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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 『須原秋紀』



 退屈、退屈…た~いく~つ~!
 …という訳で僕は今夜も、行き慣れたバーのカウンターの隅で暇を持て余していた。

(…克哉さん、今夜も来なかったな…)

 僕にとって、決して忘れられない人だったあの人は…あれからもう二ヶ月以上が
経過しているのに、一回だけ訪れてからは…一度もここに来てくれなかった。
 どうして、来てくれないんだろう…。
 あんな風に、僕を…した、癖に…。

(…あ~あ、僕はこんなに会いたいと思って出来るだけ時間作って、ここに来るように
しているのに…切ないなぁ…)

 カウンターの上でノンアルコールカクテルを今夜も飲みながら、悪友達と少し離れた
席で…一人で居続ける。
 最近は、何となく一緒にいたあいつらと下らない話をしているのがつまらなくなってきた
から…少し距離を置いていたんだ。
 時計の針は、二十二時を指していた。

(そろそろ帰った方が良いかな…)

 本当は学校なんて、これも退屈を持て余す場所でしかないから…あんまり行きたくない。
 けれどあんまりサボり過ぎると、うちの親が本当にうるさいからね。
 …登校するつもりなら、そろそろ帰った方が良いかな。

(良いや…帰ろうっと…)

 一人でこうやって、カウンターの隅で時間を無駄にしているよりも…さっさと寝た方が
良いかも。ふとそう思って…バーテンに代金を支払い、僕は店を後にした。
 帰りがけ、たまたま通りかかった公園の入り口の前で、人だかりが出来ていた。
 こんな処に人が集まっているのは珍しかったけど、ざわめきを聞いていると…ここで
誰かが昼間に刺されて警察とかが来たかららしい。

(誰が刺されたんだろ…ま、僕には関係ないんだろうけどね…)

 少し野次馬根性が湧いたけれど、多分関係ない人だろうと割り切って僕はさっさと
公園を通り過ぎていった。
 夜の都内を歩くと…たまに、こういう現場の前を通る事はあるしね。
 その事件も、この時点では…僕にとってはその程度のものの筈…だった。

 帰宅してからさっさとシャワーを浴びて、寝る準備だけ整えていく。
 水色のシャツに袖を通して…明日の天気だけ気になったから、自分の部屋のテレビを
何となくつけていった。

(ニュースに合わせれば、天気予報ぐらい見れるよね…)

 朝から降っているような時は困らないけど、午後から降るという時は…折りたたみ傘の一本
ぐらい持っていないと面倒だからね。
 必要ないなら、無駄な物は持ち歩きたくないし。
 その程度の気持ちでニュースにチャンネルを合わせたんだけど…。

「えっ…」

 僕は、目を見開くしか…なかった。
 ブラウン管の向こうに映っているには見覚えがある公園だった。
 
『今日未明…都内の中央公園にて、男性一人が腹部を刺されて重態。警察は
通り魔の犯行である可能性を考慮して…周囲に情報提供の呼びかけをしています。
被害者は佐伯克哉さん(25歳) 佐伯さんは都内の企業に勤務しているサラリーマンの方で…』

 ここで、信じられない現実を突きつけられた気がした。
 まさか…と思った。同姓同名だと一瞬疑った。
 けれど一回だけあの店に来た時に…あの人はこう言っていなかったかな?

『ただのしがないサラリーマンだ』と…。

「嘘、でしょ…何で、克哉さんが…刺されて、なんて…」

 さっき、公園の前に人だかりが出来ていたのは…克哉さんが昼間に誰かに刺された
からだと思うと、一気に全身から血が引いていく感じがした。
 何で僕は、あんなに平然と立ち去ってしまえたのだろう…。
 知っていたのなら…いや、僕にはそれでも何か出来た訳でもなかった。
 ただ…今の、連絡の一つもつけられない状況が酷く…もどかしく思えた。

「克哉さん、どうしているのかな…重態って言っていたけど、まさか死んじゃったり
しないよね…」

 僕にとって、大事な人でも…ニュースにおいては、三十秒か一分くらいで語り終える
くらいの、今日の一つの出来事としてあっさりと語られる程度の事だった。
 だけど…それは本当に僕に大きな驚愕を齎していて。
 あの人が今、どこの病院にいるのか…無事なのか、気が気じゃなかった。
 気付いたら、頬に涙が伝っていた。
 …僕が、知らない間に泣いているなんて…。
 今までは、もう一度会いたい程度の相手だと思っていた。
 けれど…この胸に圧し掛かる不安の大きさは何だろう。
 本気でもどかしくて、そのまま気が狂いそうだった。

「…僕がこんな事で、泣くなんて…! うぅ…くそっ! どうして僕はあの人と連絡一つ
つける程度の事も出来ないんだよっ!」

 八つ当たりしたって、どうしようもない事は判っていた。
 けれど待ち続けた人の名前が出たって、テレビを見ただけじゃ…何の手がかりにも
なりはしない。
 あの人が公園で刺された情報を知ったとしても、それで何かが出来る訳じゃない現状が
ひどく歯痒くて仕方なかった。
 テレビの画面を思いっきり叩いて、最後に僕が呟いたのは…。

「克哉さん…どうか、無事で…いて…」

 こんなテレビで、情報を聞いたきり…二度と会えなくなるのは嫌だった。
 だから僕はただ…祈るしかない。
 どうかあの人が…命だけは助かりますように。
 強く強く…それだけを願って、僕は眠れぬ一夜を過ごしました―


 

 

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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