?』

 その最後の言葉だけは、はっきりと…聞き取る事が出来た。
 けれどその頃には…もう、ここがどこなのか…場所の認識さえも曖昧な状態に
俺は陥っていました。
 男性は、一旦通話を切ると…どこかに再度、掛け始めていきました。

『怪我人の搬送の為に救急車を一台、ここに手配して貰いたい。都内の公園だ。
住所は…』

 そうして、男性は…この公園に隊員が辿り着きやすくする為のこの付近にある
建物を幾つか上げていって、特定しやすいように伝えていく。
 その作業を終えていくと…彼は、こちらを見下ろしながら…冷たく言い放っていく。

『今回は…命だけは助けてやる。だが…二度とその顔は見せるな。その時は今度こそ
あんたの命はないと思え…』

 彼はそうして、俺から離れていく。
 土を踏み締める音が、段々と遠くなり…その場には俺一人だけが残されました。
 その瞬間、言いようの無い罪責感で心が満たされていく。

―ごめんなさい

 最後に、そう心の中で力なく呟きながら…
 俺は、遠くから聞こえる救急車のサイレンをぼんやりと聞いていきました―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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