鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
×
[PR]上記の広告は3ヶ月以上新規記事投稿のないブログに表示されています。新しい記事を書く事で広告が消えます。
愛している、と心から思った唯一の相手を壊してから
一年近くが経過しようとしていた。
気位がとても高くて、傲慢で…プライドの塊のようだったかつての姿が
今となっては嘘のようだった。
彼は…自分を拒絶して、心を殺す事を選んでしまった。
その日から、瞳から気丈な光は消えて…ガラス玉のように
無機質な目となってしまっていた。
その日から一年。かつて住んでいた自分のアパートは引き払い
御堂のマンションで克哉は寝泊りを続けて、真摯に…彼の面倒を
見る日々を重ねていた。
「御堂…痛くないか…?」
佐伯克哉はいつものように、人形のようになってしまった御堂考典を
風呂に入れて…丁寧にその身体を拭いていた。
上質の手触りの大きなバスタオルを使って髪を拭ってから…全身くまなく
タオルを滑らせて…丁寧に雫を取っていった。
「ほら…腕を上げて。早くやらないと…お前が風邪を引いてしまうからな。
協力…してくれ…」
声を掛けても、何も相手が反応しない事など…とっくの昔に判っている。
それでも普通に接する事を、克哉は止めなかった。
お互いにこうして…裸になっていても、今は…欲望は何も感じない。
ただ、糸が切れた操り人形のようになってしまった…御堂を見て、止む事のない
鋭い胸の痛みを覚えるだけだ。
「…………」
こちらの成すがままに、御堂は腕を上げて…虚空に視線を向けていく。
決して、こちらを映さなくなった眼差し。
それを悲しいと思う感傷さえも…今の克哉は失ってしまっていた―
*
初めて会った時、何て傲慢で高圧的な人間だと思った。
人を見下すような態度が、気に食わなかった。
だから…徹底的に立場の違いというのを思い知らして、屈服させてやろうと
思って…強引に肉体関係を持った。
自分達の関係は、そんな動機から始まっていた。
そんな事を思い出しながら、お互いにバスローブに身を包み…上質なベッドの上に
横たわっていく。
御堂は…自分で寝返りを打つ事も滅多にない。
気をつけていなければ、克哉が取らせた格好のまま…一日を過ごして皮膚が
鬱血してしまった事も数え切れないくらいあった。
だから寝る時も…克哉は2、3時間ごとに起きて…御堂の体制を変えてやっていた。
最初の頃はきつかったが…今となっては毎日の事だ。
身体はすっかり慣れて、夜中に2回…目覚めながら寝るのが当たり前になって
しまっていた。
(…俺はこんな事になっても…こいつを手放せないくらいに…
御堂孝典という人間が欲しくて…堪らなかったんだな…)
御堂は、自分の隣で横たわって…安らかな寝息を立てていた。
食事も排泄も、身の回りの世話も…全て自分がやらなければ、
今の御堂は一日だって生きてはいられないだろう。
だからと言って、他の人間を雇って世話してもらう事はもっと
嫌だった。
―その為に克哉は、この一年で…飲みに誘ってくれる人間関係の
全てを…このただ一人の存在の為に、失っていた。
「御堂…」
月光が白いシーツの上に降り注がれて、愛しい人が闇の中に
静かに浮かび上がっている。
伏せられた表情は…どこかあどけなくて、まるで子供のようだ。
無防備で、弱々しい…自分が手を貸さなければ生きていけない。
そんなモノに、彼を変えてしまった自分の罪が…許せなかった。
「御堂…」
飽く事なく、呼び声を掛けていく。
しかし起きる気配も、反応すらもない。
そんな御堂の手をそっと掬い取って…その指先に優しく口付けていく。
殆ど身体を動かす事のない御堂の身体は、どこに触れても…冷たく
暖めようとそっとその掌を強く握りこんでいく。
「…………」
声に出せない強い願いを込めて、強く強くその手を握り締めていく。
暫く手を繋いだままだったおかげで…少しずつだが、氷のように冷たかった
御堂の手に体温と血が通い始めていく。
「いつか…で、良い…帰って来て、くれ…御堂…」
振り絞るような、切ない声を克哉は漏らしていく。
今…この万能の能力を持った男が望んでいる事は、出世でも
世界に自分の力を示す事のどちらでもなかった。
ただ…御堂の閉ざされた心が、いつか氷解して…自ら身体を動かして
話す姿を見たい。それだけしか…望みはなかった。
「…憎しみでも、俺を罵る言葉でも…何でも良い。ただ…俺は…
あんたの声を、もう一度…聞きたい、んだ…」
声に出さず、静かに克哉は涙を零していく。
搾り出すような祈りの言葉に…御堂は相変わらず、反応する事さえない。
こんな夜を、何回繰り返していたのか…すでに数える事も面倒だった。
涙はいつしか、哄笑に代わり…乾いた笑い声が喉を突くだけだった。
「はっ…ははは…! 俺は、本当に…バカ、だったんだな…。あんたの事を
これだけ…想っていたのに…あんたの心が壊れる前は…ただの一度だって
本心を…言わずに、痛めつけるような真似しか…してこなかったんだからな…」
自嘲の笑みを浮かべて…御堂に覆い被さり、触れるだけのキスを落として
その頬を撫ぜていく。
触れた頬も、唇も何もかもが作り物のように冷たく…マネキンのように
身動き一つしなかった。
「帰って、来てくれ…!」
願いを込めて、強くその身体を抱きしめていく。
冷たい身体に、それでも確かな鼓動を感じることが出来る。
まだ、心は死んでしまっていても…身体は生きていてくれている。
それなら…希望は消えていないのだと、克哉は自分にそう言い聞かせていた。
それは傲慢な男が作り上げた絶望的な結末。
どれだけ悔やんでも、一度壊してしまったものが元通りになる事などなく
修復したとしても…その疵は痕を残し続けるだろう。
それでも…清冽な夜の大気と、月光がそんな二人を静かに包み込み
見守っていく。
折れるくらいに強く御堂の身体を抱きしめながら…いつしか克哉も
深い眠りの淵に落ちていく。
―いつか御堂が戻ってくる筈だ―
克哉はその希望を胸に刻み、今宵も深い闇の中に身を落としていく。
そう信じる事だけが今の克哉のただ一つの救いでもあった―。
一年近くが経過しようとしていた。
気位がとても高くて、傲慢で…プライドの塊のようだったかつての姿が
今となっては嘘のようだった。
彼は…自分を拒絶して、心を殺す事を選んでしまった。
その日から、瞳から気丈な光は消えて…ガラス玉のように
無機質な目となってしまっていた。
その日から一年。かつて住んでいた自分のアパートは引き払い
御堂のマンションで克哉は寝泊りを続けて、真摯に…彼の面倒を
見る日々を重ねていた。
「御堂…痛くないか…?」
佐伯克哉はいつものように、人形のようになってしまった御堂考典を
風呂に入れて…丁寧にその身体を拭いていた。
上質の手触りの大きなバスタオルを使って髪を拭ってから…全身くまなく
タオルを滑らせて…丁寧に雫を取っていった。
「ほら…腕を上げて。早くやらないと…お前が風邪を引いてしまうからな。
協力…してくれ…」
声を掛けても、何も相手が反応しない事など…とっくの昔に判っている。
それでも普通に接する事を、克哉は止めなかった。
お互いにこうして…裸になっていても、今は…欲望は何も感じない。
ただ、糸が切れた操り人形のようになってしまった…御堂を見て、止む事のない
鋭い胸の痛みを覚えるだけだ。
「…………」
こちらの成すがままに、御堂は腕を上げて…虚空に視線を向けていく。
決して、こちらを映さなくなった眼差し。
それを悲しいと思う感傷さえも…今の克哉は失ってしまっていた―
*
初めて会った時、何て傲慢で高圧的な人間だと思った。
人を見下すような態度が、気に食わなかった。
だから…徹底的に立場の違いというのを思い知らして、屈服させてやろうと
思って…強引に肉体関係を持った。
自分達の関係は、そんな動機から始まっていた。
そんな事を思い出しながら、お互いにバスローブに身を包み…上質なベッドの上に
横たわっていく。
御堂は…自分で寝返りを打つ事も滅多にない。
気をつけていなければ、克哉が取らせた格好のまま…一日を過ごして皮膚が
鬱血してしまった事も数え切れないくらいあった。
だから寝る時も…克哉は2、3時間ごとに起きて…御堂の体制を変えてやっていた。
最初の頃はきつかったが…今となっては毎日の事だ。
身体はすっかり慣れて、夜中に2回…目覚めながら寝るのが当たり前になって
しまっていた。
(…俺はこんな事になっても…こいつを手放せないくらいに…
御堂孝典という人間が欲しくて…堪らなかったんだな…)
御堂は、自分の隣で横たわって…安らかな寝息を立てていた。
食事も排泄も、身の回りの世話も…全て自分がやらなければ、
今の御堂は一日だって生きてはいられないだろう。
だからと言って、他の人間を雇って世話してもらう事はもっと
嫌だった。
―その為に克哉は、この一年で…飲みに誘ってくれる人間関係の
全てを…このただ一人の存在の為に、失っていた。
「御堂…」
月光が白いシーツの上に降り注がれて、愛しい人が闇の中に
静かに浮かび上がっている。
伏せられた表情は…どこかあどけなくて、まるで子供のようだ。
無防備で、弱々しい…自分が手を貸さなければ生きていけない。
そんなモノに、彼を変えてしまった自分の罪が…許せなかった。
「御堂…」
飽く事なく、呼び声を掛けていく。
しかし起きる気配も、反応すらもない。
そんな御堂の手をそっと掬い取って…その指先に優しく口付けていく。
殆ど身体を動かす事のない御堂の身体は、どこに触れても…冷たく
暖めようとそっとその掌を強く握りこんでいく。
「…………」
声に出せない強い願いを込めて、強く強くその手を握り締めていく。
暫く手を繋いだままだったおかげで…少しずつだが、氷のように冷たかった
御堂の手に体温と血が通い始めていく。
「いつか…で、良い…帰って来て、くれ…御堂…」
振り絞るような、切ない声を克哉は漏らしていく。
今…この万能の能力を持った男が望んでいる事は、出世でも
世界に自分の力を示す事のどちらでもなかった。
ただ…御堂の閉ざされた心が、いつか氷解して…自ら身体を動かして
話す姿を見たい。それだけしか…望みはなかった。
「…憎しみでも、俺を罵る言葉でも…何でも良い。ただ…俺は…
あんたの声を、もう一度…聞きたい、んだ…」
声に出さず、静かに克哉は涙を零していく。
搾り出すような祈りの言葉に…御堂は相変わらず、反応する事さえない。
こんな夜を、何回繰り返していたのか…すでに数える事も面倒だった。
涙はいつしか、哄笑に代わり…乾いた笑い声が喉を突くだけだった。
「はっ…ははは…! 俺は、本当に…バカ、だったんだな…。あんたの事を
これだけ…想っていたのに…あんたの心が壊れる前は…ただの一度だって
本心を…言わずに、痛めつけるような真似しか…してこなかったんだからな…」
自嘲の笑みを浮かべて…御堂に覆い被さり、触れるだけのキスを落として
その頬を撫ぜていく。
触れた頬も、唇も何もかもが作り物のように冷たく…マネキンのように
身動き一つしなかった。
「帰って、来てくれ…!」
願いを込めて、強くその身体を抱きしめていく。
冷たい身体に、それでも確かな鼓動を感じることが出来る。
まだ、心は死んでしまっていても…身体は生きていてくれている。
それなら…希望は消えていないのだと、克哉は自分にそう言い聞かせていた。
それは傲慢な男が作り上げた絶望的な結末。
どれだけ悔やんでも、一度壊してしまったものが元通りになる事などなく
修復したとしても…その疵は痕を残し続けるだろう。
それでも…清冽な夜の大気と、月光がそんな二人を静かに包み込み
見守っていく。
折れるくらいに強く御堂の身体を抱きしめながら…いつしか克哉も
深い眠りの淵に落ちていく。
―いつか御堂が戻ってくる筈だ―
克哉はその希望を胸に刻み、今宵も深い闇の中に身を落としていく。
そう信じる事だけが今の克哉のただ一つの救いでもあった―。
PR
この記事にコメントする
カレンダー
10 | 2024/11 | 12 |
S | M | T | W | T | F | S |
---|---|---|---|---|---|---|
1 | 2 | |||||
3 | 4 | 5 | 6 | 7 | 8 | 9 |
10 | 11 | 12 | 13 | 14 | 15 | 16 |
17 | 18 | 19 | 20 | 21 | 22 | 23 |
24 | 25 | 26 | 27 | 28 | 29 | 30 |
カテゴリー
フリーエリア
最新記事
(12/31)
(03/16)
(01/12)
(12/28)
(12/18)
(12/02)
(10/22)
(10/21)
(10/17)
(10/15)
(10/07)
(09/30)
(09/29)
(09/21)
(09/20)
最新トラックバック
プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
ブログ内検索
最古記事
(10/28)
(10/29)
(10/30)
(10/30)
(10/31)
(11/01)
(11/01)
(11/02)
(11/03)
(11/03)
(11/04)
(11/05)
(11/06)
(11/06)
(11/07)
カウンター
アクセス解析