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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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  御堂が意識を取り戻してから、十日が経過していた。
  あの日から…克哉と御堂は、一応平穏を取り戻していた。
  腫れ物に触るような…お互いの態度に、表面上は意見を違えて
怒ったり、文句を言ったりする事もない…一見平穏そうな生活。
 しかしそれは…微妙なバランスで成り立っている事は、二人とも
良く自覚していた―。

「御堂…ここに、今朝の分の食事を置いておく。…机の上には昼の分も
用意しておいた。それじゃあ…俺は、行くぞ」

「あぁ…」

 会社に行く準備を終えて、克哉が声を掛けてくる。
 自室のベッドの上から、相手の方を振り返りもせずに御堂は短く、
返事だけしていく。
 短い、やりとり。
 それでも一言だけでも言葉が返って来てくれる事に…克哉は笑みを浮かべて
そのまま会社へと向かっていった。

 床の上に、今朝の分の食事が置いてある。
 そうするように最初に頼んだのは…自分だ。
 今日も筋肉痛で軋む身体をどうにか動かして…ベッドの上からぎこちなく降りていって
膝と手をつきながら…ハイハイするような動きで、おにぎりの皿が乗せられている
お盆の方へと向かっていく。

 一年以上、自らの意思で身体を動かしてなかったせいで…御堂の身体は今は極限まで
筋肉が低下していた。
 そのリハビリの為に…御堂は必死に、出来る事は自分でやろうとしていた。
 ほんの数メートル…床の上を這うだけでも…汗がどっと吹き出してくる。

「はぁ…ぁ…も、う…少し、だ…」

 みっともない姿を晒していると、自分でも思う。
 しかし御堂の目は…ギラギラと輝いて、強い意志を宿している。
 一日も早く、かつての自分に戻りたい。
 その強烈な願いが、彼の身体を突き動かしていた。

 克哉が作ったおにぎりに手を伸ばすと…それに夢中で齧りついていく。
 まだほんのりと暖かい舞茸入りの炊き込みご飯で作ったそれは…非常に美味しくて
御堂の味覚を満足させていく。

「うまい…」

 ポツリ、と呟きながら…ぎこちなくおにぎりを齧っていく。
 ボロボロと何度かご飯を零すのは歯痒かったが、今はまだ指先も完全に以前の
ようには動かせないのだから…仕方ない、と割り切る事にした。

(…みっともないな…我、ながら…)

 それでも最初、自分の意思で動かした日よりは随分マシになっていた。
 おにぎりと一緒に、用意されたのはトン汁だった。
 細かく切った豚肉に、大きめにカットされたニンジン、タマネギ、ジャガイモに
ゴボウが具沢山に入っている。
 ダシも煮干でキチンと取られていて…味噌の加減も丁度良い。

 佐伯克哉という人間が、意外に料理が上手かったことを知ったのは…意識が
覚醒してからの事だ。
 以前、陵辱されていた頃にはまったく知らなかった一面ばかり…この十日間は
見せ付けられていた。

(…佐伯。君は一体…何なんだ…?)

 零さないように細心の注意を払いながら、トン汁を飲み進めていく。
 おにぎりは上手くいかなかったが、こっちはどうにかなりそうだ。
 暖かいトン汁に、胃をポカポカさせながら…ほうっと溜息を突いていった。
 ―この十日間は、信じられない事ばかりだった。

 自分の意識を破壊される程、酷い行為を繰り返していたあの男は…目が覚めた途端
とても優しくなっていた。
 この十日間、一度もあの男に抱かれていない。
 無理強いをする事もなく…自分の我がままで、食事、排泄、入浴等をやって…酷く
床やトイレ、風呂場を水浸しにしたり汚してしまっていても…一言も文句を言わずに
毎日片付け、自分の世話を焼いてくれていた。

 それは…かつての克哉の姿からは、まったく想像もつかないものだった。
 同時に、壊れていた自分の傍に一年もいた事も…信じられない。
 価値がなくなったら、さっさと自分を捨てていなくなる男だと思っていた。
 なのに…彼はいた。目覚めるまでずっと待っていたと言っていた。
 有り得ない現実に、御堂は…困惑を隠せないまま…十日を過ごしていた。

「…佐伯、ど、うして…お前は、そんなに、私、に…優しく、する…? かつてのように
酷く、扱わ、れれば…私も、憎む…事が…出来る、のに…」

 御堂は力なく、呟くしかなかった。
 嬉しい、という気持ちもあまり湧いて来ない。
 逆に…胸の中に存在する、この複雑な感情をどう処理していけば良いのか
戸惑うしかなかった。

 以前のように扱ってくれれば、こちらも相手を憎む事が出来る。
 拒絶して…この家から出ていけと追い出せる。
 しかし…こんな風に献身的に世話を焼かれて、優しくされたら…どうしても
『私の家から出て行け!』という一言を言うことが出来なかった。
 行き場のない感情は、御堂を混乱させ…どう対応していけば良いのかという
正解をひどく遠くに追いやっていた。

「お前、が…本、当…に…判ら、ない…私、には…」

 克哉が作ってくれた食事の全てを平らげて、御堂は床の上に身体を投げ出した。
 たったそれだけの動作でも、暫くは身体を休めなければ…辛くて動けない。
 そんな身体にした原因は、あの男が作った。
 なのに―憎み切る事が出来ず、胸の中に湧いた…情のような気持ちに御堂は
深い深い溜息を突いて、それを紛らわす事しか出来ないでいた―。
 
 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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