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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 眼鏡は宣言した通り、21時に帰宅してきた。
 彼がリビングに現れる頃には…食卓の上には、克哉が予め用意してあった
和食がズラリ、と丁度並べ終わっていた。

「おかえり、『俺』。こちらも夕食の準備…今、整った処だよ。良かったら一緒に
食べよう…」

「あぁ…」

 短く、そう頷いていくと…二人で顔を突き合わせる形で席について、すぐに二人は夕食を
食べ始めていった。
 食卓の上には…ホカホカの白いご飯に、塩鮭を焼いたものと、ワカメと豆腐の味噌汁。
それと肉じゃがに…箸休めに小皿に梅干とキムチを少々乗っけて置いてあった。
 用意された夕食が和食風であった事に最初、少し眼鏡は思う処があったらしいが…
黙ってそれを口に運び始めていった。
 だが暫く箸を進めている内に…ふと気になったらしい。
 ボソリ、とした声で眼鏡が問いかけてくる。

「…酒の準備はどうした?」

「あぁ、それはリビングの方に用意してある。おつまみも簡単に出来るの…2~3品は
あっちに作っておいてあるよ。最後の一品は熱々の食べて貰いたいから…今、オーブンで
作成中だけど。オレらがご飯食べ終わる頃にはタイミング良く仕上がっていると思う」

「…そうか」

 それだけぶっきらぼうに答えながら、特に文句を言わずに…男は食べ進めていった。
 克哉にとってはその沈黙が何となく怖かった。

(…何か調子狂うよな…。普段のコイツだったら、絶対にこちらの料理とかに何か
一言言ってきたり、もう少し饒舌に色々しゃべりそうだけど…)

 まあ、無理もないだろう。
 例の事件は…本当に昨日の今日の話だし、この様子だと…御堂にも会えなかったの
だろうか。
 いつもと同じ顔に見えるが、何となく少し険しい顔つきになっているような気がする。
 気になって克哉は…控えめに小声で問いかけていった。

「なあ…御堂さんとは、今日…会えた、のか…?」

「…一度も会えなかった。声も、聞けていない」

 オズオズと克哉が問いかけていくと、ツッケンドンな口調で即座に切り返してくる。
 そこで二人の会話が止まっていく。
 完全に硬直しきった、何とも言えない空気。
 ただ向き合っているだけで…こちらの心が潰れてしまいそうなくらいに、眼鏡の方から
流れてくる気配は重苦しいものだった。

(…やっぱり、コイツ…いっぱい、いっぱい何だな。コイツにとって…本当に御堂さんは
大事な存在で…その人に嫌われたり、拒絶されたりする事は…『俺』にとっては
耐え難い事なんだろうな…)

 ―それは、ずっと内側から彼を見守ってきた自分が良く知っている事だ。
 だから、自分は…。

「なあ、ご飯…味付け、どうかな…?」

「悪くはない。少なくとも…家で食べるものとしては、上等の部類だろう。まあ…お前は
『オレ』と同一の存在なのだから、これくらい出来ないと話にもならんがな…」

「…良かった。まずい、とか言われてあっさり切り捨てられたなかっただけ…思ったよりも
マシな評価だな…」

 この男の場合、それくらいの事は平気で言ってのけそうだから…少しだけほっとしていく。

「…こんな時に、皮肉や嫌味を言うほど…俺も人でなしではないさ。とりあえず、お前が突然
押しかけて来た時はどうか…と思ったが、飯を作って貰って少しはこちらも…気が紛れて
いる。白いご飯に味噌汁など…本当に久しぶりだしな…」

 基本的に自分達はパンの方を好む為に、用意する食事や外食で食べに行く場合は…
洋食っぽいものになる事が多い。
 ただ克哉も…今日は気持ちがほっとするようなものを用意した方が良いような気分に
なったので珍しくそういう品々を作ってみたのだが、思ったよりも相手に好評だったみたい
なので…静かに胸を撫で下ろしていった。

「…良かった。思っていたよりもお前に好評で…」

 そう呟きながら、ふと…克哉が柔らかく笑っていく。
 …その表情を見て、眼鏡は落ち着かない顔を浮かべていく。

(…こいつは、どうして…俺の前に現れて、こんなにこちらに…甲斐甲斐しく世話を
焼いているんだ…?)

 コイツとこうやって接点を持ったのはもう二年近く以前の話で。
 自分が主導権を握った日から…心の奥底で眠り続けていて、気配すらもいつしか
感じなくなっていた存在の筈だった。
 なのに…御堂とあんな苦々しい出来事が起こった夜にいきなり現れて、自分の処に
半ば押しかけてくる感じで一緒に過ごして…。
 彼がその行動をするに至っている動機が、眼鏡の側からは見えない。
 だから…腑に落ちない部分が多すぎて、彼は釈然としていなかった。

 食事はすでに終わり間際に近づいている。
 食卓の上に並んだ料理の殆どは、彼ら二人が綺麗に腹に収め終えていた。
 眼鏡の方が箸を置いて、そっと深く溜息を突いていくと…再び、口を開いて
昨晩と似たような質問を投げかけていった。

「…一つ、聞く。どうして…お前は俺の前に現れたんだ…?」

 それは昨晩から常々、思っていた疑問。
 だが…克哉は変わらぬ迷いない顔と口調で、きっぱりと答えていく。

「…昨日と答えは一緒だよ。オレはお前にそうしてやりたいって思ったから
その通りにしただけ。それだけじゃ…ダメ、なのか…?」

「だから、その動機は何だ…と聞いているんだ。正直…二年近くも接点がなく、
俺の中にも気配らしきものが感じられなかったお前が…いきなり、現れて…
甲斐甲斐しくこちらの世話を焼き始められても、戸惑いしか感じない。
せめて…その理由だけでも、きっぱりと答えろ」

 そう、彼の真意は見えない。
 だから…相手から気遣いが見えても、それを素直に受け取れない。
 克哉の方が何を想い、考えているのか。
 それを語って貰わない事には…それにどっぷりと浸かる事など出来はしないのだ。

「…判った、ちゃんと答えるよ。…一杯飲んでいる間にね。そろそろ…オーブンで焼いてあった
ツマミの準備も出来ている頃だと思う。それで…良いかな?」

「…良いだろう。一杯…付き合って貰うぞ」

 相手の言葉に一応承諾していくと、一旦眼鏡は大人しく引き下がった。
 だが…心中は未だ、穏やかとは言い難いものがあった。

(…お前が何を考えてこんな真似をしたのか…絶対に答えて貰うぞ…)

 そうでなければ、信じることは出来ない。
 特に傷ついたばかりの眼鏡の心はいつもよりも鋭くなっていて、単純に他人からの
優しさを受け止められない心境になっているからだ。
 相手が食器を片付け始めているのに習って、こちらも自分の分の食器をシンクの方へと
下げていく。

―そして、二人は運命の酒席へと付いていったのだった―

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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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