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鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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 ―克哉から連絡を受けて、本多が収容された病院へ辿り着いたのは
21時を回った頃くらいだった。
 到着した直後、手術室の前で心細そうな表情を浮かべて長椅子に
座っていた克哉を見て…思わず保護欲を掻き立てられてしまった。
 すぐ傍の手術室には『手術中』と言うランプが点灯している。
 それを眺めながら…思ったよりも本多の体内に突き刺さっていたガラスは
多かった事を思い知った。

「…克哉、本多の容態は?」

「…まだ手術中のランプが消えないから、判りません。ただ…病院に到着
してから看護婦さんとか医者が血相を変えて手術室に空きを作らなくてはとか
体温を暖めたり輸血の準備を…って言っていたから、余り良いとは言えない
状況です…」

「そうか…なら、私も一緒にここで待とう。…一応、念の為に夕食につつしまやかで
申し訳ないが簡単につまめる物を持って来ておいた。一緒に食べよう」

「…はい、わざわざありがとうございます」

 そういって手に持っていたコンビニ袋を掲げて見せながら…御堂はさりげなく
克哉の隣に座っていった。
 こうして近くで見てみると…克哉の顔は相当に青かった。
 本多の事を心から案じているのだろう。
 そう思うとまた、チリリ…と嫉妬心が疼く想いがした。
 
(何をさっきから考えているんだ…本多は克哉にとって、同僚であり友人でも
あるんだ。大怪我したりしたら…心配するのは当然じゃないか…)

 そう理性が囁いていくが、どうしても胸の中の焼け焦げるような感情は
消えてくれない。
 だから…さりげなく克哉の肩に腕を回して抱き寄せていった。
 …病院内で人目につく可能性があったが、克哉は本気で顔を青ざめている。
 それなら…本気で案じている友人を労わって、と見えなくないだろう。
 御堂はそう判断して、らしくない態度を取った。

「…暖かい」

 暫くしてから、ボソリ…と克哉が呟いていった。

「…何も食べていないから、恐らく身体が冷えているのだろう。…そんな物しか
用意出来なくてすまないが、何も胃に入れないよりはマシだと思う…」

「はい、ありがとうございます。…けど、御堂さんがコンビニのおにぎりを買って来るとは
思いませんでした。何となくイメージに合わない気がして…」

「…あぁ、普段は滅多に食べない。時間の無い時にテイクアウトするのはサブウェイとか
街にあるある程度名の知れたパン屋の類が多いからな…」

「やっぱり…何となくオレにもそういうイメージがありました。何かしっかりした店を
選んで食べていそうだなって…」

 そういってようやく、克哉がクスクスと笑っていく。
 御堂は何となく居たたまれないような気持ちになって…頬を染めながら軽く
ソッポを向いていた。
 いや、彼とてもう少し時間的な余裕があったのならば…しっかりした店でサンドイッチの
一つぐらいは用意したかった。
 しかし警察の調書作成に協力したら思いの他、時間が取られてしまっていて…例の
事故が起こった時から二時間以上があっという間に過ぎてしまっていたのだ。
 本多と克哉の事が心配で心配で、大急ぎで駆けつけている最中…警察署のすぐ近くに
コンビニエンスストアがあったので、そこで久しぶりに…おにぎりぐらいは買って向かおうと
4つ程、購入したのである。

「頂きますね」

「うむ…」

 すぐ隣で克哉がおにぎりの包装を剥がしていく音がする。
 それに倣って…御堂も一旦、克哉の肩から腕を外して…コンビニのおにぎりの
包装を剥がし始めていった。
 だが普段忙しい時に食べ慣れている克哉と違って、御堂は若い頃ならばともかく
ある程度の役職についてからはめっきり、こういった物を食べなくなって長い年月が
過ぎていた。
 その為、手つきは何とも不器用なものになってしまっていって…。

 ビリッ!

 無残にも外側の包装に包まれていたおにぎりが破れる音が響き渡ってしまって
何となく恥ずかしい気持ちになった。
 すぐ隣で、克哉はまたクスクスと笑っていた。
 …何となく格好悪いような気がしてならなかった。

「…何か御堂さん、凄く可愛い…」

「言うな、克哉…。私だって凄く今…恥ずかしかったんだ…」

「…すみません、本当なら笑うべきじゃないって判っているんですけど…貴方のそんな
姿が見れるとは思いませんでしたから…」

「ふん…」

 そして照れ隠しに、豪快に微妙に端の海苔が破れたおにぎりを頬張ってみせる。
 克哉もそれに付き合って、黙々と食べ始めていく。
 この時間まで何も食べていなかったせいか…各自、おにぎり二つなどあっという間に
平らげてしまっていた。
 この分だったら、もう一つずつぐらい購入しておけば良かったと少し後悔したぐらいだ。
 ついでに用意しておいたペットボトルのお茶を飲んでいきながら…克哉はしみじみと
呟いていった。

「ふふ、でも凄く嬉しいです。…貴方がこんな風に、オレに気を遣って労わって
くれる日が来るなんて…以前は想像した事もなかったから…」

「…あぁ、確かに…以前の私は、君に対して…酷かったな…」

 先程、眼鏡を掛けた克哉の姿を見て辛辣な事実を叩きつけられたからだろうか。
 どことなく…今の克哉の言葉と、表情が胸に突き刺さる想いがした。
 そしてもう一度…さりげなくその肩を抱き寄せていく。
 克哉の身体も…まだ、どことなく湿っていて冷たいような気がした。
 お互いに雨に打たれていた事をその時、思い出した。

「…寒くないか」

「…大丈夫ですよ。病院内は空調が効いていて…むしろ空気が少し乾燥
しているぐらいですから…」

「そうか…」

 どことなくぎこちないやりとりが続いていく。
 けれど…ふとした瞬間、克哉の瞳が揺れている事に気づいた。
 やはり、手術中の本多を案じているのだろう。

「…本多が心配、か?」

「はい…」

「…彼が助かると良いな。…私も、それを一緒に願おう…」

「…ありがとうございます…」

 また、どこか儀礼的なやりとりが続いていく。
 克哉の表情がまた浮かないものになって…心配の色が濃くなっていく。
 それを見て、つい呟いてしまっていた。

「妬けるな…」

 それは珍しく、御堂の本音からの言葉だった。
 克哉はその一言を耳にして本気でびっくりしていった。

「…妬けるなって、御堂さんが…ですか?」

「あぁ、そうだ。本来ならそんな事を感じている場合じゃないって判っているが…
君がそんなに私以外の男の事を心配していると思うとな…」

 何故、そんな事を言ってしまったのか…自分でも不思議だった。
 だが、さっきの眼鏡の言葉に何かを感じたからだろうか。
 自分はあまりに、言葉が足りないと。全て自分の胸の中に閉じ込めて
漏らさないから…周りの人間はそれで苦しんでしまっていると。
 だから、ついポロリと本音が零れてしまった。

「…本多は、オレの友達です。貴方とは…次元が違いますから…」

「あぁ、判っている。だが…私達は再会してたった三日だ。想いを確かめ合ってから
それだけの月日しか流れていない。だから…私よりも長い時間、君と一緒にいた
彼に嫉妬している。私を庇ってくれたのは事実なのに…このまま助かって欲しいと
強く願っているのに…同時に、彼への嫉妬心が消えない…」

 そういって、強く克哉を抱き締めていく。
 少しだけその身体が震えているような気がした。
 克哉がこちらの頬にそっと手を伸ばしてくる。
 優美な造りの少しだけ冷たくなっている指先を感じて…御堂は真っ直ぐに
克哉の瞳を覗き込んでいった。
 真摯な眼差しを、そのアイスブルーの瞳に注ぎ込んでいく。
 
「…貴方が、そんな事を言ってくれるなんて…思ってもみませんでした…」

「…みっともないな、私は…」

「…いいえ。オレは逆に安心しました。…嫉妬をしてくれるくらい、貴方はオレの事を
想ってくれたんだなって…」

 どこか儚く、克哉が笑っていく。
 その表情はすぐに壊れてしまいそうなぐらいに切ないもので…それを留めたくて
強く強く、その身体を抱きすくめていく。
 お互いの肉体が熱く感じられる。
 思いがけず、想いの篭った抱擁を受けて…克哉は、嬉しそうに呟いていった。

「…こんな時に、不謹慎だと想うけど…凄く、嬉しい…」

 泣きそうな瞳を讃えながら、克哉が呟いていった。
 引き寄せられるように…そっと顔を寄せていく。
 窓の外には大雨が未だに降り続いて、病院の廊下にもその雨音が響いている。
 そんな中で…二人は、静かに唇を重ね合う。

「好きだ…」

 初めて、御堂の唇から…『好きだ』という単語が零れていく。
 それを聞いて…一筋の涙を、克哉は伝らせていった。

「…御堂、さん…」

 こんな時に言うのは反則かも知れないという想いはあった。
 けれど…知らず、言葉は口を突いてしまっていた。
 雨はまるで涙のようだけれど。

 ―涙には心を浄化する作用がある

 この溢れるように流れる雨が、御堂の意地を張る心をほんの少しだけ
潤わせて柔らかくしていったのだろうか…?

「…オレ、も…貴方を大好きです…」

 その一言を告げて、やっと…克哉が微笑を浮かべていく。
 それは御堂にとって…宝物にしたいぐらいに、綺麗で可愛らしい表情だった―

 
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プロフィール
HN:
香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
 鬼畜眼鏡にハマり込みました。
 当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
 とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)

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