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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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『NO ICON』      『三人称視点』


  説明する、と言ったが…太一はどこまで相手に話して良いのか暫くの間、
頭をフル回転にして考えていた。

(…どこまで、こっちの克哉さんに俺の事情を話して良いんだろ…)

 正直言うと、自分の生い立ちというか…取り巻く環境は結構複雑だという
自覚くらいはある。
 だから…どこまで事実を話していいのか、迷っている部分もあった。
 話しすぎれば、自分の事情に巻き込んでしまうだろうし。
 隠しすぎればこっちのキツイ性格をした克哉にあっさりと叩き出されて自分は
潜伏場所を失ってしまうだろう。

 正直、ある程度の資金は持っているとは言え…今、手持ちの分では何ヶ月も
ホテルで過ごしたりする程の額はない。
 生きている以上、食費だけでも…ギリギリ切り詰めても、それなりの額は
掛かってしまうのだ。
 特に大っぴらに働いてお金を稼ぐ事が出来ない身の上としては…潜伏場所で
どれくらいの必要経費が掛かってしまうのか、というのは今の太一にとって…
死活問題にも等しかった。
 …と、考え込んだ末に結局太一が最初に話す事を決めたのは…。

「俺…今、ヤクザに追われているんだよ。俺の実家…そういう裏社会とちょっと
繋がりが深い処でね。…俺が克哉さんに…って話が俺の家族の耳にチョイ、と
入っちゃってさ。それで親父が心配しちまって…強制的に実家に連れ戻そうと
知り合いに声掛けちゃって…俺の捜索に当たっているんだよ。

 見つかったら確実に東京にいられなくなってしまうから…こっちも必死になるしか
なくてね。…まさか、あんな事を俺にした克哉さんのアパートに誰も潜伏しているとは
予想していないと踏んだから…悪いな、と思ったけど…ここに隠れさせて貰って
いたんだ。…多分、捕まったら音楽は二度と大っぴらに出来なくなるだろうから…」

 とりあえず、実家がヤクザそのものである事と…克哉さんを刺した俺の雇い主が
俺の実父である事実だけを隠して…ある程度、包み隠さずに話す事に決めた
ようだった。
 しょんぼりした表情を浮かべて、切なそうな口調で話せば…相手も同情して
くれるかも知れない。
 その計算も含めながら…ある程度正直に克哉に伝えていく。

「…厄介ごとを思いっきり持ち込んでくれたな」

 しかし、その話をした眼鏡克哉の反応は…そんな思いっきり連れない態度だった。
 おまけに思いっきり深く溜息を突かれている。

(ううっ…俺の知っている優しい克哉さんの方だったら、多分…こっちを心配してくれて
親身になってくれるのに~!)

 完全に人格が違うと判っていても、好きな相手とまったく同じ顔をしている奴にこんな
態度を取られれば太一とて少しは傷ついてしまうのである。

「うっ…そりゃ、厄介ごとなのは確かに認めるけど…そんな冷たい言い方を、
しなくたって…」

「…その話のどこが厄介ごとじゃないと言い張るんだ? ヤクザに追われているって
事態だけでも…マトモじゃないだろうが…」

「…あんたが思いっきり、その発端を作ったんだろ! …俺を縛り付けて好き放題
ヤってくれた挙句に…放り出していったのはどこの誰だよ! あの時…せめて
終わった後に腕だけでも解いていってくれたら…マスターに知られないように
後始末を自分でするくらいは出来たのに…!」

「…お前が可愛くない態度を取っていたからだろう。…あんな怪しいサイトを作って
いた事情とやらをお前が正直に話していたのなら…俺はあそこまではやらなかったぞ…?」

「だから! 人には言いたくない事情って奴が存在するんだよ! 何だって…
あんたにそこまで包み隠さずに話さないといけない訳?」

 そうは言いつつも…太一の中に後ろめたい思いが存在していたのも
事実だった。
 あのサイトの事を話す=実家の事情を話さないといけなくなってしまうからだ。
 克哉をあのややこしい実家の件で巻き込みたくないから、話さないという選択をしたのに
それが原因となって…あの一件は起こってしまったのだ。

「…アイツは、心配していたからだ。だから俺を出してまでお前に問い質そうと
した訳だがな…」

 だが、眼鏡からその一言を言われた瞬間…太一は胸がズキリ、と痛んだ。
 こっちの克哉とケンカしようが何を言われようが…ここまで心が痛くなる事は
ないだろう。
 だが…自分の好きな克哉は、確かにそういう人だった。
 …その一言を口にされた瞬間、太一は打ちのめされて…反論出来なくなって
しまっていた。

「…あの人と、同じ顔で…そこまで、言わなくたって良いじゃないかよ…」

 ふいに、優しく微笑む克哉の顔を脳裏に浮かべた瞬間に…涙ぐみそうに
なってしまった。
 大好きな、大好きな…克哉さん。
 会いたい、という気持ちだけが毎日…ドンドン膨れ上がって、ふとした瞬間に
それだけで泣きそうになってしまう。
 
 睨み合うのと同時に、ふっと…ポロポロと涙が零れてくる。
 こんな奴の前で泣きたくなんてないのに…それでも、今の太一にとって…
あの人の面影を思い出すだけで自然と涙が溢れてきてしまう。
 そんな太一を見て…眼鏡もまた、忌々しげに舌打ちした。

「…ちっ…そんな顔をするな。仕方がない…次の潜伏場所の紹介ぐらいは
してやるよ…」

「えぇ! このままここに置いてくれるんじゃないの…?」

「…お前は馬鹿か? そんな事は…少し考えれば、出来る訳がないと
判らないのか…? 良いか? お前がヤクザに追われているのは…俺との
一件が原因なのだろう? 実際に…俺が目覚めた当日、お前が病室に顔出した日に
ヤクザ風の男達が駆けつけて来て…病院内は軽い混乱状態になっていた。

 その一件以来…黒服の男達が一挙に押し寄せるという事態はなくなったが…この
二週間、時々俺は見張られているような…そんな気配は感じていた。
 …俺はとっくにお前の実家のマーク対象に入っている。俺が入院している間なら
ここは「盲点の場所」だったかも知れないが、俺が帰って来た以上は…そうは
いかなくなるだろう。
 …お前も捕まりたくないのなら、他の場所に移るのを承諾しろ。俺がここで
生活をする以上…このままここにいたら、即効で見つかるぞ…」

 そう、意識を失っている期間も克哉の傍に黒服の男が何度も訪れている。
 そして見張られているような感覚は彼自身も何度も感じていた。
 だから…自分と太一が一緒にここで生活をすれば、あっさりと見つかってしまう
事だろう。太一の事情を聞いた時点で…眼鏡はそこまで洞察したのだ。

「…うっ! それは確かに…克哉さんの言う通りかも知れない、けど…。
それなら俺はどこに行けば良いんだろ…。正直、俺…資金の方に余裕は
ないから…ホテルとかで暮らせるまではないんだ…」

「…そんな金があったら、危険を侵してまで…こんな場所に潜伏してなかった
だろうに。心配するな…一応、お人好しの家を案内してやるから…暫く其処に
甘えていろ。そいつなら充分…返せるようになった時に返してもまったく
問題がない奴だからな…」

 確かに、ここで他の人間を紹介してもらえるのは在り難かった。
 太一の交友関係、及び泊めてくれるような間柄の人間は父親にも大半
知られているので…すでにマーク対象に入っているからだ。
 だが、父親が知らない克哉の知り合いなら、その人物の家までは…実家の
人間の目が及んでいない可能性が高かったからだ。

「…ねえ、紹介してくれるのは良いけど…克哉さん、一体誰の処に俺を放り込む気なの?」

 拗ねた顔で相手に問いかけていくと、自信たっぷりに彼は答えた。

「俺の暑苦しい、同僚殿の家だ。体育会系の典型のような男だから…お前が事情があって
家出しているといえば…妙な正義感を発揮して、快く置いてくれる事は請け合いだ」

(うっわ~暑苦しそう…)

 と内心、強く思ったが…ここで嫌そうな顔したら、「なら出ていけ。俺は知らん」とくらい
平気で言われそうな感じであった。
 だから太一は…賢明にもニコリ、と軽く微笑むだけに留めたのだった―



 


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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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