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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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   『五十嵐太一』

 …克哉さんを見舞いに行ってから、二週間近く…親父があの人を刺してから
一ヶ月近くが経過しようとしていた。
 インターネットの掲示板を見ても、そろそろ…退院が近い頃みたいだ。
 …俺、この二週間…自分がどうやって、生きていたのかも…曖昧になっている
部分があった。

(克哉さん…)

 思い描くのは、かつての穏やかなあの人の笑顔。
 携帯のカメラに何枚か撮影してあった、はにかむような笑顔を…俺は何度も
繰り返し見続けていた。
 …写真じゃなくて、直接見たかったけれど…その願いはもう叶う事はないような
気がしていた。

(…もう一度、貴方の笑顔が…見たいよ…)

 望む事なんて、それだけだった。
 結局…あんな酷い目に遭った後、家を飛び出した直後に真っ先にこの克哉さんの
アパートを潜伏場所に選んだのだって、親父の盲点を突けるからという理由の他に
…何より、俺が克哉さんの気配のある場所にいたかっただけなんだ。
 病院が見つからなくても、この部屋で待っていれば…退院したあの人に確実に
会える場所といったら、もうロイドには近づけない以上…ここしかない訳だし。
 俺のアパートもやっぱり、組の人間が見張っていて中に入る事は適わなかった。

「何で…あいつの方が…出ているんだよ…」

 ―けれど、この部屋で待っていても…俺の会いたい方の克哉さんには会えない
かも知れない。
 そう思うと、胸が張り裂けそうなくらいに…軋んで、痛かった。
 何度…それを考えて、涙を流した事だろう。
 …人間って馬鹿、だよね。
 失くしてみなきゃ…大切なもの一つ、気付けないんだから。
 俺、克哉さんと一緒にいた時…今思うと、何て甘えていたんだろうと思った。
 あの人と会えなくなるなんて、考えもしなかった。

 親父の店で気楽な気持ちでバイトして、合間見てバンドやって…単位取れるギリギリの
処で大学のレポートとか、勉強もこなして…週末に来てくれるあの人と他愛無い時間を
過ごして。
 そんな日常がこれからも続くのだと、あの一件が起こるまで…疑いもしなかった。
 あんな形で、あの人の怒りを買って…犯されて、親父がキレて…克哉さんを刺してしまう
なんて…予想もしていなかったし、今も認めたくない事実だった。

―あんな事さえなければ、克哉さんを俺は失わずに済んだのに…。

 その事実に、俺はまた泣きそうになった。
 あの人の匂いが残る部屋の中で…ベッドの上に力なく横たわりながら…俺は
どれくらい無為な時間を過ごしているんだろう。
 …バンドや、大学のダチとかどうしているのか…とふと思う事もあるけれど、
やはりふとした時に思い描くのは…克哉さんの事ばかりだった。
 …俺、こんなにあの人の事が好きだったんだ。
 自分の胸の中がいつの間にか…克哉さんでいっぱいになっていた事に、全然俺は
気付いていなかったんだ。
 何だろうね…恋焦がれて、いっそこのまま…狂ってしまえたらどれだけ楽に
なれるんだろうと思う。

 暗い部屋、相変わらず人がいる事を悟られたくないので息を潜めて…夜は
電気一つ点けられない。
 そんな不便な生活でも、何でも…俺は、朗らかに笑う克哉さんが戻って来てくれる
希望を捨てる事すら出来ずに…今夜も、この部屋で一人で過ごす。

「会いたい…会いたいよ…」

 パソコンから、ごく小さな音量で流している「ミリオンレイ」の曲が切なく流れている。
 あの人と俺を繋いだ、音楽。
 初めて俺の部屋に克哉さんが来てくれた時に、その話題が上った時。
 大好きだったバンドは、いつしか…聴くだけであの人の記憶に繋がるようになった。
 
 ぎこちなく俺の指導の元で、ギターを弾く克哉さんは可愛かったな…。
 知れば知るだけ、興味が湧いて近づきたい衝動が強くなっていって。
 …そんな記憶が過ぎれば過ぎるだけ、俺は…知らず涙を流し続けていた。
 その雫が俺の頬を伝い…枕カバーを静かに濡らしていく。

 ねえ…克哉さん。
 俺はあの時、ちゃんと貴方に…どうしてあんなサイトを開いていたのか
理由をキチンと言えば良かったのかな? 
 強情張らないで…素直に眼鏡を掛けた克哉さんの詰問に答えてさえいれば…
こんな事態を招かないで済んだんだろうか?
 …これは俺にとっては、あまりに酷すぎる罰だった。
 大好きな人を失ってしまった事、二度と会えない事。
 それでも―

『会いたい』

 あいつが言った残酷な現実を認めたくない気持ちが湧いてくる。
 だから…信じない、信じたくない。
 胸の中にただ…求める気持ちだけを抱いて。
 今夜も俺は…窓の向こうの月影を眺めながら…ゆっくりと眠りに落ちていく。
 俺が今、求めるものはたった一つだけ。

 貴方に、逢ってあの優しい笑顔を見たい―

 自分にとって…貴方がどれだけ宝物のように大切な存在だったのか。
 こうなるまで気付けなかった自分が恨めしくて…仕方がなかった。
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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