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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『第十三話  幸せな夢1』   『佐伯克哉』

 耐え切れないくらいの胸の痛みを紛らわす為に、青年は一時夢を見る。
 現実を直視すれば、その罪悪感で…自分は更に弱っていくだけだと思い知らされた
彼は…早く回復する為に全てを閉ざし…幸せな夢だけを再生していく。
 罪悪感は人をもっとも弱らせる感情だから。
 それに縛られて雁字搦めになっている内は…もう一人の自分には決して敵わない
事を思い知らされた今は…少しでも早く自らの魂を癒すために眠り続ける。
 
 今、再生されている夢は…プロトファイバーの営業目標が引き上げられた辺りの
頃の…帰り道で起こった出来事だった。
 幾ら眼鏡の力があったとしても、本当に達成出来るのか不安ばかりが渦巻いていて。
 トボトボと頼りない足取りで帰路についていた日のことだった。
 会社から最寄り駅へ向かう途中の道のり、たまたま配達中だった太一に
ばったりと遭遇したのだ。
 
『克哉さ~ん!』

 こちらに気付くと明るいワンコのような人懐こい笑顔で太一が駆け寄ってくる。
 喫茶店ロイドでは…たまに一部の常連客の要望を聞いて、太一が配達を承る
事があった。
 その帰り道に克哉に会えた事が嬉しかったのだろう。
 太一は心から嬉しそうな笑顔を浮かべて克哉に近づいて来てくれた。

(あ…何か、凄く嬉しいかも…)

 自信を無くしかけている時、無条件の好意に触れると人は元気づけられるものである。
 辛い現実に打ちのめされたばかりの克哉にとって…今の太一の笑顔はとても
嬉しいものだった。

「太一…こんばんは。配達中だったの?」

「うん、そうそう! この辺りまで配達させられるのって…結構面倒で気が進まない
んだけどね~うちの店ってこういうサービスやっているからどうにか持っているような
寂れた店だし。…一応アルバイトの身としちゃ、逆らえないからね…」

「まあね。オレだって…たまに仕事とは言え、会社から随分と遠い会社まで営業しに
行かないといけない時は面倒だなって思っちゃうからね…。その気持ち、良く判るよ…」

「へえ…克哉さんみたいに真面目な人でも、そんな風に思っちゃう時があるんだ。
それなら俺みたいにいい加減な奴なら…尚更そう感じちゃうんだろうな…」

「コラコラ、ちゃんと真面目に仕事をしなきゃ…ダメだって。それでお金を貰っている以上
いい加減な事しちゃダメだからね」

 クスクス笑いながら、いい加減な事を言っている太一を窘めていく。

「うへ~やっぱり? 克哉さんに怒られちゃったなら…俺もちょっとは真面目に
やろうかな。あんまりみっともない姿を見られたくないしね~」

「ちょっとは…じゃなくて、真面目にやりなよ。太一…店での仕事ぶりを見る限りじゃ
仕事出来ない訳じゃないみたいだし。むしろ…本気になれば要領良くやれる方だと思うよ」

「うん…そうだね」

 図星を指されて、少しだけ太一はドキリとした。
 克哉の指摘は何気なかったけれど…事実を言い当てていたからだ。
 自分は確かに、その気にさえなれば…一通りの仕事はこなせるし、出来るぐらいの器用さは
持ち合わせている。
 だが…それをたまにしか来ない克哉が見抜いている事に、青年は驚いているようだった。

「…そういえば克哉さん、今日…何かあったの? 何か暗い顔しているみたいだけど…」

 話題を逸らしたくて、太一が今度は克哉の表情について指摘していく。
 その途端に克哉の優勢が崩れ始めていく。
 他愛無いやり取りで紛らわせていた胸の痛みと燻りのようなものが…また、ジワリと
広がって克哉を苛み始めたからだ。

「えっ…うん。ちょっと会社の方で嫌なことがあってね。それで…本当に達成出来るかなって
不安になっている部分があるんだ…」

「そうなんだ。…やっぱり、マトモな会社に勤めるって大変な事なんだね。克哉さん…今日は
本当に浮かない顔しているからね…」

「うん…」

(本当は全てを話せたら、すっきりするんだろうけどね…)
 
 だが、同じ会社の人間である本多や片桐、八課の仲間たちならともかく…太一はあくまで
自分のプライベートな友人に過ぎない。
 そんな彼に…今日起こった事の詳細をベラベラと話していいものなんだろうか…? と自問
自答を繰り返していく。

「ちょっとね…高い営業ノルマを上の人から課せられてしまってね。それを本当に
達成出来るのか…不安になっているんだ…」

 一緒に駅まで歩いて向かいながら、どうにか…それだけを重い口調にならないように
して…サラリと話していく。
 それを聞いて…太一は何か考え込んで…いきなり、道の途中にあったパワーストーンの
店に勢い良く飛び込んでいった。

「た、太一…?」

 相手の脈絡のない行動に、かなりびっくりしてしまう。
 すると一分もせずに会計を終えて店から出てくると…いきなり紙の包みをこちらに
突き出してきたのだ。

「はい…克哉さん。これあげるよ」

 とびっきりの人懐こい笑みを浮かべながら太一がこちらに手渡して来た。

「な、何…これ?」

「ん? 今買ってきた商売繁盛のお守り。何か緑の石がついていたストラップっぽい
奴だったんだけど…良かったら貰ってよ。そんなに高いものじゃなかったし…」

「えっ…でも…」

「もう! こういうので変な遠慮はなしにしなよ! 俺は…克哉さんの営業が上手く
行ってくれますように…って願いを込めてこれを贈ったんだからさ。素直に受け取って
くれた方が嬉しいんだよ! それくらい判って?」

「う、うん…判った…ありがとう…太一」

 びっくりしながらも、相手のささやかな気持ちが嬉しくて…つい顔が綻んでしまう。
 太一といると、いつもそうだった。
 いつもネガティブな事ばかり考えてしまう自分にとって、ポジティブな考え方を
している彼に励まされたり、気付かされる事がとても多くて。
 それでいつの間にか気持ちが軽くなって…助けられている事が多かったのだ。
 値段にすれば…大した事がない安物のストラップでも…あの時、落ち込んでいた
自分は確かにそんなささやかなプレゼントに力づけられていて。

 今思えば…そんな他愛ないやり取りを繰り返している内に、自分の中で太一は
どんどん…大切な人になっていったのだと思う。
 だから克哉は…幸せな夢に浸りながら、涙を同時に流していく。
 大事な人に…あんな仕打ちをしてしまった事に。

 その事実が…どうしようもなく痛くて。
 けれど…早く表に出れるようにならなければ、まずどうしようもない事だから…。
 だから彼は夢を見る事を選択する。
 もう一人の自分と争っても、勝ち目がない事はすでに証明されてしまったから
無駄な消耗をするよりもコンディションを整える方が近道だと判断したからだ。
 生命力が極限まで落ちてしまった自分に取れる唯一の手段が…今はこれしか
見出す事が叶わないから―
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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