鬼畜眼鏡の小説を一日一話ペースで書いてますv
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―御堂と克哉が再会し、結ばれてから三ヶ月が過ぎた。
例の事件の後、本多は二週間ほどで職場に復帰し…彼を跳ねた工場長も
それに見合う刑罰を素直に受けたようだった。
本多の怪我は全治一ヶ月程度で、幸いにも輸血を受けたので今後献血が
出来なくなった程度の後遺症しかなかった為…刑罰も傷害罪と、近くの車を
何台かぶつけたりして損傷させた器物損傷罪の二つを受けた。
傷害罪が懲役15年以下又は罰金30万。
器物損傷罪は三年以下の懲役、又は30万の罰金だ。
これが本多が死亡したり、後遺症を負ったりしたらもっと刑罰は重いものに
なっていただろうが…幸いにも、一ヶ月程度の怪我で済んだ為に男の刑罰は
思ったよりも軽いものになっていた。
ただ、50代後半の無職な男が支払うには…その額でも大金ではあったが。
金銭がない以上、男が受けたのは懲役刑の方で…両方合わせて、5~6年は
世間に出てくる事はないだろう。
御堂達は男が受けた刑罰の内容を知ってからは、その後は特に追わなかった。
また逆恨みしてこちらに危害を与えてくる可能性がないではなかったが…その時は
こちらも幾つか対策を立てて迎え撃てば良いだけの話であった。
そして全てが片付く頃には、季節は春を迎えていた。
三月の下旬ともなれば…寒さも穏やかになり麗らかな陽気の日もチラホラと
出てくる頃だ。
だが、桜の開花を間近に控えているせいか…近頃は天候がぐずついた日が
多く、この日の朝もうっすらと灰色の雲に空全体が覆われて、ポツポツと雨が
降り注いでいた。
御堂孝典はその光景を…ベッドから身体を起こして、ぼんやりと眺めていた。
(もう…朝だな…今日は雨か…。まあ、克哉と過ごす場合…週末はあまり外に
出かけたりはしないから影響は少ないがな…)
ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、ゆっくりと自分のすぐ隣のスペースを
眺めていった。
キングサイズのベッドの上、自分の傍らには克哉が安らかな顔を浮かべながら
静かな寝息を立てていた。
当然、二人共…裸である。
三ヶ月前には自分達は名実ともに恋人同士になっているのだ。
…週末に、こうやって一緒に過ごして愛し合うのは…すでに当たり前の日常の
一部と化していた。
「…良く眠っているな。…まあ、昨晩も随分と遅くまでつき合わせてしまったのだから
無理もないがな…」
フっと瞳を細めながら…克哉の柔らかい髪に指を伸ばしていく。
サラリ、とした感触が妙に心地良くて御堂は優しく微笑んでいった。
克哉の身体のアチコチには、幾つもの赤い痕が刻み込まれている。
それは…御堂の強い、彼への執着心の現れみたいなものだった。
正式に交際するようになってから、すでに三ヶ月が経過しているのに…
自分は別会社に勤めているのに対して、克哉が本多と一緒の会社に未だに
勤務している状態は、御堂の心をやはりヤキモキさせていた。
それが週末、こういう形で表に現れてくる。
(…自分がここまで、大人げなかったとはな…)
佐伯克哉という存在と出会ってから、どれぐらい自分ですら知らなかった
一面に気づかされた事だろう。
どんな良い女と付き合っても執着して来なかったのが嘘のようだ。
克哉だけは、絶対に他の人間に取られたくないと切に思う。
恋人の気持ちは自分だけに注がれているというのは判っている。
だが、御堂と結ばれてからの克哉は…何と言うか妙に色っぽくて可愛くて、
傍にいるだけで心が大きく揺れ動く程だ。
だから御堂の心は、落ち着くことはない。
―今もまだ、こんなに克哉を求めている気持ちが吹き荒れている。
「克哉…」
まるで壊れ物に触れるかのように、自分の隣で安らかに眠っている克哉の
頬にそっと触れていく。
暖かくて柔らかい、滑らかな頬の感触に満足げに笑みを浮かべていく。
「んっ…御堂、さん…」
克哉がうわ言で、こちらの名前を呼んでいくと更に愛しさが募っていく。
柔らかく唇を塞いで、熱い吐息を吹き込んでいくと…。
「んん、んぅ…」
甘ったるい声を零しながら、克哉は覚醒していった。
「…起きたか?」
とても優しい瞳を浮かべながら御堂が声を掛けていく。
それを見て…パっと克哉の顔が真っ赤になっていった。
まったく…恋人同士になってすでに三ヶ月、週末が来る毎に数え切れないくらい
抱き合っているというのに、未だに克哉の反応はウブで…時折、見ているこちらの方が
照れてしまうぐらいだ。
「…はい、おはようございます。御堂さん…」
「あぁ、おはよう…」
恥じらいの表情を浮かべる克哉に妙にそそられて、御堂の中に悪戯心が
湧き上がっていく。
そのまま克哉の耳元に唇を寄せていくと…耳穴の入り口の周辺に舌を
やんわりと這わせて、くすぐり始めていった。
「…ひゃっ…!」
「…相変わらず敏感みたいだな。まだ朝だというのに…そんな声を聞いたら
こちらは妙にそそって、仕方なくなってくるぞ…?」
「そ、そんな…! それは御堂さんがこちらに、悪戯なんて…仕掛ける、
からですし…んんっ!」
揶揄するような御堂の言葉に反論していくも、緩やかに熱い舌先で耳の中を
犯されて、抽送を繰り返されていくと妙に卑猥で…起き抜けだというのに身体が
熱くなってしまう。
クチュ、グチャ…ヌチャ、グプ…!
脳裏に余りに卑猥な水音が響いていく。
それは行為中の接合音をいやでも連想させてしまって…昨晩の淫らで熱い夜の記憶を
克哉の中に蘇らせていった。
(だ、駄目だ…! こんな音を聞かされたらどうしても昨日の事を思い出して、しまって…
もう、抗えない…)
ただ耳の奥を舌先でくすぐられていくだけで克哉の身体は反応してしまい…背筋から
這い上がっていく甘い衝動に耐えるように全身を震わせていく。
「あっ…はっ…や、朝から…そ、んな…!」
「ほう? 口ではそんな事言っている癖に…君のここは早くもこんなにしこって…
私の指を弾き返さんばかりになっているぞ…。相変わらず感度は抜群だな…」
「ひゃ、うっ…!」
気づけば御堂から上に圧し掛かられるような体制になって、両方の胸の突起を摘まれて
執拗に愛撫を施されていた。
恋人に指摘された通り、胸の尖りは硬く張り詰めていて触れられる度に克哉の全身は
ビクビクビク、と鋭敏に跳ね上がっていく。
耳と胸、たったそれだけ弄っただけでも克哉の身体は真っ赤に染まり…瞳には艶めいた
光が浮かんでいく。
恐らく、他の誰も知らない克哉の媚態。
それがこんなに御堂の心を熱くさせて、深く捕らえていく。
―誰にも渡さない。君は私だけのものだ…!
愛しさと独占欲が同じ激しさを持って御堂の心の中に湧き上がっていく。
己の所有を示すように、首筋に…胸元に、赤い痕を刻みまくった。
痛み交じりに、強引に快楽を引きずり出されていって克哉は荒い吐息を零しまくって
必死に御堂の背中に縋り付いていく。
そんな余裕のない仕草すらも、御堂の心を煽って仕方なかった。
「あっ…御堂、さん…! そんなに、弄ったら…オレ、は…」
「…どこまでも感じれば良い。幸い、今日は週末だ。君を可愛がる時間はたっぷりと
あるからな…」
「そ、んな…! 昨晩も、あんなに激しく…した、ばかりなのに…あぁっ…!」
御堂の手が強引に性器を握り込んで、やや性急に扱き上げていくとそれだけであっという間に
手の中で硬度を増して、先端から蜜を零し始めていく。
「…そんな事を言って。君のモノはすでに…こんなに、熱く張り詰めて私の指を弾き返さん
ばかりになっているぞ…?」
「そ、れは…! 貴方に触られたら、オレはいつだって…感じずに、なんて…いられない
んですから…!」
「良い、言葉だな…。そんな事を言われたら、もっと君を啼かせたくて仕方なくなってくる…」
「あうっ…! はっ…あ、んんっ…!」
御堂の手はあまりに的確に克哉の快楽を引き出していくので次第にまともな単語すら
紡げなくなっていく。
形の良い唇から零れるのはただ、熱く悩ましい嬌声だけ。
それを聞きながら御堂は克哉の肌に、所有の痕を刻みつけながら…もう一方の手で
奥まった箇所を暴き始めていった。
「んあっ…! や、其処は…」
「…口では拒んでいる割には、すぐに私の指を食んで離さなくなっているぞ。…もう、
ここに欲しくて仕方ない。そう訴えているみたいだな…」
「や…ぁ、お願いです…。そんな事を、口に出して…言わないで、下さい。恥ずかしくて…
死にそう、になりますから…」
「事実だろう…? それに、私だって君が欲しくて…堪らなくなっているんだ…」
恋人同士になってセックス時に、揶揄するような意地悪な物言いをする部分は
あまり変わりはなかった。
それでも、以前に比べて、どれだけ際どくて意地悪な発言をしていても…瞳だけは
とても優しく、慈しみに満ちていた。
自分の下肢の狭間に、すでに硬くなっている御堂の灼熱を押し当てられて…ゴクリ、と
息を呑んでいく。
触れられている箇所が、ドクドクドクと荒く脈動を繰り返して自己主張している。
愛しい相手からこんなものを宛がわれてしまったら、抗えない。
「あ、熱い…です…。御堂さん、のが…」
「…あぁ、君の中に早く入りたいって、暴れている。入るぞ…克哉…」
「ん、あぁ…!」
唇を貪るように重ねられていきながら、御堂のモノが強引に克哉の内部へと押し入って
根元まで捻じ込まれていく。
その圧迫感に、質感に…克哉はその背中に懸命に縋り付いていきながら耐えていった。
昨晩、散々に貫かれて御堂を受け入れ続けた其処は、再びあっさりとそのペニスを深々と
飲み込んでキツく締め付け始めていく。
「…くっ…まさに、私のを食いちぎらんばかりだな…君の、此処は…!」
「はっ…あぁ! や…そんな、に早く…奥を突かない、で…! すぐに耐えられなく、
なってしまいそう…ですから…」
「…それは聞けない、な…。私は、君をグチャグチャにしたくて…もう、堪らなく
なっているのだからな…」
「んあっ…!」
そのまま激しく、強く御堂が律動を刻み始める。
克哉はそれにただ翻弄されるしかない。
最奥に向かって執拗に突き上げられる中で、片手でペニスの敏感な部分を攻め上げられて
気が狂いそうになる程の悦楽が背筋を走り抜けて、克哉を支配していく。
感じる部位は、御堂に昨晩に散々弄られ続けて痛いぐらいだ。
それでも更に其処を攻められ続けていくので強烈な快楽と鈍い痛みが交互に克哉を
苛むように襲い掛かって来る。
「あっ…はっ…御堂、さ…! ダメ、も、う…本気で、オレ…おかしく、な、る…!」
「あぁ、どこまでもおかしくなれば、良い…。君が乱れて狂う姿を…私は、もっと…
見たくて仕方ないからな…」
「そ、んな…はっ…! あっ…イイ! 御堂さん、ソコ…悦い…!」
御堂の丸みを帯びた先端が的確に克哉のもっとも感じる部位を擦り上げていくと
顕著にその身体を跳ねさせて、克哉が悶え始めていく。
余裕なさそうに克哉が必死に御堂に縋りつく瞬間。
男としての支配欲と独占欲がもっとも満たされる時でもあった。
「あぁ、もっと…私を感じろ。克哉…私、だけをな…」
他の事が、他の男の事などその瞬間だけでもまったく考えられなくするように
抽送を早めて克哉を快楽の園へと叩き落していく。
これだけの攻めに果たして誰が抗えるというのだろうか。
ただただ、克哉は御堂の激しさに翻弄されて喘ぐ以外の事は出来そうにない。
(御堂さんのが…こんなに、張り詰めてオレの中でドクドク…言ってる…!)
御堂の欲望を、情熱を最奥で感じ取って克哉は身を震わせていく。
呼吸は乱れてまくって苦しいけれど、それはもっとも彼が満たされる一時でもあった。
愛しい人間が自分の中にいて、感じてくれている。
求めてくれている、それをまざまざと感じ取って…克哉の身体が大きな喜びと愉悦で
震えて小刻みな痙攣を繰り返していく。
―もうすでにこれが起き抜けである事なんて関係がなかった。
ただ御堂が欲しくなって、浅ましいくらいにこちらからも腰を振りながら強く締め付けて
共に頂点を目指していく。
「あっ…御堂、さ…んっ! も、う…!」
克哉が切羽詰った声を漏らしていきながら…一足先に上り詰めて、射精しながら御堂の
腕の中で果てていく。
それに連動するように、御堂にも限界が訪れる。
ほんの何十秒かの時間差。それによって達したばかりで鋭敏になっている身体に
勢い良く熱い精が注がれていく。
それだけでも感じて、感じまくって克哉の身体はビクビクと激しく跳ねていった。
「克哉…!」
御堂が掠れた声音で恋人の名を呼びながら…その身体の上に崩れ落ちていく。
お互いに忙しい息を吐いて、肩で呼吸をしていた。
触れ合っている肌は両者とも汗ばみ、うっすらと雫が伝い始めていった。
「ん…好き、です…大、好き…」
「あぁ、私もだ…」
うわ言のように零れる睦言に、同意を示していきながら…唇にキスを落としていってやると
克哉は本当に嬉しそうに微笑んでみせた。
二人の胸に幸福感が満ちていく。
あまりに幸せなので、このまま眩暈すら感じそうだ。
そのまま静かに抱き合っていくと…荒かった鼓動が収まり、代わりに激しくなった雨音が
部屋中に響き渡っていく。
自分達が愛し合っている間に、雨脚は随分と強くなってしまったようだった。
「…雨、随分と降っているみたいですね…」
「…そうだな。君を抱いている間は行為に夢中になってて気づかなかったがな…」
「もう…そういう、恥ずかしくて居たたまれなくなるような事を平気で言わないで下さい…」
そういって自分の胸に顔を埋めて、耳まで赤くなっている恋人をクスクスと笑いながら
抱き寄せていく。
そういえば、こんな風二人でいる時にこうやって土砂降りの雨が降るのは三ヶ月前の
あの日以来なような気がした。
今思えば、あの日…本多がやって来て、目の前であの男が跳ねられて。
その数日後に、あの男に対して「克哉を愛している」と正直に答えた日から…自分達は
正式な恋人同士になれたような気がした。
その前にも一度、抱き合っていたが…あの時はまだお互いに怯えが残っていて
遠慮しあっていたように思う。
誰にも渡したくないと。本気で愛しているのだと…命を狙われて、死を意識したからこそ
気づいた本心でもあった。
(…雨、か。今思えば…克哉と何かあった時は…いつも、雨が降っていたな…)
最初の雨の日では、決別を。
遠くから彼と本多を眺めていた日も、一ヶ月ぶりに再会した日も、そしてあの事件が
起こった日も全て雨が降り続いていた。
そのおかげで…どうしても、接していてあの日の泣きそうな顔を浮かべながらマンションの
前に立っていた克哉のイメージが御堂の中で消えてくれなかった。
それがいつの間にか払拭されて…克哉の笑顔がすぐに頭の中で再生出来るようになった
のは果たしていつぐらいからの事だったのだろうか…?
「…最初、貴方と再会したばかりの頃は少しだけ雨が怖くなっていました…」
暫く沈黙が続いた後、ポツリと…克哉が呟いていく。
「貴方と決別した日が大雨だったから、雨が降る度に…また、貴方がいなくなって
しまうような気がして…去年の12月くらいは雨が降ると密かに憂鬱になっていました。
せっかく会えたのに…また、貴方と離れてしまうのは嫌だと。そう願っていたから
あの当時は雨が怖くなっていました…」
「私、もだ。…また、君の背中を見失ってしまうんじゃないかと…あの当時は少し
不安を感じていたな…」
「…御堂さんも、ですか。…ふふ、何か同じ気持ちだったと聞くと少しだけくすぐったい
気持ちになりますね…」
そういって、御堂は優しく克哉の髪を梳いていった。
その手つきはとても優しくて、愛されているのだと強く実感出来た。
「…けど、今は怖くない。ちょっと時間は掛かってしまったけれど…貴方に愛されているって
実感していますから。もう…あんな風にうやむやな形で貴方を見失ってしまう事は
ないって…ようやく思えるようになりましたから…」
そうして、蒼い瞳を穏やかに細めながら…克哉は嬉しそうに笑っていった。
「あぁ、私ももう…あんな形では君の手を離したり何かしない…」
あの時はお互いの気持ちが見えなかった。
だから潔く身を引く事が、あの決して対等ではない…恐らく克哉にとっては屈辱的な
感情が伴う関係を終わらせるのが彼の為だと判断した彼は、一度は克哉の前から
姿を消す決断をした。
だがどうしても、自分の中から克哉への想いが消える事はなかった。
あの時はどうしても引け目を持ってしまって、強気に出れなくなっていた部分があった。
だが今は違う。お互いに想いあっている手応えを感じている。
克哉に愛されていると実感出来る。だから二度とあんな形では御堂は克哉の手を離す
ような真似は出来ないだろう…。
「…嬉しい。貴方が、そういってくれるのが…」
そういって花が綻ぶように笑う克哉が心から愛しく感じられた。
もっと近づきたい、重なりたい衝動を覚えて…まだ繋がった状態のままで克哉の
手を指を絡めるように握り込んでいった。
「…君をもう、誰にも取られたくないからな…」
その本音を呟きながら、唇を重ねていく。
もうすでに…雨音も、気にならなくなっていた。
そうして入間に心地良い疲労感を感じて、眠気が訪れる。
「…どうしよう。今…凄く、幸せです。御堂さん…」
「…そうか」
そっと瞳を伏せながら、克哉が胸元に頭を擦り付けてくる。
御堂はそんな恋人を、フっと微笑みながら抱好きにさせていった。
そのままそっと抱き締めて、改め互いの身体の上に布団を被せていった。
―もう、雨が降っても怖いと思う事は二人はなかった。
相手の気持ちが、今は自分に向けられていると確信出来るから。
それが二人の間に絆を生み出していく。
雨が降ろうが大嵐になろうと、もう天候で気持ちを左右される事はない。
気持ちをそれだけ強く持てるようになったのも…愛し、愛される関係に自分達が
なれたからだろうか。
言葉がなくても、穏やかに満ちた何かが二人の間に流れていく。
こうやって寄り添っていれば、確かなものが感じられる。
それが二人の心を確実に強くしていった。
もう、雨の日に起こった悲しい記憶は遠い。
代わりにそれは幸せな記憶に上書きされて、儚いものへと変わっていった。
これからも自分達はこんな幸せな日々を積み重ねていけるだろう―
「…孝典、さん…大、好き…」
克哉が勇気を振り絞って、御堂の下の名前を呼んでいく。
甘い痺れとくすぐったい気持ちが湧いてくる。
「…まったく、君はどこまで可愛い真似をすれば気が済むんだ…?」
そう言いながら、こちらの心を大きく跳ねさせる発言を零した唇をお仕置きとばかりに
深く塞いで抱き締めていく。
日曜日の昼下がりはそうやって過ぎていく。
彼らはこれからも、そんな甘くて幸せな日常を繰り返していくのだろう。
悲しみの記憶が薄れて霞むぐらいに。
もう雨を見ても、泣いている克哉の残像が御堂の中で蘇ることがなくなる日までずっと―
祈りは時に大きな力を生む
一人の男が失恋してでも、本気で想う相手の幸せを願った事で
本来ならばここまでの幸せを得る事が出来なかった道のりで、二人は確かな
幸福を手にする事が出来たのだ。
この幸せを当然のものと思わず、感謝し尊いものである。事を噛み締めていく限り
彼らはこれからも、こうやって幸せを積み重ねていける。
どんな雨も、悲しみも必ず晴れる日は来る。
暖かな太陽が雨を退けるように、悲しみに凍った心が人の優しさで柔らかさと暖かさを
取り戻していくように…。
優しい時間と空気が流れるようになった二人は、もう過去の痛みの伴う気持ちで
支配されて強い不安に苛まれることはなかった。
相手に愛されていると、今は強く確信を持てるから…。
「克哉…」
愛しい男の腕に包まれて、克哉は安らかな寝息を零し始める。
そんな彼を優しく包み込みながら御堂もまた…再びまどろみの中に落ちていく。
そっと指を絡めていきながら、二人の意識は落ちていく。
―その時の二人の顔は、どこまでも満ち足りた幸せなものであった―
例の事件の後、本多は二週間ほどで職場に復帰し…彼を跳ねた工場長も
それに見合う刑罰を素直に受けたようだった。
本多の怪我は全治一ヶ月程度で、幸いにも輸血を受けたので今後献血が
出来なくなった程度の後遺症しかなかった為…刑罰も傷害罪と、近くの車を
何台かぶつけたりして損傷させた器物損傷罪の二つを受けた。
傷害罪が懲役15年以下又は罰金30万。
器物損傷罪は三年以下の懲役、又は30万の罰金だ。
これが本多が死亡したり、後遺症を負ったりしたらもっと刑罰は重いものに
なっていただろうが…幸いにも、一ヶ月程度の怪我で済んだ為に男の刑罰は
思ったよりも軽いものになっていた。
ただ、50代後半の無職な男が支払うには…その額でも大金ではあったが。
金銭がない以上、男が受けたのは懲役刑の方で…両方合わせて、5~6年は
世間に出てくる事はないだろう。
御堂達は男が受けた刑罰の内容を知ってからは、その後は特に追わなかった。
また逆恨みしてこちらに危害を与えてくる可能性がないではなかったが…その時は
こちらも幾つか対策を立てて迎え撃てば良いだけの話であった。
そして全てが片付く頃には、季節は春を迎えていた。
三月の下旬ともなれば…寒さも穏やかになり麗らかな陽気の日もチラホラと
出てくる頃だ。
だが、桜の開花を間近に控えているせいか…近頃は天候がぐずついた日が
多く、この日の朝もうっすらと灰色の雲に空全体が覆われて、ポツポツと雨が
降り注いでいた。
御堂孝典はその光景を…ベッドから身体を起こして、ぼんやりと眺めていた。
(もう…朝だな…今日は雨か…。まあ、克哉と過ごす場合…週末はあまり外に
出かけたりはしないから影響は少ないがな…)
ぼんやりとした頭でそんな事を考えながら、ゆっくりと自分のすぐ隣のスペースを
眺めていった。
キングサイズのベッドの上、自分の傍らには克哉が安らかな顔を浮かべながら
静かな寝息を立てていた。
当然、二人共…裸である。
三ヶ月前には自分達は名実ともに恋人同士になっているのだ。
…週末に、こうやって一緒に過ごして愛し合うのは…すでに当たり前の日常の
一部と化していた。
「…良く眠っているな。…まあ、昨晩も随分と遅くまでつき合わせてしまったのだから
無理もないがな…」
フっと瞳を細めながら…克哉の柔らかい髪に指を伸ばしていく。
サラリ、とした感触が妙に心地良くて御堂は優しく微笑んでいった。
克哉の身体のアチコチには、幾つもの赤い痕が刻み込まれている。
それは…御堂の強い、彼への執着心の現れみたいなものだった。
正式に交際するようになってから、すでに三ヶ月が経過しているのに…
自分は別会社に勤めているのに対して、克哉が本多と一緒の会社に未だに
勤務している状態は、御堂の心をやはりヤキモキさせていた。
それが週末、こういう形で表に現れてくる。
(…自分がここまで、大人げなかったとはな…)
佐伯克哉という存在と出会ってから、どれぐらい自分ですら知らなかった
一面に気づかされた事だろう。
どんな良い女と付き合っても執着して来なかったのが嘘のようだ。
克哉だけは、絶対に他の人間に取られたくないと切に思う。
恋人の気持ちは自分だけに注がれているというのは判っている。
だが、御堂と結ばれてからの克哉は…何と言うか妙に色っぽくて可愛くて、
傍にいるだけで心が大きく揺れ動く程だ。
だから御堂の心は、落ち着くことはない。
―今もまだ、こんなに克哉を求めている気持ちが吹き荒れている。
「克哉…」
まるで壊れ物に触れるかのように、自分の隣で安らかに眠っている克哉の
頬にそっと触れていく。
暖かくて柔らかい、滑らかな頬の感触に満足げに笑みを浮かべていく。
「んっ…御堂、さん…」
克哉がうわ言で、こちらの名前を呼んでいくと更に愛しさが募っていく。
柔らかく唇を塞いで、熱い吐息を吹き込んでいくと…。
「んん、んぅ…」
甘ったるい声を零しながら、克哉は覚醒していった。
「…起きたか?」
とても優しい瞳を浮かべながら御堂が声を掛けていく。
それを見て…パっと克哉の顔が真っ赤になっていった。
まったく…恋人同士になってすでに三ヶ月、週末が来る毎に数え切れないくらい
抱き合っているというのに、未だに克哉の反応はウブで…時折、見ているこちらの方が
照れてしまうぐらいだ。
「…はい、おはようございます。御堂さん…」
「あぁ、おはよう…」
恥じらいの表情を浮かべる克哉に妙にそそられて、御堂の中に悪戯心が
湧き上がっていく。
そのまま克哉の耳元に唇を寄せていくと…耳穴の入り口の周辺に舌を
やんわりと這わせて、くすぐり始めていった。
「…ひゃっ…!」
「…相変わらず敏感みたいだな。まだ朝だというのに…そんな声を聞いたら
こちらは妙にそそって、仕方なくなってくるぞ…?」
「そ、そんな…! それは御堂さんがこちらに、悪戯なんて…仕掛ける、
からですし…んんっ!」
揶揄するような御堂の言葉に反論していくも、緩やかに熱い舌先で耳の中を
犯されて、抽送を繰り返されていくと妙に卑猥で…起き抜けだというのに身体が
熱くなってしまう。
クチュ、グチャ…ヌチャ、グプ…!
脳裏に余りに卑猥な水音が響いていく。
それは行為中の接合音をいやでも連想させてしまって…昨晩の淫らで熱い夜の記憶を
克哉の中に蘇らせていった。
(だ、駄目だ…! こんな音を聞かされたらどうしても昨日の事を思い出して、しまって…
もう、抗えない…)
ただ耳の奥を舌先でくすぐられていくだけで克哉の身体は反応してしまい…背筋から
這い上がっていく甘い衝動に耐えるように全身を震わせていく。
「あっ…はっ…や、朝から…そ、んな…!」
「ほう? 口ではそんな事言っている癖に…君のここは早くもこんなにしこって…
私の指を弾き返さんばかりになっているぞ…。相変わらず感度は抜群だな…」
「ひゃ、うっ…!」
気づけば御堂から上に圧し掛かられるような体制になって、両方の胸の突起を摘まれて
執拗に愛撫を施されていた。
恋人に指摘された通り、胸の尖りは硬く張り詰めていて触れられる度に克哉の全身は
ビクビクビク、と鋭敏に跳ね上がっていく。
耳と胸、たったそれだけ弄っただけでも克哉の身体は真っ赤に染まり…瞳には艶めいた
光が浮かんでいく。
恐らく、他の誰も知らない克哉の媚態。
それがこんなに御堂の心を熱くさせて、深く捕らえていく。
―誰にも渡さない。君は私だけのものだ…!
愛しさと独占欲が同じ激しさを持って御堂の心の中に湧き上がっていく。
己の所有を示すように、首筋に…胸元に、赤い痕を刻みまくった。
痛み交じりに、強引に快楽を引きずり出されていって克哉は荒い吐息を零しまくって
必死に御堂の背中に縋り付いていく。
そんな余裕のない仕草すらも、御堂の心を煽って仕方なかった。
「あっ…御堂、さん…! そんなに、弄ったら…オレ、は…」
「…どこまでも感じれば良い。幸い、今日は週末だ。君を可愛がる時間はたっぷりと
あるからな…」
「そ、んな…! 昨晩も、あんなに激しく…した、ばかりなのに…あぁっ…!」
御堂の手が強引に性器を握り込んで、やや性急に扱き上げていくとそれだけであっという間に
手の中で硬度を増して、先端から蜜を零し始めていく。
「…そんな事を言って。君のモノはすでに…こんなに、熱く張り詰めて私の指を弾き返さん
ばかりになっているぞ…?」
「そ、れは…! 貴方に触られたら、オレはいつだって…感じずに、なんて…いられない
んですから…!」
「良い、言葉だな…。そんな事を言われたら、もっと君を啼かせたくて仕方なくなってくる…」
「あうっ…! はっ…あ、んんっ…!」
御堂の手はあまりに的確に克哉の快楽を引き出していくので次第にまともな単語すら
紡げなくなっていく。
形の良い唇から零れるのはただ、熱く悩ましい嬌声だけ。
それを聞きながら御堂は克哉の肌に、所有の痕を刻みつけながら…もう一方の手で
奥まった箇所を暴き始めていった。
「んあっ…! や、其処は…」
「…口では拒んでいる割には、すぐに私の指を食んで離さなくなっているぞ。…もう、
ここに欲しくて仕方ない。そう訴えているみたいだな…」
「や…ぁ、お願いです…。そんな事を、口に出して…言わないで、下さい。恥ずかしくて…
死にそう、になりますから…」
「事実だろう…? それに、私だって君が欲しくて…堪らなくなっているんだ…」
恋人同士になってセックス時に、揶揄するような意地悪な物言いをする部分は
あまり変わりはなかった。
それでも、以前に比べて、どれだけ際どくて意地悪な発言をしていても…瞳だけは
とても優しく、慈しみに満ちていた。
自分の下肢の狭間に、すでに硬くなっている御堂の灼熱を押し当てられて…ゴクリ、と
息を呑んでいく。
触れられている箇所が、ドクドクドクと荒く脈動を繰り返して自己主張している。
愛しい相手からこんなものを宛がわれてしまったら、抗えない。
「あ、熱い…です…。御堂さん、のが…」
「…あぁ、君の中に早く入りたいって、暴れている。入るぞ…克哉…」
「ん、あぁ…!」
唇を貪るように重ねられていきながら、御堂のモノが強引に克哉の内部へと押し入って
根元まで捻じ込まれていく。
その圧迫感に、質感に…克哉はその背中に懸命に縋り付いていきながら耐えていった。
昨晩、散々に貫かれて御堂を受け入れ続けた其処は、再びあっさりとそのペニスを深々と
飲み込んでキツく締め付け始めていく。
「…くっ…まさに、私のを食いちぎらんばかりだな…君の、此処は…!」
「はっ…あぁ! や…そんな、に早く…奥を突かない、で…! すぐに耐えられなく、
なってしまいそう…ですから…」
「…それは聞けない、な…。私は、君をグチャグチャにしたくて…もう、堪らなく
なっているのだからな…」
「んあっ…!」
そのまま激しく、強く御堂が律動を刻み始める。
克哉はそれにただ翻弄されるしかない。
最奥に向かって執拗に突き上げられる中で、片手でペニスの敏感な部分を攻め上げられて
気が狂いそうになる程の悦楽が背筋を走り抜けて、克哉を支配していく。
感じる部位は、御堂に昨晩に散々弄られ続けて痛いぐらいだ。
それでも更に其処を攻められ続けていくので強烈な快楽と鈍い痛みが交互に克哉を
苛むように襲い掛かって来る。
「あっ…はっ…御堂、さ…! ダメ、も、う…本気で、オレ…おかしく、な、る…!」
「あぁ、どこまでもおかしくなれば、良い…。君が乱れて狂う姿を…私は、もっと…
見たくて仕方ないからな…」
「そ、んな…はっ…! あっ…イイ! 御堂さん、ソコ…悦い…!」
御堂の丸みを帯びた先端が的確に克哉のもっとも感じる部位を擦り上げていくと
顕著にその身体を跳ねさせて、克哉が悶え始めていく。
余裕なさそうに克哉が必死に御堂に縋りつく瞬間。
男としての支配欲と独占欲がもっとも満たされる時でもあった。
「あぁ、もっと…私を感じろ。克哉…私、だけをな…」
他の事が、他の男の事などその瞬間だけでもまったく考えられなくするように
抽送を早めて克哉を快楽の園へと叩き落していく。
これだけの攻めに果たして誰が抗えるというのだろうか。
ただただ、克哉は御堂の激しさに翻弄されて喘ぐ以外の事は出来そうにない。
(御堂さんのが…こんなに、張り詰めてオレの中でドクドク…言ってる…!)
御堂の欲望を、情熱を最奥で感じ取って克哉は身を震わせていく。
呼吸は乱れてまくって苦しいけれど、それはもっとも彼が満たされる一時でもあった。
愛しい人間が自分の中にいて、感じてくれている。
求めてくれている、それをまざまざと感じ取って…克哉の身体が大きな喜びと愉悦で
震えて小刻みな痙攣を繰り返していく。
―もうすでにこれが起き抜けである事なんて関係がなかった。
ただ御堂が欲しくなって、浅ましいくらいにこちらからも腰を振りながら強く締め付けて
共に頂点を目指していく。
「あっ…御堂、さ…んっ! も、う…!」
克哉が切羽詰った声を漏らしていきながら…一足先に上り詰めて、射精しながら御堂の
腕の中で果てていく。
それに連動するように、御堂にも限界が訪れる。
ほんの何十秒かの時間差。それによって達したばかりで鋭敏になっている身体に
勢い良く熱い精が注がれていく。
それだけでも感じて、感じまくって克哉の身体はビクビクと激しく跳ねていった。
「克哉…!」
御堂が掠れた声音で恋人の名を呼びながら…その身体の上に崩れ落ちていく。
お互いに忙しい息を吐いて、肩で呼吸をしていた。
触れ合っている肌は両者とも汗ばみ、うっすらと雫が伝い始めていった。
「ん…好き、です…大、好き…」
「あぁ、私もだ…」
うわ言のように零れる睦言に、同意を示していきながら…唇にキスを落としていってやると
克哉は本当に嬉しそうに微笑んでみせた。
二人の胸に幸福感が満ちていく。
あまりに幸せなので、このまま眩暈すら感じそうだ。
そのまま静かに抱き合っていくと…荒かった鼓動が収まり、代わりに激しくなった雨音が
部屋中に響き渡っていく。
自分達が愛し合っている間に、雨脚は随分と強くなってしまったようだった。
「…雨、随分と降っているみたいですね…」
「…そうだな。君を抱いている間は行為に夢中になってて気づかなかったがな…」
「もう…そういう、恥ずかしくて居たたまれなくなるような事を平気で言わないで下さい…」
そういって自分の胸に顔を埋めて、耳まで赤くなっている恋人をクスクスと笑いながら
抱き寄せていく。
そういえば、こんな風二人でいる時にこうやって土砂降りの雨が降るのは三ヶ月前の
あの日以来なような気がした。
今思えば、あの日…本多がやって来て、目の前であの男が跳ねられて。
その数日後に、あの男に対して「克哉を愛している」と正直に答えた日から…自分達は
正式な恋人同士になれたような気がした。
その前にも一度、抱き合っていたが…あの時はまだお互いに怯えが残っていて
遠慮しあっていたように思う。
誰にも渡したくないと。本気で愛しているのだと…命を狙われて、死を意識したからこそ
気づいた本心でもあった。
(…雨、か。今思えば…克哉と何かあった時は…いつも、雨が降っていたな…)
最初の雨の日では、決別を。
遠くから彼と本多を眺めていた日も、一ヶ月ぶりに再会した日も、そしてあの事件が
起こった日も全て雨が降り続いていた。
そのおかげで…どうしても、接していてあの日の泣きそうな顔を浮かべながらマンションの
前に立っていた克哉のイメージが御堂の中で消えてくれなかった。
それがいつの間にか払拭されて…克哉の笑顔がすぐに頭の中で再生出来るようになった
のは果たしていつぐらいからの事だったのだろうか…?
「…最初、貴方と再会したばかりの頃は少しだけ雨が怖くなっていました…」
暫く沈黙が続いた後、ポツリと…克哉が呟いていく。
「貴方と決別した日が大雨だったから、雨が降る度に…また、貴方がいなくなって
しまうような気がして…去年の12月くらいは雨が降ると密かに憂鬱になっていました。
せっかく会えたのに…また、貴方と離れてしまうのは嫌だと。そう願っていたから
あの当時は雨が怖くなっていました…」
「私、もだ。…また、君の背中を見失ってしまうんじゃないかと…あの当時は少し
不安を感じていたな…」
「…御堂さんも、ですか。…ふふ、何か同じ気持ちだったと聞くと少しだけくすぐったい
気持ちになりますね…」
そういって、御堂は優しく克哉の髪を梳いていった。
その手つきはとても優しくて、愛されているのだと強く実感出来た。
「…けど、今は怖くない。ちょっと時間は掛かってしまったけれど…貴方に愛されているって
実感していますから。もう…あんな風にうやむやな形で貴方を見失ってしまう事は
ないって…ようやく思えるようになりましたから…」
そうして、蒼い瞳を穏やかに細めながら…克哉は嬉しそうに笑っていった。
「あぁ、私ももう…あんな形では君の手を離したり何かしない…」
あの時はお互いの気持ちが見えなかった。
だから潔く身を引く事が、あの決して対等ではない…恐らく克哉にとっては屈辱的な
感情が伴う関係を終わらせるのが彼の為だと判断した彼は、一度は克哉の前から
姿を消す決断をした。
だがどうしても、自分の中から克哉への想いが消える事はなかった。
あの時はどうしても引け目を持ってしまって、強気に出れなくなっていた部分があった。
だが今は違う。お互いに想いあっている手応えを感じている。
克哉に愛されていると実感出来る。だから二度とあんな形では御堂は克哉の手を離す
ような真似は出来ないだろう…。
「…嬉しい。貴方が、そういってくれるのが…」
そういって花が綻ぶように笑う克哉が心から愛しく感じられた。
もっと近づきたい、重なりたい衝動を覚えて…まだ繋がった状態のままで克哉の
手を指を絡めるように握り込んでいった。
「…君をもう、誰にも取られたくないからな…」
その本音を呟きながら、唇を重ねていく。
もうすでに…雨音も、気にならなくなっていた。
そうして入間に心地良い疲労感を感じて、眠気が訪れる。
「…どうしよう。今…凄く、幸せです。御堂さん…」
「…そうか」
そっと瞳を伏せながら、克哉が胸元に頭を擦り付けてくる。
御堂はそんな恋人を、フっと微笑みながら抱好きにさせていった。
そのままそっと抱き締めて、改め互いの身体の上に布団を被せていった。
―もう、雨が降っても怖いと思う事は二人はなかった。
相手の気持ちが、今は自分に向けられていると確信出来るから。
それが二人の間に絆を生み出していく。
雨が降ろうが大嵐になろうと、もう天候で気持ちを左右される事はない。
気持ちをそれだけ強く持てるようになったのも…愛し、愛される関係に自分達が
なれたからだろうか。
言葉がなくても、穏やかに満ちた何かが二人の間に流れていく。
こうやって寄り添っていれば、確かなものが感じられる。
それが二人の心を確実に強くしていった。
もう、雨の日に起こった悲しい記憶は遠い。
代わりにそれは幸せな記憶に上書きされて、儚いものへと変わっていった。
これからも自分達はこんな幸せな日々を積み重ねていけるだろう―
「…孝典、さん…大、好き…」
克哉が勇気を振り絞って、御堂の下の名前を呼んでいく。
甘い痺れとくすぐったい気持ちが湧いてくる。
「…まったく、君はどこまで可愛い真似をすれば気が済むんだ…?」
そう言いながら、こちらの心を大きく跳ねさせる発言を零した唇をお仕置きとばかりに
深く塞いで抱き締めていく。
日曜日の昼下がりはそうやって過ぎていく。
彼らはこれからも、そんな甘くて幸せな日常を繰り返していくのだろう。
悲しみの記憶が薄れて霞むぐらいに。
もう雨を見ても、泣いている克哉の残像が御堂の中で蘇ることがなくなる日までずっと―
祈りは時に大きな力を生む
一人の男が失恋してでも、本気で想う相手の幸せを願った事で
本来ならばここまでの幸せを得る事が出来なかった道のりで、二人は確かな
幸福を手にする事が出来たのだ。
この幸せを当然のものと思わず、感謝し尊いものである。事を噛み締めていく限り
彼らはこれからも、こうやって幸せを積み重ねていける。
どんな雨も、悲しみも必ず晴れる日は来る。
暖かな太陽が雨を退けるように、悲しみに凍った心が人の優しさで柔らかさと暖かさを
取り戻していくように…。
優しい時間と空気が流れるようになった二人は、もう過去の痛みの伴う気持ちで
支配されて強い不安に苛まれることはなかった。
相手に愛されていると、今は強く確信を持てるから…。
「克哉…」
愛しい男の腕に包まれて、克哉は安らかな寝息を零し始める。
そんな彼を優しく包み込みながら御堂もまた…再びまどろみの中に落ちていく。
そっと指を絡めていきながら、二人の意識は落ちていく。
―その時の二人の顔は、どこまでも満ち足りた幸せなものであった―
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香坂
性別:
女性
職業:
派遣社員
趣味:
小説書く事。マッサージ。ゲームを遊ぶ事
自己紹介:
鬼畜眼鏡にハマり込みました。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
小説を書いていく予定。
とりあえず読んでくれる人がいるのを
励みに頑張っていきますので宜しくです。
一応2月1日生まれのみずがめ座のB型。相性の判断辺りにでもどうぞv(待てぃ)
当ブログサイトへのリンク方法
URL=http://yukio0201.blog.shinobi.jp/
リンクは同ジャンルの方はフリーです。気軽に切り貼りどうぞ。
…一言報告して貰えると凄く嬉しいです。
当面は、一日一話ぐらいのペースで
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励みに頑張っていきますので宜しくです。
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