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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 『第二十二話 昔の克哉さん』 『五十嵐太一』


 

 本多さんの人に下宿をさせて貰って、五日程が経過した。
 最初、克哉さんにこの人の所に連れて来られた日に、丸ごとカレーの件で
二人が言い争いを始めた時には本気で上手くやっていけるかどうか不安を
感じまくったけど、ね。
 この人、暑苦しい部分もあるけど基本的に良い人だって事はその日の内に
判ったのでこちらも翌日には気軽に過ごせるようになった。
 ま、典型的な体育会系っていうのは否定出来ないけどね。

 本多さんの家族も、結構明るい感じで。
 俺としては予想外に過ごしやすい感じで助かっていた。
 まあ居候させて貰っている立場として何にもしないのは心苦しいので
朝早くに起きて本多さんの分のお弁当を作ったり、洗い物とか家事をチョコチョコ
手伝ったりして、結構重宝がられていた。

 木曜日の夜に帰宅した本多さんと一緒の時間に合わせてご飯を食べると
話題はやっぱり克哉さんの話になった。
 まあこの人と俺の場合共通ワードと言ったらやっぱりあの人の事以外になく。
 俺の事も結構聞かれたけど、実家の話をあんまりする訳にはいかないので
大学に通っていた事とバンドをやっている事。
 そして家出の理由は本格的にミュージシャンを目指しているのを実家に反対を
されたからという事にしておいた。
 この人をゴタゴタに巻き込むことは俺としても本意じゃないからね。

「ねえ本多さんって、克哉さんと大学一緒だったんでしょ? それなら昔の
克哉さんの写真とか持っていないっすか?」

ん? 持っているぞ。あいつ三年の初めにはいなくなってしまったし、あんまり
人付き合いも積極的な方じゃなかったからそんなにないけど。何枚かくらいなら
アルバムの方にあった筈だが」

「あ、それ見たい! 俺克哉さんと知り合ったのここ数ヶ月の事なものだから
それ以前のあの人の事は殆ど知らないもんで

「おう、良いぞ。それじゃメシ食ったら後で大学時代のアルバムを見せてやるよ」

「やったっ! 約束ですよ本多さん。絶対に見せて下さいね!」

 本多さんが写真を見せてくれる事を承諾してくれたので、すっごい嬉しかった。
 あ~あ、やっぱり俺って克哉さんに恋しちゃっているんだなって実感した。
 あの人の昔を知る事が出来るってだけでこんなに喜んじゃっているんだから。
 それで片付けを終えて、本多さんの部屋に行くとソファに一緒に腰掛けながら、
この人の大学時代の写真が収められたアルバムを4冊持ってきてくれた。
 本多さんってアクティブな人だったんだろうな。
 色んな場所に合宿行ったり、旅行していたらしく写っている風景も様々でバラエティに
富んでいた。

 その中で一際目を引いたのはどこか憂い気な表情を浮かべて、バレー選手の
ユニフォームに身を包んだ状態で膝を抱え込んでいる克哉さんの写真だった。

「うわっ! 本当に克哉さんバレーやっていたんっすね。けど、この写真の
克哉さん少し寂しそうな感じだ

「あぁ克哉って、リバロとしてのセンスも良かったし実力があったんだけどな。何か人に
遠慮するっていうか、人付き合いに対して積極的じゃない部分があってな
 こんな風にポツン、と一人でいる事も結構多かった。俺は高校時代にたまたま、あいつの
プレイを見ていてコイツは選手として一流だ。欲しいなと思っていたんだけどな。
 どうしても周りから少し浮いちまっていたせいで結局、仲間と上手くいかなくて
こいつの才能が目が出ないままだったのは本気で勿体無い、と思ったぜ

あ~克哉さんって本気でそんな感じですよね。人に配慮しすぎっていうか、考えすぎと
いうかマジでそんな感じで。
 俺も話聞いているとあの人の説明って判りやすいし、聞いてて楽しいから営業を
やる人として克哉さんって結構、良いんじゃないかな~と思っているんだけど当の本人は
凄く自信なさげなんだよね。俺もそこら辺は勿体無いって思っていたっす」

「おお! その通りなんだよなっ! あの自信がない部分が本気で克哉はもったいないな~と
以前から俺も感じていたんだよっ! まあ俺は結局、あいつと同じ会社にたまたま就職して
その後の付き合いも続いたから思う事なんだけど
 退院してからの克哉は結構自信がついてきたみたいで良かったと思っているがな」

 その言葉を聞いた時、ピクンと俺は震えた。
 退院してからの克哉さんは、あの眼鏡を掛けている方なのだ。
 それを良かったと言う本多さんに少し反発を覚えていく。

退院してからの克哉さんって以前と違うっていうか全然違う人みたいじゃないすか?
それでも本多さんはマジで良かったと思っているんですか?」

 この問いだけ、結構険を含んでいた。
 あぁでもこの本多さんって人はマジで鈍いというか、空気が読めない人なんだろうな。
 俺がそんな態度で尋ねたにも関わらず、相変わらず豪快な笑みを浮かべながら
答えていった。

「あぁたまにプレー中に、今のあいつのような部分がチラっと覗いていたからな。
あの克哉の姿も、以前から本来あったものだと俺は思っている。
 最初別人みたいになった時には違和感は俺も覚えたけどな。それでもそういう
一面もアイツの一部なんだから、俺は受け入れているけどな

「そう、なんですか

(まあこの人は俺みたく、人格変わった克哉さんに犯された訳じゃないだろうしな

 俺はそれ以上どう言葉を紡げば良いのか判らなくて、パラパラとアルバムのページを
捲っていく。
 すると一枚だけ、植え込みの前で綺麗に微笑んでいるものを見つける事が出来た。
 柔らかい表情を浮かべて、目元を細めて凄く優しい顔をしながら桜を眺めているものだ。
 それに目を留めた時、本多さんは楽しげに笑っていた。

「あぁその一枚、良いだろ? たまたま通りかかった時に珍しいなと思って撮影
してしまったんだがな。ま、克哉は恥ずかしいだろ! とかびっくりしたんだけどって
言って少し怒っていたがコイツがこういう顔をしていると、目を引くよな。
俺は結構その写真の克哉、気に入っているんだがな

「えぇ凄く可愛いなって。やっぱりこの人可愛いですよね。守ってあげたいって
いうか…あの、この写真を焼き増し出来ないですか? …どうしても、これは
欲しいんですけど…」

「ん? 構わないぞ? 確かネガがその辺にあったと思うから。ちょっと待ってろな…」

 そういってソファから立ち上がると…本多さんは収納庫の方に向かい…何やらゴソゴソと
探り始めていく。
 少しすると、大きな段ボール箱を抱えて俺の方に戻ってきた。

「確かこの箱の中に大学時代に撮影した写真のネガは全部纏めておいたと思う。
この中に…さっきの克哉の写真のネガもあったと思うが、どれがどれだか…まったく
探してみない事には判らんな…」

「うっわ…これ、凄い膨大な量あるっすね。…確かにこれは大変そうだけど、この中に
さっきの克哉さんの写真あるんですよね? それなら探しますよ」

 そういって、ネガを一枚手に取っていくと…フィルムに収められたネガを光に透かして
探し始めていく。

「…お前、そんなに克哉の写真欲しいのか。よっぽど仲が良いんだな」

「えぇ、俺…克哉さん大好きですから。だからあの人の写真は欲しいです」

 ちょっとストレート過ぎたかな、と思ったけど…別段、本多さんは変わった様子はなく
さっきまでと同じく、楽しそうに微笑んでいた。
 …反応からして、友人として好きだと思われているんだろうなと判ったので…ちょっとだけ
ほっとしていく。
 大学時代から一緒で、今も同じ職場に働いていて…少しその境遇に嫉妬を覚えたけど
この人が『そういう意味』で克哉さんを意識していないって、顔と表情を見れば判ったから。
 俺が必死になって探していると、本多さんも手伝ってくれた。
 そうやって30分くらい、反転して見づらい写真のネガと睨めっこしていると…。

「あっ! これだ! 構図からして…さっきの写真に間違いない! 後…その下の段に
膝抱えているのも一緒に映っている。これ…二枚とも下さいっ!」

「そっか! 良かったな! やっと見つかったか…! けど…探してみたけど、本当に
克哉の写真って少ないな。バレー部の全体集合写真とか、みんなで撮った奴なら…
それっぽいの結構映っているんだけど、あいつ単体で撮影した写真がこんなにないとは…」

「…同じ部活の仲間だったんですよね? それなのにどうしてこんなに無いんですか…?」

「…あぁ、その…これが理由だ」

 そういって、本多さんは二枚の写真を…定期入れから取り出して俺に見せてくれた。
 一枚はお互いにバレーのユニフォームに身を包んでいる姿で、もう一枚は…社会人に
なってスーツ姿で居酒屋らしき場所で肩を組んで映っている写真だった。
 ただ…どちらの写真も、本多さんはいつものように豪快な笑顔を浮かべているのに対し
克哉さんの方は困っているようなはにかんでいるような…笑顔というには程遠い顔を
浮かべていた。

「…何か本多さんの表情に比べて、克哉さん…浮かない顔しているっすね」

「あぁ…それは俺が頼んでどっちも、大学入学当初と、キクチに入社した時期の歓迎会で
撮影したモンなんだが…出来上がった時の克哉の表情見てな。
あまりこいつは写真とか得意じゃないんだな…というのが態度で判ったので、あんまり
克哉と写真を一緒に撮影するって機会がなかったんだ」

「そう、なんすか…」

 そういえば俺も、会社帰りの克哉さんとたまたま合流した時に…通りかかったゲーセンで
プリクラの一枚でも撮りません? と聞いた時に丁寧に断られたような気がする。
 携帯で…どうにか一枚、撮影させて貰ったけれど…その時も、はにかんだような…
そうだ、この本多さんが見せてくれた写真と、そっくりな顔をして映っていた気がした。

「そう考えると…この写真って、本当に貴重な一枚なんすね」

「そうだな…俺も克哉がそんな笑顔を浮かべている姿は、滅多に見た事ないからな。
…メチャクチャ貴重かもな」

「なら、絶対に焼き増しして下さいね! こんな顔した克哉さんは俺も…あんまり
見た事ないから、ね…」

「あぁ、明日出勤する時に出して来てやるよ…。おっ、今日はもうこんな時間か。
そろそろ風呂に入ったりしないと寝るのが遅くなってしまうんで…今日はこの辺でな。
克哉が戻ってきてくれた事で少しは楽になったが…まだまだ、やらないといけない仕事は
山積みの状態なもんでな…」

「えぇ…俺がアルバムとネガを片付けておきますので、本多さん…お風呂に行って来て
下さいよ」

「お、その言葉に甘えさせて貰うな。それじゃ宜しく」

 本多さんはそういうと、さっさと着替えを持って浴室の方へと向かっていった。
 そしてアルバムを戻していく最中に…例の二枚をそっと抜き取っていく。

(焼き増しした分を後でこっそりと戻しておけば問題ないよな…)

「へへっ…この克哉さん、本当に可愛い。あ~あ…同じ年で、一緒の大学に
通っていたなら良かったのにな…」

 現実的に克哉さんと俺の年って、四つは離れているから…どうやっても
同じ大学に通うことは…克哉さんが留年でもしてくれない限りは無理だし。
 ついでに専攻している学部とかそういうのも違うだろうから絶望的なんだけどね。
 でも…だから、一緒の大学で同じ部活で過ごしていた本多さんに…猛烈な嫉妬を
覚えてしまう。

「克哉さん…」

 会いたい、と強く思った。
 この写真のような笑顔を浮かべている貴方に。
 桜を眺めながら優しく微笑んでいる克哉さんの写真を眺めている内に…。
 何故か、俺の目から…一筋の泪が、そっと零れていったのだった―
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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